魔法少女育成計画GoldRush   作:赤葉忍

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『6』

♢W.C花子

 

 花子は、すぐ前を走るあかりの背中を追いながら、はあ⋯⋯と小さくため息をつく。全く、この魔法少女は口では他人のことをおちょくったりする割には情に厚いところがある。気に入った相手のためなら己の命が危険に曝されようが構わない。そんな性格だから何度もピンチに巻き込まれ、その度に花子はボロボロになったあかりを助けるはめになるのだ。あの機械製の右半身だって、何度破壊され作り替えられたことか。修理のためのお金が足りず、あかりに泣きつかれたことだってある。

 

 もううんざりだ。これ以上迷惑をかけないでくれ。花子があかりにそう言う機会はいくらだってあったはずなのに、今もこうしてあかりに付き合わされている。⋯⋯いや、自分でも分かっているのだ。こうしてあかりに振り回され、頼られることに喜びを感じてしまっている自分がいることに。

 

 本当は、サンベリーナを助けになど行きたくなかった。恥ずかしいことだが、後輩としてあかりに可愛がられているサンベリーナに対して嫉妬している自分がいたのだ。しかし、もし可愛がっているサンベリーナが殺されてしまうようなことがあれば、あかりは悲しむだろう。あかりにだけは、悲しい顔などしてほしくない。トイレの中でジメジメと暮らしている自分を、いつものようにふざけたテンションで無理矢理引きずり出してくれるあかりがいなければ、誰とも関わることなく独りでトイレの花子さんを続ける自信がある。

 

「花子ちゃん、奴らが指定してきた住所まであとどんくらい!?」

 

「少しは落ち着けあかり。慌てずとももうすぐ着くはずだ」

 

 端末で現在地を確認した花子は、前を走るあかりにそう告げる。しかし、その言葉はかえってあかりの心に火を点けてしまったようで、機械の足の裏に付いたブースターを吹かして大ジャンプ。目的地と思わしき廃病院を思いっきり飛び越えていきそうになったので、慌ててスッポンであかりを吸い寄せる。飛び込んできたあかりの身体を無事抱き留めたその時、鼻をくすぐる匂いに動揺してあかりを落としてしまった。

 

「痛っ!? ちょっとー花子ちゃん、受け止めるんなら責任持ってしっかり受け止めてよね!?」

 

 あかりが何か文句を言っているのが聞こえるが、花子の頭は自己嫌悪でいっぱいでそれどころではなかった。これくらいのことで動揺するとはいったいどこの中学生男子だ。仮にも23歳の成人女性なのだぞ? 

 

 花子が心の中で悶々と自責を繰り返している間に、少し遅れて付いてきていた茶々とすみれもどうやら目的地に着いたようだ。この失敗はこの後で取り返すことにして、今は気持ちを切り替えよう。花子はそう決意して、地面に尻餅をついた姿勢のままこちらに手を伸ばしていたあかりの手を取り立ち上がらせると、正面の入り口から堂々と病院の敷地内に侵入する。

 

「待っててサンちゃん、すぐ行くから!!」

 

「待て、あかり! ⋯⋯くそ、こっちの声を聞く様子すらない。私はアイツを追いかける。お前らはどうする?」

 

「そうどすなぁ⋯⋯。全員で行ってもし逃げられてもあかんやろうし、うちらは一旦裏に回ってみますわぁ」

 

 茶々たちの意見を確認したところで、花子は真っ先に飛び込んでいったあかりを追って駆けていく。直後、パリーンという甲高い音と共に、あかりが病院の最上階の窓をかち割り中へと入っていくのが見えた。⋯⋯気合いが入りすぎて最上階まで跳び上がってしまうところがなんともあかりらしい。花子は、後で合流すればいいだろうと無難に一階から病院の中へと入ることにした。

 

 中に入った瞬間、花子はとてつもなく邪悪な気配を感じ、素早く戦闘態勢を整え辺りを見回す。その間も、首筋からは既に冷や汗が流れ始めていた。今までも姿が見えない相手と戦うことは何度もあった。しかし、いきなりここまでの恐怖を感じたことがかつてあっただろうか?

 

 どうやらその気配は、二階へ続く階段から感じるようだった。花子はスッポンを構え、いつ襲いかかられても対処できるようにしながら、慎重に階段を上っていく。階段を上がるごとに、その気配はどんどん濃くなっていき、それに比例して花子の心拍数も高まっていく。先程から花子の本能は必死に逃げろと訴えかけている。魔王塾にいた頃でさえこんな経験はしたことがなかった。つまり、この先に待ち受けているのはあの魔王以上のバケモノだとでも言うのだろうか? いや、そんなことはあり得ない。第一、魔王以上の力を持つ魔法少女が居るとすればその存在を知らないはずがないのだ。

 

 とうとう二階に付いた花子は、目の前に一つだけ、開きかけのドアがあることに気付いた。そして、気配は明らかにそのドアの中から漏れ出している。ここまで来ればもう後戻りは出来ない。花子は、震える足を必死で動かし、ゆっくりとそのドアを開いた。

 

「やあ、待ちくたびれましたよ。貴女が、記念すべき生贄⋯⋯じゃなくて、客人第一号ですか?」

 

