時間は少し戻り、宇宙戦艦起動準備。
「ここが遺跡?」
「石造かと思えば機械で出来た通路だなんて」
「奥へ進みましょう」
盾を構えたユメとホシノを先頭に鉄階段を降りて行く。 後に続くは先生に引率された耳長と猫耳、有翼白服とウーパールーパー村人だ。
遺跡という割には既知と違い機械的だった。 クラフターは首を捻り、取り敢えずユメの後を追う事にした。
そして、滅茶苦茶に首を振りまくる事になった。
感動的な光景がそこにあったのだ。
「これが宇宙戦艦?」
「うへぇ。 アビドスにあったなんてねぇ」
大きい。 なんて大きな舟だろうか。 まるで要塞のような舟だ。 しかも飛ぶらしい。 原理は不明だが何という発想か。 この世界では空が随分と身近ではないか。 ヘリコプター、ドローン、ミレニアムの宇宙戦艦、その次はこの舟が飛ぶ。 そのうち村人も飛ぶのかも知れない。 ここには丁度有翼種がいる。
しかしクラフターが最も感動したのは別にある。
「へぇここがブリッジかぁ。 結構ちゃんとしてるんだね」
「ここはオペレーションルーム?」
「あっ、これ操縦席だよね?」
「想定より規模が大きいです。 ざっと見積もっても10名以上いないと動かせないかと……」
もしかしてミレニアムのより立派なんじゃ?
アレは造形だけならコレより小さくも立派だが、それ以外はまるで負け。
内装を見比べて、ひしひしと伝わる。 美しくも様々な情報を投影できる機能的な硝子細工の数。 その大きさ。 合理的な席と部屋の配置。
認めなければならない。 機能も内装も。
我々は……負けたのだ。
「戦艦内部の他にも、地上で管制する人員も考慮しなくてはなりませんね」
「そうですね。 戦車1台でも4〜5名は必要ですし、これほどの規模となると……」
「それに未知の領域が多いオーパーツでもあります。 情報の解析・分析及び操作のサポートなど、人手は多いに越した事はありません」
「であれば、シャーレとそこで感涙しているマインクラフターの力をお借りしましょう」
「わかった。 皆を招集するね」
「ユメ先生はクラフターの説得を。 今は猫の手も借りたい状況です」
「わ、わかった! もう1度だね!」
ユメが「ばななとり」手帳を渡してきた。
この戦艦を動かして欲しいらしい。
涙を拭い、クラフターは頷く。 勿論だと。
早速というか、その辺の席の周囲にある端末を弄り回す。 作り手として、作られた物を熟すのは1種のプライドだ。
「ちょっと、建築魔に任せて平気なの!?」
「アリスちゃんの時も、そうして何とかなったから。 今回も何とかなれ〜って!」
「急に爆発したりしないでしょうね!?」
確かにクラフターは創造の中で創造に負けた。
それは終焉を意味するのか?
否。 始まりなのだ。 己のセンスや技術を上回る創造性を見せつけられた時、それを超えてやる、参考にしてやると意気込み前に進む。 そうする事で初めて見えてくるものがある。
「チーちゃん聞こえますか? これからもっと忙しくなりますよ?」
「はぁ、私たち全然休めてないんだけど。 それも考慮しておいてくれる?」
「ええ、それは私も含めて全員かと。 ですが踏ん張りところなのですよ。 マインクラフターも参戦してくれています。 それほどの事態なのです」
駄目だ。
村人技術は村人にしか解明できないのか?
いやいやまだだ。 取り出したるはレッドストーントーチ。 中枢となってそうな中央端末にブスリと刺す。 この手に限る。
「……それにしても古代兵器が宇宙戦艦ねぇ。 あの子たちが知ったら騒がしくなりそう」
「エンジニア部ですか? 確かに、クラフターの力を借りて宇宙戦艦を建造してはいましたが、ある種の実物となれば興奮しそうですね」
「……ねぇ。 なんか動いてない?」
戦艦が震え出す!
