蛇足。他作品等を参考にしつつ妄想。
原作ではエリドゥはヒマリの管理になり、本人は学校から姿を消しますが……。
「私は間違えていたのかしら」
「リオ様……」
哀しみに身を任せて学舎を去ろうとする主人を、トキは静かに眺めるしかなかった。
言ってしまえば、最初からトキ自身はこの計画に乗り気では無かった。 ただ、目の前の少女───調月リオがどれだけ努力をしてきたのかを知らないトキでもない。 生徒会長に選ばれた際、皆から漸く認められたと喜んだリオを知っている。 リオの願いである日常を守るのに、皆が言うところの凡人でも分かるように必死になって噛み砕いたレポートを内外に流布させようとしたのも知っている。 これで皆に少しでも恩を返せると僅かに微笑みを見せてくれたリオを知っている。 大人に使える技術だけを奪われ、計画自体は鼻で笑われて絶望を浮かべたリオを、トキは知っている。
だから間違っていると分かっていながら、指摘する事もなく協力してしまった。
彼女も間違っているけど、世界も間違っている。 そう自分に言い訳をして。
だけど結果はどうだ。
己は悉くしてやられた。 キヴォトスを救う筈だった要塞都市は魔王に利用され、危うく世界滅亡の始発点。 恩を仇で返すところだった。
全ては異端者にして救世主……マインクラフターの活躍で収拾したが、今回の1を捨て10を救う、トロッコ問題な計画が露呈したリオは益々嫌われて、深い傷跡を心に残してしまった。
「私もお供します」
そう、後に続こうとした刹那。
先生と救世主はやってきた。
「待ってリオ! 話をさせてくれないかな?」
嗚呼、願わくば。
リオ様をもお救いください。
ついでに私も救ってくれて良いのですよ。
筆談のままに、先生と共にエンダーなリオの元へ再度訪れた。 側には敵対していた村人を侍らせている。
今でこそ冷静さを取り繕ってはいるが、正直ウィザー級の飛び道具無力化チートと敵対した時は流石の歴戦足るクラフターも焦った。 加えて高速かつ高機動力。 動体視力だけで対処出来る相手ではない。 水でアッサリ弱体化した時は拍子抜けだったが。
まあ、攻略法を知り得た今、焦る必要は無いが。 装備も剥ぎ取ったし。
さて筆談の通り、先生の取引を護衛。
見たところ非武装だが、よくよく考えてみれば都市とエビ・ピラフを作った陣営だから予備や更なる装備を隠していても変じゃない。
2人のうちの1人が完全にC&Cから紛れ込んできた格好をしているのも警戒ポイントだ。
「リオ。 今回の事はトロッコ問題に例えられるかも知れない。 けれど、相談する相手がいたら、違う結果を出せたかも知れないよ」
我々からすれば早く終わらせて、都市観光をする方が重大であるため、もう斬り捨てたいとすら思う。
だがアリウスと違うタイプの地主だ。 荒らしを何とかしようとして荒らしになりかけたらしいし判断に困る。 何とかする過程でアレコレ作られたのも我々に似る。 出来れば生かしたい。
「そうね。 けれどヒマリが私を嫌うように、適切な相談相手はいなかった。 いつもそう、昔からよ」
「トキは違うのかい?」
「トキは方向が違うわ」
分野が違うと、それだけ刺激になる。
話が合わないのも多々あれど、ふとした表紙に歯車が合致すると面白い。
「ならマインクラフターがいるじゃない」
「彼等が……?」
「口では伝わらないけど、文字でなら分かる人たちだよ。 理解出来ないところがあるのはお互い様だけど、他人ってそういうものじゃないかな。 同時に互いに出来ない事、足りないものを補完してくれる存在でもあると思う」
その辺に散らばる、色々と書かれた紙を眺めてみる。 これも中々面白い事が書いてあるではないか。
要塞都市エリドゥとアビ・エシェフの資料。
アバンギャルドの諸元表。 人物データ。
そしてAIやAL-1S。 多くは理解出来ない言葉や説明だが、何かとてつもない気がしてきてワクワクした。
作成者はリオとある。 本人を見た。 驚愕や疑問の表情を浮かべていた。
「ほら、今だって資料を読み漁っては楽しそうな顔で頷いているよ」
「本当に理解しているのかは分からないのだけれど。 でも、私自身の事を理解しようとしてくれているのね」
リオが微笑んでいる。 ある種、的外れな感情を向けられて笑っている。 対してクラフターも笑う。 憐れむように見下すように。
ぼっちクラフトは時々寂しいもんな?
