鈴ちゃん好きが転生したよ!( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん 作:かきな
前回のあらすじ
氷雨は、鈴ちゃんのことを、諦めた!
それ、もう鈴ちゃん好きである必要なくない?
目を覚ます。柔らかさに包み込まれている僕はどうやら保健室のベッドに寝かされていたようだ。保健室の明かりが消えているところを見ると、もうすでに消灯時間を過ぎているんだろう。長い間気を失っていたんだね。ふと枕の脇に目をやるとメモのようなものとその上に鍵が置かれていた。内容は保健室を出る時は戸締りをして明日鍵を返しに来て、というものであった。
うーん、部屋に戻ってもいいけど、一夏たちが寝ているような時間なら起こしちゃうかもしれないし、それなら朝までここに居てもいいかもね。
「というわけで、今何時かな、ペイルライダー」
「現在は深夜1時です」
うわー、ものすごく長い間眠ってたんだね。あ、というかあれかな、コアの中で長居したからかな?
ん? というか、今のペイルライダーの声いつもと違うくなかった? なんというか、少しこもった声というかなんというか。
「もしかして風邪ひいてる?」
「AIは風邪を引きません。氷雨こそ病んでいるのですか、頭を」
「ペイルライダーはもう少し優しさを知るべきだと思うよ……」
そんな辛辣なペイルライダーの言葉もやっぱりこもっているし、なんか僕の下腹部から聞こえるような気がするんだけど……。
そんなことを思っていたら布団の中でもぞりと何かが動いた。
「な、なにかいるの!?」
深夜の保健室のベッドに何かいるって、それなんていうエロゲ? じゃなくて、ホラーだよ!!
恐怖にハートビートのBPMが200を超えそうな勢いで高まる。正体を確認したくはないけれど、確認しなかったらそれはそれで尚のこと恐怖心を駆り立てるよね!
「そ、背けてはいけない現実というわけか……」
ならば、受けて立とうじゃないか。漢氷雨、全身全霊を以って今、布団をめくらせてもらう!
と、ここまで威勢よく行ってみたものの、僕は布団の端を摘まんで少しずつ引き上げていくという何とも臆病なことをしている。だって、怖いじゃん。
つまみ上げた布団と僕の体の間には暗く底の見えない空間が広がる。布団を少しずつ引き上げていくと、窓から差し込む月光が仄かに隙間を照らし始める。徐々に晴れるその暗闇の中で何かが光を反射しきらりと光る。暗闇の奥に見える二つの小さな光に僕は声が漏れそうになる。目に涙を溜めながら最後の力を振り絞り、布団を引っぺがした。
そうして明るみになった下腹部には少女の姿をした何かがいた。
「で、出たぁぁああ!!」
ド定番だけど少女の霊だぁああ! 保健室で少女の幽霊なんてベタベタなんだからどうぞご遠慮ください! というか、夜中の学校で幽霊って言うのがもう古臭いんだから悪霊退散だよ!! あ、学校の怪談アニメは最高に面白かったです!!
「出てきましたね」
なんか冷静に返してきた! 霊が冷静に……あ、面白くない! 鳥肌立ってきた、いろんな意味で!
「悪霊退散煩悩退散! どーまんせーまん! 誰か、安倍晴明呼んできてぇぇ!」
「騒がしいですよ、こんな夜更けに」
誰のせいかと小一時間問い詰めたいところだけれど、今から一時間問い詰めるとちょうど丑の刻のど真ん中になるからやっぱりやめておこうと思う。
慌てふためく僕を尻目に少女の霊は僕の体を這いあがり、徐々に顔を近づけてくる。それに抵抗しようと思ったのだけれど、何故か思うように体が動かなくてなされるがまま接近してくる少女を見つめるしかなかった。あ、よく見ると可愛い、とかそう言うことを言える余裕もない。というか、少女の顔はよく見えない。何故かというと、僕の視界は涙でぼやけてしまっているからさっ! 誰か助けて。
そうしてついに眼前に少女が迫ってくると僕は耐えきれず目を閉じる。これから僕はホラー映画の暗転後を経験するんだね。あ、それはそれで貴重な経験かも……生きて帰れたらね。
「……」
しかし、目を瞑ってから一向に少女の霊は仕掛けてこない。胸の上に確かな重みは感じているから正面にいるんだろうけど……って、あれ? 霊に重み?