 花子の目の前に現れたのは、ブルジョワ―ヌの屋敷にもやって来ていた魔法少女の一人。確か名前は、賽ノ目チロリだったはずだ。しかし、先程見た時とは雰囲気が全く違う。花子は、返事代わりににスッポンを振るい、チロリへと空気の弾丸を撃ち出していた。

 

「おっと、蚊でも止まりましたか? ⋯⋯これ、一回言ってみたかったんですよね」

 

 しかし、花子の撃ち出した空気の弾丸は、そんな台詞と一緒にチロリによって軽々しく手の甲で弾かれてしまう。確かに咄嗟に撃ち出したモノではあったが、あれはそんな簡単に受け流せる攻撃ではないはずだ。花子の頭の中ではますます警鐘が鳴り響く。今度は押し込む空気の量を倍にして撃ち出してみるも、その攻撃も先程と同じように軽々しく払われてしまう。

 

「あれ、まさかこれだけとか言いませんよね? 散々待たせたんです。もっと愉しませてくださいよ」

 

 マシンガンのように空気の弾を撃ち出すも、全くダメージを受ける気配すらなく、うっすら笑みすら浮かべてこちらへ迫ってくるチロリに、花子の恐怖心はますます煽られていく。

 

「くっそおおおおお!!!」

 

 こちらへチロリを近づけたくないという恐怖心で、チロリは壁にスッポンを吸い付かせ、引きはがした壁をチロリ目掛け投げつけるという荒技に出た。そんなことをすれば当然部屋は崩れてしまう。崩壊した天井が花子とチロリを押し潰さんと迫る中、花子はとんでもない光景を目にすることとなる。

 

「⋯⋯私を潰せるとでも? 残念ながら私の手は、二つじゃあないんですよ」

 

 パーカーの中に隠されていたソレが、花子とチロリを押しつぶす寸前だった天井を元の位置まで戻す。黒く蠢き、蠱惑的な光を放つソレはあまりにも冒涜的な見た目をしていて、花子は最早声を出すことすら出来ずに、ただ呆然とチロリのパーカーの中で蠢く六本の黒い大きな触手を見つめていた。

 

「ああ、見てしまいましたか? 私のこの素晴らしき触手ちゃん達を。安心してください、これはただ自由に動かせるだけで、魔王の羽根みたいな能力は何も備わっていませんから。私の魔法とは一切関係ありません。⋯⋯まあ、ダイスで5以上が出ないと動かすことが出来ないので、あながち無関係とも言いにくいですけれど」

 

 こんな馬鹿げた話があっていいのだろうか? 自由に動かせる腕が六本増えるだけで、それは十分なアドバンテージに成り得る。そんな触手に加え、魔法まで別にあるとは、最早反則レベルではないか。

 

 勝てない。即座にそう判断した花子は慌てて逃げようとしたが、チロリがようやく訪れた獲物の逃亡を許すはずがなかった。

 

「ねえ、どこに行くんですかぁ!! もっと遊ぼうぜ? ねえ、遊びましょうよ!! ハハハハハハ!!」

 

 狂ったような笑い声と共に、目にもとまらぬ早さで花子の正面に回り込んできたチロリが、花子に向かって腕を突き出す。咄嗟にスッポンを構え、チロリの攻撃を防ごうとした花子であったが、破壊不可能なはずの魔法のアイテムであるスッポンをあっさりと真っ二つに折られてしまう。チロリの腕はその勢いのまま花子の腹部を抉り、花子は「がはぁっ!?」といううめき声と共に大量の血を地面に吐き出した。

 

「相棒のスッポンが折れたことに驚いてますか? 破壊不可能なはずの魔法のアイテム。しかし、それはあくまで魔法少女の力の範囲の話です。“5”が魔法少女としての最大ステータスだとするなら、“6”は魔法少女の限界を超えたステータス。つまり、貴女みたいな凡人では太刀打ちできないということです。さあ、苦しまないうちにとどめを刺しますかね」

 

 チロリが、蹲る花子にとどめを刺さんと腕を振り上げる。霞みゆく視界の中、花子はその振り上げた腕の先にある天井にヒビが入るのを見つけた。思考よりも先に身体が動き、折れたスッポンを使ってその場から離れる。

 

「おんどりゃ手前ぇ! サンちゃんと花子ちゃんに何しとるんじゃぁ!!」

 

 怒声と共に天井を突き破って現れたのは、花子の最も信頼する友人の姿。機械の足のブースターを全開にし、あかりはチロリへと蹴りかかる。

 

「ハハハハハ!! 飛んで火に入る夏の虫とはこのことでしょうか。今さら虫が一匹増えたところで変わりません。どちらもおいしく頂きますね!!」

 

 天井からの奇襲を触手で軽々と受け止めたチロリは、そう言って愉し気に笑う。まったくダメージを負っていない様子に舌打ちしつつ、あかりは花子のすぐ隣に着地する。

 

「ずいぶんやられたみたいだね花子ちゃん。まだ戦える?」

 

「⋯⋯ああ、心配するな。お前と一緒なら、私は戦える」

 

隣に立つあかりに支えられながら、折れた心とスッポンをもう一度奮い立たせ、花子は立ち上がる。そして、目の前の怪物ともう一度戦う覚悟を決めたのであった。

 

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