魔法少女育成計画GoldRush   作:赤葉忍

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親指姫は泡沫の夢を見るか

♢サンベリーナ

 

 紙飛行機の上に乗り、キティ・ギルのアジトを突き止めるという発想が浮かんだときは、我ながら天才なのではないかと思ったものだが、中庭から皆に見送られ空を飛ぶこと数分、サンベリーナは早くもこんな提案をした自分を殴り飛ばしたい気持ちでいっぱいになっていた。

 

「マジ怖い無理高い死ぬ誰だよ紙飛行機の上に乗るとか言い出した奴はい私です馬鹿野郎私~~!!!」

 

 サンベリーナは涙目になりながら必死で紙飛行機にしがみつき、叫び声を上げる。あかりの魔法で現像された写真だから耐久力は問題ないことは分かっているのだが、強い風が吹く度に激しく揺れて生きた心地がしないし、この奇妙な飛行物体が気になるのか、時々鳥たちがちょっかいを入れてくるのも心臓に悪い。飛んでくる鳥たちに対しては「しゃー!」と威嚇することで追い払い、何度も自分自身に罵声を浴びせながらも不安定な紙飛行機ロデオを続けたサンベリーナは、とうとうキティ・ギルのアジトである廃病院の見える距離までやって来たのであった。

 

「うーん、どう考えてもあれっぽいですよね。てかソリ見えてますし。この廃病院がキティ・ギルのアジトであることはほぼ確定として⋯⋯。さて、どう乗り込みましょう?」

 

 ここにたどり着くまでの間に重心移動で軌道を変更させる技を学んでいたサンベリーナは、その技を使ってちょうど良い突入場所を探し、廃病院の周りをぐるりと一周する。その結果、この廃病院はかなりボロボロで、逆に突入できない場所の方が少ないということが分かった。

 

「あの窓とかなんか良い感じの割れ具合ですね~。ちょいちょい、紙飛行機さんや、あそこまでこの私を運んでくれんかね」

 

 サンベリーナは適当に割れた窓に目的地を定め、エア手綱を操りその窓の中から潜入することに無事成功する。潜入成功と同時にサンベリーナは紙飛行機から飛び降り、元のサイズに戻ると紙飛行機をバッグの中へと収納した。

 

「よし! まずはミッションその1成功なのです。サンちゃん偉いと自分で自分を褒めておきましょう。⋯⋯で、ここからミッションその2ですね。キティ・ギルの現在の状況、第三者の存在の有無、そこら辺は調べておきたいところです」

 

 再び魔法で身体を小さくしたサンベリーナは、ちょこちょこと素早い動きで床を駆けていく。本当なら元の体型の方が移動には便利なのだが、足音が聞かれてしまうことを警戒して魔法を使用することにした。この姿なら、頑張ってもアリの足音くらいしか立てることが出来ない。

 

 壊れかけのドアの隙間を小さな身体でくぐり抜け、いくつかの部屋を素通りしていったところで、サンベリーナはあるドアから恐らく2人で会話しているらしき声を聞き、これまで以上に注意深く隙間から部屋の中へと潜りこんだ。

 

「アンタ、無能な自分が恥ずかしくないわけ?」

 

「⋯⋯ようやく本性見せてくれましたね。ま、薄々気付いていましたけれど」

 

 エプロンをつけている魔法少女の方は見たことがないが、もう1人は知っている。よりによって最初に見つけたのがあの賽ノ目チロリとはついていない。サンベリーナは自分の運の無さを呪いつつも、より一層気配を殺し、2人の顔が見える場所まで近づいていく。その間も、サンベリーナの耳には2人の会話が聞こえており、あのチロリ相手にエプロンをつけた魔法少女が端末を投げつけた時は、思わず「なんてことを!」と叫びそうになるのをこらえるので必死だった。しかし、そんなことなど、この後の一大事に比べれば些細な事件にしか過ぎなかった。

 

(大変だ⋯⋯!! 早く皆に知らせないと、死人が大量に出る!! ステータスオール6の賽ノ目チロリとか、災厄以外の何物でもない!!)

