深い皺を走らせた大都市は黒煙を上げ、見覚えのある顔達が様々に突っ伏し、稀に壁や荷台に突っ込んでいるのが垣間見ゆ。
古書館で拝見した不思議の国のアリスが切株の隙間に入るように、現世離れの道中にいる小さな女の子に見えたものの、その頭部はぱっくりと紅花を咲き乱し、中身を空へ誇るように晒している。
そこから数ブロックと離れていない場所に、更に少女が横たわっていた。 背中から強烈に割り込んだ破片は、少女の体内で散々暴れ回った後、腹の底から出ていこうと決めたようだった。
いずれも馴染みの輪が浮いていない。
呑気に眠れるものだ。 相変わらずの浮世離れ振りに呆れの息しかない。
とはいえ、村人は妙な場所で閉目するのをとっくに知り得ているから、不思議には思わなかったが。
ただ、幾ら叩いても起きないのだ。 それこそ、いつかのアリスの様に。 起こすには、また先生が必要なのだろう。 先生の存在はエンダーアイの如き鍵なのだ。
すると、近くまで当人が来ているらしいと分かったから、創造主一同即刻駆けつけた。
先生がいれば安泰だ。 きっと村人達は起きよう。 無理でも復興の切掛を得よう。 そして明日にはいつもの活気が戻るのだ。
そんな希望は早々に裏切られた。 先生の元へ辿り着いた際、その先生も他と同様に深い眠りに着こうとしていたからだ。 挙句に成人へと変わり果てたシロコ……黒く染めた服を纏うクロコが、絶望のままに拳銃を向けていたとあれば、察するに余りあった。
クロコが荒らしに転化したと。 この惨状を引き起こした犯人なのだと。
もう駄目だ。 殺そう。 死なせてやろう。
全て、何もかもを終わらせてやろう。
そう意気込んだ刹那、空から色が降ってきた。 ただ嫌な光と既視感に襲われたのは覚えている。 時空間異常が起きたのだと、経験が告げる。 なす術なく、気味の悪さに抱擁される。
「いやあああああ!!!!」
黒い光に吸い込まれる中、クロコが鳴いた。
そして、か細い声と手を我々に伸ばすのだ。
泣き出しそうな顔で、願うのだ。
「助けて」
それからだ。 先生も変わり果てたのは。
この物語が我々の青春、夢か創造の刹那的狂気で無いのならば、あの黒狼の心と俗世を乱した特異点の先生こそ狂人であるに相違ない。
だが我々の夢と創造力が時として、どこか喰い違う光景を隙見させてくれる様に、或いは狂人が我々の物事と見聞を超越すると同時に、浮世離れの度合いをひけらかすのかも知れない。
数多ある選択肢。 もし別の手段を創造したならば、そこに待ち受ける世界は果たして理想郷であろうか。
さても。
おしむらくは。
試みるは正常化。
実績のある牛乳に相談だ。
それから上位の金林檎だ。
ポーションも捨て難い。
いっそいっぺん殺してみるか?
不死のトーテムやベッドを試せば或いは。
色めく刻の奔流と冒険譚に身を任せ、別世界線への漂流までに、マインクラフターはつらつらと手段を夢想するのであった!
