意図せず『ウッカリNTRモドキ現象』を引き起こした狂頭のクラフターは、狂気の空の下、漸く事の事態に気付いて……焦りを見せた。
先ず、いつまでにマフラーを返すかだが、彼女が高校生の間にと決めている。
基本的に落とし物は早期に届けられるべきである。 逆に成熟期間が長いほど因果と感謝のコクが増す。
クラフターの見立てでは、今のところエメラルド3個分ってところだ。
だが同時に欲張って延長戦はイケない。 ヘイロー浮かぶキヴォトス人が卒業するとどうなるか分からないし、期間が長い程、予期せぬ個別・サークルイベントが発生して、全てが台無しになるリスクも膨れ上がっていく。
早い話、落し主のクロコが事故で死ぬか「もうどうなっても良いや」と人生を諦観したら全てパァである。
……あの手癖ワルワル狼が。 いつか骨で懐柔してペットにしてやろうとも思った子が、大切に恩の積み立てをしてきた子が、そんな目に遭って消えるだなんて。 考えただけで恐怖で竦む。
駄目だ。 耐えられない。 そんな終わり方をされたら己の存在意義を失う。
そうでなくても、シロコ*テラーという色彩や無名の司祭に関与しながら、人間の姿を維持している貴重個体だ。 殺されようものなら発狂だ。 勢いのまま色彩……黒い太陽に吶喊して、素材を取り漁って補填を図ろうとするだろう。
最近は行く先々に希望の兆しがある。
赤い空の隙間から青空と、差込む光が増えた。
黒々太陽も縮小している。 どういう風の吹き回しかは知らないが都合が良い。 邪魔は要らない。
今も道中手に入れた素材は全て、魑魅魍魎に対する自己防衛に使用しているが、最近は金リンゴで村人に戻る事が分かってきた。
あまりにも侵食が激しい個体には効果がないが、今後は移動だけでなく興味深い現象を見て回れそうだ。
「私たちはクラフター1人に戦わせろと先生に学んだか!?」
「1人に格好つけさせるな! 何の為の銃だ!」
「キヴォトスを奪い返せ!」
「あのマインクラフターに続けえええ!!」
そんな道草を食うクラフターに村人達は感化され、真似るように銃やツルハシを手に取り活性化していくのが不思議に思えるが、クロコに至高の返却体験をプレゼントする為だと思えば全く苦ではないし、寧ろ先生が果たせなかったタスクの1つをこなせたと思うと、優越感に浸る悦びで顔がニッチャリしてしまうのだった……。
「───一部ではありましたが、儀式を通じて色彩と接触した際に、私が本当に求めているものを悟ったのです」
ゲマトリアの会議にて。
4人中、先生ラブ勢3、反対1の中で進められてきたが、反対のマダムことベアトリーチェは、アリウスでクラフターに屈辱を味わわされ、理性を失い、狂気に堕ちてしまっていた。
「為すべきこと……それは、くだらない実験や追求ではない。 そう偉大なる存在になる為には───世界の滅亡と創世の権限を所有しなくては……そう『破壊』し『創造』する絶対者になるのです。 これが唯一の方策。 解釈されず、理解されず、疎通されず、ただ到来するだけの不吉な光。 目的も疎通もできない不可解な概念。 そう、それこそが、あの先生とマインクラフター共を消し去る方法ッ!」
探究もなく、ただ意味なき破滅を望む彼女に、他3人は呆れる他ない。
また、奇しくも主張にある破壊と創造は、色彩に触れて変貌した狼と、彼女が嫌うマインクラフターにあるものだ。 それで色彩と戦っているから皮肉である。
「何という体たらく。 理性を失ったかベアトリーチェ」
「そうですかマダム。 あなたはマインクラフターへの憎悪に飲み込まれてしまったのですね。 とても残念です。 ゲマトリアは探究者であり、求道者。 狂気こそ我々が打破すべき宿敵なのですが……ベアトリーチェ、あなたはゲマトリアの資格を失いました」
「口を慎みなさい。 私には色彩の力が宿っているのですよ? あなた方があれほど恐れていた、狂気の力が……」
「そのようですね。 ゴルゴンダ、彼女を送り届けてください」
「はい。 楽しい時間でしたよ、マダム」
「ッ、くっ、ぐあぁぁああ!?」
額縁を抱えるゴルゴンダが何をしたか、逆に何をされたかも分からず、マダムは突如開いた虚無空間へと吸い込まれていった。
「ふむ、ヘイロー爆弾より確実なようですね。 ええ神秘は解明できないからこそ神秘ですが、彼女は分かりやすい存在ですので」
「あああああっ!!!」
「我々が色彩への対抗手段が無いと思っていたのですか? あなたが色彩と接触したと聞いた時から準備しておりましたよ」
「そういうこったぁ!!」
「貴下とは異なる世界観を持っているが故に、何かと衝突が多かったな。 だが貴下の野望には敬意を示そうベアトリーチェ」
「───────!!」
やがて穴は閉じ、何事も無かったように元の静謐で秩序ある空間が再構築される。
「残念です。 神たらんと声をあげるエキストラは、いずれこうなる運命にあることを知らなかったのでしょうか? 嗚呼、彼女に詩歌への造詣があったのなら……」
「狂気に染まった彼女が、果たしてどのような怪物へと変貌を遂げるのか気にはなっていたが、このままでは更なる厄災に転じていただろう」
「また席が空いてしまいましたね。 次の人員については後ほど議論するといたしましょう。 それでは次の議題を───」
そして相入れぬ者の消失にも関わらず、淡々と探求心は続いていく。
それもまた、マインクラフターに通じるものがあるから、繋がりとは妙なものだ。
「闇市の裏ボス、ヒフミ様が来たぞ!」
「道を開けろ! 裏地主のお通りだ!」
「あはは……なんでこうなったんでしょうか」
ブラックマーケットは、ヒフミの案を受け入れたクラフターが魔改造した事でペロロファンの聖地と化していた。
挙句、ペロロガスキーのヒフミは、どこをどうしてか同地のボスの座に登り詰め、今や不良や商人達に好き勝手に崇められていたのだった。
「さすがヒフミ。 ペロロの為のペロロによる土地を築き上げるとは。 友に持てたこと、誇りに思う」
「嘘でしょ……知らない間に王様になっていただなんて聞いてないわよ!」
「あらあら〜。 ファンシーグッズのファンがここまで支配するなんて驚きです。 そうして来る者全ての■■■を■■させるのですね!」
「私もこんな事になるなんて予想外です!?」
などとヒフミは言う。
もう普通の学生じゃなくなっちゃったね♡
因みに元々いた不良や商人は環境に適応したか、異様な光景から追い出されるように地下へ潜るか他所へ行く羽目となっている。
「まぁ、権力闘争や悪意が渦巻く毒蛇の巣窟よりは健全です♡」
「……ハナコ?」
「『赦しと慈悲を知らない私たちであったとしても、いつか報われる日が来るのでしょうか?』」
「それは私にも分からない。 だが、例えどのような結末が待っていようと……」
「『努力しなければならない』でしょ!」
けれど補習授業部の面々の絆は変わらない。
それは未曾有の事態においても、きっと。
マインクラフターはこうした絆に興味はない。
だけど意図せず紡ぎ出した笑顔は数知れない。
この先も作り続けるだろう。
例え、破滅を齎す厄災が訪れたとしても……。