鈴ちゃん好きが転生したよ!( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん   作:かきな

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第六話

 対峙してみて初めて昼に一夏たちが言っていたことを彼は理解した。専用機に身を包んだ虚像が以前の自分と同じだというのならば、彼も一夏たちと同じことを思うだろう。

 

「勝てる気がしないのですが……」

 

『何を弱気になっているのですか』

 

 その圧倒的な存在感に一種の畏怖さえ感じる。それほどまでの圧力が虚像でありながらも、その氷雨にはあったのだ。

 

 虚像が先に動き出す。接近を許せば、舞いを原型とした剣技が氷雨を襲うだろう。それをさばき切る術を彼は有していない。であれば、距離を取るのが道理だ。

 

 しかし、彼はそれに立ち向かうように一歩踏み出した。

 

「う、うわああ!」

 

 気合を入れる咆哮か、はたまた悲鳴か。どちらともとれる叫びと共に、氷雨はでたらめに剣を振るう。

 

 しかし、それは牽制の役割も果たさず、虚像の剣技に呑まれ、虚像の剣は彼の四肢を切りつけてゆく。

 

「ぐう……」

 

 痛みに顔を歪める。それもそのはず。ここはコアの内部に生成された世界。そこに干渉する氷雨は精神のみである。故に、ここでは展開されているペイルライダーのシールドエネルギーは氷雨の精神力に置換されているのである。

 

『虚像の剣技に呑まれつつあります。いったん距離を取りましょう』

 

「りょ、了解!」

 

 足元に六連ミサイルを放ちつつ後方へ下がる。虚像は危険を冒すことなく下がる氷雨を見送る。

 

 氷雨は荒く息を吐きだし、呼吸を整えようとする。体は思ったよりも動く。しかし、彼の頭がペイルライダーの動きについていかない。自分の目算よりも一歩先に体が到達してしまうのだ。

 

 虚像の剣は素早く、そして一連の剣線が途切れることなく一つの流れのように綺麗に線を結んでいる。それを防ぐことなど、氷雨には到底できることではないだろう。

 

「でも、いいんです」

 

「?」

 

 虚像は氷雨のつぶやきに怪訝な顔をする。

 

「それで、いいんです!」

 

 呼吸を整え、氷雨は再び虚像と対峙する。先ほどまでの畏怖は少し消えた。対峙するあれは自分なんだと、自分に怖がるなんて馬鹿らしいと、そう思えたのだ。

 

「胸を借りますよ、氷雨!」

 

「男の僕に、胸はない!!」

 

 二人の氷雨が再びぶつかり合った。

 

    ◇   ◇   ◇

 

「ここが、コアの中ですか」

 

 コアの中に侵入した氷雨はいつもと変わらない学園内の風景に少し困惑気味であった。

 

『正確にはコア内にワールド・パージが生成した世界の中です』

 

「そうなのですか」

 

 ペイルライダーの補足に氷雨は返事をする。以前のラウラの時と違い、今回のコア侵入はペイルライダーがサポートにつけている。

 

「私はどうすればいいのでしょうか」

 

『ワールド・パージはコア内に精神を縛りつけます。鈴を縛っている要因を倒せば鈴は元に戻ることができます』

 

 その説明を受けて、氷雨は理解した。となれば、次に必要な情報はその要因と鈴の所在である。

 

『鈴の所在は不明。しかし、要因については明確です』

 

「そうなのですか?」

 

 氷雨は喜ぶ。情報があればどうすればよいかも考えられるというものだ。しかし、ペイルライダーの答えは予想外のものであった。

 

『あなたです』

 

 その回答に氷雨は驚き、脳内に直接語り掛けられているにもかかわらず、斜め上の虚空に視線を向ける。

 

「どういうことですか?」

 

 その疑問はもっともなものであるが、ペイルライダーの意図するものと、氷雨が認識したものは少し違ったものであった。

 

『正確には記憶を失う前の氷雨です。それも実際のではなく、鈴の記憶をもとに造られた偽物です』

 

 そこまで伝えられて初めて氷雨は理解する。しかし、縛る者が氷雨であるということに少し引っかかりを感じた。

 

「あの、ペイルライダーは以前の私を知っているのですよね?」

 

『そうです』

 

「でしたら、教えてほしいのですが……」

 

 その質問は今更なような気もするが、しかし、重要なものであった。

 

