魔法少女育成計画GoldRush   作:赤葉忍

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ガールズトークinトイレ

♢フラッシュあかり

 

 とある廃校の三階にある女子トイレ、入り口から数えて三番目の個室のドアを三回ノックして声をかけると、トイレの花子さんが姿を現すという怪談話は、この辺りに住む者なら誰でも知っていると言っても過言ではないほど有名である。そして、魔法少女「フラッシュあかり」は夜の町の中を一人、その廃校に向かい駆けていた。その手には、変身する前に立ち寄ったコンビニのビニール袋がしっかりと握られている。

 

 割れたまま放置されている窓から簡単に中に侵入したあかりは、早速目的地である三階の女子トイレへと向かった。かなり前に廃校となってから放置されているこの学校に電気が通っているはずもなく、雲で月明かりさえ届かない今日は特に暗い。あかりの右目に付けられたレンズがキュルキュルと音を立てて回り始め、自然と目に入る光量を調節する。それにより、あかりはこの暗闇の中でも視界を確保することが可能となった。

 

 誰も居ない暗い廊下に、あかりの足音だけが響く。もしこの場に誰か別の人物がいれば、右足と左足で足音が違うことに気付くはずだ。それもそのはず、チェックのシャツにダボダボのオーバーオールという比較的露出が抑えめな格好のあかりだが、唯一露出している手足と顔、その右半分が金属的な冷たい光を帯びている。本人も何故こうなったかはよく分からないが、フラッシュあかりは右半身が機械で出来ている魔法少女なのだ。

 

 ダラダラと歩みを進めていたあかりは、ようやく目的の女子トイレに到着する。入り口から数えて三番目のドアを怪談通りに三回ノックし、あかりは中に居るであろう“彼女”に対し声をかける。

 

「はーなっこさーん! あーそびーましょー!!」

 

 すると、カタッと鍵を外す音が聞こえ、あかりの目の前でゆっくりとそのドアが開かれる。そして、その中から、大抵の人が思い浮かべるような白いワイシャツに赤いスカート、おかっぱ頭という特徴を持ちつつも、顔だけは異様に美少女な『トイレの花子さん』が姿を現した。

 

 しかし、その整った顔も、ドアの前でニコニコと満面の笑みを浮かべるあかりを見た瞬間、険しく歪められる。

 

「来ちゃった♡」

 

「帰れ」

 

 バチン☆と音が鳴りそうなウインクと共に事後報告で来訪を知らせたあかりに対し、心底嫌そうにそう吐き捨てた彼女は、あかりと同じ魔法少女の「W.C.花子」である。花子はそのまま無言でドアを閉めようとしたので、あかりは慌てて持ってきたビニール袋を掲げてみせた。花子はちらりとそれを見てから、ぼそっとあかりにこう尋ねた。

 

「⋯⋯中身は?」

 

「ビールと煙草。アンタ、この前ほしがってたでしょ?」

 

 すると、花子は大きくため息をつき、閉めかけていたドアから手を放す。それを了承と捉えたあかりは靴を脱ぐと、「おじゃましまーす」と言って花子のアジトと化している女子トイレの中へと足を踏み入れた。

 

 その瞬間、足の裏に感じる畳の感触。居住性を求めた花子の手により、床には一面に畳が敷き詰められていた。また、スペース確保のため三つ並んだトイレを隔てる壁は破壊され、横長のそこそこ広い、それこそ人一人が十分寝転べるくらいのスペースが広がっている。ボロボロだった壁には花柄の壁紙が貼られており大変キュートだ。三カ所に置かれたピカピカに磨き上げられた便器にさえ目を瞑れば、いたって普通の居住空間である。

 

 あかりは既に何度かここを訪れたことがあるが、いつ見てもこの光景は面白い。以前、花子に何故トイレに住んでいるのか尋ねたことがあった。その時花子は、「トイレの花子さんがトイレにいるのは当然だろう?」とまるで疑問を抱いたこちらの方がおかしいとでも言いたげな様子で答えたのだった。あかりが花子に頻繁に絡むようになったのはこの時からである。