我々も感動で震え出す! よしよし良い子だ!
「急にブリッジ周りの電気系統のみ動き出した? いや出力不足で艦全体にエネルギーが行き渡っていないみたい」
「ダメージコントロールパネルや自己診断プログラムを見てみましょう……不明な接続を確認しました。 原因はアソコに刺さっている赤い光を発している棒です。 ユメ先生、それを抜けとはいいませんが、壊さないでとは伝えてください」
「あわわ、クラフターさん、気をつけて!?」
「言わんこっちゃない!?」
ユメが壊さないでといってくる。
心外な。 この程度で壊れるほどヤワな装置なら蔑む対象に格下げだ。
水抜きTNTキャノンでもあるまいに。 爆発なんてしない。 なるようになる。 我々がコレを作るならそうした。 という訳で鍵盤叩きを続行する。
「って、供述していて……」
「クラフター共、舟から降りろ!?」
「……躾すれば役立ちそうですがね」
「犬みたいに言わないであげて!?」
村人が煩い。 素人は黙っとれ。
とはいえ、この手は我々にも未知の領域。 暗中模索の手探りで学ぶ他あるまいて。
「取り込み中にごめん。 エンジニア部はミレニアムの戦艦にいて、こっちには来れないみたい。 でもゲーム開発部とセミナーのユウカは来れそうだよ」
「戦力は多い方が良いですからね。 動ける方には搭乗して貰いましょう」
段々と周囲が騒がしくなる。
一瞥すればゲーム開発部の面々とミレニアムオオフトモモだった。
「宇宙戦艦です! 時代は宇宙RPGです! このジャンルは最高です!」
「ちょっとアリスちゃん!? なんでついて来ちゃったの!?」
「えっと、宇宙戦艦が発見されたと聞いたので、モモイとミドリ、ユズの皆と……」
「ダメよ! 大人しくミレニアムにいるって約束したじゃない! リオ会長もまだ狙ってるかも知れないのに……捕まったら、今度こそ危険な目に遭ってしまうかもしれないのよ?」
「で、ですが宇宙勇者が……妖精さんが……」
「変な事言ってないでミレニアムに戻って! あそこはノアに任せてあるから!」
「この冷酷算術妖怪! なんでそんな酷い事言えるのさ!」
「お、お姉ちゃん! それは言い過ぎ!」
「ま、またあだ名が……」
見慣れた顔と騒がしさは、こんな時ほど緊張感が解れる。 戦艦や風紀の弛緩剤、潤滑油として先生が手配したのだろう。
さても作業は続ける。 艦内は既存の技術のようでいて中身は未知だ。 シルクタッチを使うのも戸惑われる。
「ユウカちゃん、その話でいくのなら、その宇宙戦艦の中の方が安全だと思いますよ?」
「ノア?」
「リオ会長はあらゆるものを掌握したがりますから。 それこそミレニアム自治区は会長の掌の上ではないでしょうか?」
「そ、そうかしら……」
「はい。 ですが宇宙戦艦までは流石に会長も掌握できていないかと。 会長から逃れるのであれば、そこが1番安全な場所になります。 ですのでゲーム開発部と共に送り出しました。 ユウカちゃんが面倒を見てくれるのであれば、大丈夫でしょう?」
「急に言われても困るんだけど!? それならそうと事前に共有して! アリスちゃんを狙っているのは会長だけじゃないのよ……ってあれ? アリスちゃんはどこに!?」
「ふふっ、では宜しくお願いしますねユウカちゃん。 ミレニアムはご心配なく」
「はぁ、遊びに来たんじゃないのに」
先生も忙しそうだ。
ユメの筆談通訳を通じて状況を把握するしかない。 そうしたところで互いに力になれるとは限らないがマルチでの共有は大切。
技術の発展もそう。 何かの新発見をいち早く展開して創造性を豊かにした者ほど英雄と謳われて良いと思う。
「今、ヴェリタスと建築魔が戦艦のオペレーティングシステムを分析してくれている。 並列してハードウェアの方も解析してくれてるみたいだね」
