魔法少女育成計画GoldRush   作:赤葉忍

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冷めきった紅茶と予期せぬ来客

♢モルジャーナ

 

 5人もの魔法少女が居なくなったことで空席が目立つテーブルの上には、すっかり冷め切った紅茶が飲みかけのまま放置されている。サンベリーナや花子と頻繁におしゃべりしていたあかりが居なくなったことで、静寂が場を支配するようになった。本来ならこういう時に積極的に会話を振るブルジョワ―ヌは、不安げにうつむいて黙り込んでしまっているし、モルジャーナはそもそもあまりコミュニケーション能力が高くない。

 

 残った客人2人のレイニー・ブルーとジュリエッタも、一方は蛙とじゃれつき、一方はブルジョワ―ヌをうっとりと眺めるばかりで会話しようとする気配すら見られない。⋯⋯いや、そもそもジュリエッタは客人と呼んでいいかどうかも怪しかったか。

 

 このまま会話1つない状況は、ブルジョワ―ヌの精神的にあまりよろしいとは言いにくい。ここは、ジョークの1つでも言って場の空気を和ませた方がいいだろうか。モルジャーナが本気でそんなことを考え始めたその時、急にジュリエッタが包丁を手に取り、さっきまでブルジョワ―ヌに注いでいた視線を中庭のある方へと向けた。

 

「モルジャーナさん、どうやらお客様が来たみたいですよぉ? 迎えに行った方がいいんじゃないですかぁ?」

 

 ジュリエッタにそう指摘されて初めて、モルジャーナは何かを引きずるような音が外から聞こえてきていることに気が付いた。このタイミングでの来訪者とはあまり良い予感はしないが、もしサンベリーナ辺りが帰ってきたのだとしたら迎えに行かねばならないだろう。

 ただ、モルジャーナの目の届かないところでジュリエッタをブルジョワ―ヌと一緒にさせるのはあまりにも危険すぎる。そして、そんなモルジャーナの警戒心をジュリエッタは見通しているかの如く、ジュリエッタはモルジャーナに対してこのようなことを提案してきた。

 

「やっぱり、ここは皆で中庭に行きましょう? もし敵がまたやって来ていたとすれば、モルジャーナさんが危ないですし。それに⋯⋯その方がモルジャーナさんも色々と心配事が減るでしょう? ふふっ♡」

 

「⋯⋯そうですね。確かにその方がいいかもしれません」

 

 内心舌打ちしたいのを隠しつつ、モルジャーナはジュリエッタの提案に乗ることにした。この魔法少女は本当に何を考えているのかよく分からない。ただ、絶対に放置してはいけない人物であるということは確かだ。ブルジョワーヌの手を取ろうとしたジュリエッタの間に割り込み、そっとブルジョワーヌを椅子から立ち上がらせたモルジャーナは、自然な流れでブルジョワーヌを抱きかかえ中庭へと向かう。その後ろにうすら笑みを浮かべたジュリエッタが続き、レイニーが慌てて最後尾に続いた。

 

「あの魔法少女は確か⋯⋯!」

 

 最初に中庭に出たモルジャーナは、そこに倒れる魔法少女の姿を見て思わず声を漏らした。顔はよく見えないが、無駄にポケットの多いあのコスチュームには見覚えがある。キティ・ギルのメンバーの1人にあんな感じの魔法少女が居たはずだ。ただ、その身体は遠目から見ても傷だらけで、かすかに身体が上下しているからまだ生きていることが分かるくらいだった。

 

 近づくと、よりその魔法少女の状態が分かった。この怪我の様子だと、魔法少女でも耐えるのが厳しいのではないか。一刻も早く治療をしなければ死んでしまうだろう。

 

「ブルジョワ―ヌ様。どうやら彼女はキティ・ギルのメンバーのようです。いかがいたしましょうか?」

 

「決まっていますわ。たとえ敵だろうと死にかけている少女を放置することは出来ません。すぐ治療いたしましょう!!」

 

 モルジャーナ個人としては、ブルジョワ―ヌに害を及ぼす危険のある魔法少女が死のうと別に構わなかったのだが、案の定ブルジョワ―ヌは彼女の治療を望んだ。自身に危険が迫っている時でさえ高潔な心を忘れない、そんなブルジョワ―ヌだからこそモルジャーナも彼女に仕えることに誇りを感じるのだ。

 

モルジャーナは一旦ブルジョワ―ヌを地面に下ろし、その代わりに死にかけの魔法少女を慎重に抱きかかえる。軽く触れた感じ、どうやら両足と左腕が折れているようだ。その時初めて、モルジャーナはその魔法少女が弱々しい声で「キャットちゃん⋯⋯」と繰り返しうわごとのように呟いていることに気が付いた。

 

「大丈夫ですよ。ブルジョワ―ヌ様が望んだ以上、貴女の命は必ず救います」

 

