はよトリニティ編に進みたい気持ちもあり。
「わ、たし、わたしの、せい、なの……!」
土砂降りの中、何度目かの正直。
剣折れ矢が尽き、辿り着いた世界軸。
ようやっと黒狼を追い詰めたマインクラフターだったが、この場までに荒れた数は……最早億劫だ。
黒煙燻る瓦礫の天辺。黒狼が鳴いている。
あの日もこうだった。 違うのは針山になったクロコと、村人形態に戻った先生が寝ている事だ。 思い出しながらも、クラフターは傾聴する。
分からずとも、そうするべきと思ったから。
ならそうする。 ネザライトの剣も体力も限界なのだし。 耐久値は節約したい。 これは長年の癖だ。 特に貴重な素材でクラフトした品々は替えが効かない故に。
取り敢えずベイクドポテトを食べた。 腹を満たして自然治癒に任す。 心なしか雨で冷えた気がする。
「なんでこうなったのかも、ここがどこかなのかも分からなくて、寒くて、お腹空いて、寂しくて。 あの日、マフラーを貰わずに、あなたたちの温かなスープも貰わずに、消えてしまえば……死んでしまえば、こんな事には……!」
食いながら述懐を聞く。
腹の底からの言霊であろうに、理解出来ぬ残酷さは、程よく勝る。
この村人がスポーンする世界軸は、他にも多くが不幸に遭った様に思えてならない。
白服連中の抵抗も、村人の滂沱も、一切合切の感情は居心地の悪さしかなかった。
「わたしの、せいで、世界は滅亡した……」
砂漠で皆が力尽き。
神秘の解明で自我を喪失し。
目覚めた少女は魔王に変貌し。
特殊爆弾で輪は破壊され。
白モフは凶弾に斃れる。
それを知ったペットは発狂し。
精神と肉体が剥離された狐は永眠。
復讐の魔女は血に染まり。
子兎は正義を果たせず心が折れた。
ある者は人知れず自ら命を絶ち。
無意味な筈の命に意味を得る。
「こんな結末、望んでなかった……」
共通するのは選択の連続だ。
身近で1度でも誤れば先が無い理不尽だ。
あの白服は、きっと失敗した白服だった。
「あなたたちが、愛した人たち、たてもの、ぜんぶ、ぜんぶ、台無しにした……」
けれども我々は自信がある。
創造についての自信である。
崩壊した世界をも作り直せるであろうという絶対的な自信である。 我々はきっと情熱の限り邁進するという限りない自信である。
「わたし、さえ、いなければぁ!!」
世界が変われど変わらない。
それが我々だ。 マインクラフターだ。
ネザー。 ジ・エンド。 実績を重ねた者共だ。
ならば出来ない事はないと思われた。
出来るのが当然なのだと振る舞うのみだ。
最早手帳は、言葉は要らない。
だから、クラフターは肩を叩く。
「えっ……?」
少し荒らした程度で自惚れるな。
都市の1つや100つ何度でも再建してやる。
時空間犯罪もなんのその。 家畜の管理失敗やウィザー被害を経験してきたクラフターから言わせれば、この惨状すら単なる通過点に過ぎないのだ。
「……諦めないのね。 どこまでも」
次なる世界軸でのマインクラフト。
結果は変わるのか、そうでないのか、我々に知る術は無い。 尚もツルハシを振り回して突き進む先にのみ未来は築かれる。
「私も……私も、そうなりたい」
驕るのは荒らしの特権ではない。
未来以上に、誰にも予想出来ぬ変数、マインクラフターの征く先は……。
「G.bibleを復旧させるのに、メイド部が守ってる差押品保管所に侵入するの? 無謀だよ!?」
「勝てる筈がない。 もう駄目だお終いだぁ」
キャノンを手に入れて早々、同顔村人は絶望の表情を浮かべたから、クラフターは首を傾げた。
新たな創造物に歓喜すれば良いのに。
或いは荒らしに奪取される危険性を憂慮しているのかと思う。 なら合点もいく。
携行可能なキャノンとなれば便利だ。 軍事部が狂喜乱舞する代物だ。 その分、荒らしに奪取されたら悲劇だ。 戦艦を沈める大砲が都市を闊歩する……確かに危険過ぎる。 クラフターは身震いした。
「あの、何故モモイとミドリは嘆いているのでしょうか。 ヴェリタスの言っていたC&Cとは、そんなに強いのですか?」
「強いも強い! それがクリーニング&クリアリング。 ミレニアム最強の実働部隊だよ。 最後は痕跡も残さず消されちゃうんだ」
「ヴァリタスのハッキングとエンジニア部の援護があるといっても、リスクがあり過ぎる。 廃部と天秤に掛けても……」
なら我々が貰えば良いじゃない。
最悪はそうする。 なんなら今直ぐ寄越せ。
問題は、欲のままにアリスを襲ったら、ミレニアムという集落の有名度が下がるだけでなく、全てと敵対しそうな事だ。
特にC&Cのボスは厄介だ。
あのチビ村人は素早過ぎる。 ビル1棟が半壊する激闘を経ても討伐出来た試しが無い。