同情の念を抱き莞爾として頷いた。
マルチクラフター故に理解を示そう。
トリニティにも本に囲まれた孤独の村人がいたが、そういう類に似る。 繁殖も出来ずゾンビに食われて死ぬのを待つ可哀想な存在よ。
そう互いに勘違いのままに微笑み合う。 言葉が通じない事の不便と利便性よ。 文化の壁は残酷なまでに優しいのだ。
「友達は大切だよ。 誰でも色んな事を経験する。 1人で考え過ぎてはいけない。 自己完結が過ぎれば、他人に意見1つ伝えられない寂しがり屋になっちゃうよ」
我ながらよくもまぁ、上からものを眺める笑みが出来るものだ。
互いに越えられない超常存在が数多跋扈し蹂躙されても尚腐らず、追いつけ追い越せ作り返せと足掻き続ける創造者共は、確かに能力だけに胡座をかかず、この人生を生かそう楽しもうと行動出来る者共だ。 言ってしまえば微塵も隙は無い。
マインクラフターである我々と己の力のみで事を成そうとするソロクラフターのリオと他人では、目指すものからして大きく異なるというのは瞭然だ。
だからこそ、クラフターは目の前の存在を憐れむのだろう。
村人科学も常識も定説さえも覆す、無名の神々とは別次元の存在も知らず、他者と関与せず研究に明け暮れる無知な少女を嘲笑するのだろう。
「えっ?」
だからこれは餞別だ。
目の前にケーキを置いた。 慶事には欠かせない祝辞のようなものだ。 堂々食え。
「床に直置き!? 励ましなんだろうけど!」
「……安全性の保証は?」
「なるほど。 敗者らしく這いつくばって食って詫びろという罰ゲームですね」
「たぶん違うよ!? この人たちは異文化だからね、皿とか食器の概念が薄いんだ!」
別に驚く事でもないだろう。 今更である。
事実、様々な場所でこうした行為は繰り返されてきた筈だ。
ああ、村人的には机や皿や食器なる存在が必要であるか。 トリニティではそうだった。
「では毒味をします……ご馳走様でした」
「完食!? 食べるの早いね!?」
「毒は……無かったようね」
騒ぐ村人を他所に書類を再度眺める。
ここまでの経緯などを理解してくると、同情の念も湧いてくる。 いや荒らしを肯定する気は無いが蚊帳の外にいる筈の大人なる存在も随分と邪悪だ。
ソロのリオの夢を嘲笑しておきながら奪えるものは奪い尽くすなど、それこそ荒らしのソレではないか。 リオの人格にこそ問題はあったかも知れないが、助力を得られなくても諦めずに1人でも何とかしようとしたのは称賛したいところだ。 結果はコレだが。
兎に角、資料や今までの経緯を知るに、一概にリオだけを責める訳にはいかない。
言ってしまえば、同じクラフターとして、同志として、どうにも他人事には思えないのだ。
きっとリオと要塞都市に絡んだ今回の事件は、我々が絡まなければより悲惨に、或いは我々の世界でもあり得た未来だ。
もし仮に要塞都市に我々が乗り込まなければ、もし仮にこの地に興味が湧かなければ、もし仮にアリスを止めるのに失敗していたら。
どれもあれもたらればの話だ。 だがどれか1つでも実現していたら、きっと、リオのように孤独に、悪夢に蝕まれていたかも知れない。
なんなら絶望して荒らしに転化し、世界を滅ぼしたかも知れない。
なにせ我々にはその力がある。 昔程ではないにせよ、我々は面倒な村人社会に興味が無いのだ。 実際に負の立場になれば安易に想像出来る。
ふと1枚の紙切れが目に入る。
他と違い皺くちゃで、字体が乱れ、濡れた痕がある。 拾い読めば、何となく感情が伝播してくるようであった。
