この時間軸にシロコの並行同列体のクロコと因果律を媒介する狂頭が来た事で、並行世界の記憶がクラフターに雪崩れ込む。
その情景は絶望と破滅。 瓦礫と化した都市。
色彩により怪物化した人々。 滅びの運命を辿った生徒たち。 神秘が恐怖に反転。 総じて崩壊したキヴォトス。
砂漠で誰にも知られず干からびたユメ。
心を失い、大人の実験台になるホシノ。
不良に攫われ打ち捨てられたセリカ。
『そうなった』ノノミ、アヤネ。
力尽き、死を受け入れたシロコ。
魔女と化し殺戮に走るミカ。
精神と肉体が乖離するセイア。
爆弾で死を迎えるアツコ。
犯した罪に絶望するアズサ。
代理として磔にされ生贄となるサオリ。
耐えられず独り自傷したミサキ。
行方知らずとなったヒヨリ。
派閥争いに失望するハナコ。
魔王と化し世界を滅ぼすアリス。
状況の悪化に心が折れたサキ。
皆に忘れ去られたミユ。
異形と徹底抗戦の末に斃れたヒナ。
その結末を知り、発狂したペットのアコ。
他、名も知らぬ者共も絶望に呑まれていく。
そうして死ぬか、怪物化して荒らしと化した。
いずれもマインクラフターの知らぬ存ぜぬ場所で勝手に消えた存在だ。 連邦生徒会長と先生の選択ミス、或いは努力が届かなかった末路だ。
クラフターとしては思い入れはないが。
寧ろ嫌な記憶が悪目立ち。 犬の餌以下の倫理観を持つキヴォトス人共は、建物を破壊し暴力を振るい、創造物を蔑ろにしてきた。 故に滅んだ方が良いとさえ考えている。
けれどその者らが自決するか異形化すると、周囲に破滅願望が伝染するものだから食い止めねばならないと悟るのである。
ゾンビを村人に戻すように、金のリンゴを無理矢理齧らせて正常化。
或いは予防策として、松明やグロウストーンの光源で湧き潰し……色彩の怪物化の光を妨げて怪物のスポーン率を低下させ、怪物化の兆候がある者には牛乳バケツをがぶ飲みさせて中和。
厄介なのは、メンタルケアだ。
クラフターに村人の精神の癒やし方は知らぬ。
ポーションを飲ませようと、牛乳を飲ませようと、不死のトーテムを持たせようと、はたまたリスポーンさせようと心まで治せないのだ。
だから、そうした者への救済は次回以降の時間軸へ持ち越しとなった。
そう。 クロコが時間軸を跨ぐほど因果律が強くなり、その度にクラフターは無意識の内に対策をするようになる。
初期スポーンでユメと出会って救い、アビドス共々ホシノの心を救ったのも。
アリスと出会い、女体盛りのような仕打ちをして、魔王化を回避したのも。
アリウスに関与し、アリウス生に反マダム派のレジスタンスを結成させ勝利に導きアツコたちスクワッドを圧政から解放したのも。
エデン条約締結に成功させ、ミカやハナコ、ヒナとアコの心を保たせるのに貢献したのも。
SRT特殊学園を破壊して、閉校騒動を有耶無耶にしつつ、建築魔もあって必要性があると評価させて存続させ、サキやミユたちの存在意義を薄れさせなかったのも。
決して偶然なんかじゃない。
何度も何度も時空間跳躍を繰り返し、因果律と運命の果て、遂に掴み取った必然だ。
いや……ゲマトリアの言葉を借りるなら。
これは作られた、改変された物語なのである。
決して村人に情が移った訳ではない。
キヴォトスという舞台が、創造が、作品が無くなるのは許せないだけの話。
そして今。
利己的な物語は佳境の終盤を迎えつつある。
これは喜劇か悲劇か。
何にせよ、いつかは終わるもの。
それが永遠の別れとなるかは作り手次第。
クラフターはただ作る。 作り続ける。
己の赴くまま、心のままに。
もう『あの頃』に戻る必要は無い。
これが時間旅行の終着点、否。 分岐点だ。
虚妄を倒す為の主戦場は大きく6つ。
アビドス砂漠、D.U.近郊の遊園地、ミレニアム郊外の閉鎖地域、トリニティとゲヘナの境界付近、ミレニアム近郊の新しい都市、そしてD.U.の中心地点。
連邦生徒会はシャーレの名の下、ミレニアムのノアを代表に、ヴェリタスのマキらもオペレーターに指揮所を設け、それぞれに地の利のある作戦担当者を設定して派遣、状況と戦力を統括管理する。
「こちら第1サンクトゥムの作戦担当、奥空アヤネです! 第1部隊、応答願います!」
アビドス砂漠ではアヤネが担当。
空の異変でカイザーは撤退していたが、クラフターは残り続け、現れた怪物……白色の大蛇のような機械、ビナーとドンパチ始めている。
今までもアビドス砂漠では、開拓中の土地や建設中の建物がビナーに襲撃、破壊されてきた憎しみが集っている。 現れた仇を前に怒り心頭のクラフターが、野郎ぶっ殺したらぁと奮戦中。
「アヤネちゃん、こっちは相変わらずよ。 建築魔がとっくに始めてるわ」
「うんうん! 戦闘中です⭐︎」
