魔法少女育成計画GoldRush   作:赤葉忍

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番外編
遠き日のアンドロメダ


「なあ、転子ちゃんは名前もう決めたん?」

 

「うん、うちはもう決めとうよ~」

 

「え、何にしたん!? 早く教えてクレオパトラ!!」

 

「勿論いいですとも~。うちの魔法少女名は~、ジャカジャカ⋯⋯ジャン!! 『ナナ転び転々』に決めました~!!」

 

「おー! なんかめっさ転びそうな名前やね!! リズムも良いしええと思うで!!」

 

「ファヴはんに教えて貰ったうちの魔法が『触った相手を転ばせるよ』やからね~。うち、センスええやろ?」

 

「うん、全日本センスコンテスト優勝間違いなしのネーミングや! 流石うちの親友!!」

 

「ふふふ⋯⋯。チャンピオンの親友のすみれさんはさぞかしセンスのある名前を考えてくれるでしょうね~」

 

「う⋯⋯。プレッシャーかけんどいてよ転子ちゃん⋯⋯じゃなかった、転々。よーし、うちも名前思いついたで!!」

 

「お、楽しみやな~。わくわく」

 

「ふっふっふ~。うちの魔法少女名は⋯⋯『按怒露芽蛇墨恋(アンドロメダすみれ)』や!! どーやこのセンスの爆発加減!! どやぁ⋯⋯!」

 

「⋯⋯読みだけならかっこええけれど、全部漢字ってところに残念さが溢れるわ~」

 

「なっ!? か、漢字だけだからこそ格好いいんやないか!! しかもアンドロメダやでアンドロメダ!! うちはアンドロメダ銀河まで名前を轟かせるハイパースーパー魔法少女になってやるんや!!」

 

「⋯⋯まあ、あんたなら有名になるやろうな~。『世界一やかましい魔法少女』って感じで」

 

「やかましくて結構。うちは両親からも『アンタは口から最初に産まれたんか?』って言われるくらいお喋り大好きやからな。口を閉じるくらいなら死んだ方がマシや!! がっはっは!!」

 

「はぁ。まあ、うちもすみれちゃんと居ると退屈せんからええけれどさ。喋っちゃいけないことまで喋ったりしたらあかんで?」

 

「大丈夫やって!! うち、こう見えて口は固いし!!」

 

「ホンマかなぁ⋯⋯。不安やわぁ」

 

 

〇〇〇〇〇

 

「⋯⋯今回の試験、少し参加者が多すぎませんか?」

 

「最初に次の試験は参加者を増やすって提案したのはそっちだぽん」

 

「それにしても30人は多すぎるんじゃないかと言っているんです。以前行った100人の試験も結構大変でしたし」

 

「どうせほとんど死ぬんだから人数が多かろうが少なかろうが関係ないぽん。それに、人数が多い方がクラムベリーの楽しみも増えると考えてのことだぽん。⋯⋯まあ、流石に30人も結構多いかなって反省してるぽん」

 

「自分の不手際は自分で解決してくださいよ? ファヴのことですから、何か策は考えているのでしょう?」

 

「参加者の中から1人協力者になって貰おうと考えているぽん。ちょうど、魔法がそこそこ強い上に扱いやすそうな馬鹿が1人居るから、そいつに今夜にでも声をかけてみるぽん」

 

〇〇〇〇〇

 

「えへへへへ~」

 

「すみれちゃん、一体どうしたん? そんな気持ち悪い顔でニヤニヤ笑ったりして⋯⋯」

 

「ちょ、気持ち悪い顔はひどない!? まあいいや。今日のうちは機嫌がいいから許したるで。それよりも⋯⋯ぐふふ、どうしよっかな~。話したいな~、話しちゃおっかな~」

 

「なんか、今日のすみれちゃん一段とウザいわ~」

 

「ぐっ⋯⋯! い、今のはなかなか心にぐさっと来るもんがあったで、転々さんや」

 

「もうさっきからずっと顔面に『話したい』って書いてあるやん。何をもったいぶっとるのかしらんけれど、さっさとげろっちまいなさいや。ほれほれ~」

 

「むむむ⋯⋯。ホントは誰にも話すなって言われとるんやけれど⋯⋯。まあ、転々なら問題ないかな!! 実はなぁ、うち、クラムベリーさんの試験の協力者に選ばれたんよ!!」

 

「何ソレ!? 凄いやん!! ⋯⋯てか、それホントに話して大丈夫な奴だったん?」

 

「転々なら口固いし、2人だけの秘密にすれば大丈夫やろ。それに、協力者って言うても特にすることないってあの黒白ぽんぽん丸にも言われたしな~」

 

