♢レイニー・ブルー
「すいません、ハンドルピースさん。貴女だって悲しいはずなのに、私ばかり泣いちゃって⋯⋯」
「そんなの気にする必要はないっすよ~。自分だって事前にクレラ様から連絡なかったら泣いてた自信ありますし。それに、こうなる前からクレラ様には自分が死んだ後のことを自分に色々指示してたんで、ある程度覚悟は出来ていたというか」
ようやく落ち着いて話が出来るようになったレイニーは、申し訳なさそうに眉を下げてハンドルピースに謝罪する。しかし、ハンドルピースはレイニーの謝罪を軽く受け流すと、どこからか取り出した壺に灰になったクレラを詰め込み始めた。突然のハンドルピースの行動に驚いたレイニーは、さっきまで泣いていたことも忘れ、慌ててハンドルピースを止めようとする。
「ちょちょちょ、何やっているんですかハンドルピースさん!?」
「ピースでいいっすよ~。長ったらしいですし。あと、これはクレラ様の命令なんで、邪魔しないでもらえると嬉しいっす。『吾が死んだ後はその遺体を灰に変え、“葬儀屋”の元まで持って行け』。これはクレラ様が生前自分に仰っていた言葉っす」
「“葬儀屋”?」
レイニーも勿論その言葉の意味は知っている。ただ、ハンドルピースの言っている『葬儀屋』がどうも自分の知っているモノではなく、ある一個人を指しているような気がして、質問の意味もかねて首をかしげた。そしてそのレイニーの反応に、灰を完全に壺に詰め終わったハンドルピースはレイニーの方を向き、こう答えた。
「そういや、レイニーさんはまだ知らないっすよね。クレラ様の専属は実は自分の他にもう1人居るんすよ。名前は『葬儀屋ヒシバナ』。クレラ様専属の葬儀屋で、かなりぶっ飛んだ性格の、面白い奴っす!!」
ハンドルピースがぶっ飛んでると語る魔法少女とは一体どんな人物なのであろうか。少々の不安は感じたものの、レイニーは再びハンドルピースの身体にしがみつき、彼女の乗るバイクに連れられて、その葬儀屋が居る場所まで一緒に行くことにしたのであった。
どれだけスピードを出しても事故を起こさないという自信の元、猛スピードで行われたツーリングはお世辞にも快適とは呼べなかった。まだ日の昇らない暗闇の中、目的地に到着すると同時にヘルメットを脱いだハンドルピースは、晴れ晴れとした表情で青色の髪を風になびかせた。そんな彼女とは対称的に、真っ青な顔をしたレイニーの足取りは覚束ない。結局、ハンドルピースに肩を貸して貰う形で、葬儀屋が居るという寺へと入ることになった。
「おーい、ヒシバナ~!! どこに居るっすか~!!」
門をくぐるなり大声で呼びかけたハンドルピースの声に応えるように、少し離れた場所にある小屋の屋根が爆音と共に吹き飛ぶ。
「⋯⋯あの馬鹿。また性懲りもなく変な実験やったっすね」
ハンドルピースは舌打ちと共に悪態を吐き、先程屋根が吹き飛んだ小屋の方へと走っていく。慌ててその後を追いかけるレイニー。2人はほぼ同時に半壊した小屋の前にたどり着き、そしてまるで2人が来るのを待っていたかのようなタイミングで、瓦礫の中から真っ赤な髪をウニのように尖らせた法被姿の魔法少女が現れた。その背中には大きな筒を2つ背負っている。その魔法少女は、レイニー達の姿をみるなり目を見開き、大声で声をかけてくる。
「ゲホッ、ゲホッ。あー、てやんでい畜生め、また火薬の分量を間違えちまった。ん? おいおい、そこに居るのは『運び屋』じゃねえか! 久しぶりだなぁ!!」
「お前は相変わらずみたいっすね。こんな馬鹿なこと続けてたらいつか死ぬっすよ?」
「カッカッカ!! 爆発で死ねるんなら花火師としては本望ってもんよ!! ⋯⋯で、そっちの見慣れない奴は?」
それまでハンドルピースとずっと話していたヒシバナが、その時初めてレイニーへと視線を移した。レイニーは、慌てて頭を下げて自己紹介をする。
