理不尽とは。
それは落下先の感圧版であったり、振り向いた瞬間のクリーパーだったり。 或いはスケルトンに射抜かれた先のマグマダイブである。
総じて身構え無き衝撃だ。 してやられた苦痛だ。 溶岩ポチャの全ロストは、どう足掻いても絶望でしかなかった。
事今に至っては、鉄棒の先から見えない矢だか弾が飛び交っている。 そのツールの性能は底が知れない。しかも数頼み。 それを実力として振舞う荒らし。 その嘲笑ほど憎悪出来るものはない。 不愉快だ。 軽蔑すらある。
「あはは! ヘイローも銃もねぇ癖に、逃げねぇ根性だけは認めてやるよぉ!」
「そう言って、撃つのは私たちだけですか」
「あ、当たり前だろ! ヘイローも無い奴を撃ったら死んじまうだろうが!?」
「なら さっさと止めてくれない? でないと、君達もヘイローの保証は出来ないよ」
「そうだよぉ。 こんな酷い事、もうやめよう? この人達はアビドスを守ろうとしてるだけなんだよ?」
「うっせー! 今更なんだよ! 私らの縄張りまで綺麗にしてくれやがってよぉ!」
「いいことなのにぃ」
「そっか、あとはお前ら不良を掃除すれば良いみたいだね」
狼がスケルトンを襲うが如し。 或いは狐と鶏。
荒らしはクラフターそっちの気で、此方側の村人とハァン合唱開始。 並行して甲高い音と閃光が瞬き合った。
クラフターは突然の蚊帳の外なのを良い事に、マジマジと観察し始める。
初めて見る事象やアイテムは大抵そうだ。 注意するに越した事はない。 特に鉄棒。 この世界では身近なツールらしいが未知の領域にある。 それを扱う村人もだ。 街を品評したように、各々評価を始めてみる。
「───邪魔だよ」
「くッ!?」
ピンク頭のチビは随分と強い。
俊足だし状況判断が早い。
というかこの個体しか戦っていない。 にも関わらず何人も倒している。 倒す、といっても死なずに転がすだけにしか見えないが、今はさておく。
「ホシノちゃん! や、やり過ぎないでね?」
緑頭の牛乳村人は、鉄棒を所持していない。 代わりに盾を構えた。 見るからに重厚だ。 耐久値が気になる。 なんなら欲しい。
現に試験でもしてるのか、耐えるに徹する姿勢ばかり。 どうも庇護欲に駆られる。 或いは狩り衝動が疼く。 誘ってるとしか思えない。
ふと思った。 これは演技ではと。 或いは俗世のコミュニケーションツールかも知れない。 互いに生かす暴力。 我々で云う殴り合いの戯れ合い。 随分と進んだ世界に来たものだ。
「甘いですよ。 ある程度は分からせるべきです。 でないと、またやって来ます」
だとしても、そんな物騒を認める事は出来ないから、クラフターは目をやった。
アイテムスロットに剣と弓矢、盾、ツルハシとスコップ、あと各々必要そうなものを揃える。 インベントリにあるダイヤ防具を次々着込む。
もう良い。 観察は十分だ。
流れ弾に当たると凄く痛いし、撃ち合いが長引くと建物も傷付く。 窓ガラスなんて何枚も割れた。 割れる音も甲高い音に掻き消されて、誰も気に留めない。
所詮は荒らし。 砂塵以下。 反省の色を期待するだけ損。 度し難い概念だ。 生かしちゃおけない。
荒らし死すべし慈悲は無い。
「な、なんだ?」
「アイツら、鎧と剣を!?」
「舐めやがって! 銃に勝てるかよ!」
勝算はある。
あの鉄棒は得体が知れないが、射線に入らなければ良いみたいだし、その点踏まえれば正面を避ければ良い。
狙うは側面か背面。 上下左右。 意外と何とかなる気がする。
「剣に盾!? ちょっ、そんな騎士みたいな格好で勝つ気? そんな装備で大丈夫な訳ないでしょう!?」
「でも青白く輝いてるよ。 不思議なツルハシとスコップもある! 何故か釣竿の人もいるよ! きっと1番良い装備なんだよ!」
「安心する要素どこです!? ここで死ぬ定めなんですか連中? ふざけられたら庇い切れませんからね!?」
フルエンチャントだ。 対する相手は、顔を覆うヘルメットくらいだ。 間合いに飛び込んで一太刀浴びせれば殺れると踏む。
クラフターは走る。 蛇行して接近。 スケルトン戦を参考にした。
「突っ込んでくるぞ!?」
「う、撃てッ!」
「でもヘイローがないんじゃ……!」
妙な事に、荒らしは混乱し始めた。
急に狙いは甘くなるわ、関係ない方向に攻撃するわ、瞬く閃光が減少して雑になる。 多少擦る程度だ。 最初の威勢は何処へ消えたのか。
たぶん接近戦を挑まれるとは思わなかったのだ。 いよいよスケルトンに近い。 その癖、間合いを取ろうとするのが遅い。
「くるな! くるなって!」
「死ぬのが怖くないのか!?」
「コイツら狂ってやがる!」
やがて踏み込んだ。 1人。 2人。 脳天から斬撃を浴びせる。
すると不思議な事が起きたから、再び観察する事になる。
「ふぎゃっ!?」
「き、斬られたぁ! 斬られたぁ!?」
ノックバックで吹き飛ぶと、そのまま地面に転がって痙攣。 喚くばかり。
元の世界だったら、アイテムと経験値を残して粉塵と解すから新鮮だった。
とはいえ、荒らしは荒らし。 敵である。 改めて排除しようと近寄り、剣を、ツルハシを、スコップを振り下ろす。
「ま、待て! 私らが悪かっ、ゴフッ!?」
「ふぎゃああ!!?」
「だ、だめだ……言葉通じねぇよ!?」
駄目だ。 刃が通らない。
戦意こそ消失して鉄棒をドロップしているものの、殺せないのでは経験値が入らない。
まぁ良いや。 コウモリよりマシ。
「く、くそっ! 覚えてろよー!」
見下ろして、つらつら思ってる間に、動ける荒らしが連れ去っていく。
クラフターは評価を改めた。 荒らしの癖に仲間意識があると。 それでも破壊行為でマイナスだが。
「……無茶しますね。 当たりどころが悪かったら即死してますよ」
「きっと、そうやって生きてきたんだよ」
さてもおしむらくは、と周囲を見やった。
ガラスを張り直さねば。 そして、手元を見る。 その後はドロップした鉄棒で遊ばねば。
サドル同様にレシピが不明だが、日常に溢れている。 その気になれば幾らでも手に入るだろうと思った。
クラフター(臨戦FD)
相手の覚悟次第でリスポーンしてた可能性。