魔法少女育成計画GoldRush   作:赤葉忍

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ちろりんと遊ぼう

♢ジングル・ティンクル

 

 ジングル・ティンクルが『キティ・ギル』として活動し始めたのは、今からおよそ一年前のことだ。パンプキン・パンプティとビスケの二人とは、魔法少女の試験の時から仲良くしていて、偶然全員が合格したことでその後もたびたび集まって一緒に遊んだりしていた。そして、あの日もいつものように三人で遊んでいる時に、あの魔法少女⋯⋯キャットミィはティンクルたちの前に現れ、こう言ったのだ。

 

「おみゃーら、ミィと一緒に面白いことをしてみにゃいか?」

 

 猫耳をぴくぴくと動かし、尻尾を揺らすキャットミィは、その目の奥にキラキラとした強い光を宿していた。ティンクルは、その瞳の輝きに吸い込まれるように、キャットミィの一挙一動に夢中になっていた。

 

「折角もらったこの力、何かビッグなことをしないとつまらないにゃ! しかぁし、人助けで名前を売ろうなんて考えはもう古い!! ミィたちの名前を轟かせるために必要なこと、それは過激なギルティだにゃあ!!」

 

 キャットミィが提案したこと、それは、魔法少女4人の力を合わせ、美少女怪盗集団としてその名前を世界中に轟かせるというモノであった。

 

「いいじゃん、面白そう! 私は賛成だね」

 

 ビスケは、いつもいじっているトリモチ銃をくるくると回しながら、ニヤリと笑みを浮かべてキャットミィの提案に乗った。

 

「ねえねえ、その尻尾触ってみていい?」

 

 基本マイペースなパンプティは、こんな時でも自身の好奇心に忠実だった。今もゆらゆらと動くキャットミィの尻尾をずっと目で追っている。

 

「わ、私は、皆がやるって言うなら大丈夫だよ⋯⋯」

 

 幼い頃から悪いことはしてはいけないよと両親に言われて育ったティンクルは正直この提案にはあまり乗り気ではなかったが、ここで反対意見を言ったら仲間から外されてしまうかもしれないという恐怖から自分の意見を言うことは出来なかった。

 

「やったにゃあ!! これでようやくミィの夢が叶うにゃ!! 皆、これからどうぞよろしくだにゃー!!」

 

 しかし、ティンクルの抱えていたモヤモヤは、キャットミィの嬉しそうな笑みを見た瞬間綺麗さっぱり吹き飛んでしまった。この笑顔を見られるのならば、ティンクルの小さな罪悪感など全く問題にならない。

 

 グループで活動する以上名前が必要だろうという話になり、一時間ほど話し合った結果、『キティ・ギル』という名前に落ち着いた。ちなみにこの名前を提案したのはティンクルだったが、その時脳裏にあのキャットミィの言葉があったのは否定できない。そして、リーダーは当然3人を誘った張本人であるキャットミィが務めることになった。

 

 それからは、ほぼ毎日のように4人で小さな悪戯や怪盗まがいの行為をして楽しんでいた。駄菓子屋に忍び込んで各々好きな駄菓子を盗み出した日の夜などは、皆で駄菓子パーティをして朝まで語り明かした。最初は盗みを働くことに抵抗を感じていたティンクルも、仲間と一緒に協力して一つのことを成し遂げるという面白さに次第に夢中になっていた。

 

 そんな『キティ・ギル』に転機が訪れたのは、“お母さん”と出会ったあの日であろう。八百屋のおっちゃんにちょっかいをかけて大根を盗み、いつものように秘密基地である廃病院へ帰ろうとした時に、ティンクルたちは“お母さん”に声をかけられたのだ。

 

 “お母さん”は、柔らかい笑みを浮かべ、ティンクルたちに自分の名前はマミィ・マムだと名乗った。その時点で既に、ティンクルを含め全員がマミィ・マムに対して暖かな愛情のようなものを感じていたが、その感情の正体を知ったのは、マミィ・マムにこのように告げられた後であった。

 

「可愛い娘たち。今日から私が貴女たちの母です。さあ、母の胸に飛び込んできて! 思いっきり甘えてもいいんですよ?」

 

 その瞬間、全員が泣きながらマミィ・マムの大きな胸に飛び込んでいた。ティンクルの頭の中から本当の両親の存在はすっかり忘れ去られ、この時からマミィ・マムが母親となり、仲間たちは同じ母親を持つ家族となった。

 

「可愛い娘たちに頼みたいことがあるのです。いい子の皆なら、母の言うことをちゃんと聞いてくれますよね?」

 

 大好きなお母さんの頼み事だ。もちろん断るはずもなかった。お母さんの頼み事は二つ。一つは、ブルジョワーヌⅢ世という魔法少女を誘拐すること。そして、もう一つは、監獄塔という場所から囚われの魔法少女を一人救い出すことだった。

 

「私は可愛いわが子たちに傷ついてほしくないのです⋯⋯。そして、そのためには強力な味方が必要なの。分かってくれますよね?」

 

「もちろんだにゃ!! お母さんのためならミィたちなんだってするにゃ!!」

 

 キャットミィの言葉に、ティンクルたちも力強く頷いて同意を示す。大好きなお母さんのためならば、なんだってする。それは、娘全員共通の意志であった。

 