「わぁ! ミレニアムもクラフターさんもすごいよ! 難しい事は分からないけど、これなら何とかなるかも!」
「それまでユメ先輩と私たちは役立たずですね。 せめてジッとしていましょう」
「ええ、そうしてください。 建築魔に加えてユメ先生まで動いては混乱しますので」
「ひぃん、またホシノちゃんとリンちゃんが虐めるぅ!」
ユメはヒィンヒィン鳴くばかりで、役に立っていなさそうだが。 いや我々には役立っている。 通訳係だ。 暇がないと出来ない仕事だ。 ありがたいと頷くばかり。
「コードアルゴリズムの分析完了。 コタマ、アクセスできる?」
「はい。 中央処理装置へのアクセス成功。 問題ありません」
「副部長が手伝ってくれて助かったよ! あと建築魔の行いも無駄じゃなかったよ! 謎の動力源からエネルギーが巡ったお陰で、どこにどう回線が繋がっているか大体分かった! エンジニア部もいないんじゃ正直、もっと時間が掛かると思ってた!」
「これが戦艦のメインシステム……見慣れない言語だけど、なんとか解析はできそう」
「ヒマリ、アクセスに成功したよ。 今から接続コードを送るから、ちょっと見てくれる?」
「分かりました。 ありがとうございます、チーちゃん」
少しずつ戦艦に明かりが灯るようだ。
活気も増す。 ユメ曰く、ミレニアムの連中が何とか起動までこじつけている。
「ヒマリさん、いかがですか?」
「戦艦のメインシステムへの接続は完了しました。 ここから始めていきます。 エネルギー供給だけでしたら先程の建築魔のモノで何とかなるでしょうが、制御には至りませんから。 ですが先程のやらかし……こほん、お試しのエネルギー供給のお陰で凡その流れは把握できました。 これから実際に把握してまいります」
「なるほど、中枢を制御できれば全体の掌握が可能になる、と」
「ええ、その通りです……では見せてくださいな、古代技術によって生み出されたオーパーツとやらを」
我々の行為は無駄ではなかったらしい。 状況は進行する。 早く飛んでくれ。 待ちきれないよ。
「これは……これが戦艦の全体図です」
移動椅子に座る白服が新しい画面を開けたから、クラフターも我も我もと覗き込む。 共有は大切。
が、そこにはフグみたいな図形。 この戦艦の全体図らしかった。 先人はナニを想いフグ型舟を建造したのか。 やはりデザインにおいては我々に分がある。 唯一、そこだけが誇らしい。
「確かに船のように見えますね。 だからウトナピシュテムの『本船』と呼ぶのでしょうか?」
「全長135m×23m×13m。 内部に15のエリアが存在するものの、詳細は不明。 そしてこの戦艦には、武器と呼べるものが見当たりません」
「戦う為に作られた訳じゃない、のでしょうか。 戦艦では無い別の何か?」
「判断するにはまだ早いかと。 もう少し解析を進めていきましょう」
ユメから断片的に情報を貰い、我々なりにも考察してみる。 この創造物の本来の用途は何であったかと。
アリスことAL-1Sは遠い昔に魔王として作られた。 けれど現代村人と本人は否定した事で、今は村人として共にいる。
ではこの戦艦は。 見学したが武装らしきものが見当たらない。 名ばかりなのだ。 もしかしたら隠しギミックがあるのかも知れないとも思うが。 ペロロジラと戦った二足歩行兵器のように。
だとして、何を相手にしたのか。 我々のように自己満足や他者への自慢か。 あり得なくは無い。 けれど今の村人の技術や創造物への考え方を見るに、やはり何かしらの意図を感じてしまう。
分からない。 故に面白い。 理解出来ぬものがあるほど燃える。 知りたいと思える。 明かしてやりたいと思える。 長期開催の祭りに萎えるどころか興奮しちゃうじゃないか!
