鈴ちゃん好きが転生したよ!( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん 作:かきな
「ひぃくぅぅぅぅううん!!」
突然抱き着かれた氷雨はそのかけられた体重に耐えきれず廊下に束と共に倒れ込んでしまった。
「え、ちょ、ちょっと、なんですか?」
「久しぶりだね、ひーくぅうん!」
戸惑う氷雨をしり目に束は氷雨から離れない。そんな束の首根っこを掴み、氷雨から引っぺがした後、代わりに千冬が氷雨の問いに答える。
「お前に来てもらったのは他でもない。こいつに、篠ノ之束に会ってもらうためだ」
それを聞いてようやくと氷雨は理解する。この人が、ISの開発者であり、自分の姉である篠ノ之束であるということを。
「あなたが……」
「そう! 何を隠そうこの私が天上天下、人類史上最も天才な束さんだよ!」
「は、はあ」
その要領を得ない自己紹介に気のない返事をする。千冬も頭を抱えてる様子だったが、大まかなところでは間違ってはいないので訂正はしなかった。
「そ、それで、束さんは……」
「束姉」
氷雨の言葉にかぶせるように、束は少し低い声で言う。
「束さんのことは、束姉と呼ぶんだよ?」
その言葉に少し氷雨は背筋にぞくりと冷たいものを感じた。笑っているようにも見えるその細めた目にどこか鋭さを感じ、鼓動が早くなった。
「た、束……姉」
「うん。どうしたのー?」
氷雨が言われた通り名前を呼ぶと束は先ほどの威圧が嘘だったかのように穏やかな笑みを浮かべていた。それに戸惑いつつも、氷雨は遮られた疑問を束に伝えようとする。
「束姉……はどうして、ここへ?」
その質問に束が答える前に千冬が束の首根っこを掴み氷雨から引きはがす。
「それについてはここではなく私の部屋でしてもらおう。廊下では誰かに見つかるかもしれんからな」
その千冬の言い回しに氷雨は少し疑問を抱く。それではまるで、束と会うということが見られては困ることのようであるからだ。実際のところ困るのだが、今の氷雨にその疑問は束に対しての不信感を抱かせるに十分なものである。
「はーい。解ったからちーちゃん、放してよー」
そんな風に言う束の言葉を無視して千冬はそのまま部屋に入っていく。束がどういう人物か、いまいち掴めず戸惑う氷雨だったが、ここから逃げるという選択肢はとても困難なものであるので、続いて部屋の中に入るしかなかった。
◇ ◇ ◇
千冬の部屋
部屋に入ると束はおもむろにベッドへダイブした。そのままゴロゴロと転がる束を見て、氷雨は自身の抱いていた警戒心がなんだか無駄なもののように感じて、肩に入れていた力を抜いた。
「お前はそこの椅子を使え」
「あ、はい」
「ねー、ちーちゃん。束さんはコーヒーが飲みたいなー」
「……お前は何をしに来たんだ」
「えー、蒼騎士ちゃんの治療とひーくんの記憶についての話でしょ? 蒼騎士ちゃんの治療はすぐに終わるけど、ひーくんの記憶の話はちょっと時間かかるもん。飲み物くらいほしーなー」
なんとも子供のような言動を取る束。しかし、千冬はため息を吐きつつも束のわがままに従い、コーヒーを淹れる。
「篠ノ之もコーヒーでいいか」
「あ、はい。ありがとうございます」
差し出されたカップを受け取り、氷雨は口をつける。千冬がいれたコーヒーは苦味が少なく酸味の強いタイプの豆らしい。
「それで、蒼騎士ちゃんは?」
コーヒーに口をつけつつ束は千冬に尋ねる。それに応える千冬は懐から待機状態のペイルライダーを取り出し束へ渡す。受け取った束はそれを待機状態から展開し、状態を確認していく。
「誰にも触らせてないよね?」
「ふん。当たり前だろ。この中身が公表されてみろ。また騒ぎが起きるだろう」
千冬の言葉に氷雨は驚いた表情をする。彼にしてみれば、このペイルライダーというISは自分が記憶を失った事件に関わっていたモノという認識。それの中身に世間を騒がせる何かがあると知れば、疑惑の眼差しを向けるのは当然のことである。
「ふっふっふ。ひーくんはこの蒼騎士ちゃんの事が気になるようだね」
「そ、それは、当然です。私は私の過去を知らないのですから」
「うーん、じゃあ、手短に蒼騎士ちゃんのことを話してあげよう!」
嬉々として話し出す束に少したじろぐ氷雨であったが、その様子を気にする素振りもなく彼女は話し出す。
「この蒼騎士ちゃんは私が作った2つのプロトタイプの内の一つでねー。このプロトタイプって言うのが重要でね、最初の搭乗者の情報を元に起動時のプロテクトを構築したんだけど、今世界に出回ってるコアは全部もう一つのプロトタイプ機がもとになってて、それの最初の搭乗者がちーちゃんだったから女しか乗れないわけでねー」