「凰さんは私にとって……いえ、氷雨と凰さんはどういう関係だったのでしょうか?」

 

 少しだけ、ペイルライダーは黙る。その沈黙に何があるのかを氷雨は計り知ることはできなかった。

 

『氷雨と鈴は友人関係でした』

 

 それは氷雨の期待していた答えとは違っていた。しかし、ペイルライダーの言葉はそこで終わらなかった。

 

『ですがその実、二人は両想いでした』

 

 そこまで来て、氷雨は納得した。そして、自分の胸に抱きつつあること感情の出所に気づいた。

 

「そこまで聞いてはっきりしました」

 

 氷雨は視線を前に戻し、歩き出す。

 

「ペイルライダー、実は私、凰さんに対して好意ともいえる感情を持っているんです」

 

 そう言いながら氷雨は進む。その足取りはまるで行く先を知っているかのようにしっかりとしたものだった。

 

「正直に答えてもらって構いません。いえ、貴女なら気を遣って嘘を吐くようなこともないでしょう」

 

 胸の中にあった靄が晴れたような、そんなすがすがしい顔を氷雨はする。

 

「氷雨の記憶……いえ、氷雨の人格、戻り始めていますよね」

 

『……その通りです』

 

 やっぱり、と氷雨は呟く。

 

「そうじゃないかと思っていたんです。今日の私は少しおかしいですから」

 

 それは鈴に対して抱いた感情だけではない。自分、少なくともここ数日の氷雨の行動理念から少し外れた行動の選択をしていたように思えるのだ。それ故に、記憶だけじゃない、人格が戻ってきていると感じたのだろう。

 

『氷雨の記憶、および人格はHADESの拡張前にコアネットワークへ逃がされていました。その後、すぐに戻す予定でしたが、私の損傷が激しく、更に修理が篠ノ之博士にしかできないということもあり、今までデータの移行が難しくなっていました』

 

 データの移行という言葉に氷雨は少し笑う。では自分はデータ移行前の古いバージョンということだろうか。

 

「では記憶が戻り始めたのは、ペイルライダーを起動してからということですか」

 

『はい。しかし、記憶や人格は純粋なデータではなく、例えるなら圧縮ファイルで保持されています』

 

 つまり、解凍作業が必要ということらしい。そして、その解凍作業に必要なのが想起であるというのだ。

 

「じゃあ、今から以前の氷雨と対峙することは凰さんを救うだけじゃなくて、記憶を戻すためにも必要なことなのですね」

 

『そうですね』

 

 そこまで聞くと、氷雨は歩みを止めた。そこにどういう意図があるのかを察したペイルライダーは預かっていた言葉を言う。

 

『……氷雨は言っていました「どんな選択をしても、僕は納得する」』

 

「……だったら」

 

『「けれど」』

 

 しかし、ペイルライダーの言葉はそこで終わらなかった。

 

『「鈴ちゃんを見捨てる選択肢をしたら、頭の隅で一生呪詛をばらまいてやる」と言っていました』

 

「……」

 

 氷雨は唖然とする。

 

「それって、理論的に可能?」

 

『この言葉を聞いた時点でその部分は想起されているはずなので可能です』

 

 氷雨の肩は震える。それは恐怖からの震えでも、悲哀からでもない。

 

「あはははは!」

 

 氷雨という人物の愉快さからくるものであった。

 

「すごいですね。氷雨って、とても面白い人なんですね」

 

 氷雨は氷雨を笑う。しかし、その笑いは馬鹿にした笑いではない。

 

「記憶を盾に取られても、ただでは転ばない。どこまでも愚直に凰さんのことを思い続けている、こんな保険までかけて……」

 

 一しきり笑った後、氷雨は一つ息をつき目元を拭う。

 

「こんな人に、敵うわけないですよ」

 

 そうして、氷雨は歩みを進める。

 

『いいのですか?』

 

「はい、これでいいんです。元々、この体は氷雨さんのものでしたし」

 

 実は違う。

 

「それに、呪詛をばらまかれるのは勘弁願いたいですからね」

 

 笑いながらそう言う氷雨はすでに決心をしたのだろう。踏み出した一歩が先ほどよりも力強い。

 

『ところで、どこへ向かっているのですか?』

 

「え、それは当然……」

 

 そこはイベント発生率の高さで有名だ。

 

「自動販売機ですよ」

 

 それはワールド・パージも例外ではなかった。

 

 

 




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