魔法少女育成計画GoldRush   作:赤葉忍

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安全運転は大事

♢レイニー・ブルー

 

 すっかりクレラの虜となってしまったサンベリーナから情報を聞き出し、レイニー達の次なる目的地はブルジョワ―ヌⅢ世の屋敷に決まった。しかし、クレラが出発前に身支度のために三時間も無駄に時間を使ったせいで、サンベリーナから情報を聞いた時はまだ真夜中だったというのに、既に日が昇り始めている。

 

 魔法少女はあまり目立つモノではないため、こういった移動をするなら深夜が基本だ。レイニーがクレラにどうやって屋敷まで行くのかと尋ねると、クレラは当然のようにこう答えたのだった。

 

「戯け。吾ほどの魔法少女となれば、専属の運転手くらいちゃんといるものだ。既に連絡は済ませてあるから、もうすぐやってくるだろう」

 

 そうだ、このプライドの高い上司が自分の足で動くようなことをするはずがなかった。サンベリーナは目を輝かせて「専属の運転手がいるなんて凄いです!」などと言っているが、レイニーは特に驚くこともなくこの事実を受け止められた。

 

 レイニー達に同行すると言い出したサンベリーナも含め、三人でその運転手が来るのを待つこと数分。視界の端に無駄に車体の長いいかにも高級そうな車を捕らえ、レイニーはそれが自分たちの乗る車ではないことを祈った。しかし、無情にもその車はレイニー達の前で止まり、運転席からピッチリとしたレーサー服に身を包んだ魔法少女が姿を現した。

その魔法少女は、クレラに対して恭しく一礼した後、レイニーの方を見てにっこりと微笑み、握手を求めてきた。

 

「お、貴女が噂の新人さんっすね。はじめまして、自分クレラ様の専属運転手をしているハンドルピースっていう者っす。今後ともよろしくどうぞ~!」

 

「ど、どうもよろしく⋯⋯」

 

 レイニーは、ハンドルピースのテンションの高さに若干圧倒されつつもその手を握り返した。クレラと同様、こちらもあまりレイニーの得意ではないタイプの人種だ。またしてもこの職場で働いていけるか不安になったレイニーに、クレラが何故か得意げにハンドルピースの紹介をし始める。

 

「ピースは吾の運転手を5年も務めているベテランだ。『安全快適なドライブができるよ』という非常に美しい魔法のおかげで、ピースの運転する乗り物に乗っている間は決して事故に遭うことはない上に、渋滞にひっかかることもない。しかも、毎回吾の指定した時間ちょうどにやってくる、美しい心構えの持ち主でもある。レイニー、君も彼女を見習って精進したまえ」

 

 確かにハンドルピースの魔法が便利なことは分かるが、それをクレラが得意げに語る理由は分からないし、彼女を見習おうとは思えない。こんな厄介な人と5年も付き合える時点でこの人も十分変人であることは確実だ。

 

 クレラを先頭に全員車に乗ったところで、ハンドルピースがエンジンをかける。レイニーが予想以上に座り心地の良い座席に感動している間に、車は魔法の国のゲートをくぐり抜け、人間界へと移動していた。

 

「さて、目的地まで少し時間もあることだ。一応今回の仕事内容のおさらいといこうではないか」

 

 後部座席は長いソファが側面に二つ並べられた形式となっている。レイニーの真正面に腰掛けたクレラは、その長い足を組みレイニーに話しかけてきた。あまりクレラとは話したくはなかったが、まだ書類の中身を確認出来ていないレイニーは渋々頷く。ちなみに、サンベリーナは魔法で小さくなってモフモフ触感の座席に埋もれていた。正直羨ましい。

 

「今回の吾々の任務の一つ、『キティ・ギル』の確保は正直容易い。一人だけ厄介な魔法の

持ち主がいるが、吾の美しさの前では無力であろう。真に厄介なのは此奴らが逃がした囚人だ。『賽ノ目チロリ』。この名前に聞き覚えはあるか?」

 

 全く聞き覚えのなかったレイニーは、素直に首を横に振る。すると、クレラは呆れたように「君は本当に無知だな」とため息をついた。

 

「賽ノ目チロリと言えば、魔法の国最悪の事件とまで呼ばれたあの魔法少女大量無差別殺人事件の犯人ではないか。小さな姫君、君ならこの事件についても詳しいのではないか?」

