魔法少女育成計画GoldRush   作:赤葉忍

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お茶会準備

♢モルジャーナ

 

 ひとまず以前関わったことのある魔法少女数人に依頼のメールを送った千夜であったが、その時ある重大な問題をスルーしていたことを忘れていた。それは、千夜の主である麗華と千夜が魔法少女であるということを、屋敷にいる他の者たちには秘密にしていたということであった。先程護衛を頼んだ魔法少女は当然変身した姿でこちらにやってくるであろうし、そんな彼女たちを迎えるのならこちらも変身した姿ではないと色々問題があるだろう。ただ、そうなるとどうしても屋敷の者たちに千夜たちが魔法少女であることを知られてしまう。

 

 そこで、千夜はある策を打つことにした。変身後の姿が眩しすぎて常人では直視困難であろう麗華には直前まで自室で待機して貰い、千夜は屋敷の中でも特に信頼のおける二人、執事長の日下部とメイド長のメアリー・ジュンを、ほとんどの者が寝静まった真夜中に呼び出した。

 

「こんな遅くに呼び出したりしてどうしたの千夜ちゃん⋯⋯って、どうしたのその格好!?」

 

 執事長の日下部は、部屋に入るなり千夜の姿を見て目を丸くする。それもそのはず、この時千夜はモルジャーナに変身していたのだ。容姿や体型はほとんど変身前と変わらないとは言え、肌の色は褐色になっているし、モルジャーナのコスチュームは露出の多い踊り子衣装だ。驚くのも当然だろう。

 

「何を驚いているのですか日下部。これはただのコスプレです」

 

 しかし、モルジャーナは平然と嘘をついて日下部の疑問を一蹴する。モルジャーナは変身前とあまり容姿が変わらないことを利用し、あくまでもコスプレということで乗り切ろうとしていた。

 

「いや、コスプレにしてもその肌の色とかどうやって⋯⋯」

 

「頑張って塗りました。ちなみにこの後私と同じようなコスプレ趣味の方たちと集まってお茶会を開く予定です。そのお茶会にはお嬢様も参加します。しかし、お嬢様はシャイなのでコスプレしている姿をあまり見せたくないようです。そのため、他の屋敷の者たちには今日は家に帰るか住み込みの者には外出するよう言いつけておいてください」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ千夜ちゃん。そんな一気に色々言われても何がなんだか⋯⋯」

 

「かしこまりました千夜様。私から部下全員にそのようにお伝えしておきます」

 

「メアリー!? 君なんで今の話すぐ理解出来るの!?」

 

 流石は有能なメアリー。日下部とは対照的にモルジャーナの指示を即座に理解し行動してくれる。そして、日下部もなんだかんだ言いつつ最終的には上手く仕事をこなしてくれる、そんな奴だ。この二人に任せておけば今日のところは問題ないだろう。しかし、当主様が海外に出張中でなければこうは上手くいかなかっただろう。⋯⋯まあ、あの当主様ならば娘が魔法少女と知っても大して驚かない気もするが。

 

 後ろでは日下部がまだギャアギャアと何やら訴えているが、モルジャーナはそれを無視して厨房へと向かった。魔法少女は日中の行動は避けるモノだ。恐らく護衛の魔法少女は深夜に屋敷にやってくるだろう。護衛として雇ったとはいえ、屋敷に招いた以上客人でもあるわけで、モルジャーナとしてはそんな相手をもてなさない選択肢などは初めから存在しなかったのであった。

 

 そして、客人をもてなすのに十分な量の食事を完成させたモルジャーナは、屋敷の門の前で客人が来るのを待つことにした。案の定、ビルの上を飛び跳ねながらやってくる二つの人影を見つけ、モルジャーナは姿勢を正す。

 

「お、まさかの依頼主自らお出迎えパティーン? ねえ花子ちゃん、私たち超歓迎されてる感じ!?」

 

「五月蠅い黙れ。そもそもお前は呼ばれてないだろう。あと、こいつは依頼主の従者だ。依頼主の魔法少女は私たちをわざわざ迎えに来るほど殊勝な性格はしていない」

 