 

 基本的に、花子は自分の住処であるトイレに人を招くことを好まない。しかし、一度招いてしまえば丁寧にもてなしてくれるのが花子のいいところである。今も、あかりと二人で飲むべくカラーボックスで即席のテーブルを作ってくれている。そのテーブルの上にあかりが持ってきた缶ビールを置いたところで、二人はお互いにあぐらをかいて畳の上に座り、乾杯の合図のかわりにプルタブを引き抜き、プシュッと音を立ててからお互い同時に缶に口をつける。

 

 あかりは一息で一気に缶ビールを飲み干し、「プハー!」とおっさんみたいな声を出してから、空になった缶を即席テーブルの上に置いた。

 

「いや~、やっぱり魔法少女に変身して飲むお酒は最高だね!!」

 

「私としては、少しは酔いたい気持ちもあるのだがな。まあ、お前の気持ちも分からないでもない」

 

 魔法少女の身体で酒を飲んでも酔うことはない。しかし、健康面を気にすることなく思いっきり飲めるということから、あかりはよく魔法少女の姿で酒を飲んでいた。

 

 二人は、買ってきたビールが全てなくなるまで豪快に飲み続け、その後はお互いに好みのメーカーの煙草の煙をくゆらせつつ、近況などを語りあうことにした。所謂女子トークという奴だ。

 

「お前、最近仕事の方は上手くいっているのか?」

 

「あ、それ聞いちゃう? 聞いちゃうか~。うん、正直言ってクソだわ。ホント、何考えてんだよって話だよ広報部門の上層部の連中はさぁ~!!」

 

 話しているうちに日頃の苛立ちを思い出し、つい空になった缶を叩きつぶしてしまった。その反動で僅かに残っていた中のビールが飛び出し、花子は一瞬顔をしかめたが、あかりはそのことには気付かず愚痴り始める。

 

「だいたいさぁ~、何であいつらはアニメばっかりに力入れてるわけ!? そりゃあアニメは華やかだし若者受けもしやすいっていうのはわかるよ? でもさ、雑誌とか新聞も広報の一種じゃん!! それなのに上層部の連中は私の担当している広報紙を来月には打ち切りにするとか言い出したんだよ!? ありえなくない!?」

 

「まあ、確かにお前の怒りも一理あるな」

 

「でっしょ~!? でも、最近あまり良いネタ書けてなかった自覚もあったから、強気で反論すること出来なかったんだよねぇ。はぁ、ごめんよサンちゃん。私がダメな上司なばっかりに、君を無職にさせちゃうよぉ⋯⋯」

 

 そう言って、今度は机に突っ伏してどんよりと落ち込むあかり。魔法少女は酔わないはずなのだが、先程からテンションの差が激しい。雰囲気だけで酔ってしまったのかもしれない。

 

「サンちゃん⋯⋯確か、お前と一緒に広報紙を作っている変わり者の魔法少女だったな。今日は一緒に来ていないのか?」

 

 花子はそう言ってあかりの肩辺りを見つめてくる。しかし、あかりの相棒である魔法少女、「サンベリーナ」は今日はそこにはいない。サンベリーナの魔法は『とっても小さくなれるよ』という魔法で、あかりが取材する時などはいつもその魔法で自分の身体を小さくしてあかりの肩に乗ったりしているのだが、サンベリーナとあかりはあくまで仕事上のパートナー。プライベートでの友人である花子に会わせようとするつもりはなかったので、今日は事務所に一人残してきていた。

 

「いいや、サンちゃんは置いてきたよ。花子ちゃんには二人っきりで会いたいしね」

 

 あかりがそう言うと、花子は「⋯⋯ふん」と鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまう。しかし、あかりの高性能な右目は、花子の耳が若干赤みを帯びているのを感知していた。とりあえず、貴重な照れ花子の画像を脳内フォルダにしっかり保存しておく。

 