被害の修繕の手間と掛けると殺傷沙汰は避けるが吉。 けれどチャンスを待つ。 いつ手放すとも知れない。 暫く後をついていこう。
「アリス、仲間を信じます!」
「アリス……うん、そうだね! このまま緩やかに廃部するくらいなら足掻いた方が良いもん! それにゲーム開発部は、もうただのゲームをやる場所じゃない! ユズの、私たちの居場所だもん!」
「そうだね、行こう! 目的の物を取って、素早く逃げよう!」
村人が忙しなく移動する。 我々も続く。
「建築妖精も助けてくれるそうです!」
「えっ? 急に不安なんだけど!?」
「大丈夫。 なるようになれだよ!」
その先はセミナーが厳重に管理するビルだ。
我々の改修工事を拒否する生意気なビルだ。
だけど今回、村人の群れに混ざる事で邪魔される事なく出来るかも知れない。
キャノンは欲しい。 改修もやりたい。 遍く欲を叶えなきゃならないのがクラフターの辛いところだ。
「めっちゃ良い笑顔なんだけど!?」
「アリス、凄い自信を感じます!」
「いやー、土壇場で頼もしい仲間が増えたね。 そうだ、そうに違いない!」
取り敢えずビルの外壁に沿って、土ブロックを重ねて登って行く。
「妖精が外壁を昇り始めました!」
「土を凄い勢いで盛って、足場にしてる!」
「うわー……中が駄目なら外から攻めれば良いじゃないって? チート行為を見ているようだよ」
何故か。 内部にはディスペンサーや感圧版等の罠が張り巡らされているのを知り得ているからだ。 経験者は語る。 元の世でいう寺院やピラミッドの悲劇。 同じ轍は踏みたくない。 落下の先の感圧版とかトラップチェストの悪意は勘弁だ。
目前の施設はアトラクションではない。 ダンジョンを正面から攻める道理は無い。
相手が美徳とする方法で挑むなぞ、自ら火に入る愚行に近しいとすら思う。 我々は我々の道を往くのみなのだ。
「至急至急!! 保安部は迎撃に迎え!!」
「奴らです! マインクラフターです!?」
「セキュリティは昼寝でもしていたの!?」
「屋上、いえ外壁の窓から続々と雪崩れ込んで来たんです、尚も増加中、キリがありません!?」
「隔離シャッターをツルハシで次々破壊されます! 抑えきれません!?」
「弾幕を張れ! これ以上進ませるな!!」
「奴ら、組織的に動いてないぞ!? バラバラで予測出来ない! 現場は完全に混乱してる!」
「課の者と連絡途絶! 係は全滅した模様!」
「だ、だめだ……侵食速度が早過ぎる……!」
「保安部では対応出来ません! あの人達を寄越して下さい! そうです、C&Cです!!」
参ったなぁ。 どうしてこうなるんだろう。
建物を評価して工事するだけなのに。
暴力に訴えるのがキヴォトス人の性であれ。
思っているより抵抗されたマインクラフターは、工事どころじゃ無くなったから、仕方なく迎撃を優先した。
喧しい音と赤色灯の空間をひた走る。
廊下を塞ぐナンセンスな壁をツルハシで破壊し、発狂したように銃弾を撒いてくる荒らしの徒党や機械群を負傷のスプラッシュポーションで退かし、隣ビルから凶悪な釣竿モドキで撃ち続けてくるカリンと「スナイパー対決」をやらかした。
付き合ってられないので、外壁を黒曜石で塞いでしまう。 これで外部と遮断。 暫く時間を稼げる。
「物理ハッキングとでも言いたげだね」
「こんな真似出来るのは連中だけです!」
「ツルハシで隔壁を破るってナニ!?」
もしかしたら、ここは荒らしの拠点だったのかも知れない。 或いはダンジョンだ。 占拠の甲斐がある。 楽しみが増えた。
「なんで、こんな……連中はどこの学校にも、部活にも属さないのでしょ? 味方する理由もない。 なのに、どうして!」
遊び尽くせない日々だ。 果報者だ。
キヴォトス人のように1生徒1校舎に帰属する我ではなく、マインクラフターという1団に帰属する個人。 だからこその人生。 独自の観点。 自我の確立。 己の居場所。
それらを持って様々を作り、世界と繋がっていく。 物事の作り手で有り続ける事が出来る。 他人の努力を台無しにして座視するだけの下衆には理解出来ぬ世界との一体感がある。
けれどキヴォトス人も旧来の観点から脱し、この観点に近付く条約を近々調印しようと足掻いているのも聞いている。
明日という楽園を迎える為に苦難の努力を重ねているのを聞いている。
土台を創り上げた白服の苦労を聞いている。
前身機関の設立である3と排斥された1の派閥から何十年と余。 統合と淘汰の歴史は、平坦な道ではなかった筈だ。
まぁそれでも。
これからも。 この先も。
苦難の起伏はあるだろう。
だからと譲るクラフターではない。
取り敢えず……うどんを食べた。
ベイクドポテトと居並ぶ位に腹持ちが良いし。
常に更新未定