──すみれはそう言って笑い、そして転々も一緒になって笑った。2人はこの時まだ子供で、今を楽しむことしか考えていなかった。魔法少女になったことも遊びのようなものと考えていた。試験に合格しなくても、『魔法少女に変身した』という事実だけで大人になった時に笑い話に出来ると軽い気持ちで考えていた。そう、この時は、時間が勝手にすみれ達を大人にしてくれると思っていたのだ。

 

〇〇〇〇〇

 

「⋯⋯え? い、今、何て言いました、か⋯⋯?」

 

「聞こえませんでした? 『貴女の友達は殺した』と、そう言ったつもりだったのですが」

 

「こ、殺したって⋯⋯それ、どういう意味なんですか?」

 

「勿論言葉通りの意味ですよ。逆に、他にどんな意味があるというのです? 証拠が欲しいと言うのなら、死体がある場所まで連れて行きますけれど。昨日殺したばかりなので、まだ腐敗はそこまで進んでいないと思いますよ」

 

「ど、どうしてそんなことを!? 転々が、転々がアンタに一体何をしたっていうねん!!」

 

「別に、私自身が何かされたという訳ではありませんが⋯⋯。知られたくないことを知られてしまったので、殺さざるを得なかった、という感じです」

 

 クラムベリーの細められた目を見て、私の心臓はドクンと音を立てて跳びはねた。彼女の言う『知られたくないこと』に、心当たりがあったからだ。

 

「まさか、うちがあのことを転々に喋ったから⋯⋯?」

 

「そういうことです。実際に手を下したのは私ですが、きっかけとなったのは貴女のお喋りなその口のせいです。実質、貴女が彼女を殺したようなものです。もう、後戻りは出来ませんよ?」

 

 そこから先、クラムベリーに何を言われたかはよく覚えていない。転々がもうこの世にいないという恐怖と、何故自分は喋るなと忠告されていたにも関わらず喋ってしまったのだという激しい後悔がのし掛かり、ただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。

 

 そして、その日からすみれの生活は一変した。本性を隠すことを止めたクラムベリーは、すみれを連れて試験の参加者を次々と殺していった。初めはただクラムベリーが戦う様子を怯えて眺めているだけだったすみれであったが、相手が複数の時はサポートを求められ、次第に魔法少女としての戦い方が身についてきた。

 

 ある日、すみれはクラムベリーの手を借りることなく、初めて自分自身の手で魔法少女を殺した。しかし、血に濡れる自分の両手を見ても、すみれは特に何も感じることはなかった。転々を失ったあの日から、すみれの世界は灰色で、血の赤も半紙の上に落とされた墨が作る染みのようにしか思えなかった。あれだけ好きだったお喋りは、今や苦痛でしかなかった。クラムベリーと連絡を取るときも最小限の言葉だけで済ませるようになり、めっきり口数は減ってしまった。

 

〇〇〇〇〇

 

「なあ、君すみれちゃんやろ? ちょっと聞きたいことあるんやけれど。今、時間あるかいな?」

 

 すみれが参加者の1人を殺し、家に帰ろうとした道中で、その魔法少女は声をかけてきた。まんべんなくフリルがあしらわれた桜色のドレスに、ピンクの巻き髪、桜のアクセサリーを体中につけた、全身ピンクの魔法少女だった。こんな派手な見た目なら一度見たら忘れないはずだが、すみれには覚えがない。それなのに、何故相手は自分の名前を知っているのか。即座に戦闘態勢に入ったすみれは、目の前の魔法少女を睨み付けると同時に殺気をぶつける。しかし、多くの魔法少女を殺し、洗練されたすみれの鋭い殺気を受けても、その魔法少女は怯えることはなかった。ただ、どこか悲しげに眉を下げただけであった。

 

「⋯⋯すみれちゃん、前は僕にも笑顔で挨拶してくれとったのに、ホンマ、一体何があったんや? やっぱり、ナナ転び転々⋯⋯いや、転子ちゃんが死んだことと何か関係しとるんか?」

 

 転子の名前を聞き、すみれは激しく動揺した。ナナ転び転々が米夜転子であることを知っている人間など、本当にごく一部しかいない。それこそ、すみれと、そして⋯⋯転子の家族くらいだ。転々は、以前すみれに家族全員が魔法少女だったということを驚きと興奮が混じった様子で伝えてくれた。そうなると、この目の前にいる魔法少女は転子の母親か父親のどちらかであり、そこまで選択肢が絞られれば、僅かな面影から正体を突き止めるのは簡単だった。

 

「ま、まさか⋯⋯転子のパパ、なの⋯⋯?」

 

「やっと口を開いてくれたね、すみれちゃん。そういえば、この姿で会うのは初めてだっけ。改めて自己紹介するよ。僕の名前は『春うらら』。30過ぎのおっさんだけれど、家族への愛なら誰にも負けない自信があるよ。そして、これからする質問の答えによっては⋯⋯君を許せないかもしれない」

