魔法少女育成計画GoldRush   作:赤葉忍

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狂おしいほど愛おしい

♢モルジャーナ

 

 誰も予期していなかった乱入者の登場により、ブルジョワ―ヌは何とか攫われずに済んだ。そしてその乱入者⋯⋯ジュリエッタと名乗った彼女は、先程からブルジョワ―ヌにべったりと貼り付いて離れる気配がない。正直彼女のことは信用出来ないし、返り血がべっとり付いたままの手でブルジョワ―ヌに触れて欲しくはないのだが、彼女が居なければブルジョワ―ヌが攫われていたであろうという負い目から、モルジャーナはただ爪を噛んでその様子を眺めることしかできなかった。

 

「あの、先ほどは本当に助かりましたわ。それで、お礼もかねて貴女にもお茶会に参加して欲しいのだけれど⋯⋯大丈夫かしら?」

 

 ブルジョワ―ヌは若干引きつった笑顔でジュリエッタにそう提案した。おそらくブルジョワ―ヌも異様な気配を漂わせるジュリエッタに対しどう接すればよいものか模索中なのであろう。自然な流れでジュリエッタの手をそっと引きはがし、上目遣いでこてんと首をかしげたブルジョワ―ヌを見て、ジュリエッタは何故かわなわなとその身体を震わせ始めた。

 

「や、やっぱり生で見る破壊力はビックバン級ですぅ⋯⋯。これが毎日見られるようになるかと思うと⋯⋯ふふ、うふふふふ⋯⋯♡」

 

 恍惚とした表情を浮かべ、ブツブツと一人呟きだしたジュリエッタを、全員が奇妙なものを見る目で眺めている。モルジャーナはジュリエッタがトリップしている間に、ブルジョワ―ヌの指示の元再び客間に戻ってお茶会という名の作戦会議の準備を進めることにした。逃げたキティ・ギルを追うべきか否か、カエルになってしまったクレラをどうするかなど話し合うべきことは多い。先程の戦闘の疲れを取るという意味でも、このお茶会には大きな意味があると思えた。

 

 しかし、モルジャーナがお茶を淹れるために厨房に入ろうとした時、怒りと恐怖とが混ざったような複雑な表情の日下部がモルジャーナの前に立ち塞がった。その隣に立つメアリーも、珍しく表情を曇らせている。

 

「何の用ですか、日下部。私は今からもう一度お客様にお茶を淹れなくてはならないのです。邪魔をしないでもらえませんか?」

 

「千夜ちゃん、本当のことを言ってよ。あの人たちは一体何者なの? さっきの空飛ぶソリといい突然の嵐といい、とてもじゃないけれど人間業とは思えない」

 

 モルジャーナは二人に聞こえないように小さく舌打ちした。日下部には決して外を覗かないよう言いつけてあったが、この反応を見るにどうやら先程の光景を見られてしまったようだ。

 

「彼女達が何者であったとしても、貴方には関係ないことでしょう? 分かったらさっさとそこをどいてください。メアリー、日下部を追い出してくれますか?」

 

 心配性な上に頑固なところがある日下部を説得するのはなかなかに困難だ。そのため、モルジャーナは融通の利くメアリーに頼んで日下部を追い出そうとしたが、メアリーはそっと目を伏せるだけで動こうとはしなかった。

 

「⋯⋯すみません、千夜様。今回ばかりは貴女の頼みといえ聞くことはできません。中庭に居る間、感情を表に出さないよう必死で抑えておりましたが、正直生きた心地がしませんでした。私が何よりも恐れていること、それは、麗華様と千夜様、お二人の身に何かが起こることです。どうか、何も起こることはない、貴女の杞憂だと一言仰ってください。そうすれば、私は安心して貴女の命令に従うことが出来ます」

 

 モルジャーナが模擬戦を終えるまで中庭に居たメアリー。キティ・ギルがやって来たことで慌てて屋敷の中へと避難させた彼女だったが、モルジャーナは彼女がずっとこんな思いを抱えていたなど想像だにしていなかった。そして、今のモルジャーナにはメアリーが求めている言葉を与えることは出来ない。魔法少女同士が争う以上、何も起こらないはずがなく、モルジャーナは嘘を言って誤魔化すような性格の持ち主ではなかった。