そんな風に説明しながらも、自身の周囲に展開された多機能アームを動かしペイルライダーの修理を進めていく。彼女の頭の中で、どれ程の情報が処理されているのか、傍から見ている氷雨では推し量ることはできなかったが、それが常人では不可能なことであろうことはなんとなく察することはできた。
「だから、ひーくんが乗れるISはこの蒼騎士と……白騎士だけだよ」
そう言った束の顔はどこか含みを持ったように受け取ることができたが、千冬の咎めるような視線を受けて、束はそれ以上を言おうとはしなかった。
「そんな特別製の蒼騎士ちゃんだからね。そのコアを触られると今のISの前提が覆されちゃうんだよー」
「前提?」
氷雨が問いかけると、束は意地の悪そうな笑みを浮かべる。
「そう。女しか乗れないって言う、女尊男卑の社会を作った前提がね」
しかし、前提が覆され混乱した世界になることは、それはそれで面白そうだ、とその笑みは語っている。それが篠ノ之束という人物であり、天才が天災たる所以であろう。
「そういうわけだ。今後、ISに関わる時は気を付けろ」
「は、はい」
千冬の言葉で話が締められると同時に束の正面に鎮座していたペイルライダーが量子へと変換され待機状態になる。
「はい、終わったよー」
束から手渡されると、氷雨はそれを受け取りまじまじとそれを見つめた。
「これは?」
「ん、チョーカーだよ。せっかくだから待機状態のアクセサリも変えてあげたよ」
悪意のない笑みを向けられた氷雨は少し引きつった笑みを返し、視線を手元へと向ける。チョーカー、言ってしまえば首輪である。ペットなどへの主従関係を明らかにするためにも用いられるそれをつけることに少しの抵抗を覚えた氷雨であったが、束にそういう意図がないようなので抵抗するのもおかしいような気がし、それを首にはめた。
「さてさて、後はひーくんの記憶に関してだね」
彼にとってはこれが本題であろう。彼の記憶、それに関しての情報を彼女が握っているのであれば、当然彼は欲する。
「HADESシステムの使用に伴って限界まで情報処理を行った負荷から記憶がなくなったって言うのは本質的ではないね」
そう前置きをしてから束は話し始める。
「ひーくんは自身の意識の全てを投げ捨て、脳を戦闘中の情報処理にあてた。それは脳の思考を司る部分に留まっていたけど、激化する攻撃がついにその処理能力すら上回った時、どうなるか」
どこか楽しそうに語る束。
「コンピューターがマルチタスクを思考するとき、使用するのはメモリだけ。じゃあ、そのメモリの処理能力を上回るタスクをしなきゃならなくなったらどうする?」
束は氷雨を指さし、回答を仰いでくる。突然振られたその質問に氷雨は少し考え答える。
「えと、メモリを増設するのではないでしょうか」
「正解! 流石ひーくん、当事者だけあるねー」
茶化すような言葉に千冬が目つきを鋭くさせるが、それを機に止める様子もなく束は続ける。
「足りないなら増設すればいい。意識もなくなって、生命維持も最小限にして情報処理を行っていたひーくんの脳の中で増設できる部分はどこにある?」
そこまで来ると氷雨にも理解できた。その答えが自身の記憶喪失と関係しているというのならば、必然的につながる。
氷雨の表情から察した束は満足そうな表情をする。
「そう! HADESシステムはね、足りないと思ったからひーくんの記憶を司る領域に侵入してメモリを増設、その時に不要だと判断された記憶を消去したということなのだ!」
束は興奮気味に話す。それは誰かに聞いてほしかったからだ。自分が得た、研究成果を。自身が製作したHADESシステムがどれ程素晴らしい結果をもたらしたかを。それは研究者としての欲求。天才が自分を認めてほしいと思う自己顕示欲。ただ、共有したいだけ。彼女の中の興奮を、知的欲求が満たされた喜びを。しかし、それを周りは受け入れない、受け入れられない。ある者は驚愕し、ある者は怒りを覚える。それが天才。周囲に受け入れられないずれた感性は排斥されるしかないのだ。
「束、もういい。帰れ。外まで送ろう」
「えー、ここからが良いところなのにー。HADESシステムにはね、擬似的な展開装甲の発現効果もあってねー」
「いいから、表に出ろ」
束の言葉を遮るように千冬は言う。低く、胸元にナイフを突き立てられているかのような鋭い声。常人ならまともに返事もできないだろう千冬の声に、束は笑顔を張り付けたまま返事をする。
