転生したら没落貴族だったので、【呪言】を極めて家族を救います【✨書籍化】   作:メソポ・たみあ

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第4話 成長

 

 ――三年。

 

 この世界に転生して、三年が経った。

 

 今は本を読んでいる。

 古くて分厚い、えらく年季の入った古書を。

 

「……この本も読み終わっちゃった」

 

 パタリと本を閉じ、本棚へ戻そうとする。

 ……が、戻せない。

 

 思い切り背伸びをしても、本が元々あった場所へは背丈が足りないのだ。

 

 なにせまだ三歳だからな。

 

「う~……! ダメだ、後で父様か母様に戻してもらおう……」

 

 仕方なく諦め、本を抱えたままさっきまで座っていた椅子へと戻る。

 

 ――最近は、本を読んでばかりの生活を送っている。

 

 ようやくこの世界の文字に慣れたのと、少しでも多く魔術の知識を得たいから。

 

 でも家にあった魔術関連の本は、あらかた読み終えてしまった。

 

 正直新しい本を買ってほしいけど、ウチは貧乏だから我慢我慢……。

 

「――ただいま、今帰ったぞ!」

 

 剣を片手に携えた父ゲオルクが、満足そうな顔で帰って来る。

 

 今日は領民の子供たち剣術の指導をしてきたらしい。

 

「お帰りなさい、父様」

 

「おおリッド、今日もいい子にしてたか?」

 

「うん! 僕、いい子で待ってたよ」

 

 ()は父の帰りを笑顔で出迎える。

 

 我ながら、子供らしい振る舞いがもうすっかり板についたものだ。

 

 遅れて母ロザベラも部屋の奥からやって来て、

 

「お帰りなさい、あなた。剣術の稽古はどうでしたか?」

 

「うむ、子供たちは皆真剣に取り組んでくれたぞ。特にデールのとこの長男坊、あれは将来いい剣士になれるかもなぁ」

 

「うふふ、それはなによりです」

 

 壁に剣を立て掛ける父。

 

 彼は定期的に、領民たちに対して直接武芸の稽古を付けている。

 

 フォレストエンド領はド田舎であるため、駐在の兵士がほとんどいない。

 

 基本的に、領民は「自分たちの身は自分たちで守る」というスタンスなのだ。

 

 そして父ゲオルクは、剣術を始め弓や槍など様々な武芸に精通している。

 

 特に剣技の腕前が自慢らしく、「昔、領内の森に入り込んできたミノタウロスを斬り倒したこともあるぞ!」とのこと。

 

 もう完全に剣客である。

 強い。

 

 ……だが、それだけの腕前を持っていても国の中では冷遇されている。

 

 この国『グラスヘイム王国』においては、魔術こそ権威と力、そして優雅さの象徴。

 

 剣術などの武芸は野蛮と見做され、特に貴族たちからは嫌われているそうな。

 

 それでも、父は自分の剣術に誇りを持っている。

 

 僕もそんな父が誇らしい。

 

「む? なんだリッド、今日も本を読んでいたのか?」

 

「うん。もう読み終わった」

 

「いやはや、お前には驚かされるな。まさか三歳でもうそんな難しい本を読むとは……」

 

 ちなみに、今日読んでいたのは〝グラスヘイム王国の魔術とその成り立ちについて〟という本。

 

 タイトル通り、小難しい内容であった。

 

 どう考えても三歳児が読むモノではなかったな。

 でもこちとら命が掛かってますからねぇ。

 

 今日まで無事に生きてはこられたけど、いつ魔力が暴走するかわからないんだから。

 

 吸収できる知識はなんでも吸収しないと。

 

 そんな僕に母も感嘆とした様子で、

 

「リッドは本当に聡明な子ねぇ。たまには絵本を読んでもいいのよ?」

 

「や! こういう本がいい!」

 

「ハハハ、知識欲が旺盛なのはいいことだ。だが中々新しい本を買ってやれなくてすまないな」

 

「ううん。それより父様、僕にも剣術教えて?」

 

「えぇ? い、いやぁ……流石にまだ早くないか……?」

 

「そうよリッド、あなたの歳じゃまだ剣を持つのだって難しいんだから」

 

「むぅ」

 

 むすっと頬を膨らませる僕。

 

 剣術って、覚えて損はないと思うんだけどなぁ。

 

 この世界、普通にモンスターも生息してるワケだしさ。

 遠い国では戦争とかしてるらしいし。

 

 いやまあ、魔術を使えるようになるのが先だろと言われればそうなんだが。

 

 だけど……その魔術が正直、難航してるんだよな……。

 

「それよりリッド――今日も魔術の練習、するか?」

 

「! うん、する!」

 

「よーし、それじゃあパパと一緒に庭へ行こう。今日こそ上手くできるといいな」

 

「あなた……」

 

「大丈夫さ。今日も(・・・)ちゃんと帰ってくる。夕食を準備をして待っててくれ」

 

 父は母にそう言い、僕を連れて家を出る。

 そして広い庭まで歩くと、

 

