「先生、防衛室から見てもSRTの存続には賛成です。 昨今を騒がす建築魔への対処において、戦力は多い方が良いですからね。 市民や多くの学校からの要望、嘆願書も沢山寄せられているのも事実です。 これを無下に扱っては沽券に関わります。 しかしながら機能不全、形骸化が否めない連邦生徒会では遺憾ながら……」
「やっぱり難しいかな」
「正直に言いますと。 ですがSRTが公の場で十分機能し、シャーレが全て制御出来る事を世間に広く認知させる事が出来れば、その限りではないかと」
いやらしい目付きのピンク頭が、密室で先生と鳴きあっているから、遂に繁殖が見られると思いきや違った。 透明化ポーションでの出歯亀が無駄になった。
「……つまりSRTの生徒をエデン条約の調印式に連れて行くと。 けれど有事が起きていないのに動けるのかな? 無理に介入すると、トリニティとゲヘナからの印象は悪くなるんじゃない?」
「有事なら起きてるじゃないですか。 建築魔が機密を扱う生徒会の席や古書館への不法侵入。 正義実現委員会だけでは対処困難。 そうなるとトリニティだけの問題ではなく、波及した被害が学園都市全体に及ぶと判断しましたので……派遣には至るかと」
「随分と無理矢理だね。 あの人達が迷惑をかけてるのは知ってるけど、それこそ学園都市中じゃない?」
「今回は連邦生徒会長が立案したエデン条約の締結も絡みます。 いつもの奔放具合を発揮されたら困るんですよ」
互いに口角を上げるも、目が笑っていない。
妙な居心地の悪さがある。 近くにナニかいてベッドに寝付けないような。
「……わかったよ。 生徒の為なら」
「さすが先生、分かってくれましたか。 方々には私から連絡しておきますのでご心配なく」
出て行く先生。
見えなくなってから、独り言を始める桃色。
「……カイザーグループは今回の一件、実験的に武器を"地下組織"に提供してるようですが。 勝ち負けより建築魔とどれだけ戦えるかの実験の側面が強いですね。 まぁ上手くいかずとも、これをネタにすれば公安部も動けるでしょう。 それと学園の為なら、狐達も断らないでしょうし。 1年の兎達は……まぁ実戦経験を積む名目で警備でもして貰えれば良いです。 変に青臭い正義感を発揮されても害は無いでしょう。 各方面に恩を売れますし」
企みは分からない。
言葉も分からないし。 だから興味もない。
「ああ、念の為にお別れを言っとくべきでしたね。 当日は何が起きるか分かりませんから。 でも良いですよね先生。 私の為、生徒の為なのですから」
動くに値する娯楽なら動くけど。
クラフターはいつも通りを過ごすのみ。
「ユメ先生。 補習授業部とは、表向きは成績が振るわない生徒の為に特別に設けられた部活です。 今回は遺憾ながら4人もの生徒が入部しています。 彼女らは3回のテストを受け、そのうち1回でも全員で合格出来れば解散となります。 それが叶わなければ、全員退学です……最初にお話しましたよね?」
村人の多くがベッドのある建物に帰る頃。
オドオドするユメに鶏のボスがハァンハァン鳴いている。 コココと鳴かない。 道理で種を食わない連中である。
「で、でも! 条件が厳しいと思うの!」
「彼女達は受け入れてるのでしょう? では、それで良いではありませんか」
「でも退学なんて……」
「……はっきり申し上げますと、補習授業部は全員退学させる為の部活なのです」
「えっ!?」
もう驚きもない。
犬とか猫とか蝙蝠とか。 そうしたキメラ村人が蔓延るキヴォトスだ。 生態が理想の外にあっても、そういうものとして受け入れる他なし。
「トリニティとゲヘナを繋ぐエデン条約はご存知ですか。 今はそれを締結しようとしている大切な時期です。 しかし、それを快く思わない者も少なくありません。 考えられる妨害者、その疑いがあるのが、あの4人なのです。 闇市場に出入りしている噂があるヒフミさん、転校生のアズサさん、突然奇行に走るようになったハナコさん。 正義実現委員会のコハルさん……1人は本当に成績不順が理由ですが」
「疑いがあるだけだよね? あんまりだよ」
「考えられるリスクは、私情に流されずに可能な限り排除しなければなりません。 例え怨まれる事になっても」
近くのクッキーをボリボリしながら思う。
これ美味しい。 やっぱ茶菓子は最高だなって。
「ナギサちゃん、それは違うよ」
「はい?」
「私、おバカさんだから政治の事は難しくて分からないけど、人を信じてあげて。 疑いがある人が出る度に追い出したら平和になるかも知れない。 だけど、それって連邦生徒会長さんや、皆が思う平和じゃないよ。 疑心暗鬼になって、お互いを傷つけ合っちゃうよ」
「……そこで無礼を働く建築妖精の本拠地でも暮らせた、貴女が言うと違いますね」
2人とも此方を見てくる。
欲しいのか、クッキー。 けど残念。 食い尽くしてしまったもんね。
そう言うようにスニーク姿勢で右往左往。 腕を振り回して挑発しておいた。 羽がある癖に飛べない鶏め。 邪魔なら鋏で切ってやろうか。 それで羽ペンにしてやんよ。 或いは鶏肋くらいにはなるさ。
「そんなに食べたいなら、ロールケーキを直接口に捩じ込んで差し上げましょうか」
鶏が丸長ケーキを片手に持った。
