転生したら没落貴族だったので、【呪言】を極めて家族を救います【✨書籍化】   作:メソポ・たみあ

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第3話 努力を始めよう

 

 〝魔沸〟はかなりの頻度で身体を襲った。

 

 最低でも月に一回。

 多い時は一~二週間に一回。

 

 その度に喉が痛みに襲われ、高熱を出して死にかけた。

 

 もう、もう本っ当にしんどかった。

 いっそ殺してくれとすら思ったよ……。

 

 まあそのお陰で、意識して〝魔沸〟を抑えるのは上手くなった気がする。

 

 自己暗示が上手くなったというか、なんというか。

 

 沸き出ようとする魔力を、より身体の奥底にぐっと抑え込めるようになった感覚があるんだよな。

 

 たぶんプラシーボ効果じゃないと思うんだけど。

 

 そうしてなんとか〝魔沸〟の波を乗り越え続け、生後半年が経過する頃には発生頻度が徐々に低下。

 

 生後十一ヵ月が経った今では、月に一回起こるかどうかとなり、以前ほどの高熱も出さなくなった。

 

 身体が成長したからかな?

 個人的には命の危機は去ったと感じている。

 ひとまずは安心だ。

 

 ――と思っていたのだが、

 

「う~む……あまりにも奇妙ですな」

 

 ある日、〔刻印の儀〕を行った白髪の老人が尋ねてきた。

 

 彼の名はベルトレ卿。

 

 儀式後の経過を見に来たんだとか。

 

 まだ詳しいことはわからないが、この世界には『魔術協会』という組織があって、ベルトレ卿はその一員らしい。

 

「通常、〝魔沸〟は生後三ヵ月程度で収まります。一年近くも続いた話など聞いたことがありません」

 

 ベルトレ卿は椅子に座り、テーブルを挟んで対面する父と母に言う。

 

「それに、多くの場合手のひらや胸部に刻まれる〝刻印〟が喉に現れた……。それも含め、ご子息は特異過ぎる」

 

 父は一瞬母と顔を見合わせ、

 

「だ、だが〝魔沸〟に関しては段々弱まってきていて……」

 

「それも不可思議です。何度目かの山場を乗り越えれば、〝魔沸〟はパタリと止むはず」

 

「で、では息子は何故……?」

 

「わかりませぬ。考えられるとすれば、並外れて強大な魔力を有している……でしょうか」

 

「強大な魔力……」

 

「しかし仮にそれほどの魔力なら、身体が耐え切れず命を落としてしまうはずなのですが」

 

 ああ……だろうね。

 

 実際大変だったよ。

 〝魔沸〟の度に必死で魔力を抑え込むのは。

 

 ベッドに寝そべりながら聞き耳を立て、ベルトレ卿に内心でそう突っ込む。

 

 しかし、強大な魔力ねぇ……。

 

 なんだかいいこと聞いたかも?

 

 両親たちの話を色々盗み聞きして、最近ようやくわかり始めたところなんだよな。

 

 この世界の魔術(・・・・・・・)が、どういうものか。

 

 ――この世界に、魔術は確かに存在する。

 

 だがそれは、決して誰でも簡単に扱えるような代物ではなかった。

 

 そもそも魔力を持って生まれてくる者が、極少数だからだ。

 

 おまけにその出生確率は血筋によって大きく左右される。

 

 親が魔力を持つなら子も魔力を持つ、という可能性が強くなるのである。

 

 故に、この世界での血統価値は〝魔力の素質を持つか持たざるか〟。

 

 その素質が濃い血を持つ者たちが、特権階級たる貴族の地位を占めている。

 

 要は魔力=青い血ってこと。

 

 スプリングフィールド家が没落したのも、魔力を持つ者をずっと輩出できずにいたためだ。

 

 この世界では、それほどまでに魔力が重要視されているということだろう。

 

 ……とはいえ血統も魔力も、あくまで潜在的な素質。

 

 そのままでは地中に埋まったダイヤの原石と同じ。

 

 だから血統を持つ者は――生まれた直後に〔刻印の儀〕を受ける。

 

 あれはどうやら、潜在的な魔力を解放・制御する儀式だったようだ。

 

 理屈は不明だが、〝刻印〟がないと魔力をコントロールできないんだとか。

 

 しかも〝刻印〟は生後すぐにしか身体に定着せず、加えて儀式は激痛を伴うため死者が出ることもザラ。

 

 そのため貴族たちの子供は死亡率が高く、次男三男が家を継ぐことも多い――なんて父が話していた。

 

 そう考えると、あれだけの〝魔沸〟を経て死ななかったのはラッキーだったのかもな。

 

 また〝刻印〟は普段は目に見えず痕の感触もないが、〝魔沸〟の時だけハッキリと発光するのも特徴。

 

 たぶん魔力を込めた時だけ浮き出るのだろう。

 

 僕は首元なんて目立つ場所にあるからな。

 これは助かるよ。

 

 ――いずれにせよ、僕は強い魔力を持ったまま生き残れた。

 これは事実。

 

 フフフ……最初はどうなるかと思ったけど、意外と未来は明るいかもなぁ?