 

 突然話を振られたサンベリーナは、慌てて元のサイズに戻り、レイニーのすぐ隣に腰掛けてきた。その後もあたふたと何やら腰に提げたバックの中身を探っていたサンベリーナであったが、不意に「あった!」と叫び、バックの大きさを超えるサイズの書類を取り出した。物理法則を無視したその現象に、レイニーは目を丸くする。

 

「え、ちょ、今のどっから出したんですか?」

 

「えへへ。私の魔法で小さくなる時身につけていたり持ってたりしたモノは一緒に小さくなるんですよ。それを利用してこういった書類はいつも持ち歩いているんです。えーっと、ああ、これですねこれ! 『史上最悪の大量殺人事件』! ちゃんとありましたよ!」

 

 そう言ってサンベリーナが開いた書類を、レイニーは横からのぞき込む。その書類には、賽ノ目チロリが起こした事件についてこのようなことが書かれていた。

 

──『魔法の国史上最悪の事件は何か。もし、死傷者の数が最も多かった事件を史上最悪な事件と定義するならば、それは魔法少女賽ノ目チロリが起こした無差別殺人事件だろう。この事件の犠牲者の数は、なんと200名にも及ぶ。しかも、驚くべきことにその全員が魔法少女であった。魔王パムなどの出動によって何とか身柄を確保した賽ノ目チロリは、その凶悪さから監獄行きが決まった数少ない例の一人でもある⋯⋯』

 

 と、レイニーがそこまで読んだところで、ぬっとクレラの顔が目の前に現れ、驚いたレイニーは思わずビクッと肩を震わせた。

 

「突然の事態にも冷静であれ、レイニー・ブルー。いちいち驚いているようでは美しくない」

 

 自分で驚かせておいてよく言う⋯⋯とレイニーは恨めしげな視線を向けるが、クレラは全く気にすることなく、サンベリーナの書類をかっさらいその文面を眺め始めた。

 

「ふむ⋯⋯。流石によく調べてあるな。だが、一つ大事なことを書き忘れているぞ? 賽ノ目チロリの捕獲、そのメンバーにはこの吾も加わっていた。記事の内容を美しくしたければ書き足すことを強く薦める」

 

「え、ええーー!? ほ、本当ですかクレラ様ぁぁ!!?」

 

 心底驚いたようで、目をまん丸にして叫び声を上げるサンベリーナ。そんな彼女の反応が心地よかったのか、クレラは得意げに胸を張って武勇伝を語り出した。

 

「ああ、本当である!! 事実、吾が居なければ奴を捕らえることは不可能であったといっても⋯⋯過言ではないこともない!!」

 

「ひょ、ひょええええ!! す、凄すぎますぅぅぅ!!」

 

 サンベリーナは素直にクレラを讃えているが、レイニーは正直この上司の言葉はいまいち信用出来なかった。賽ノ目チロリの捕獲に関わったという点は本当かもしれないが、その際活躍したかどうかは微妙なところなのではないか。

 

そんな疑念を持っていたレイニーは、クレラがぼそっとこう付け足したのをこのときはさほど気にとめることはなかったのであった。

 

「しかし、奴とまた逢うことになろうとはな。正直、奴には二度と逢いたくはないと願ったものだが⋯⋯」

 

♢クレラ

 

 クレラの脳裏に蘇るのは、昔腕に自信のある魔法少女勢揃いであの凶悪な殺人犯をなんとか捕らえた時のことだ。その時はあくまでも戦闘の補助のみを担当していたクレラであったが、偶然にも捕らえた直後の彼女と会話する機会があった。その時、クレラは何故このような美しくない行いをしたか、賽ノ目チロリに尋ねた。すると、チロリはカラカラと笑いながら、当然のようにこう答えたのであった。

 

「なんとなく、魔法少女を殺したら愉しいかな~って、そう思っただけです。それだけですよ。他に特に理由はありません」

 

 この時、クレラはこの魔法少女だけは決して世に放ってはならない存在だと確信したのだった。そんな魔法少女が、今回再び自由の身となった。このまま奴を放っておけば、美しくない光景が量産されるであろうことはたやすく想像できる。美しい魔法少女の代表であるクレラは、奴を必ず止めなければならない。クレラは笑顔の奥でひっそりと使命感に燃えていたのであった。

 

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