「ちーちゃんがそこまで言うなら仕方ないなー。じゃあ、またね、ひーくん」
そう言って二人は部屋から出ていく。残された氷雨はその言葉に返事もできず、ただただ呆然と束を目で追うことしかできなかった。
◇ ◇ ◇
学園の外
日も落ちて、活気のなくなった校舎。宵闇にふさわしい静寂の中に一つの衝撃音が走る。
「どういうつもりだ、束」
声を荒げることもせず、束を見据える千冬が放った拳は何もない空間に阻まれ、止まる。
「さすがちーちゃん。PICじゃ止まらないんだね」
千冬の拳を阻んだものはISに搭載されているシールドバリアーであった。千冬は拳を戻し、腕を組み、束を見据える。
「氷雨の手前言わなかったが、あの事件はお前が起こしたものだろう? 自分が何をしたかわかっているのか」
「私じゃないよー。……っていう言い逃れはあのゴーレムを回収された時点でできないよね」
回収されたゴーレムからわかることは、あの襲撃が無人機によるものであるということだ。そして、現時点で無人のISを作ることができるのは彼女しかいない。それが分かっているから束はあえて否定はしない。
「答えろ、束」
「私はひーくんに群がる悪い虫を駆除しようとしただけだよ?」
束は悪びれる様子もなく答える。
「ちーちゃんは、ひーくんが外交カードになってもいいっていうの?」
「そうは言ってないだろう。それに、そうだとしても人を殺すことが正しいことだとでも?」
「正しい? 正しいかどうかは問題じゃないよ。問題なのは結果だよ」
その言葉はこれまでの束の行動の根底にあったものを表していた。彼女の中に善悪を区別するものはない。彼女の起こした行動が正しかろうが間違っていようが、それが成した結果だけが彼女の中で価値のあるものなのだ。当然、それを千冬は肯定しない。が、否定することもできない。なぜなら、その片棒を担いでいた過去があるからだ。
しかし、仮にその理論を受け入れたとしても、今回の顛末のどこに肯定できる部分があるだろうか。
「なら、この結果はお前が望んだものなのか? 氷雨を危険に晒し、剰え記憶を失わせるという事態を」
千冬の言葉に、彼女は少し怯む。確かに彼女の中に罪悪感はあるのだろう。それが意識的であれ無意識下であれ……。でなければ、言葉に詰まることもないだろう。しかし、それを覆い隠すように、意識しないように、彼女は仮面のように笑みを浮かべる。
「HADESシステムのデータも取れたし、記憶を失うことで中国のハニートラップも回避できた、この結果のどこにちーちゃんは不満があるの?」
狂気に満ちたその仮面の裏にある何かを千冬は感じ取れただろうか。それに同情したのか、はたまた気付くことなく呆れ果てたのか。彼女はそれ以上の問答を要求せず、束に背を向ける。
「お前がどう思おうと構わんが、鈴はそんなに弱い奴じゃないぞ」
千冬の言葉は鈴を高く評価しているから出てきた言葉だった。
記憶を失った氷雨を見ていれば、嫌でも思い出すだろう。あの日の無力だった自身のことを。それでも、氷雨の側にいて支えようとする鈴がどれ程の覚悟を持っていたか。そんな鈴のことを思えば、千冬は束に言わずには言えなかったのだ。でないと、鈴が報われない気がしたのだ。
「そうだね」
しかし、その言葉を受けた束はさも当然のことだと言わんばかりに肯定を口にする。
「知ってるよ。記憶がなくなったのに未だにひーくんの隣にいたことも」
予想に反した返事に千冬は思わず束の方を振り返る。しかし、すでにその場に束は居らず、静寂だけがその場に満たされていた。
束の言葉に千冬は胸騒ぎを覚えた。嫌な予感がするのだ。
「ワールド・パージ」
それはどこかで響いた、小さく、しかし確かな絶望の言葉であった。
早く何も考えずに氷雨くんと鈴ちゃんのいちゃいちゃを書きたい(更新遅れてすいませんの意)
問いわけで起承転結の転のあたりになりそうですかね
後もう少しで終わります
長らく書いていなかったせいで束さんの話し方がうろ覚えになってしまっていました。大丈夫かな……
後、誤字報告機能なんてできたんですね
自身の誤字の多さに驚きました
以前までは!? や !! は環境依存の⁉ ‼ を使っていましたが、誤字報告により訂正してくださった方がいましたので、そちらに変更しました
これで携帯から見ても絵文字にはならないと思います
沢山の誤字を報告してくださった某お方には感謝しています
ありがとうございました!