 

「あの……一つ、気になっていたことがあるのですが……」

 

 不意に、母がそう切り出す。

 

「以前から思っていたんです。あの子……リッドは、〝魔沸〟が起きる度に自分で魔力を抑え込んでいるんじゃないかって」

 

「ご自分で、ですか?」

 

「はい。確証があるワケではないのですが、なんとなくそう感じていて……」

 

 お……?

 

 マジか、驚きだ。

 まさか母が気付いていたとは。

 

 でも思えば、母は〝魔沸〟の度に付きっ切りで看病してくれてたもんな。

 

 それだけよく見ていてくれたってことだ。

 ありがたい話だよ。

 

 父も母も優しくて子供思いな人たちだし、大きくなったら魔力で恩返しできるといいなぁ。

 なんて――

 

「ううむ、にわかには信じられぬ話ですが……もしそれが本当ならば、ご子息は非常に危険な状態やも……」

 

 ……うん?

 

「〝魔沸〟は幼体に蓄積できない余分な魔力を、〝刻印〟を通して体外に放出しようとして起こる現象。それを抑えるとなると……」

 

「ど、どうなってしまうんですか……?」

 

「前例がないので如何とも言い難いですが……行き場を失い、溜め込まれた魔力がいつ暴走(・・)してもおかしくないのでは、と……」

 

 は…………はあああああああああああああああああ!?!?

 

 なにそれ!?

 初耳なんですけど!?

 

 いや、そりゃこの世界のことは大概初耳ではあるが!

 

 魔力の暴走だって!?

 それ絶対命に関わるよね!?

 冗談じゃない!

 

 これまで死にたくないの一心で頑張ってきた行為が、逆効果だったってのか!?

 

「いずれにせよ、ご子息の身体には既に膨大な魔力が溜め込まれているはず。しかも〝魔沸〟が続いているとなれば、魔力は今後も……」

 

「そ、そんな……!」

 

「未だに臨界点を超えていないのは、奇跡とすら言えるでしょうな」

 

「ど、どうにかして魔力を放出する方向はないのですか!?」

 

「理想的なのは、魔術を発動して魔力を消費すること……ですが、そう簡単ではありません」

 

「な、何故……」

 

「〝刻印〟で魔力をコントロールできても、魔力を魔術に変換する〝詠唱〟の学問を納めねば魔術は使えません。そして生後間もない幼子が〝詠唱〟を覚えるなど不可能……」

 

 彼はなんとも言い難そうな顔をして、

 

「正直に申し上げて……魔力が暴走しないよう祈る以外、我々にできることはありません」

 

「あ……あぁ……!」

 

 泣き崩れる母。

 それをそっと抱き締める父。

 

 ――【悲報】。

 たった今、生存の難易度(ハードル)が劇的に上がってしまった模様。

 

 マジで?

 魔術が使えるようになるまで、暴走の恐怖に怯えて生きなきゃならないのか?

 

 それにたぶん、アレだよな。

 魔力の暴走って、急にボン!って爆発するみたいな感じだよな。

 

 臨界点を超えた瞬間、身体の内側から破裂するように魔力が溢れて――

 

 ……嫌だ。

 これ以上考えたくない。

 

 しんどい……。

 しんど過ぎる。

 

 貧乏貴族に生まれて、

 〝魔沸〟とかいう苦しみを味わって、

 さらに魔力の暴走に怯えて生きろと。

 

 どう考えても人生ハードモードじゃねーか!

 チクショウ!

 ふざけんなぁ!

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 いや、でも待てよ?

 

 今〝詠唱〟を覚えなきゃいけないって言ったよな。

 

 逆に言えば、〝詠唱〟さえ覚えれば魔術は使えるってことか?

 

 だったら――いけるかも?

 

 身体こそ赤ちゃんだけど、意識は大人なんだし。

 

 なにか資料があれば、ワンチャン独学で学べると思う。

 

 幸いウチには本棚があるし、〝詠唱〟に関する本もあるかもしれない。

 

 文字を覚えて色々と読み漁れば……。

 

 ――うん。

 やってみよう。

 

 なにもせずにいるより、ずっとマシだ。

 

 もっとも、色々試せる年齢まで成長しないとだけどな。

 

 あと一年もすれば歩けるようになるだろうから、それまでの辛抱だ。

 

 暴走せず持ってくれよ、リッド・スプリングフィールドの肉体……。

 

 とりあえず、今から〝詠唱〟とやらの練習だけでもしておくか。

 

「あぅ、ぶーぶー。だだだー」

 

 ……そういえば、まだ赤ちゃん言葉しか話せなかったわ。

 

 前途は多難だな……。

 

 そんなことを思いつつも――この日から、魔術を使うための努力を始めたのだった。

 

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