転生したら没落貴族だったので、【呪言】を極めて家族を救います【✨書籍化】   作:メソポ・たみあ

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第55話 かの英雄のように

 

 ――〝謎の【呪言使い】〟を取り巻く事件は、グレガーの逃走とボリヴィオ伯爵の死亡という形で幕を閉じた。

 

 グレガーを退けた後、クーデルカはすぐに『魔術協会』に連絡。

 

 数日後には王国兵士や協会の魔術師たちが派遣されてきて、ボリヴィオ伯爵邸の徹底捜索が行われた。

 

 結果、ボリヴィオ伯爵が言っていたように叛逆(クーデター)を計画していた証拠を大量に発見。

 

 溢れんばかりの武器防具、

 領民から横領した金銀財宝、

 他にも他にも……まあ出るわ出るわ。

 

 おまけにボリヴィオ伯爵自身も、伯爵という身分から考えれば異常なほど贅沢な暮らしぶりをしていたことも発覚する始末。

 

 僕たちが捕らえた執事を始め、雇われていた用心棒も知っていることを全て白状したことで、ボリヴィオ伯爵の罪状が確定となった。

 

 ……もっとも、裁かれるべきボリヴィオ伯爵自身が既に死亡してしまっているでは、なんともやるせない気持ちだけれど。

 

 ともかく、今後ケイモスヒル領は新たな領主によって治められることとなるらしい。

 

 領民たちから騙し取ったお金も、きちんと元の持ち主に返されるそうだ。

 それだけでも不幸中の幸いと言えるだろう。

 

 そして当然のことながら、グレガーもお尋ね者として手配書が作られることになった。

 

 身柄には莫大な懸賞金がかけられ、手配書は遠からず『グラスヘイム王国』全土にばら撒かれるという。

 

 『魔術協会』の人たちもあちこちに人を派遣し、捜索を開始する予定だそうな。

 

 ……それで捕まるかは、正直わからないけれど。

 

 まあともかく、事件は一件落着。

 

 事件を解決した僕ら一行は、魔術学校へ帰るべく馬車に揺られていたのだが――

 

「……気に食わん」

 

 馬車の中で、ピサロはプクーと頬を膨らませていた。

 

「納得いかん。どうして俺が気絶している間に、なにもかも終わっているんだ」

 

 如何にも「不服だ!」と言いたげな顔をするピサロ。

 

 街を出てから、彼はもうずっとこんな感じである。

 

 たぶん、もっと色々と活躍したかったんだろうな……。

 男の子だもんね……。

 それにキミはプライド高いし……。

 

「そ、そう言われてもなぁ……。ピサロだってほら、ちゃんと活躍してたじゃない? 宿の中で刺客を迎え撃とうとしてさ」

 

「アレは不意を突かれたという。まったく、とんだ失態だ。恥晒しもいいところだ」

 

「で、でも、皆無事でよかった。私、本当に安心しちゃったよ」

 

 プンプンと怒るピサロをなだめるカティア。

 

 今回、彼女は直接戦いに参加したりはしなかったけれど、それでも相当に怖かったはずだ。

 

 きっと彼女にとっては、一つの大きな試練のように感じられていたかもしれない。

 

 なんといっても、まだ六歳の女の子だからね。

 恐怖で足が竦んで当然だ。

 

 むしろ僕やピサロが特殊なだけで……。

 普通、六歳児が実戦で戦うなんて無茶無謀だよね……。

 

「むっふっふ、カティアの言う通りですよ。アレだけの相手を前に、皆が五体満足で帰れることを喜ぶべきですね」

 

 僕たちが話していると、クーデルカが如何にも先生らしい物言いをしてくる。

 

「ま、これも私が教師として優秀だからでしょうね! 私ってば流石! 百億兆点!」

 

「あれ~? 途中でぐでんぐでんに酔っ払って、教え子に宿まで運ばれた先生は誰だっけ? ねぇクーちゃん?」

 

「ふぐぅっ……! だ、だってアレは不可抗力と言いますか……ゴニョゴニョ」

 

「冗談だよ。あの時のクーちゃん、とっても可愛かったなぁって言ってるだけ」

 

「リ、リッド! 貴方、やっぱり私のこと舐めてますよねぇ!? 師匠をからかうなと何度言えば……!」

 

「――ぷっ、アハハハハ!」

 

 大きな声で笑う僕。

 それに釣られて、カティアやピサロも笑顔を見せる。

 

 ああ――なんだかようやく、僕たちの日常に戻れたような気がするよ。

 

 思えばケイモスヒル領に来てから、ずっと気を張りっぱなしだったもんなぁ。

 

 なんて僕が心の中で思っていると、

 

「……とはいえ、今回ばかりはリッドに感謝しなければいけませんね」

 

 ふぅ、と小さく息を吐き、どこか申し訳なさそうにクーデルカが言った。

 

「え……?」

 

「あの時貴方が来てくれなければ、私は今頃どうなっていたか……。師匠として恥ずべきですね。本当にありがとうございます、リッド・スプリングフィールド」

 

 彼女は帽子を深く被り、小さくお辞儀をしてくれる。

 

 あの時って――屋根の上で【呪霊】たちを吹っ飛ばした時のこと?

