キヴォトスの記憶操作系男子   作:橘ちば

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こんにちは、遅筆な橘です。

一回文章全部飛んで焦りました。




あの頃の記憶──1.CASIO

 

 

 

 

 

「───すがに壊れてるかな──」

 

「記憶は──空っぽ───」

 

「ははは・・・話し相手が欲しかったのに──」

 

 

私の中にある、実質的な最も古い記憶はこれだ。

眩しい日差し、全身を覆う砂の粒子、動かない機体。

少年の声がかすかに聞こえていたのだ。まあ、当時の私には意識そのものが無かったから、言語を理解することなんてできなかったのだが。

 

しかしその声はあまりにも掠れていて、ヒュウヒュウと息が漏れているような弱々しい声だった。

 

 

 

 

「───ねぇ、だれか、誰かいないの?──」

 

 

 

そんな今にも消えてしまいそうな音には、他人の温もりへの深い切望が刻まれていた。

 

 

 

「誰でもいいから・・・!助けてよ・・・─────」

 

 

 

砂の中に半分埋もれた私の頭部に、ピタリと手をくっつけながらずっとそんなことばかり口にしていた彼。

だが、突然何も言葉を発さなくなった。

 

 

「──あ────────」

 

 

体力が尽き、そこで動くことをやめたらよかったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────誰もいないなら───作ればいいんだ」

 

 

 

すでに死んでいた私は、彼のその不穏な眼差しから逃げることなどできなかった。

人の記憶に潜り込んでくるその眼光は、私の空っぽの『記録』(都合の良い器)に────

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

─────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・・・・・・ア・・・』

 

「・・・すごい、本当に動いちゃった」

 

『ア、アウ・・・』

 

「ふふっ、赤ちゃんみたいじゃん」

 

『・・・?』

 

 

シオンは、すべてが自分の思惑通りにいったことに内心戸惑っていた。

砂の上に寝そべるボロボロのオートマタは、機械のくせに赤子のような声を上げている。

 

 

『アカチャン・・・』

 

「俺が言ったこと真似したのか、単語覚えるの速いね〜」

 

 

『・・・・・・オ・・・』

 

「お?」

 

『オォ、オ・・・』

 

「おお?」

 

『──オカア、サンは?』

 

「・・・いないよ、ここには。」

 

『ドコ?』

 

「いないって言ってるだろ」

 

 

ため息を尽くシオン、こんなところで母親のことを思い出させないでほしい。こいつの成り立ちを考えると当然の言動ではあるのだけれど。

 

 

「俺はシオン、海馬シオンだ。」

 

『・・・シオ、ン?』

 

「うん、シ・オ・ン。」

 

『・・・・・・ショーン!』

 

「それは羊の方や」

 

 

シオンは人なのでメエとは鳴かないのである。

もし鳴くとしてもワンだろう、彼は自分の髪の中から生える犬耳が好きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 

 

『シオン!』

 

「よし、名前は覚えてくれたな。」

 

 

三十分もすれば、オートマタはシオンの名前と簡単な会話を覚えてしまった。

 

 

『シオン、ここドコ?』

 

「たぶん、アビドス砂漠のどこかだと思う。」

 

『シオン、なにしてるノ?』

 

「砂漠から出ようとしてる、多分無理だけど。」

 

 

見渡す限りの砂の海。シオンは何時間も歩いたが、現在地もアビドスの地理ももちろん知らないわけで、この状況の打開策は未だに見つかっていなかった。

未だに、と言ったがまあこれからも見つかることは無いだろう。

 

 

「・・・お前っていう話し相手ができてよかったよ」

 

『オマエ、オマエ』

 

「そう・・・・・・まさか自分で自分と話すことになるなんてね」

 

『???』

 

「歩いて、歩いて、やっと見つけた砂以外の物がお前だったんだよ。こんなところで力尽きて、一体何をしてたんだか。」

 

『・・・ボクは、オトウサンと車にのってタ!』

 

「ああ、確かにそうだったな。」

 

 

 

 

シオンが砂漠で遭難して一日が経とうとしていた。

夕日に照らされ真っ赤に染まった砂丘が、今度はゆっくりと彩度を失っていく。

 