 

 そう言って、うららは真っ直ぐにすみれを見つめる。先程のすみれのような鋭さはないが、揺るぎない意志が秘められた力強い瞳だ。

 

「じゃあ、改めて聞くよ。⋯⋯すみれちゃん、転子は、君が殺したのか?」

 

 あの瞳で見つめられた時から、この質問は予想していた。そして、それに対するすみれの答えは1つしか無い。

 

「⋯⋯そうだよ。私が、あの子を殺したの」

 

「⋯⋯そうなのか。僕は君のことが嫌いじゃなかったんだけれど、その答えを聞いてしまったら、もう許せないな」

 

 すみれは袴を破り、素早く筆を走らせる。しかし、すみれが文字を書き終わるよりも先に、うららはすみれに灰のような物を投げてきた。その瞬間、すみれが持っていた紙に色とりどりの花が咲き乱れ、文字を書くことが困難になってしまった。予期せぬ事態に困惑するすみれへと、うららが駆け寄って来る。すみれは迎撃のために再び筆を構えようとするが、すみれの腕はいつの間にか地面から伸びてきていた朝顔のツルによって拘束されていた。

 

「僕の魔法、『枯れ木に花を咲かせるよ』は、植物が育たない場所からも花を咲かせることが出来る。そして、開花直後ならある程度動きをコントロールすることも出来るんだ!」

 

 うららが振り上げた拳が、すみれへと迫る。回避も防御も叶わず、衝撃を覚悟して目を瞑ったすみれであったが、うららの拳はすみれを殴ることはなく、肩に優しく置かれただけであった。

 

 何故うららは絶好のチャンスで攻撃しなかったのか。困惑するすみれの腕に、ぽとりと水滴が1つ落ちた。それは、うららの目からこぼれ落ちた涙だった。

 

「やっぱり⋯⋯やっぱり僕には無理や! だって、だって⋯⋯すみれちゃんは、うちの転子の大事な友達やから⋯⋯!! 僕には出来へん。君を殺すことは、僕には無理や⋯⋯」

 

「転子ちゃんパパ⋯⋯!」

 

 ああ、そうだ。この人は凄く優しい人だった。転子も、父親が怒った姿を一度も見たことがないとすみれに言っていた。転子の家に遊びに行った時、優しい笑顔で自分で焼いたクッキーを持ってきてくれたのをすみれもよく覚えている。

 

 転々が死んだあの日からずっと灰色だったすみれの世界が、うららの優しさに溶かされて徐々に色付いていく。自分と同様に涙を目に浮かべるすみれを見て、うららはほっと安堵の息を吐き、すみれの体を抱きしめるべく腕を広げた。その腕の中に飛び込もうとしたすみれの目の前で、うららの胸に大きな赤い花が咲く。目を見開いたまま地面に崩れ落ちたうららの背後に立つのは、抜き出した心臓を握りしめるクラムベリー。その姿を見たすみれの視界は、今度は墨で塗りつぶされたかの如く真っ黒に染め上がった。

 

〇〇〇〇〇

 

──ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい⋯⋯。

 

「この魔法少女、どうやら貴女に恨みがあるようですね。『娘と夫の仇』とか言っていましたが、心当たりはありますか?」

 

──はい、ワタシノセイデ2人とも死ニマシタ。すいません⋯⋯。

 

「まあ、これだけ人数をそろえておいて合格者が貴女1人、というのは流石に怪しまれるとファヴにも言われましたし、殺すのはやめておきましょうか」

 

──転子のお母さんに言われた。『謝罪の言葉なんか聞きたくない。もう二度と、うちの前で口をきくな』。当然だ。私は許されないことをしたのだから。それでも、私に出来ることは貴女への贖罪だけ⋯⋯。

 

「この魔法少女の記憶は消しておきます。後始末をどうするかは貴女に任せますよ。また機会があれば、その時は再び協力してもらいますからね」

 

どうするかなど、決まっている。私に出来ることは、ただ1つ、彼女への贖罪だ。彼女が求めるならば全て差し出し、彼女を守るためなら何でもしよう。何かのきっかけで記憶が戻ってしまえば、彼女はすみれを殺そうとするだろう。それはそれで構わない。しかし、全てを無くした彼女はその後、どう生きるのだ? 自分だけ殺されて楽になるのは簡単だ。しかし、それでは贖罪の意味はない。この秘密は、墓場まで持って行く。苦しむのは、自分1人で十分だ。忌まわしい口は封じ、これからは贖罪のためだけに、魔法少女『按怒露芽蛇墨恋』は生きるのだ。

 

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