魔法少女育成計画GoldRush   作:赤葉忍

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悪夢の開演

♢フラッシュあかり

 

 中庭でサンベリーナが飛び立ったのを見送り、魔法少女たちは次々と屋敷の中へ戻って行く。そんな中、どうしても気になることがあったあかりは、他の魔法少女と同じように屋敷へと戻ろうとしていたジュリエッタの腕を掴み、彼女を引き留めた。

 

「あら、そんな力強く引き留めるとは、見かけによらず情熱的ですねぇ。何か、私に聞きたいことでもあるのでしょうかぁ?」

 

「うん、まあちょっとね。確認しておきたいことがあって呼び止めた感じ。別に愛の告白をしようってわけじゃあないから安心して?」

 

 既に他の魔法少女は屋敷の中へ戻り、今中庭に居るのはあかりとジュリエッタだけだ。そのことを再度確認し、あかりはジュリエッタのハイライトのない瞳を見つめ、こう切り出した。

 

「⋯⋯さっきアンタが殺した猫のことだけれどさ。他の皆は気付いていないっぽいけれど、私目が良いから見えちゃったんだわ。アンタ、あの猫が付けていた首輪切って、ドレスの中に首輪隠したよね? あれってどういうことなの? てかもうぶっちゃけて聞くわ。あの猫、アンタの飼い猫だったりする?」

 

 フラッシュあかりは、戦闘中には常に魔法を発動し、周囲の光景を撮ることを心がけている。そして当然、ジュリエッタが現れた時も魔法を発動し、ジュリエッタがキャットミィを殺す一連のシーンの撮影にも成功していた。

 

その映像をお茶会の時に再度確認している時に、あかりはジュリエッタがキャットミィを刺し殺した直後、その首に付けられていた首輪を切って隠したことに気が付いたのであった。首輪が付いていたということは、あの猫は飼い猫だった可能性が高い。その首輪をあえて隠したとなると、ジュリエッタが意図的に飼い猫であるキャットミィに命じてブルジョワ―ヌを攫わせようとしたということが考えられる。その場合、ジュリエッタに護衛として雇われたあかりは、ジュリエッタを危険人物だとみなし排除する必要性があった。

 

 機械で出来た右目をキュルキュルと回転させ、戦闘準備を整えるあかり。そんなあかりに対し、ジュリエッタはそっと小さな顎に手を添えて、悲しそうに眉を下げこう答えたのであった。

 

「はい、お恥ずかしながら、アレは私の飼い猫でした」

 

「⋯⋯随分簡単に認めるんだね。過去形なのは、今はもう関係がないって言いたいわけ?」

 

「ええ、そうです。死にかけていた子猫を偶然拾い、ペットとして飼っていたのですけれど一ヶ月ほど前に逃げられてしまってぇ⋯⋯。その猫がまさか、魔法少女になって私の大切な人を攫おうとするなんて私にとっても予想外のことでした。まさに、飼い猫に手を噛まれた気持ちですわ。首輪を隠したのは、あの人にアレが私の飼い猫だったことを知られたら嫌われてしまうかもしれないと怖くなったからです。私を疑う気持ちは分かりますけれど、どうか信じてください。私のあの人への愛に誓います。私は、先程の件に関してアレとは一切無関係です」

 

 あかりはしばらくジュリエッタを睨み付けていたが、やがて諦めて目を逸らした。こういうタイプは問い詰めても決して本当のことは言わないだろう。それに、こちらを見つめるジュリエッタの瞳は、どういうことか嘘をついている者特有の揺れが確認出来なかった。

 

 ただ、この魔法少女は信用してはならないとあかりの勘が訴えている。ジュリエッタからは、あの音楽家と同じ臭いがする。

 

「話はこれでおしまいでしょうか? では、私はあの人の元に行かなければならないので、お先に失礼しますねぇ」

 

 そう言って駆け足で屋敷へと向かっていくジュリエッタの後ろ姿を、あかりは苦々しい思いで見送ったのだった。

 

♢マミィ・マム

 

 こんな汚い廃病院に何時間も待機するのは正直かなり嫌だったが、そんな苦行もこの後キティ・ギルが持ってきてくれる金のなる木もとい金のなる魔法少女のことを思えば何とか我慢することが出来ていた。

 

 しかし、マミィ・マムがしたくもない我慢を強いられていたというのに、キティ・ギルが持ってきた報告は最悪なモノであった。今、自分の目の前でおどおどしながらブルジョワ―ヌⅢ世の誘拐計画の失敗を報告するジングル・ティンクルを前に、マミィ・マムは今にもティンクルの顔を殴りつけてやりたい衝動に襲われるが、辛うじて残った理性でその衝動を何とか抑える。