「……分からない事も分かりました」
「はい?」
「この戦艦の燃料、推進体、エンジン構造、設計に至るまで、何から何まで不可解の塊。 マインクラフターの世界から到来した技術でも使われているんじゃないかとも考えましたが……ユメ先生?」
「……えーっと、クラフターさんはこんなの知らない、作ってないって」
「やはりキヴォトスの古代兵器なのでしょう」
村人に勝手に期待されて勝手にがっかりされた。 我々からすれば君達村人の生態や思考回路も未だ理解出来ていないのだが。
「逆にコレを解析できれば、エンジニア部と建築魔は大喜びでしょう。 宇宙戦艦の夢がある彼等としては悲願達成に大きく前進しそうですから」
「原理は不明……制御の方も?」
「ご安心を。 操作する程度なら何とかなりそうです。 車の構造が不明でもエンジンを動かして運転する分には支障がないのと同じです」
分かる。 翻訳文を読んで頷く。
我々も長年、鞍のクラフトレシピが分からず、馬や豚への騎乗が出来る者は裕福層ともいえた。
だが遂最近、レシピが判明したのだ。 いやぁ良い時代になったものだ。 クラフト意欲が残る人生の内に、創造力はどこまで行こうというのだね?
「全ての動作機関は、インプットされたデータをアウトプットデータに変換する装置と解釈できます。 その変換過程さえ理解できていれば、構造が分からずとも結果の予測はできるというものです」
「なるほど……?」
「ただ操作は出来るとしても、この戦艦の用途は……宇宙戦艦とは呼べないかもしれません。 搭載している武器もなければ、飛行可能な高度は100,000mが限界。 宇宙どころか大気圏を越えた瞬間、バラバラになってしまうでしょう。 そして、この戦艦の75%以上が論理演算装置になっている点も気になります。 こうなると、飛行可能な量子コンピュータの類です」
「つまり、これがあれば多次元バリアを突破することができるのですね?」
「ええ、活用すれば多次元解釈が可能になります。 それだけではありません。 このレベルの演算装置があれば、この世の全てをハッキングすることさえできるかもしれません……うふふっ」
「……ヒマリさん?」
「そう、超天才病弱美少女ハッカーである私が使えば、あの『アトラ・ハシースの箱舟』をも手中に収めることができるやも……」
「では箱舟を墜落させたり自爆させる事も?」
「自爆は難しいですが、推進システムをハッキングできれば墜落させる事は可能です。 その為には、箱舟のシステム自体に接続する必要がありますが……」
「八方塞がりかと思っていましたが、何だか光明が見えてきましたね。 であれば、これは……」
「多次元解釈というチート相手に、チートで対抗するチート対チート、いえ、ハッカー対ハッカーの戦いとなるでしょう」
「ヒマリさんの負担が重くなってしまって申し訳ないです。 私はこうした事はサッパリで……」
「ふふ、お気になさらず。 私は天才病弱美少女ハッカーですから。 では多次元解釈の理論を構築して参りますので、失礼します」
ピンク頭と椅子白服は難解な会話を繰り広げたらしく、ユメは目を点にして固まってしまった。
仕方ない。 そこまでなら我々にも難解であろう。 別に責めやしない。 そもそも期待もない。 それぞれに出来る事をするだけだ。
その点、あのピンク頭と白髪も、この牛乳緑頭も、他責思考じゃないと思うし、礼も言わない謝罪もしない、人や建物を傷付けるばかりの荒らし連中よりずっと良い。 ピースフル万歳だ。 元の世界の村人ほど平和ボケされても困るが。
「あら、AMAS? いつの間に?」
平たい機械が白服周りを飛び始める。
ドローンだ。 武装はしていない。 味方らしいから無視しておく。 倒しても碌なドロップが無さそうだ。 コウモリよりは鶏肋になるとしても、クラフターは無闇な破壊を嫌う。
「その計算は間違っています」