 最初に屋敷にやって来たのは、なかなかに見た目のインパクトが強い二人の魔法少女であった。その内の一人、W.C.花子とは面識があるが、もう一人の半身が機械で出来た魔法少女に関しては面識がない。一体彼女は誰なのか。そんなモルジャーナの疑問が顔に出ていたのか、花子が隣に居る魔法少女の紹介をしてくれた。

 

「⋯⋯こいつはフラッシュあかり。私の古い知り合いで、魔法の国の広報部門所属だ。おい、目的は自分で話せ」

 

「へーい。えーっとですね、私が花子ちゃんと一緒に来たのは、怪盗魔法少女集団『キティ・ギル』、彼女たちが出した犯行予告とそれに関連する一連の事件をぜひ記事にできたらな~っと思った次第でして⋯⋯。ああ、もちろん邪魔をするつもりは一切ないですよ!! それに、私も腕には自信がある方なので、護衛の方もお手伝いできると思います。どうです? 今更護衛一人、ジャーナリスト一人増えたところで特に問題はないでしょう?」

 

 アポなしでやってきた割にはかなり図々しい態度ではあるが、実際特に問題はないことは確かである。むしろ護衛が増えるのならありがたい。モルジャーナは二人を客間へと案内し、再び門の前で残りの魔法少女がやってくるのを待つことにした。

 

 そして、待つこと数分。先程の二人同様ビルの上を経由してやって来たのは、遠めでも分かる和風な見た目の魔法少女二人組だ。この二人にはどちらも見覚えがある。着物を着た方が和三盆茶々で、白袴の方が按怒露芽陀墨恋(アンドロメダすみれ)だ。二人の方もこちらに気づいたのだろう。門の数メートル手前で地面に降り立つと、手をつなぎながらこちらへ歩いてやってきた。

 

「どうもお久しぶりどす、モルジャーナはん。今夜の護衛は依頼料に見合う仕事はするつもりさかい、よろしゅうな~」

 

「はい、どうぞよろしくお願いいたします」

 

 そう言ってモルジャーナが頭を下げると、茶々はすっと目を細め、すみれは無言でお辞儀を返してきた。正直この二人に関しては得体が知れないところが多く好きになれないが、仕事の的確さに関してだけは信頼している。この二人で依頼した護衛は全員そろった。モルジャーナは満を持して主である麗華を呼ぼうとしたが、そんなモルジャーナに、先程まで客間で魔法少女たちの相手をしていた日下部が興奮した様子で迫ってきた。

 

「ちょっと!! なんなんですかあの美形集団は!? てかあれホントにコスプレなんです? 半身サイボーグの人とかどう見ても⋯⋯」

 

「黙れ日下部。あれは皆コスプレです。そして私もコスプレ。おーけい?」

 

 軽く殺気を当てると、日下部は顔を白くして何度もうなずいてくれた。やはり持つべきものは扱いやす⋯⋯ゲフンゲフン。信頼できる同僚である。

 

 この後、ブルジョワーヌⅢ世に変身した麗華の姿を見て叫びそうになった日下部を絞め落とすなどのハプニングもあったものの、昼過ぎまでは日下部とは違って優秀なメアリーの助けもあり、平和に客人たちをもてなすことが出来ていた。

 

 しかし、いつだってハプニングというのは突然起こるモノ。そして今回のハプニングは、真昼間の街並みの中、曇り空と共に高級車に乗ってやってきたのであった。

 

 門の前に堂々と停車したその高級車に、何事かと慌てて駆け付けたモルジャーナ。そんなモルジャーナに対し、運転席から降りたレーサー服の魔法少女がぺこりと頭を下げたかと思いきや、突然門から屋敷までの一本道にレッドカーペットを広げる。あまりに予想外のその行為に、止めることすら忘れ呆然と立ち尽くすモルジャーナ。

 