砂の夜が彼らに迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・寒い、」

 

『ボクはさむくなイ』

 

「そりゃよかったね、余計だよ」

 

 

砂漠の夜の寒さに身が凍えるシオン。

 

砂に潜る、オートマタにくっつく、熱を確保したくて色々試したが周りにあるものは全部熱伝導率がいいものばっかだった。昼には熱かったくせに今になってひんやりされても困る。

寒さはどうしようもないらしい。

 

自分の神秘も、今この状況ではなんの役にも立たない。いや、役には立ったが・・・それは倫理的な問題を抱えていた。

 

 

「・・・ごめんなぁ、オートマタ。」

 

『なんで謝るノ』

 

「・・・・・・」

 

『返事シロ』

 

「舌が回らないんだよ、寒くて」

 

 

昼間に大量の汗を流しながら歩き回り、夜はその冷たい空気に晒される。

シオンの体は限界だった。

 

 

「・・・オートマタ、お前は俺なんだよ。」

 

『・・・ハ?』

 

 

シオンの心は、体以上に限界だった。

 

 

「俺は、寂しかったんだ。一人で急に砂漠に放り出されて、遠くに建物も見えない。植物すらほとんど無い。このまま独りで死ぬんだって思った。」

 

『ダカラどうしたんだヨ』

 

「・・・俺の神秘は、他人の記憶に干渉できるんだ。」

 

『・・・』

 

 

 

「人が相手じゃなくてもいい、人に近い生物なら、そいつの記憶が積み木の形になって見える。ロボットでも同じだ、『記録』する場所があれば、それを消したり、捏造したりできる。」

 

『・・・』

 

「倒れていたお前の『記録』はすべて破損して空っぽだった。俺は心細くて、心細くて───」

 

『ナガい!早く言エ!なんでボクはオマエってことになるんダ!?』

 

 

シオンの心は、あの孤独に耐えられなかったのだ。

 

 

「・・・俺の積み木の底の方、幼い頃の記憶をコピーして、それをお前に入れた。」

 

『・・・ジャア、ボクは、』

 

「お前の人格は、俺の幼年期の記憶を元に作ったクローンなんだ。」

 

 

オートマタは、CPUに記録されている母と父の記憶が眼の前の男のコピーなのだとその時知ったのだった。

足元の砂は、立っているにはあまりにも柔らかすぎて頼りない。

あんなに暑かったのに怯みもしなかった金属の体は、今はぐわんぐわんと揺れているようだった。

 

 

 

「オートマタ、俺はきっとここで死ぬから。お前を叩き起こしたくせに、独りぼっちにしてしまうんだ。」

 

 

「ごめんなさい」と、シオンは謝り続けた。

ここでは貴重な水が彼の顔から砂に落ち、そのまま染み込んでいくのをオートマタはカメラで写し続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

『オキロ、シオン。歩くゾ!』

 

「どうせ無駄だって」

 

『ワカランだろ、人が通りかかるカモしれない。』

 

「俺とは思えないほどポジティブだな・・・」

 

 

翌朝、オートマタはシオンを引っ張って、とにかく歩いていた。

向かう方角は北西。太陽を見れば方角はわかった。

北西に歩き続ければ助かるという謎の確信がオートマタにはあった。完全に機能停止して、シオンにクローン人格をぶち込まれる前の記憶の残滓かもしれない。いや、きっとそうだった。

 

 

 

「・・・俺のしたこと怒ってないの?」

 

『怒ってル』

 

「ならなんで─────」

 

『ヒトリになりたくないから』

 

 

オートマタは砂を踏みしめながら、シオンの腕を握った手をギリッと締めた。

 

 

『サミシイのは嫌だ、シオンにはムカついてるけど、シオンが死んだらボク──ワタシは砂漠でヒトリで死ぬことになってしまう。』

 

「・・・」

 

『ダカラ、シオンもワタシも生き残る。』

 

「・・・・・・お前・・・」

 

 

シオンは自分なんかのクローンが、こんなにも強い意志を持っていることが信じられなかった。昨日、涙を流して謝ることしかできなかった自分が、その自分自身の子供時代の生き写しに手を引っ張られ、「生き残る」と言われている。