「パパはここで見てるから、ゆっくりやってごらん。……それと、いつも言ってるが――」

 

「変な感じがしたら、すぐにやめる!」

 

「そうだ。リッドの魔力は、その……少し不安定みたいだからな」

 

 不安を隠すように父は言う。

 

 ……父も母も、未だに溜まり過ぎた魔力の暴走を恐れている。

 

 それは僕も同じだ。

 

 両親は僕がそれを理解してるとは思ってないだろうけど。

 

 ――魔力の暴走は恐ろしい。

 

 もしかすると、今日の魔術の練習でその日が訪れるかもしれない。

 

 だが少しずつでも発散していかねば、溜まり続けた魔力はずっとそのまま。

 

 まったくジレンマだ。

 

 幸い、今は〝魔沸〟も完全に収まっている。

 

 だからこれ以上魔力が溜まってしまうことはない。

 

 だったら圧力鍋の中に溜まった蒸気のような魔力を、安全弁からシュッと抜いてやればいいだけなのだが――

 

「――〔ファイヤーボール〕!」

 

 小さな腕をバッと前に突き出し、叫ぶ。

 しかし――なにも起こらない。

 

 もう一度。

 

「――〔アイススピア〕!」

 

 もう一度。

 

「――〔ライトニングアロー〕!」

 

 も う 一 度 。

 

「うぅ~……――〔エターナルフォースブリザード〕!!!」

 

 シーン……という静寂。

 

 もうまったく、なにも起こってくれない。

 

 いつもと同じだ(・・・・・・・)

 

 ――この世界の文字が読めるようになってから、僕は独学で魔術を勉強した。

 

 特に〝詠唱〟に関して。

 

 わかったのは、〝詠唱〟とは魔術を発動する際の引き金であるということ。

 

 ざっくり言えば〝魔術の名を口に出すことで発動できる〟――と本には書いてあったのだが……一向に上手くいかない。

 

「う~ん……どうして魔術が出ないんだろう……?」

 

 実は、ウチにあった本には〝詠唱〟に関する詳細な情報が記されていなかった。

 

 魔術の成り立ちとか概念の本ばかりで、具体的なやり方に言及したモノがなかったのである。

 

 家系的に百年も魔術との関わりが絶えていたワケだからな。

 専門書がないのは仕方ない。

 

 だからぶっちゃけ「たぶんこんな感じ?」と大雑把なイメージで僕はやってる。

 

 だってわからないんだもん。

 なら手探りで色々試すしかないじゃん?

 

 実際――出せそうな感触(・・・・・・・)はあるのだ。

 

 身体の中で魔力が蠢くような実感が。

 

 でも、体外へ出る直前で喉元につっかえるような感覚に陥る。

 

 ――そう、〝喉元〟。

 

 なんだか魔術を使おうとする度に、喉に違和感があるような……。

 

「……なんだかリッドを見ていると、ご先祖様の言い伝えを思い出すなぁ」

 

 その時、父がポツリとそんなことを言った。

 

「ご先祖様……?」

 

「ああそうだ。スプリングフィールド家の英雄、ルーク・スプリングフィールドの言い伝えさ」

 

 父は、ゆっくりと話し始める。

 

「今から百年前、スプリングフィールド家に偉大な魔術師が生まれた。その名はルーク。彼は魔術の天才で、一代でスプリングフィールド家を公爵の地位に引き上げるほどの功績を上げたんだ」

 

「へぇ~、すごーい!」

 

「でも意外なことに……ルークは最初、魔術を使えなかったらしい」

 

「え……どうして?」

 

「それはわからない。とにかく俺が聞いた話では、子供時代は所謂落ちこぼれだったとか」

 

 ……子供時代に魔術が使えない。

 確かに僕と同じだ。

 

 なら、どうやって魔術が使えるようになったんだろう……?

 

「しかしとある魔術師と出会ったルークは、それから魔術が使えるようになった。そして英雄とまで謳われるようになったんだ」

 

「その魔術師って?」

 

「さあな、言い伝えでは名前が残ってないらしい。そもそもルーク・スプリングフィールドって人物自体にも謎が多くてな……」

 

 父はため息交じりに言う。

 だがすぐに気を取り直してこちらを向き、

 

「だからリッドも、誰か魔術師と出会うようなきっかけさえあれば、魔術を使えるようになるんじゃないか――そう思ったんだ」

 

「魔術師との……出会い……」

 

 ほぉ……参考になる話だ。

 興味深いな。

 

 出会い……きっかけか……。

 

 そう言われても、フォレストエンド領には他に魔術師なんていないしなぁ。

 

 どうしたものか……。

 

「ま、近々〝魔術学校〟へ顔を出すことになるんだ。その時にでも話を聞いてみよう」

 

「……魔術学校?」

 

「そうだ。魔力を持った貴族の子供は、六歳になると『ウィレムフット魔術学校』に通うことになる」

 

 そういって父は僕の頭を撫で、

 

「だがその前に――まずは三歳の年に、魔力の測定を魔術学校で行うんだよ」

 

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