 そして、今度は後部座席のドアが豪快に開かれ、そこから二人の魔法少女が籠を持って登場してきた。花の飾りがたくさんついたドレスをまとった魔法少女はやたら明るく、水色の髪をしてレインコートをまとった魔法少女はやたら暗い。そんな対照的なテンションの二人が、レッドカーペットの両端にそれぞれ立つと、絶妙なタイミングで三人目の魔法少女が車の中から姿を現した。

 

 その魔法少女の姿を見た瞬間、モルジャーナは思わず息を吞む。モルジャーナはこれまで世界で一番美しいのはブルジョワーヌⅢ世だと信じて疑ったことがなかったが、どこかクレオパトラを連想させるような容姿のその魔法少女の美しさは、ブルジョワーヌⅢ世にも匹敵するものであった。

 

 その美しい魔法少女がしゅたっと優雅なポーズを決めた瞬間、両脇に立つ魔法少女が籠の中の薔薇をまく。

 

「クレラ様、降臨~!!」

 

 レーサー服の魔法少女が口に手を当ててそう告げると同時に、レッドカーペットをモデルウォークで歩き始めるクレラ。その間も、二人の魔法少女による薔薇の雨が止むことはない。

 

 もしや、この魔法少女は『キティ・ギル』よりも面倒な相手なのではないだろうか。慌てて屋敷に戻って客人を迎え入れる準備をしつつ、モルジャーナはそんなことを思ったのであった。

 

 

♢レイニー・ブルー

 

 クレラの口から、レッドカーペットを敷いて美しく登場するというプランを聞かされた時、レイニーはこの上司の正気を疑った。しかし、そうだった。この上司は元から正気ではなかったのであった。

 

「大丈夫っすよレイニーさん。心配することはないっす。自分も最初はビビったっすけれど、毎回こうなんで今じゃあかなり慣れました。経験者の立場から言わせてもらうと、

恥ずかしさなんか捨てて楽しむことが大事っす! それがクレラ様と付き合ううえで最も重要なことっすよ」

 

 雨まで降らし始めたレイニーを見かねてか、ハンドルピースが運転席から手招きしてこっそりそうアドバイスをしてくれたが、正直この状況を楽しめる度胸が自分にあるとは思えなかった。一方、サンベリーナはレイニーとは対照的にこのプランを聞いた時からノリノリであった。なぜクレラの部下が彼女ではなく自分なのだろうか。

 

 そして、ハンドルピースのおかげで渋滞にも一切ひっかからなかった車は、レイニーの心の準備が整わないうちに目的地へと到着してしまう。

 

 手筈通りサンベリーナと一緒に車から降りたレイニーであったが、おそらくこの屋敷の関係者であろう魔法少女からの視線が痛い。まだ屋敷の中に入ってすら居ないのに既に帰りたかった。

 

 しかし、本当の地獄はここからだ。クレラが車から降りた後は、彼女が屋敷に入るまで延々と薔薇をばらまき続けなければならない。いっそのこと顔面に向って思いっきり投げつけてやりたいくらいの気持ちで、薔薇をまく間ずっと恨みがましくクレラを見ていたレイニーであったが、不意にクレラの視線がレイニーを向き、慌てて視線を上に泳がす。すると、クレラが不満げにレイニーに声をかけてきた。

 

「レイニーよ、なぜそんな曇った顔をしているのだ。貴様は笑った顔の方が美しいと前にも言ったであろう? さあ、笑え!! 笑って見上げる空ほど美しいモノはない!! クハハハハ!!」

 

 

 そう言うと、今度は一人高笑いを始めるクレラ。あまりにも自由すぎるそんなクレラのふるまいをみている内に、レイニーは自分だけこの状況を楽しめていないことが馬鹿らしくなってきた。そうだ、どうせ今の時点で取り返しのつかない醜態を見せてしまっているのだ。それならば、せめて楽しまなければ損なのではないか?

 

 そう思ったレイニーは、クレラやサンベリーナをまねて笑ってみた。そうして見上げてみた空は、クレラがいう通り確かに美しい気がしたのであった。

 

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