最初は楽しげに生き生きとした書き方で、そして嬉しそうだった。
後半は絶望。 ぶつけようのない、頼りも縋る相手もいない孤独感と苦痛を、無理矢理創造物にぶつけたようだ。 字は最早読めない染みでしかないが、悔しそうで、泣いて、悲しそうだった。
感じたのはそれだけで、相変わらず文字の意味や説明は理解出来なかった。
「───でも、もうこんな事はしないね?」
「分からない……いいえ、きっと、今度こそとやり遂げようとする。 頼りもないなら尚更に。 もし、また世界の危機が訪れたその時は……!」
「私も手を貸す以上、リオ様がやるという限り最後まで協力する気です」
先生と目があった。 お辞儀された。
先生はクラフターかといえば違うような気がするが、人を導き教える姿は眩く立派だと思う。
「私はユメ先生じゃないけれど、きっと同じ
事を言うだろうね……クラフターさん、友達になってあげて欲しいな」
本と羽ペンを渡され、リオに視線を向ける。
クラフターに文字ではなく行動で示すとは。
それも妙に優しげな目で。 正直不快だ。 他人に指図されるのを我々は大いに嫌う。
そしてここにきて、先生らしく導く姿を見せられても対応に困る。
だから、己がするのは決して同情ではない。
確かにマインクラフターは村人の文字や意図を何となくで読むが、それはつまり、その村人の苦しみや悲しみや喜びが理解出来るという訳ではない。 あくまで自己解釈の情報として捉えるだけで、本音やそれ以上は何も分からない。 この先も理解出来るとも思えない。
なにせ我々は正義の味方じゃない。
村人想いでも紳士でも有りはしない。
我々はただのマインクラフターだ。
また村人の為のクラフトをしてしまった。
後悔は無いが妙な悔しさがある。
ミレニアムサイエンススクールのバイオームは現在も、リオを地主としたままの村人社会が形成されている。
今までと異なるのは、リオにマインクラフターの未解明な技術も合わさり、毎日が騒がしくも活気に溢れる事態になった事だろう。
まぁ理解出来ない存在なんて、元々キヴォトスに沢山あるし、暫くしてミレニアム生は半ば諦観するように受け入れた。 その上では、なんだかんだ技術と利便性は目覚ましい程に飛躍、進化したと言えるかも知れない。
中にはそうした技術を金儲けや権力拡大に利用しようと企んだ大人も接触してきたが、その度に相次ぐ謎の事故により破綻して終わるらしい。
現場に居合わせた生徒や大人は、透明人間に襲われただの銃撃ではなく剣撃を受けただの、非科学的なんだか違うんだかな意味不明な妄言をのたまうらしいが、きっと面倒な村人社会で疲労が溜まっていたのだろう。
あと、少し変わった事といえば、リオの侍女なトキがC&Cの皆に堂々合流した。
リオも倣うように、不器用ながら共に交友関係を伸ばしているらしい。 アリスら開発部と険悪な仲であったヒマリとも和解したそう。
我々としては村人の交流事情なんて知っちゃこっちゃない。 勝手にして青春とやらを謳歌して作って楽しんで建物を壊さずに平穏に生きて欲しい。
我々に迷惑を掛けなきゃ良いんだ。
だがまぁこんな村人の日々に慣れてくると、僅かにも楽しいと感じてしまう辺り、己も随分と毒されていると溜息が出てしまうが。
「ちょっと時間良いかしら。 新しい装置を、いえ、芸術品を作ったのだけれど、品評をお願いしても良い?」
今すぐ行く。
評価用の本と羽ペンを用意して待っていろ。
後書き
更新常に未定。