「機械音? スピーカー装着モデルでしょうか? そんな機体、ありましたっけ?」
「その公式では量子情報のエラーを修正できません。 イオントラップを利用した方が良いでしょう」
「あ、あら? そうですね。 天才である私が、こんな初歩的なミスをするなんて……はぁ……」
「何日も休んでないからですよ」
「他の方も同じです……しかし、あなたは」
「私はリオ会長の命令でここに来た、演算サポートAIです」
「……リオ」
「リオではありません。 演算サポートAIです」
「うふふっ、そうですね。 あの陰気な女に、少しでも良心というものがあるのなら、ここに顔を出すなんてできませんもの」
「アリスは……」
「アリスは別の場所におりますよ……これから話すのはAI相手の独り言です。 私、トキの事に関しては絶対にリオを許せないんです。 あの女は、トキに危険な装備を与え、あらゆる任務を課しました。 武装の危険性は当人が1番分かっていたでしょうに。 その上、トキには友人と呼べるような存在はいませんでした。 なぜだか分かりますか? リオが、彼女に一切の交流を禁じたからです。 それでもトキは文句ひとつ言わず、どんな任務も進んでこなしました。 挙げ句の果てには可愛い後輩の拉致を命じられ、遂行しました。 この任務が意味する事を、彼女は理解できているのでしょうか?」
「そ、れは……」
「リオは『人を殺める任務』の片棒をトキに担がせたのです。 対象が生命ではない? いくら命に対しての観点が建築魔のように異なっているとしても、絶対に許される事ではないと、何故理解できなかったのでしょうか? その事を知った時、トキが何を思ったのか、事件の全貌を知る筈の偉大なビッグシスターは、気付かなかったのでしょうか!」
また難しいハァンらしい。
ユメの頭から煙が出ているかのようだ。 面白い表情をしている。 ホシノが見たらどう反応するだろうか。
「トキを巻き込むべきではありませんでした。 トロッコ問題を例に挙げ、彼女は悲劇のヒロインを気取っていましたが、実際にトロッコのレバーを引いたのはトキです。 本当に卑劣極まりない女ですよ。 シャーレの先生によって計画が頓挫した途端、今度は姿を眩まそうとして、そこを偶然にも先生と建築魔に止められて、あの女は今だにミレニアムの頂点、セミナーの会長の座に着く事が許されています。 本人は建築魔という愉快な友人を得られたから、一定の満足感をも得られたでしょうが、トキはどうです? トキが何を思ったか、考えた事はあるのでしょうか? ああ、でも分かるはずありませんね。 ビックシスターは、他人の孤独や罪悪感など考えた事もないのでしょうから」
段々とヒートアップする椅子白服に合わせるように、ユメの意識が戻ってきた。
何やら感情的になっている。 浮いている機械は黙って口撃を受けているようだ。
「トキは今なお、サンクトゥムが出現する可能性のある場所で、1人戦っています。 自分の負傷など気にも留めずに。 彼女が何故あれほど必死になっているのか、あなたには理解できないのでしょうね。 本当に……あの陰気な女には勿体無いほど、誠実なメイドです。 C&Cが彼女を受け入れないのなら、私が連れていきます。 ふふ……もはや、陰気な女という表現でさえも寛大すぎる気がしてきました」
「……そうね。 私を良く思っていないのは、理解しているわ、ヒマリ。 でもこのオーパーツを動かす為には私の力が必要不可欠。 このキヴォトスにおいて、名もなき神々の遺産を誰よりも理解している……」
「いいえ、不要です。 あなたが誰よりもコレを理解しているのなら、あの時、キヴォトスが終焉を迎えるほどの事態なんて訪れなかったでしょうに。 あれを防いだのはアリスとゲーム開発部のメンバー、シャーレの先生方、そしてマインクラフターです。 ですのであなたの力は不要です。 一刻も早くこの船から降りてください。 ここにはアリスとゲーム開発部、先生、そしてマインクラフターが揃っておりますので」
