「今観測されたエネルギーは色彩だと?」
「現状はまだ分かりません。 しかし間も無く明かされる事でしょう。 カイザーが独断で動いてしまったので、把握には少々お時間をいただくと思いますが」
マダム退席のゲマトリア会議にて。
キヴォトスに現れた謎のエネルギーについての議論が行われている。 司会は黒服で進んでいた。
「本来、不可思議は私の興味の対象ではありません。 ですが箱舟まで観測された今、話は変わります」
「アビドス砂漠地下のオーパーツは、クラフターかカイザーの手に渡ってしまっても良いのでしょうか?」
「そちらは心配しなくて良いでしょう。 プレジデントはアレを制御出来ないかと。 そしてそれが箱舟ではない以上、興味の対象から外れました。 我々は我々の計画を進めましょう」
何を話しているのか、何を知っているのか不明なゲマトリアだが、興味のある事への探究心で動いているというのは薄々伝播する。
それは皮肉にもマインクラフターに通じる原理だ。 尋ねれば認めるだろう。 それはそれとして我が道を往くだろうが。 その精神もまたクラフターと同類か。
「忍び寄ってくる色彩、復活目前の無名の司祭、どちらにせよ備えておかねばなりません」
「キヴォトス中の神秘が消えるのですね」
「……明滅も私達の探究であったとしましょう」
そして対象が失われる事への失意も。
こうすると、その理念が故に先生や生徒と敵対するにも関わらず、憎みきれない組織でもあろう。
マインクラフターも法や秩序を乱すが故に嫌われ者だが、行政の至らなさを埋める事もあるし、有事の際は役に立つ。 見返りも求めるのもやはり似ている節がある。
住む世界が違えど、意外と変わらない人たちなのかも知れなかった。
「……ん?」
刹那、会議場の空間が再び裂かれた。
中から出てきたのはマダムではなく───。
「成程。 死神アヌビス、ですか」
黒いハイヒールに黒いドレスを纏う美女。
シロコ*テラーだった。
「……んっ」
彼女は周囲を見て、ベイクドポテトを食べ。
取り敢えず辞儀……会釈……ッ!
奇しくも、それもクラフターと同様の所作!
薫陶……涵養……マイクラ式無意識英才教育!
時間を渡る長旅の中、先々のクラフターに感化された彼女は、能力も動作も創造主寄りになってしまっていた!
「刺客が来たか。 送られたというべきか」
「主は無名の神々か。 いやこの動き、我々も良く知っている"作り手"の動き。 まさか死神は今や……」
誰かは言った。 ペットは飼主に似ると。
根拠は無いが、こうして実例があると……。
「……業が深いですねぇ」
刹那、乱入者は閃光を闇人へ浴びせる。
死なき者に死を与えるその能力と、クラフターが絡んだ因果律によりチート装備を纏う彼女に、ゲマトリアはなすすべなく瓦解する他なし。
クラフターは後に報告を聞いて我思う。
エンダーマンの癖に被弾するとは情けない!