 

 サンベリーナはチロリの起こした事件に関するデータも記憶していたため、もちろん彼女の魔法のことも把握していた。そのため、チロリがサイコロで出した目、それがもたらす脅威にいち早く気づくことが出来たのだった。

 

 サンベリーナは、フラッシュあかりや他の魔法少女たちにこのことを知らせるべく、駆け足で部屋から出ようとした。しかし、その途中で、ダイスが振られる音と同時に、信じられない言葉が聞こえてきたのだった。

 

「──あ、誰か居るみたいですね」

 

 まさか、と戦慄した次の瞬間、先程までエプロンの魔法少女と会話していたはずの賽ノ目チロリがサンベリーナの前に立ちふさがり、こちらを見下ろしていた。その視線は、信じられないことにはっきりとアリほどの大きさしかないサンベリーナの姿をとらえている。慌てて魔法を解除しようとしたサンベリーナであったが、それよりも先に伸ばされたチロリの手がサンベリーナの身体を掴み、全身の骨が音を立てて砕け散る。

 

「こんな小さな魔法少女も居るんですね。小さくてとってもかわいらしい。ホント⋯⋯食べちゃいたいくらいです」

 

 あまりの痛みでもうろうとする意識の中、サンベリーナは自分の身体がチロリの腕によって運ばれていくのを感じる。かろうじて開く目で、自分がどこへ運ばれようとしているのかを悟り、半狂乱になりつつ逃げようとするも、チロリの力が強すぎて逃げることが出来ない。

 

 チロリがサンベリーナの身体を、ひょいっと自分の口の中へと放り投げた。直後、サンベリーナの視界に迫りくるのは真っ白な臼か。いや、チロリの歯だ。サンベリーナはそのまま避けることも出来ずにチロリの歯に押しつぶされ、その一生に幕を下ろすこととなった。

 

♢マミィ・マム

 

 さっきまで目の前に居たと思っていたはずのチロリが急に消え、何かを床から拾い上げたかと思いきやそれを食べ始めた。こんなボロボロの建物に落ちている物など食べて大丈夫なのだろうか。というか、聞き間違いでなければチロリは『魔法少女』と言っていなかったか? 一瞬最悪な想像が頭をよぎり、まさかそんな馬鹿げたことがあるはずがないとその想像を否定しようとするが、どうしてか先程から身体の震えが止まらない。その時、ふいにチロリがマミィ・マムの方を振り向き、マミィ・マムは思わずビクリと身体を跳ねた。

 

「糞ババア、さっきはよくもまあ色々と私に文句言ってくれましたね。正直あの時は絶対後で殺してやろうとか思っていましたが⋯⋯今の私はダイスロールにも成功し、魔法少女の味を堪能したことで大変気分が良いです。貴女が十秒以内にここから出てガキ共にかけている魔法を解除するというなら逃がしてやってもいいですよ。じゃあ、早速カウントしますね。いーっち、にー、さーん⋯⋯」

 

 チロリが軽薄な笑みを浮かべながら愉しそうにカウントを始めたのを聞き、マミィ・マムは全力で走り出した。今のマミィ・マムの頭の中には、キティ・ギルのこともブルジョワ―ヌⅢ世のことも全くなかった。ただ自分がこの魔法少女から逃げることだけを考え、魔法少女になって初めて全力疾走する。

 

 チロリのカウントが残り5秒になったところで部屋から出たマミィ・マムは、慌ててジングル・ティンクルとパンプキン・パンプティが休んでいる部屋に駆け込む。そして、血相を変えて飛び込んできたマミィ・マムに驚く2人を無理矢理殴り、魔法を解除した。別に殴る必要はなかったのだが、そこはご愛敬というものだ。このガキ共には散々苛つかされたのだから最後くらい許して欲しい。そして、そのままその部屋の窓をかち割ったマミィ・マムは、真夜中の街の中へと1人飛び出していったのであった。

 

♢♢♢♢♢

 

♢賽ノ目チロリ

 

 別にあのムカつく魔法少女は殺そうと思えばすぐに殺せたが、たいして強そうでもないし、殺したところで面白みがない。それよりも⋯⋯。チロリは手元に残ったマミィ・マムの端末をいじり、目的の番号にメールを打った。

 

「『お仲間の魔法少女は預かりました。返して欲しければ、こちらまで迎えに来てください。住所は〇〇です。早く来ないと、我慢できずに殺しちゃうかもしれません』⋯⋯文面はこんな感じですかね。これで恐らく、あの魔法少女たちはこちらにやってくるでしょう。ふふ、愉しみですねぇ。どんな方法で殺してあげましょう?」

 

 メールを打ち終わったチロリは、自分が柄にもなくワクワクしていることに気付いてしまった。これが、恋人を待つ乙女の気持ちなのだろうか? チロリは、未だ口内に残る魔法少女の味を舌で確かめつつ、恍惚とした表情でその時をひたすら待ち続けるのであった。

 

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