「……分かったわ」
遂に固まっていた足が解れたらしい。
ユメがハァンの間に割り込んでいく。
こんな時にまで呑気なものだと思いながらも、クラフターはただ好きにやらす。 我々もそうする。 ただ会話を背中に浴びながら鍵盤をバンバン叩くのみ。 この手しか知らない。
「待って!」
「ユメ先生?」
「生徒会長の調月リオちゃん、だよね? 無事そうで良かった……あのね、トキちゃんとも、アリスちゃんといつか仲直りできるよ。 それに2人ともきっと、リオちゃんの事を恨んでなんてないよ」
「お言葉ですがユメ先生。 当人ではないあなたが、何故そう言い切れるのです? どちらかといえば私の方が理解しているかと」
「確かに短い間しかいなかったけれど……トキちゃんもアリスちゃんも悪い事を言わないし思わない。 必要だと思ってやっていた相手だって理解していると思う。 2人とも私より優しくて賢くて、強い子だもん。 だからね、この騒動が収まってからでも謝ろう? 私も側にいてあげるから」
「……その根拠の無い優しさ。 説得力皆無の言葉の羅列。 クラフターの本拠地となったアビドスの砂漠で死にかけたという情報にも納得がいきますね」
「側にクラフターさんがいてくれたから、私は救われたの。 その後に駆け付けてくれたホシノちゃんにもね。 だから、今度はリオちゃんと、ヒマリちゃんの番なの」
「私も? はて、何の事でしょうか」
「2人にも、仲直りして欲しいなって」
「……不愉快です。 ですがユメ先生のご好意、有り難く思います」
「私も同じく。 でも今では無いわ。 また別の場所で会いましょう」
「……うん。 きっとだよ。 私は信じてる」
別れていく村人と機械。
進む道が偶然交差しただけの様相。
それはユメの望むモノとは違った様子。 けれど、その背中に優しい視線を均等に向けているから、それなりに満足のいく取引ができたのだと思う。 我々と違う何かを得たのだ。 羨ましいとは思わない。 微笑ましいとは思う。 いちマルチクラフターとして。
「……では、信じるユメ先生の想いを無駄にしない為にも。 それを……今はサポートAIと呼ぶべき機械が少しでも理解しているのなら……あなたの力が必要です。 私の計算を手伝っていただけませんか?」
「……わかったわ」
結局は再び、巡り会ったが。
人生なんてそんなものといわんばかり。 人と人の交差なんて、我々も数えていない。 ただそれは村人にもあるんだなと思わせてくれるばかりとなった。
「まるで2つめの古則ですね」
「リンちゃん?」
「理解出来ないものを通じて、私たちは理解を得ることができるのか、というものです」
「不思議な問題だね……?」
「はい。 ですがこれには欠陥があります。 文章が未完成なのです。 『何』の理解を得られるのか、目的語が抜けているのです。 この文章は最初から『問い』として成立していません。 連邦生徒会長は、こうしたオカルトや都市伝説のようなものが好きでしたが、この問いはクイズでは無いのだから、問題ないと仰っていました。 自分の信じる言葉を入れたら良いのだと。 それがどのような意味だったかは、終ぞ分かりませんでしたが……今のお話で、何となく思い出しまして。 すみません、あまりお気になさらず」
「リンちゃん、大丈夫だよ」
「はい?」
「連邦生徒会長さんとも、きっとまた会える」
「……ありがとうございます」
白服同士としても、何か満足している。
まぁ本人らが良いなら良い。 此方に迷惑が掛からなければ。
「リン先輩、先生。 作戦計画書が完成しました」
「全体ブリーフィングの前に最終確認をして貰いたいんだよね。 ブリッジに来れる〜?」
「もう計画書ができたの? みんな凄い!」
「分かりました、行きましょうか」
村人がゾロゾロと動き出す。
我々も一応動いた方が良いかな、何となくで。
後書き
更新常に未定