「は、初めまして。監査部門所属、レイニー・ブルーと言います。ヒシバナさん、よろしくおねがいします!!」
「監査部門? ⋯⋯ってことは、アンタが噂の親方様が一目惚れした魔法少女っつーわけか!? 成程、確かにあの人も気に入りそうな別嬪さんじゃねえの!! ⋯⋯ん? そういや、親方様はどこに居るんだ?」
ヒシバナは笑みを浮かべながら、何気ない様子でそう尋ねた。いきなり核心をついてきたヒシバナに、レイニーもハンドルピースもすぐには答えられず、一瞬固まってしまう。しかし、その一瞬の沈黙はヒシバナに全てを悟らせるのに十分すぎる時間であった。
「⋯⋯成程。連絡もなしにオレのところに来たのはそういうわけってことか。オレが葬儀屋としての仕事をすることはねえって思ってたんだがなぁ。そうか、親方様が逝っちまったか」
「⋯⋯察しが良くて助かるっす。これがクレラ様の遺灰っすよ」
ハンドルピースが差し出したクレラの遺灰が入った壺を、ヒシバナは無言で受け取った。そして、レイニー達に背を向けて歩き出すと、付いてこいと手招きをする。レイニーとハンドルピースもまた、無言で彼女の後を付いていった。
「オレが『葬儀屋』なんて呼ばれてるのは、昔やんちゃしてたせいでよぉ。『出会う者全てに死の花を咲かせる』なんて言われてさ、まあ簡単に言やあ、殺し屋紛いのことをしてたってわけだ」
ふいに、ヒシバナが自分の過去について語り始めた。どうやらそれは独り言に近い呟きだったようで、レイニー達の合いの手も待たずに、ヒシバナは再び語り始める。
「まあ、それで随分派手に色々やってたわけなんだが、ある日オレの名前が監査部門に伝わったらしくってな。それで、親方様がオレを捕まえにやって来たってわけだ。当時のオレは自分のことをまあまあ強ぇ奴だって思ってたからよお、魔法の国のお雇い魔法少女なんて敵じゃねえとか調子こいてたんだが⋯⋯これがまた、気持ちいいくらいにボロ負けよ!! 当然、捕まったオレは死を覚悟した。良くて監獄行きだろうってな。だがよ、そこで親方様がオレに何て言ったと思う?」
レイニー達は答えない。そして、ヒシバナも答えを期待している訳ではない。ヒシバナは心底愉快そうな様子で、自分からその答えを告げた。
「親方様はこう言ったのさ。『お前の魔法は美しい。ここで失うには勿体ない。これからは、吾専属の“葬儀屋”になるのだ!』⋯⋯普通、さっきまで戦っていた相手にこんなこと言えるか? その瞬間、オレは完全に親方様に魅せられちまったのよ。⋯⋯さて、着いたぜ。ここなら、空が良く見える」
そう言ってヒシバナが足を止めたのは、殺風景な石庭の中であった。踏み石をジャンプして渡り、石庭の中央にある大きな石の上に立ったヒシバナは、抱えていた壺の蓋を開け、取り出した灰を掌の上に乗せる。すると、灰は一瞬にして球状に固まったではないか。思わず目を丸くしたレイニーを一瞥し、ヒシバナはニヤリと口の端を吊り上げた。
「そういやあ、オレの魔法のことをまだ話してなかったな。オレの魔法は、『綺麗な花火を打ち上げるよ』ってもんだ。粉状の物なら何でも、こうやって花火の玉に変えることが出来るって寸法よ。そして、今から打ち上げるこの花火は⋯⋯親方様に送る、最初で最後の花束だ!!」
そう叫び、ヒシバナは背中の大筒へと先程作ったばかりの玉を放り投げた。クレラの遺灰で作られたその花火玉は、ヒシバナが大筒に火を付けると同時に天へと打ち上がった。
そして、夜空に咲く、美しい一輪の花。その花火は、レイニーが今まで見たどんなものよりも美しく輝いていた。
「それでは、我らが愛する上司に⋯⋯敬礼」
ハンドルピースがそう言って、空の花火に向かって敬礼をする。それに続き、ヒシバナとレイニーも敬礼をした。
我らが上司に美しい花束を。葬儀屋ヒシバナによる弔いの花火は、レイニーの心でいつまでもあせることのない輝きを放っていたのであった。