 ちなみに、これは決して比喩で言っているわけではない。あかりの魔法は、『思い出の写真を残せるよ』というモノで、一度見た光景を映像として脳内に保存、またその映像をいつでも写真や動画として取り出せる力を持つ。この花子の写真は、後で現像してからかいの材料にでも使うことにしよう。

 

「あいつはどうだ? クラムベリー。魔王塾出身者の中でもアイツはかなりの出世株だ。あいつのことを記事にすれば反応はいいと思うが」

 

 花子の写真を保存したことで上機嫌だったあかりは、花子がクラムベリーの名前を出したことで一気に不機嫌になった。

 

 森の音楽家クラムベリー。魔王塾出身者で彼女の名前を知らない者はいないだろう。なんせ、今まで誰も成し遂げることのなかった、『魔王に一撃入れる』という条件をクリアして魔王塾を卒業した魔法少女だ。しかも、卒業後は試験官として優秀な魔法少女を多数産み出しているらしい。

 

 しかし、あかりはそんなクラムベリーのことが大嫌いであった。そこに、同じ魔王塾出身者故の嫉妬があることも確かだが、それ以上にあかりにはクラムベリーのことを受け付けられない理由があった。

 

「⋯⋯アイツはダメだよ、花子ちゃん。皆アイツのこと凄い魔法少女だって言ってるけれどさ、私はそうは思わない。アイツが強い魔法少女だってことは認めるよ? でも、アイツはなんか、こう⋯⋯上手く言えないけれど、気持ち悪いんだ。関わるとろくなことにならない気がする」

 

 あかりは割と真剣に言ったつもりであったが、どうも花子はまともに受け取ってはいないようだった。そればかりか、ここにきて花子は初めてその顔にこちらをからかうような笑みを浮かべる。

 

「そんなことを言ってお前、本当は二つ名がクラムベリーに似ていることを気にしているだけなのではないか? なあ、『鋼鉄の写真家』フラッシュあかり?」

 

「そんなこと言ったらアンタなんか『水戦死姫(すいせんしき)』じゃんか!!」

 

「ああ、格好いいだろ?」

 

「は?」

 

「は?」

 

 ここに来て何故か魔王塾時代の二つ名が原因で喧嘩が始まりそうになったが、花子はスッポンを、あかりは右手の掌を相手に向けたところで花子の持つ魔法の端末にメールが届き、何とか殴り合いに発展することはなかった。

 

 しかし、届いたメールを見た花子は、ぴくっと眉を動かし、「ほう⋯⋯?」と興味深そうな声を漏らす。

 

「なあ、もしかしたら良いネタが確保できるかもしれんぞ?」

 

「え、何? そのメールそんな面白いこと書かれてたの?」

 

 花子の言葉に食いついたあかりは、メールの文面を見るべく花子の隣へと移動する。そーっと顔を近づけるあかりの頭を、花子が強引に自分の方へと引き寄せ、その力強さに思わずドキッとしてしまうあかり。しかし、当の本人は全く気にする様子もなく、淡々とメールの内容をあかりに話す。

 

「以前一度依頼を受けたことがある、ブルジョワ―ヌⅢ世という大富豪魔法少女からの屋敷警備の依頼だ。なんでも、怪盗魔法少女集団『キティ・ギル』が犯行予告を出してきたそうでそいつらを確実に捕まえるために私含め数人のフリーランスの魔法少女の腕を借りたいそうだ。⋯⋯どうだ? 良いネタになりそうだと思わないか?」

 

 花子の問いかけに、興奮気味に頷き返すあかり。ブルジョワ―ヌ三世の名前はあかりも知っていた。『お金をたくさん出せるよ』という変わった魔法の持ち主で、彼女の資金提供は魔法の国の収入元の大きな割合を占めているともっぱらの噂だ。

 

 そんな彼女の元に出された怪盗予告。これは間違いなく面白いネタになる。このネタを持って行けば、上層部も打ち切りを撤回してくれるかもしれない。

 

 取材のための道具は身体一つで十分だ。あかりは花子と同行して屋敷に行くことを決意し、事務所に一人残っている相棒にそのことを連絡することにしたのであった。

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