「戦局を見極めて攻略を開始して下さい! ホシノ先輩はどうですか?」
「うん、おじさんも大丈夫。 アレが虚妄のサンクトゥムなんだね?」
「はい。 そしてビナーを引き付けなければ、アレを破壊する事ができません」
「囮は私たち便利屋がやるわ」
ここにきて久しぶりのアル達が登場。
先生の依頼を受け、馳せ参じたのだった。
「こ、壊れた列車を暴走させて命を散らせば良いんですよね!?」
「あはは! ハルカちゃんは相変わらずだねぇ」
「いや死んだら駄目でしょ……」
柴関ラーメン爆破以降、クラフターに大きく関わらない所で仕事をこなしてきた彼女たちだが、いよいよ仲介を挟んで和解の道を探り、その末にこの場にいる節もある。
仲介役……アビドスの面々や先生に誠意を見せる為にも、そして憧れのハードボイルドになる為にも、危険な役目を引き受けたのであった。
それはアビドスに廃車同然に放棄されていた横断鉄道の列車を利用し、敵に突っ込むというものだ。
「そうそう、列車は最後に破壊するつもりだけど、文句はあるかしら?」
クラフターなら文句も未練もたらたらだろうが、ここで構わないと言うのは意外にもノノミだ。
「それについてはお気になさらないでください。 どうせ今は使われていませんから。 それにあの列車こそが、アビドスの衰退に拍車をかけたきっかけですし……それが世界を救うお役に立てるのなら、これ以上嬉しいことはないです」
「ノノミ先輩……」
気持ちを察して、アヤネは言い淀む。
そういうだけの背景がノノミにはあるからで、それを追及するようにカヨコは言葉を繋ぐ。
「まさか、この列車がネフティスグループの」
所有物だなんて。
そしてノノミが、その企業のお嬢様なんて。
そんな言葉は、ホシノらの言葉で遮られる。
「昔話はそこまでにして、こっちは準備オッケーだよ〜」
「はい! シャーレコントロール0号、応答願います! 第1サンクトゥムスタンバイ完了です!」
「はい確認しました。 マキ、そちらはどうですか?」
「問題ないよ。 あ、でも1つだけ注意。 ビナーのレーザーには絶対触らないでね! 岩を一瞬で消しちゃうくらいの超高温レーザーなんだって」
言った側から、クラフターの群れがレーザーで薙ぎ払われ、砂埃の中に沈む。
お得意の丸石の防壁も意味を成さず溶断。 溶岩のようにドロドロと溶けては、砂地で再度凝固。 壁裏のクラフターはダイヤ防具にも関わらず遺品を撒き散らし蒸発してしまった。
坑道戦術や塹壕も、砂に潜り移動するビナーの性質上意味がない。 地下道ごと噛み砕かれたり掘り起こされて、そのまま空高く打ち上げられては地面に叩きつけられてリスポーンしていく。
「うへ〜、言った側からやられてるよぉ」
「って、アイツらまた変な事し始めたわ」
「釣竿を振り始めましたよ〜⭐︎」
「この状況でふざけ始めたんですか!?」
大蛇の概念が無いクラフターは、砂に潜っては浮かぶビナーを魚に例えた。
例えるがままに、釣竿を砂原に振る。 ブイが虚しく砂地に嵌るが暫し待てば……そら。 食いついた。 そのまま片腕の腕力のみでひょいと釣り上げてご覧にいれた。
「いやいや釣れる訳……釣れたあああ!?」
「なんで!? ビルのような巨体を釣竿で、それも片手で釣り上げましたよ!!?」
「うへぇ、2年前から一緒にいるつもりだけど、まだまだ驚かされるばかりだよぉ」
「わぁ〜⭐︎私も鍛えれば釣れますかね?」
「アイツらの真似は無理でしょ流石に!?」
想定外……エラー……突然の事態!
理解不能……物理演算……失敗!
ミレニアムでの既視感……再び!
非常識の出来事に演算追い付かずビチビチと俎上……否、砂上で混乱のままにのたうつ白蛇。
そこにワラワラとクラフターが剣を振り回しながらジャンプ吶喊。 ザックザックとダイヤ剣やネザライト剣が、弓矢が針山の如く突き刺さる。
エンチャント効力のままに斬られ燃やされ、ビナーは咆哮とも声にならぬ声を上げては砂に沈んでいった。
「うへぇ……便利屋さ〜ん、ごめんねぇ、建築魔が殆ど私たちの仕事を奪っちゃったみたい」
「なんですって……!?」
「あはは、でも良かったんじゃない? 楽ができた方が越したことないでしょ」
「で、でも折角のアウトローチャンスが!」
「許さない許さない……アル様の活躍を奪うなんて。 今からでも列車の標的を建築魔に差し向けて爆殺してきます」
「皆に迷惑が掛かるから止めようね?」
遂に鬱憤を晴らしたクラフターはその場でジャンプする。 満足だ。
次は空を晴らさねば。 その為には先生率いる村人が攻撃しようとしている黒々の塔を破壊しなければ。
晴々とした後は……創造だ。
作り手故に破壊だけで満足しない。
それがクラフターだ。 マインクラフターだ。