by.BAD Time Line
AL1S共々、不可思議な村人技術の硝子仕掛けを通す内、西の星海が遂に干潮となれば、底の市井が明けを待ち浴びた。
刹那、俗世の視野の外にある、別世界の隅を異端の創造主達は隙見したのである。
延々と臨死体験を繰り返した者共は遂に達観の境地に至り、解放感のままに蝙蝠型の操作器を手放した。 窓から差し込む天空の大海原が清々しい。 燦々が祝福の陽気である。
元々輪廻を反復するクラフターには今更ではある。 だが己を省みる機会を村人は与えてくれたのだ。 初心に帰り身を清める時間をくれたのだ。 感謝しかない。 俗世を生きる喜びを噛み締めよう。 我が同志達よ、村人よ、全てにありがとう。 今日も我々は生きている。
「えっ、もう朝!? しまった準備しなきゃ」
「漸く気が付いたか……無事に目を覚ました様で何よりだ、君は運が良いな」
「あ、アリスちゃん? 色々と覚えられた?」
「君の言葉を肯定しよう、必滅者よ」
「なんか偏った台詞ばかり覚えてない!?」
個人の偏在は数多あれど、死生は常に付き纏う。 だからと無駄に恐れる必要はない。 寛解に似た面持ちで悉くに挑めば良い。
「みんな、おはよう!」
「お姉ちゃん? 学生証はどうなったの?」
「バッチリだよ! アリス、はいこれ」
「? アリスは正体不明の書類を獲得した」
「おっ口調が洗練されてるね。 さても、これは学生証だよ」
「洗練っていうか、レトロゲームの会話調そのものだけどね……それより学生証はどうやって手に入れたの?」
繊細で壮大な創造物は、正にそのもの。
レッドストーン回路が入り組んだ演算装置も遊戯場も。 音ブロックを数多並べて演奏させる自動機も。
スポーンブロックを利用したトラップタワーや村人を閉所に詰め込んで作る製鉄所も、ある意味でそうだった。
あと気に入った取引をする村人を監禁したり、見つけた動物を柵で囲ったり、狐や蜂を奴隷のようにこき使って収集するベリーと蜂蜜だったり、豚の前で小麦をチラつかせてから食べる焼豚もだ。 おいしかった。 総じて無慈悲の味といえる。
つまり今まで通りで良いね、と独りごちた。
「この学生証は、私達の学校の生徒だっていう証明書。 生徒名簿にもヴェリタスがハッキ……いや、登録してくれたから、もうアリスも正式に私達の仲間だよ!」
命は巡る。 死生は表裏一体。
村人もその輪に入る。 我々の土台として。 アビドスの地下労働施設もその予定だ。
既に稼働している。 後は軌道に乗れば良い。
先生の意見を取り入れて修正を繰り返せば、生意気な荒らしも効率良く矯正される事だろう。 後は従順な奴隷だ。 創造の糧だ。 夢は労働力と共に広がリング。
「仲間……理解しました」
「ねぇ今ハッキングって言わなかった?」
「大丈夫大丈夫! さて服装と学生証、それに話し方! この辺は全部解決出来たから……あとは武器だね」
段々と村人が興奮してくる。
今度こそ生殖か。 巡り合い命か。
「よしアリス、それと変態……じゃなくて建築妖精さん達! 折角だし案内するよ、私達の学校、ミレニアムを!」
唐突に笑顔を向けてきたから、クラフターは思わず壁際まで後ずさる。 クラフターは不必要に触られるのを嫌う。 それが発情した村人となれば尚更だ。
……まさか我々すら番の相手に見るのか。
悪寒と戦慄と共に身を震わせた。
「ミレニアムに限らず、キヴォトスの生徒は、みんなそれぞれ自分の武器を持ってるの。 だからアリスにも武器を見繕ってもらわないとね」
「まさか、この人達に作って貰う気?」
「それは面白いけど、不良品とかキメラなモノを掴まされたら嫌だからパス! 良い物をくれても剣とか弓矢とか寄越されそうだし」
此方を気にするでもなく、再び村人同士のハァン合唱に勤しみ始める桃と緑。
そうだ。 そうしなさい。 クラフターと村人の垣根は設けるべきだ。 此方は作り手、其方は破壊手だ。 水と溶岩くらい相容れない。 衝突すれば黒曜石か丸石製造機となる。 それはそれで役立つが。
「調達する方法は色々あるけど、このミレニアムで1番手っ取り早く、ちゃんとした武器が手に入る場所と言えば、やっぱりエンジニア部かな」
「エンジニア、部……?」
「機械を作ったり修理したりする専門家達の事を、ミレニアムではマイスターって呼んでるんだけど。 エンジニア部はそのマイスターが沢山集まってる、ハードウェアに特化した部活なの。 機械全般に精通してるのは勿論、武器の修理とか改造なんかも担当してる部活だから、多分、使ってない武器とかが色々残ってるんじゃないかなって」
「この人達も、マイスター……?」
「う、うーん……? 確かに共通する所はある気がするけど、なんか認めたくない……!」
水をかけられた様に急に熱が冷めた。
やはり溶岩の様に。 かと思えばまた熱する。
源泉の芯までは冷えなかったらしい。
「とにかく、行ってみようか!」
部屋を飛び出していく村人面々。
忙しない。 ジッとも出来ない。 けれど嫌いではない。 情熱の限り何かに邁進する姿は我々に似て微笑ましい。
ただ……とクラフターは天を仰ぐ。
また生殖は見られなかったなと。 残念だ。
更新常に未定
クリスマス?そんなものは知らない(白目)