 い、いや、あんなの助けに入るのは当然で……。

 

「や、やめてよ、そんな改まって……恥ずかしくなっちゃうじゃん……」

 

「あ、リッドくん赤くなってる~! 可愛い~!」

 

「ちょ、ちょっとカティア……!」

 

 ち、違う!

 僕は決して照れてなどいない!

 

 別にクーちゃんに褒められて嬉しいとか、そんなんじゃないから!

 

 うぅ……クーちゃんって時々、こういうズルい(・・・)ことするんだから……!

 

 クーデルカは真剣な面持ちで話を続け、

 

「それに、〝呪言〟を使って【呪霊】に声を届けようとしたあの技……。初めてこの目で見ましたが、見事と言わざるを得ません」

 

 ――そう、彼女は僕が〝呪言〟を使って【呪霊】たちと意思疎通を図れることを知っている。

 でも、見たこと(・・・・)はなかった。

 

 フォレストエンド領での一件も、「こういうことがあった」って口頭で説明しただけだったし。

 

 最初に話した時は「〝呪言〟にそんな使い方があるとは……!」って滅茶苦茶驚いてたっけ。

 

 グレガーもかなり驚いたいたから、よっぽど異質な行為なのかも。

 だけど、

 

「……クーちゃん、アレは〝技〟なんかじゃないよ。僕はただ、彼女たちと話をしたかっただけなんだ」

 

「ふふ、そう考えるところが実にリッドらしいですね」

 

 クスッ、と彼女ははにかむ。

 

「――私は永らく、〝呪言〟の本質を命令(・・)だと思っていました。命令することによって知覚した現実に干渉し、強制的に支配する。〝呪言〟とはそういう魔法だと」

 

「……」

 

「リッド、貴方はなんとなく気付いていたのでしょう? 〝呪言〟にできることは、決して命令だけではないと」

 

「……うん。本当になんとなく、だけど」

 

 コクリと頷く。

 

 確信があったワケじゃない。

 でも薄っすらとした自覚はあった。

 

 だって【呪霊】たちと〝呪言〟で対話した時、僕は決して命令しようなんて思っていなかったのだから。

 

 上手く言葉にはできないけれど、命令以上(・・・・)のこともできるんじゃないか――とは感じていた。

 

「間近でアレを見て、本当に驚きましたよ。貴方は私の想像を遥かに超える使い方をしてみせた。お陰で、私は研究を大幅にやり直さないといけません」

 

「えっと……ごめんなさい?」

 

「責めているんじゃありませんよ。むしろ褒めているんです」

 

 僕の反対側の席に座る彼女はそう言うと、スッと僕の頬に手を触れる。

 

「リッドは新しい〝呪言の可能性〟を見せてくれた。そしてその()を自覚しても尚、貴方は貴方らしくあろうとしてくれた。私はそれが、本当に嬉しいんです」

 

「……そんなの、当然だよ」

 

 朗らかに笑う彼女に対し、僕も少しだけ口元に笑みを浮かべる。

 

「クーちゃん、昔言ったじゃない。僕は英雄にも死神にもなれるんだって。だったらさ――僕は英雄になってやるんだ」

 

 ……言葉一つで相手の生殺与奪を支配することができる魔法〝呪言〟。

 本当に、こんなに強力で恐ろしい力はない。

 

 でも僕は、この力を悪用したりしない。

 絶対にするもんか。

 

 【呪霊】を怪物(バケモノ)呼ばわりしながら操るグレガーを見て、改めて思ったんだ。

 

 あんな風にだけは、なってはいけないと。

 アレこそが、まさしく死神の姿だと。

 

 【呪言使い】の行く末が、もしも英雄か死神しかないとしたら――僕は死神にだけは絶対にならない。

 

 僕は――〝英雄〟になってやる。

 

 かつてこの国でそう呼ばれた――僕の先祖(ルーク・スプリングフィールド)のように。 

 

「僕は道を踏み外したりしない。死神になんてならない。だって僕はゲオルク・スプリングフィールドの息子であり、ルーク・スプリングフィールドの子孫だから」

 

 ハッキリとそう答える。

 

 すると――クーデルカはとても驚いた顔をした。

 

「リッド……もしかして貴方、あの時のグレガーの言葉を聞いて……?」

 

「? なんのこと?」

 

「……いえ、なんでもありません。その言葉、彼に聞かせてあげたかったですね」

 

「ふーん? ところでさ、今回の僕の働きは何点だったかな、クーちゃん先生?」

 

「それは勿論――百点満点(・・・・)ですよ、リッド・スプリングフィールド」

 

 なんだかとても嬉しそうにしながら、クーちゃんは最後に僕を採点してくれたのだった。

 

 

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