 

 そのため、モルジャーナは二人を安心させる嘘の代わりに、二人の喉元にナイフをピタリと押し当てた。突然肌に感じた冷たい金属の感触に、揃ってひゅっと息を呑む日下部とメアリーに、モルジャーナは殺気をぶつけ、低い声で一言こう告げた。

 

「⋯⋯貴女たちは、この屋敷から出なさい。もし出ないと言うのなら、今ここで殺します」

 

「⋯⋯!! 千夜ちゃん、でも、ボクは君のことが⋯⋯!!」

 

「それ以上何か言うなら、その喉掻き切りますよ? さあ、早く出て行け!! 私は本気だ!!」

 

 モルジャーナは、二人に自分が本気だということを示すために、大理石で出来た床をナイフで切り裂いてみせた。普通の人間の力では到底出来ない行為を間近で見せられ、日下部とメアリーは顔を真っ青にして逃げ去っていく。

 

 ⋯⋯これでいい。もし再びあのような事態になった場合、モルジャーナ一人では二人を守り切れない。魔法少女の問題に一般人を巻き込むことは出来ないのだ。そう何度も言い聞かせ自分の行為を正当化しようとするが、心配そうにこちらを見つめていた二人の顔と、日下部が言いかけた言葉が何度も頭の中をループして離れない。

 

「わあ、随分と優しいんですねぇ、モルジャーナさぁん。私、貴女のこと、少し見直しちゃいましたぁ」

 

 その時、背後から甘い声でそう囁かれ、モルジャーナは慌てて後ろを振り向いた。すると、そこにはいつからそこに居たのか、あのジュリエッタと名乗った魔法少女がこちらにハイライトのない瞳を向けていた。

 

「⋯⋯これは、見苦しいところをお見せしてしまいました。ところで、貴女はいつからそこに? 他の方々はどうしたのですか?」

 

「他の方々はまだ外ですよぉ。私、モルジャーナさんのお茶の淹れ方を見てみたくて、先に来ちゃったんです。いつか私も、あの人に自分で淹れたお茶を飲ませてあげたいですし。ふふふふ⋯⋯」

 

「⋯⋯そうなんですか。ところで、私、いつ貴女に名前を教えましたっけ?」

 

 ジュリエッタは自分から名乗っていたのでモルジャーナは彼女の名前を知っているが、モルジャーナはまだ彼女に名乗った覚えはない。モルジャーナに最初に声をかけられた時から抱いていた疑問をぶつけてみると、ジュリエッタはふっと笑みを消し、低い声でぼそりとこう呟いた。

 

「⋯⋯憎くて憎くて憎くて堪らない相手の名前を覚えてないはずがないだろ、糞が。あの人の隣に相応しいのはこの私。運命の糸で結ばれた二人を邪魔するんじゃねえよこの女狐が」

 

 直後、放たれる膨大な殺気。モルジャーナは反射的にジュリエッタから離れ、腰を落としナイフを構える。対するジュリエッタは、だらりと垂らした腕に、まだ血で濡れている包丁を握りしめていた。

 

「モルジャーナ? もう客人は皆席につきましたわよ? 早くジュリエッタさんと一緒にお茶を持ってきて差し上げて!」

 

 しかし、まさに一触即発といった空気を打ち消すように響いたブルジョワ―ヌの凜とした声が聞こえた瞬間、ジュリエッタの殺気が嘘のように吹き飛んだ。その上、ジュリエッタは先程までのやりとりなどなかったかのように、モルジャーナににっこりと笑みを向けてくるではないか。

 

「⋯⋯そうでした。私、貴女の給仕を手伝いたいとあの人に頼んだのでした。ふふ、ねえ、手でも繋いで皆の前に出てみませんか? 貴女と仲良くしている姿を見せた方が、あの人も喜ぶとおもうの」

 

 平然とそんなことを提案してくるジュリエッタに、モルジャーナは思わず鳥肌が立った。こいつだけは絶対にブルジョワ―ヌに近づけてはならない。今や、モルジャーナにとっての一番の要注意人物は、キティ・ギルでも監獄から逃げた囚人でもなく、目の前の狂人へと変わっていたのであった。

 

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