所詮は服を纏うエンダーモドキ。
ワープ回避も中途半端だったか……と。
ツルハシと松明片手に掘り進めば、ボコッと白服の地下通信センターへ躍り出た。 満足だ。 後続を中に入れて壁を塞ぐ。
「うおっ!? って、先生!?」
「SRTとクラフターも! 何故壁の中から?」
「やぁモモカにアユム。 色々事情があってね。 地上は激しい戦闘でマトモに通れなかったから、クラフターに頼んで地下を掘り進んで来たんだ」
「ま、まぁクラフターの能力を使えるなら使うよね。 私のサボりスキルの通風口ルートが霞んで見えるよ」
「モモカちゃん……」
「ほう、それは後で詳しくお聞かせを」
「げっ、先輩!?」
「リン先輩! ご無事で何よりです!」
白服村人のハァン交流を他所に、クラフターは首をぐりぐりと動かした。
ここも中々良い部屋だ。 村人の硝子板が壁の様に整然としている。 薄暗いのは解せないが狭い空間を有効活用しているのはポイントが高い。
「リンちゃん!」
「誰がリンちゃんですか。 でも今はそう呼ぶのは先生しかいませんし、それも……」
「あっ、先生! リンちゃんも!」
「……もう1人いましたね」
懐かしい声に振り返る。
ユメだ。 ユメがいた。 この個体も今や白服なのだから居ても変じゃないが。
「ユメも無事だったんだね!」
「うん! ソラちゃんも無事だよ! 今はここサンクトゥムタワーの空き部屋で休んでる。 それよりこの状況だよ!」
「それを何とかする為に来たんだ。 カイザーが暴れてるから、何とかしないと」
「ううん、それだけじゃないの。 アビドスの後輩が、シロコちゃんが自転車を置いて行方不明だって!」
「なんだって?」
「ホシノちゃん達が探しに出たんだけど、まだ見つかってないの」
不安気な表情だ。
背負う盾の耐久値が減っているからか。 ならば直すか取り替えれば良い。 後で診てやろう。 クラフターの中ではキヴォトスでの鉄素材はレートが低い。
「……先生、問題が重なっていますね。 ですが先ずはカイザーを何とかしないと身動きが取れません。 何か良い方法があれば良いのですが」
「建築魔が頑張ってるが、細かいところまで任せられないからな」
「私達の携行弾薬にも限界あるしね〜」
「う、うん……もっと纏まりが欲しいな」
兎共も同様に鳴いている。
同様に診てやろう。 弾薬のクラフトならレシピを知り得ている。
「それについては時間の問題かと」
「カヤ!」「カヤちゃん!」「防衛室長!」
「味方に引き込んだクラフターの活躍もあり、大凡の兵力は封じ込めました。 先生の護衛についてもSRTが活躍したようですからね」
「その節はありがとう。 助かったよ」
「いえいえ、当然の事をしたまでです。 この余裕が出た内に行政権の行使をし、混乱する市民や暴走する生徒を慰留しなければ。 リン行政官、頼みますよ」
一方ピンク頭は……いいや。
これといった装備もない。 拳銃くらいだ。
それは白服全体に言えるのだが。
「はい、既にそのように……先生、すみません。 私が力不足なばかりに、こんな事に……」
「リンちゃんは頑張ってるよ」
「そうだよ! 私達にも頼ってね!」
「お二方……ありがとうございます」
耳長眼鏡がしおらしい中、ウーパールーパー村人がカタカタと端末を操作する。
その村人事実は全く分からない。 ミレニアムでは多く見られた動作と機械だが、まだまだ未知の技術は多い。
「よしよし、後は通信網を繋げて……声明を出しつつシステムを再起動、復旧させれば……あれ?」
「どうしましたか?」
「これは……!?」
刹那、部屋が赤く染まる。
レッドストーントーチを刺しまくっても、こうはならんやろという具合に。
「な、何!? なにこれ、キヴォトス全域にアンノン反応? ここサンクトゥムにも大きな反応が!」
「外部カメラに切り替えて下さい!」
「……ッ、赤くてデカい塔が落ちてくる!?」
中でも大きな硝子板が、喧しい警告文らしき表示で埋め尽くしている。
これまた意味するところは分からない。 壊れたのなら直そうとは思う。
「先生、これは!? またマインクラフターのやらかし、にしては雰囲気が歪です!」
刹那───時が……止まった。