料理研究中の同志曰く伊達巻だったかな。
卵と魚を使う料理だ。 食わせてくれるなら食わせてくれ。
ところがユメが割り込んだ。 どけユメ。 それ食べられない。
「暴力は駄目だよ!? この人達なりに感謝の気持ちを踊ってるんじゃないかなって!」
「なら見て下さいよ、あの太々しい顔ですよ!? 異文化にしても、ここはトリニティ、鷹揚と品位あるティーパーティの場です!」
「相手に乗ったら、それこそ品位を損なうんじゃないかな!? せめて筆談しよう、ね!?」
急に落ち着かれた。
かと思えば、紙に凄い勢いで殴り書きを始め、乱暴に押し付けられる。
読んだ。 筆圧が高いのか滲んでる。
解読出来る範囲だと、夜でも明るいですね周囲を焦がす程にとか、食事すると素敵なお召し物に早変わりですねとある。
松明の話か何かだろうか。 残念ながらクラフターには理解出来ない。 感情のままに首を傾げた。
「……この人達から手紙を貰った事があります。 エデン条約について、どこかで見聞きしたのでしょう。 拙い文でしたが、私たちの行く末を案じている内容でした。 ああ見えて、思慮深いのだとは思っています」
「うん。 本当は優しい人達なの」
「個人差があるようですが。 それは私たちにも言えることです、ユメ先生」
「……ナギサちゃん」
しんみりしている所悪いが、くれないのか。
もうテーブルの上に菓子が無い。
食べた訳じゃない。 インベントリにしまって後で食う。 ここで貰えるだけ貰う。 一々探して来るのも面倒であるし。
「リーダー。 マダム派の軍勢には些か腑に落ちない点がある。 2年もの間、碌な補給路もないのに装備や兵力、士気が殆ど減らず、逆に増強していく非常識がそう。 マダム派も外から装備を調達してるみたい。 一体、どうやって搬入したのか……」
「そ、それから幽霊とかバケモノを見たとかいう話まであります。 報告した人達は錯乱していたので、信憑性は怪しいですが……」
「そうか。 だがじきに終わる。 謎の究明をすることなく奴らを無に帰す。 それだけだ」
鶏学園の敷地。 その廃墟の1つ。
松明を刺して回っているところに、見知らぬ村人達が屯しているのが見える。
好みが合えば住処にする村人達の事だから、もしかしたら内見に来たか。 我々としてはリフォーム途中だから後にして欲しいのだが。
「……アズサはまだか?」
「アズサは来ない」
「ッ!?」
刹那、シュポポポと乾いた音。
銃声らしいが、いつもより音が控えめ。 閃光も瞬かない。 その癖に弾は出ているようで、村人達は地に伏せてしまった。
「ぐっ……!」
「救世主とやらの所為で、随分と腑抜けたようだな。 お陰であっさりと倒れてくれたじゃないか」
「なぜだ……私達がしくじったか?」
突然の出来事に物陰から凝視する。
ベイクドポテトがあれば食べていた。 無くて良かったと思う。 咀嚼音が響いてバレただろうし。
「お前達が裏切る恐れもあるが、1番は姫……アツコだ。 状況が悪化の一途を辿る今、彼女自らも表に出ようとしている。 その為の力が、生贄が必要だ。 時が来ただけに過ぎない。 元よりそう育てられたのだから分かるだろう」
「……分かった。 だから、皆には手を出さないで。 マダム、聞いてるのでしょう? 誓って」
『ええ。 全ての巡礼者の幻想である私、ベアトリーチェの名にかけて、お約束いたします』
「だ、だめだ姫! 行くな……!」
白フードに仮面の村人が攫われる。
その背に悲痛な鳴き声を上げる村人。
どんな状況? 荒らしの襲撃かな?
「……残るスクワッドはどうしましょう?」
『始末なさい』
「了解」
「ッ、どっちが裏切り者だか……!」
「"全ては虚しいものだ"」
「くそっ、ベアトリーチェッッ!!」
クラフターは抜剣し飛び出した。
エンダーパールを投擲。 ワープ先、村人にトドメを刺そうとしていた奴に挨拶がてら斬撃を浴びせる。
「ぐあっ!?」
「なっ、敵襲!」
左手に盾を構えて銃撃を耐える。
その間に右手を持ち替え。 毒スプラッシュを投擲。
「ガスマスク相手にそんなもの、ぐっ!?」
「な、涙が……神経毒!?」
「触れてもない筈なのに、ゲホッ!」
銃口の方向が歪み、適当に撃ち始める。
苦しみながら仮面を外す者、激しく涙や咳き込む者。 見ただけで効果が見える。
とはいえ、それだけだ。 死にやしない。 それは随分と前の経験で知り得ている。 けれど戦闘意欲を削ぐには十分過ぎた。
その間にも、クラフターは順番に殴ってあげた。 最早剣を使うまでもない。 耐久値が勿体無い。
「……た、助けてくれたみたいです」
「外の人も、そうなんだね」
「だが今は……早く姫を助けないと……!」
クラフターとしては村人同士の関係に干渉したくない。 面倒だし。 ただ、荒らしなら潰さねばならない。 潰して奴らの装備を剥ぎ取らねばならない。 そう合法的に。
「時間が無くなってしまった。 アズサに後続を頼む。 私達は直ぐに自治区に戻り、姫を、アツコを連れ帰る! 最悪、味方の突入を待たずにバシリカに向かう!」
村人がゾンビを見た時のように慌ただしく動き始めるから、クラフターも後に続いた。
そうして地下に潜り、やがて彼の地で各々の派閥が邂逅し、混沌と化すのは、もう少し先の話である……。
更新常に未定
急足になってる感も。