 そして、お母さんから頼まれたとおりに、監獄塔から賽ノ目チロリという魔法少女を救い出し、お母さんからはなでなでのご褒美が与えられた。しかし、その後すぐお母さんは用事があるとどこかへ行ってしまった。少し寂しい気持ちはあるが、「出発前に見送りにまた来ますよ」と言ってくれたので大丈夫だ。ティンクルはちゃんとお母さんの帰りを待てる偉い子だから。

 

 ただ、問題は一つある。それは、ティンクルたちが救い出した魔法少女、賽ノ目チロリの存在だ。チロリは、お母さんが去った後、一人でずっとニヤニヤ笑いながらサイコロを転がしていて、正直かなり不気味であった。しかし、お母さんとの約束を守るためには、チロリとも連携を取る必要がある。このままお互い何も話さない状況はあまりよろしくない。

 

「ねえねえちろりん、さっきから一人で一体なにしてるんだにゃ?」

 

 頼れる長女のキャットミィが、普段と全く変わらない口調でチロリに話しかけた。その瞳には好奇心の光が煌めいており、キャットミィが実際にチロリに興味を持って話しかけたのだということがティンクルには分かった。

 

「これは単なる暇つぶしですよ、可愛い子猫さん。私は子供は好きです。扱いやすい点が大変好ましい。そこにいる他の子たちも、もっと近くに来たらどうです? 面白いモノを見せてあげますよ」

 

 そう声をかけられ、ティンクルたちは顔を見合わせてから恐る恐るチロリの元へと近づいて行った。

 

「あはは、そうおびえないでください。あまりビクビクしすぎると思わず殴りたくなっちゃいますから。⋯⋯冗談ですよ。さあ、もっと近くに来て。大丈夫、今はまだ何もしませんよ?」

 

 わくわくした様子のキャットミィとパンプティ、少し怖がっている様子のビスケとティンクルに見つめられる中、チロリはフードの下でにっと笑みを浮かべ、ポケットからサイコロを二つ取り出してみせた。ただし、それぞれ形が違う。一つはよく見る立方体の形をしたサイコロだったが、もう一つは面がたくさんあってサイコロというよりはボールのように見える。

 

「これは百面ダイスといって、面が百個あるサイコロなんです。0から99までの数字が書かれているんですよ。貴女たちの小さな脳みそでも、数字くらいは理解できるでしょう? そして、このダイスの美しさも」

 

 どこか得意げにそう語るチロリ。確かに、こんなに面があるサイコロを見るのは初めてだったが、楽しいモノを見せてくれるというから地味に期待していた分、正直拍子抜けだ。そう思ったのはティンクルだけではなかったようで、キャットミィが口をとがらせてチロリに文句を言った。

 

「ちろりん、別にこんなもの見せられても面白くもなんともないにゃ! ミィたちが子供だからってこんなもので満足すると思っているんなら心外だにゃ!!」

 

 すると、それを聞いたチロリは突然肩を震わせて大声で笑い始めた。今のキャットミィの言葉のどこに笑う要素があったのか、ティンクルは全く理解が出来ず困惑する。

 

「ああおかしい。滑稽ですよ貴女たち。自分たちがまだ乳離れも出来ていない子供だということすら理解できていないのですね。これだから子供という生き物は、馬鹿で間抜けで愚かで、それ故に面白い! 是非その頭を割って中身を確かめてみたいものです。中身が詰まっているかは甚だ疑問ですが」

 

 そう早口で捲し上げたチロリは、おもむろにフードを脱ぐ。そこから現れたのは、右と左で色の違う瞳と、瞳の色同様左右で赤と青に分かれた派手な色の髪の毛であった。

 

「夜まではまだ時間があります。それまで一緒に遊びましょう餓鬼ども。何して遊びますか? チンチロリンですか、ポーカーですか? 早足で大人の階段を上りたいというマセガキは実際にお金を賭けることもおすすめします。さあ、愉しみましょう。私たちはチーム、同じ泥船に乗った同志なのですから!!」

 

 そう言ってにやりと口の端を吊り上げるチロリ。ティンクルは、この魔法少女と一緒に夜まで過ごす自信がなくなり、予定を早めて出発しないかとこっそり皆に耳打ちした。すると、どうやら皆もティンクルと同じ気持ちだったらしく、お母さんにはブルジョワーヌⅢ世をしっかり誘拐することで許してもらおうと決意し、いまだ一人でしゃべり続けるチロリを無理やりソリに乗せることにしたのであった。

 

「あれ、もう出発するんですか? 私は別にかまいませんが、今日の私のダイス運は最悪、生憎役に立てそうにはありません。明日ならいい目が出る気がするのですが⋯⋯って、聞いてませんね。後悔しても知りませんよ?」

 

「ちろりん、お願いだから少し黙ってほしいにゃ!!」

 

 本当にこの魔法少女と一緒で大丈夫なのだろうか。ティンクルの心を、とてつもなく大きな不安が襲う。しかし、乗りかかったソリはもう止められない。いつしか目的地へと到着したソリの上で、ティンクルは不安をごまかすように自分の頬を叩いたのであった。

 

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