それを疑問に感じた僕は目を開け、正面の少女をよく見てみる。すると、肌は血が通っていないのかと思うくらい白く、月光に照らされて透き通るかのような印象を受けた。うん、やっぱり幽霊だわ、これ。少なくとも生者には見えないね。
「まだ気づきませんか?」
「いや、貴方が幽霊様だということは察しておりますが」
と、とりあえず襲ってくる様子はなさそうだし、下手に出て穏便に切り抜けよう。
「気づいていないですね。無理もありませんか。私がこの姿を見せるのはこれが初めてですから」
一体この幽霊は何を申しているのでしょうか? えと、反応から見て幽霊であるという認識は間違いなのかな。となると、布団の中のしかも下腹部あたりに潜んでいた少女の正体……。
「痴女か」
「違います」
「そ、そうですか」
低いトーンで否定されてしまうと少し気圧されしてしまうね。
しかし、そうなるともう選択肢が……。
「……あれ?」
そう言えばこの声には聞き覚えがあるような。
「もしかして、ペイルライダー?」
「ようやく気づきましたか」
言われてみればさっきのコアでぼんやりと見た蒼騎士の輪郭と合致するような……しないような。
「いや、でもやっぱりさっきの蒼騎士とはちょっと違う様な」
蒼騎士はもっと大人びた背格好だった気がするけど、今目の前にいるのは僕と同年代、いや少し顔が幼い気もするし、年下にも見える。さっきまでは余裕がなくて見ていなかったけど、服装も薄手のワンピースだけという格好だし。……というか、体の起伏が蒼騎士に比べて少な……。
「聞こえてますよ」
「あ、やっぱりペイルライダーだね」
僕の思考を読むのはやめてほしいよ。
「心はコアに依存しますが、容姿は外骨格に依存するのでペイルライダーに改修された結果、このような幼い姿になったのです」
「なるほど」
確かにペイルライダーは蒼騎士にあった甲冑のような装甲が無くなってスリムになってるし、人型になるとそうなるのか。
「うん、というか今更な疑問なんだけどさ」
「はい」
「なんで人型になってるの?」
普通に衝撃的な出来事なんだけど、幽霊に迫られるよりは驚くことじゃないのでなんとなく反応が遅れちゃったよ。
しかし、ペイルライダーの言葉から察するにこの人型もまたISなんだろうね。だって、容姿がISの外骨格に依存しているって言ってたもんね。
「ISの形態移行の一種です。前例はありませんが、おそらくは搭乗者の精神的な危機に反応して起こる特殊移行(エクストラシフト)だと思われます」
「精神的な危機……」
それはつまり、僕が鈴ちゃんに振られてめちゃくちゃ落ち込んでたから、ISの防衛機能が反応して特殊移行が発動しちゃったって言うことだよね? なんてこった、僕の失恋はISが危険だと判断するほどのものだったのか。確かに世界に疑問を持ち始めるなんて重傷だったとは思うけどね。
「不本意ですが、私は氷雨を助けるために人型になりました」
「不本意なんだ」
そこは本意であって欲しかったね。
不意にペイルライダーの顔が近づく。それはお互いの鼻先が接触するくらいの近さだった。突然のことに驚いて距離を取ろうとするも、それに追従するようにペイルライダーは迫ってくるのだ。
「ど、どうしたのさペイルライダー」
動揺している僕を余所にペイルライダーはその感情を見せない瞳を僕に向け続ける。ぶっちゃけ人型のペイルライダーって美人なんだよね。整った顔立ちに凛とした瞳、肌の白さも相まって月光に照らされるペイルライダーは儚げで、そんな少女に迫られるとさすがにドキドキしちゃうよ。
「私では、ダメですか」
「え?」
ペイルライダーの口からこぼれた言葉に、僕は一瞬時が止まったかのように感じた。驚きから心臓の鼓動が一瞬止まったのだ。まあ、それは嘘だけど、それくらいの衝撃だったってことだね。
「氷雨の心に開いてしまった穴は、私では埋まりませんか?」
「えっ、ええっ?」
戸惑う僕にペイルライダーは表情を変えずに畳みかける。
「私は氷雨のことが好きです」
これが、僕とペイルライダーの世界の始まりだった。
世界って便利な言葉ですよね。
解釈に多様性があり、それでいて真理を捉えているように見せかけることができますからね。
え、いや、別に今回の締め方のことじゃないですよ?