 流石に中庭で治療をするわけにはいかないので、モルジャーナは急ぎ足で屋敷の中に戻り、治療の準備を整える。ただ、ここで1つ問題が出てきた。魔法少女を抱えたままでは、彼女を寝かすベッドを出すことが出来ない。どうしたものかと思案するモルジャーナの元に、意外なところから助け船が出された。

 

「その子を治療するなら寝かせるためのベッドが必要ですよねぇ? 私が持ってきてあげましょうかぁ?」

 

「⋯⋯ジュリエッタ。貴女、一体どういうつもりですか?」

 

「私はただ、貴女と同じであの人の願いを叶えたいだけです。あの人の願いは、同時に私の願いにもなるわけですから。ふふふ⋯⋯」

 

 意味深な笑みを残して去ったジュリエッタは、程なくして折りたたみ式のベッドを抱えて戻ってきた。この際、何故ベッドのある場所を知っているのかという追究はしない。今だけはこの狂人の手助けを素直に受け取ることにしよう。

 

 魔法少女の怪我の治療の経験はないが、魔法少女でも身体の構造は普通の人間と変わらない。ブルジョワ―ヌに仕える従者として常に完璧を追い求めてきたモルジャーナは、当然医療の知識も持ち合わせている。とくに手間取ることもなく、順調に治療を進めることが出来た。ただ、少し気になったのは、ジュリエッタもどうやら医療の知識を持ち合わせているらしい点だ。この魔法少女はどういうわけか、時折的確なサポートを入れてモルジャーナの治療行為を手助けしてくれたのだ。

 

 そして、そんなジュリエッタのサポートのおかげもあって、魔法少女の治療は予定よりかなり早く終えることが出来た。折れた手足も、魔法少女の回復力があれば数時間もすれば治るだろう。苦しげな表情から一変、安らかな寝息を立て始めた魔法少女を前に、ふぅと汗を拭ったモルジャーナは、一応ジュリエッタに礼を言うことにした。

 

「⋯⋯この度はお手伝いいただき、大変ありがとうございます」

 

「そんな嫌々礼を言われても全然嬉しくないですよぉ? まあ、こちらも色々と最終確認が出来ましたので、それでおあいこということにしておきましょう? ふふふ⋯⋯」

 

 最終確認とは一体何のことか。しかし、これ以上ジュリエッタの言動に惑わされるのが嫌だったモルジャーナは、その言葉の意味を深く考えることはしなかったのであった。

 

 そして、それからおよそ一時間後、皆に見守られる中でようやくその魔法少女が目を覚ました。起きて早々、「キャットちゃん!」と叫んで飛び起きようとした魔法少女を、モルジャーナは慌てて抑え込んだ。

 

「貴女はまだ動いてはいけません! しばらく安静にしてください!!」

 

 その後もその魔法少女はしばらく暴れたが、モルジャーナが必死で抑え込み説得し続けたことで、ようやく大人しくなってくれた。かと思いきや、今度はみるみるうちにその瞳に涙がたまり出し、さっきまでの激しさとは打って変わってか細い声でぽつぽつと言葉を紡いでいく。

 

「本当は、もうキャットちゃんが死んだこと知ってたんだ。でも、信じたくなくて⋯⋯。だって、キャットちゃんは私たちのリーダーで、元気で明るくて、いつだって皆のこと引っ張ってくれて⋯⋯。アイツはキャットちゃんのことなんも知らない癖に勝手なこと言ってさ、だから私思わず言い返しちゃって、そしたら、そ、そしたらアイツ⋯⋯わ、私のこと⋯⋯!」

 

「落ち着いて。もう大丈夫ですわ。貴女のことはわたくし達が必ず守ってみせます。勿論、貴女のお友達も。だから安心して、今は思いっきり泣きなさいな」

 

 ブルジョワーヌはそう言ってビスケのことを優しく抱きしめた。ビスケは、張り詰めていた気が一気に切れたようで、ブルジョワーヌの胸に顔を埋め、大声で泣きじゃくる。

 

 当然、ビスケの友達、つまりキティ・ギルのメンバーを守るのは無理なことだ。彼女達は既に誘拐未遂という罪を犯している。その罪を許すことは出来ないし、彼女達には魔法の国からきちんとした処罰を受けてもらう必要がある。

 

 そのことは勿論ブルジョワーヌも承知しているはずだ。その上で、ビスケを安心させるためだけに嘘をついた。全く、自分の仕える主は優しすぎる。魔法少女になると多少態度は大きくなり、言動も変化するが、根本は変身前と少しも変わらない。そして、モルジャーナはそんな主のことが大好きだ。

 

「やはり貴女は最高に素晴らしいですぅ⋯⋯!! さすが、私の運命の人⋯⋯!!」

 

 だからこそ、恍惚とした表情を浮かべそう漏らしたジュリエッタに思わず心の中で同意してしまい、彼女と同じ思考だったことに複雑な思いを抱いたのであった。

 

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