 

 それにしても、目的の魔法少女の誘拐に失敗した上に、メンバーの半数が減っているとは一体どういうことなのだろうか? いや、鬱陶しい子供が減る分には別に構わないのだが、これだけ人数が減ってしまっては再突入もろくに期待できないだろう。

 

 そもそも、賽ノ目チロリは一体何をしていたのだ? この魔法少女を監獄から逃がしたのは、こういった事態が起きないようにするためでもあったというのに、全く使えないではないか。考えれば考えるだけ、マミィ・マムの怒りはどんどん募っていく。

 

「⋯⋯か、かわいい我が子たちよ。お前ら⋯⋯じゃなくて、貴女たちは、一旦休みなさい。今日は疲れたでしょう? 私は賽ノ目チロリと少しだけ話があります」

 

 マミィ・マムは怒鳴り散らしそうになるのを抑え、あくまでも優しい母親としてキティ・ギルにそう声をかけた。ティンクルは少しだけ嬉しそうに「うん!」と答えて奥の部屋へと消えていく。パンプティは撫でて欲しそうに頭を出してきたが、今手を伸ばすと殴りそうになるのでやんわりと拒否してティンクルの元へ行くよう促す。名残惜しそうにこちらをちらちら見ながら歩くパンプティに内心「走れやボケ!」と暴言を飛ばしつつも、笑顔で手を振って見送ったマミィ・マム。ようやくチロリと二人きりになったところで、これまでため込んでいた怒りを彼女にぶつけることにした。

 

「ねえアンタ、何のために私がアンタを監獄から逃がしたと思ってるわけ? はー、マジ使えないわ。アンタもあのガキ共もクソ使えねえわ。アンタ、無能な自分が恥ずかしくないわけ?」

 

「⋯⋯ようやく本性見せてくれましたね。ま、薄々気付いていましたけれど」

 

 マミィ・マムが暴言を吐いても、チロリはすまし顔でそう答えるだけであった。それがますます腹立たしくて、マミィ・マムは手元の魔法の端末をチロリ目掛け投げつける。するとチロリは、何故かその端末を避けることなく額で受け止めた。マミィ・マムはそこまで力がある方ではないのだが、仮にも魔法少女の力で投げられた端末は、チロリの額から血を流すことに成功する。⋯⋯流石にやり過ぎたか? いや、避けなかったチロリが悪いのだ。マミィ・マムはそう言い聞かせ自分の行為を正当化する。

 

マミィ・マムが見つめる中、チロリは、自分の血が付いた端末を拾い上げ、心なしか若干低くなった声でマミィ・マムに話しかけてきた。

 

「そういえば、ブルジョワ―ヌⅢ世のメールアドレスって、どこで入手したんですか? 彼女に犯行予告をメールで送ったんですよね?」

 

「そ、それは、私にブルジョワ―ヌⅢ世のことを教えてきた奴のメールに一緒に書かれてあったのよ。てか、なんで今そんなこと聞くのよ!! アンタには関係ないことでしょ!?」

 

「ギャンギャン五月蠅いですね。⋯⋯少しは黙れよ。糞ババア」

 

 急に口調を変え凄んできたチロリに、思わず「ひっ!?」と悲鳴を上げるマミィ・マム。チロリは、いつの間にか掌の上に取り出していたサイコロを弄びながら、再び元の口調に戻って話しかけてきた。

 

「ところで、私の魔法、糞ババアはご存じですか? ああ、失敬。その小さな脳にはミジンコ級のデータ容量しかありませんでしたね。私の魔法、『ダイスを振って能力を決めるよ』は、実際非常にシンプルです。毎日零時にサイコロを振り、その日一日の私のステータスを決めるというこの魔法、前回は残念ながら『破壊力』、『耐久力』共に“1”という最低値。『敏捷性』と『知性』は“3”でしたが、そんなステータスでは到底勝算はありませんでした。しかし、端末に表示された時刻は間もなく零時。ダイスの振り直しの時間です。根拠はないですけれど私⋯⋯今回はいい目が出る気がするんですよ」

 

 そう告げると、チロリはおもむろにダイスを天高く放り投げた。思わずそのダイスの動きを目で追ってしまうマミィ・マム。そして、地面に落下し、回転を止めた4つのダイスが示した値は“6”。すなわち、六面ダイスが出し得る最高値であった。

 

 その数値を確認したチロリは、口角を大きくつり上げ不気味に笑う。そして、心底愉しそうにこう呟いたのであった。

 

「大当たりぃ⋯⋯♪」

 

 誰にも止められない悪夢が今、始まろうとしていた。

 

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