否。 周囲が変化した。 先生以外が消えたのだ。
耳長眼鏡の声を最後にしたから、何かされたのかと思ったが、いつかの額縁頭が現れた事で、どうもそうではないのかなと感じた。
「漸く理解に至った」
「誰だい!?」
「先生。 あなたの力はこれ以上作用しない」
「あなたは、ゴルコンダ?」
「ゴルコンダはもういない。 私はフランシスだ。 デカルコマニーと共に、新たにお前を見守る者。 従って最後の忠告を傾聴せよ」
額縁頭が鳴き始める。
声が微妙に違う気がした。 前と違う、なんだか不気味な顔の絵を携えているから、そういうことか。
「この物語は1つのジャンルを掲げていたが故に、先生が主人公でいる事ができた。 物語であったから、あなたは無敵だった。 これはそういう物語だった。 しかし今となっては……」
額縁式ジュークボックス村人なのだ、コイツは。
正確には音楽を再生こそしないが、嵌めた額縁次第で声が変わると見た。 ならば試すべき事は決まっている。
「この物語は改変された。
脈絡、構成、ジャンル、意図、解釈。 全てが再構築され新たな創造の道を歩む。
その意味と因果は複雑に絡み合い、混ざり、撹拌され、褪せる事なく、しかし統制出来ない程に眩く輝いた。
先生よ。 これまでの物語は忘却するが良い。
貴方と創造主の登場は未来を変化させたが、これから起こる事は些細な物語にすらならないのだから。
主人公も悪役も事件も葛藤もなく、全てが分解され縫れ合い、脈絡も構成も必然性も無くなってしまった作為的に作られた世界。
そうして果ては意味を失い、無秩序な創造性が暴れ回るだけの、理解不能で不条理な世界へと。
嗚呼、そうだ。 元よりこの世界は、そのように存在していた。
我々は皆、それを忘れているだけ。
しかし始めるのだ。
物語と呼ぶに満たない、歪な創作を。
全て失い、敵対し、裏切り、覆った、絶望に沈み逝く物語を。
哀れで未熟で物語に値しない歪な創作を。
観客を冒涜し、登場人物をも侮辱する、叛乱の物語を。
……それでそろそろ。
語部をも弄るのは勘弁願いませんでしょうか?
私の頭に絵画や額縁を当てがわないでください」
駄目だ! 我々の額縁や絵画を拒否された!
実験は失敗だ!!
離合する様で仕様が違うというのか!?
我々の思う美学や知見と、村人の美術や見解が違うのではと薄々味わい深い事然り。
実際に虚偽なき啓示をされると、弁駁の余地なし。 あいやアプローチの仕方が悪いのだ。 そうに違いない。 諦めたらそこでクラフト終了ですよ。
「それは違う。 私とクラフターの行動が物語と呼ぶに相応しくない歪な創作だとしても、そんな事はどうでもいいんだ。 ジャンルなんて拘らなくていい。 宇宙戦艦や巨大ロボットが登場しても構わない。 主人公が何人いても構わないんだよ。 どんな未来であろうと私たちは乗り越えていくのだから」
「であれば、それを見守るとしよう。 先生、いや、主人公たちよ。 絶望を、破局を迎え、そうして結末へと走り出すエンディングを!」
そして時は動き出す。
仕組みは知らない。 家畜の管理やかまど焼きの稼働数調整に失敗して時空間が歪む経験は何度かしたが、自由自在に引き起こせる村人なれば脅威だ。
……勿体無いが次は殺すか?
『せ、先生……今のは……』
「アロナ、みんなに連絡をして欲しいんだ」
『あっ、はい! みんなとはつまり……?』
「みんな、にお願い」
『面識のある生徒さん全員へ連絡します! でもこの後はどうすれば……』
「ありがとうねアロナ。 今回もまた、一緒に乗り越えていけば大丈夫……クラフターさん」
先生に手帳を渡された。
共に嚮導を頼む、とある。
「ここからはシャーレ、私達の番だよ」
相分かった。
クラフターは即答の頷きを繰り返す。
役者は多い方が盛り上がる。 その末の創作物がどう酷評されようと、我々の為に行うのならば、我々が満足すればそれが正解となる。
それで世界が、キヴォトスがどうなるかなんて、二の次三の次なのだ。
ただ、やるからには全部全部、ありったけ。
後悔なきよう作(創/造)る事だ。
それは先生とユメと。
全てのマインクラフターと村人に云う事である。