そうだ、「生き残る」んだ。シオンは生を諦めていた自分を恥じた。

 

 

 

 

 

 

「オートマタ、名前が欲しいな。」

 

『名前?ワタシの?』

 

「うん、『お前』って呼ぶのを止める。」

 

『エーじゃあ、シオンがつけてよ。ワタシの生みの親なんだかラ。』

 

「わかった、ベストなのを考えてやるよ!」

 

 

ぽくぽくぽく・・・チーン。

 

 

「オートマタの〝オート〟とかは!?」

 

『ヒネリが無さすぎル』

 

「苦言呈してくんな」

 

『ヤリナオシ』

 

「・・・じゃあ・・・・・・」

 

 

ロボット+シオン=ロボシ

・・・ゴルシみたいで嫌だな。

 

 

 

・・・うーん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メカ+シオン=メカシオン

 

メカシオン

 

メ・カシオ・ン

 

『カシオ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『カシオ』なんてどう?」

 

『・・・いいヒビキだ。決定!』

 

 

親から直々に名前を強請った子どもなんて、キヴォトス中探してもカシオくらいのものだろう。

 

 

『ニドとクローンなんて作るなヨ、ワタシでもそれはアウトだってわかるぞ』

 

「・・・うん。」

 

『シオン、子どもをケイソツに作らないようにナ』

 

「はい、心に留めておきます。それはそれとして俺が避妊しなかったみたいな言い方やめて」

 

 

太陽が12時の位地に達していようとしていた。カシオのバッテリーは数日持つかどうか、シオンの体力も残り僅か。

弱者二人にも砂漠は容赦しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 

 

二人は歩き続けた。

カシオは時間が経つごとにカメラの機能が下がっていっていることを認識していたが何も言わなかった。

シオンはガクガクと震える足を半分引きずって、砂をかき分けるように砂の上を移動していた。

お互いに軽口を言い合いながら、マイナスな感情を押し殺してただただ歩いた。

 

 

カシオが名前を貰ってから、三回太陽が沈んで、三回太陽が昇った。

シオンが最後に水を飲んだのは4日前のことだった。

 

 

今やシオンはピクリとも動かなくなっていた。

カシオのボロボロの外殻の性能では、彼の心臓の鼓動の振動を感知できなかった。生きているかもわからない。

 

ビンタしてみても、灰色の犬耳を引っ張ってみても、耳元で放送禁止用語を叫んでもシオンは反応しなかった。

 

 

 

 

 

 

そしてシオンが遭難して4日目、カシオはとうとう膝をついた。

正午の熱気が機体の温度を急速に高め、背負っていたシオンの頬に火傷を負わせていたことにカシオは気づいた。

 

自分の背中から仰向けにずり落ちた彼の目には生気は宿っていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シオン、オキロ』

 

 

 

 

 

 

 

 

『オキてくれよ、シオン。』

 

 

 

 

 

 

『ナァ』

 

 

 

 

 

 

 

『何でヘンジしないんだよ』

 

 

 

 

 

 

『オマエに何があったのか何もシラナイんだ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんでそんな、ボロボロの白い布一枚のカッコウなんだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

『何で砂漠のマンナカにいたんだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんでゼンブゴマカシて教えてくれないんだヨ』

 

 

 

 

 

 

 

 

『そんなの』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『サイショから死ぬ気だったみたいジャナイか』

 

 

 

 

 

 

 

 

『シオン』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シオン』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シオン?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────輩、今度からコンパスもちゃんと───私が持っていてよかったですけど────」

 

「──ひぃん、わかったよぉ。だからそんなに─────────」

 

「───鉱床──どうしましょうかね──────」

 

「─あまったらパーッと花火でも──────楽し───」

 

「──徒会の二の舞いになる気ですか!もう!──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シオン、人だぞ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

『もうダイジョウブだ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

『だから、オキ、てよ』

 

 

 

 

 

 

 

『シ、オン』

 

 

 

 

 

 

 

 

『シ・・・オ・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホシノちゃん────人が倒れてるよ──」

 

「─何でこんなところに!?───」

 

「───とりあえず水を飲ませて──」

 

「──んなの引き返すしかなくなっちゃったじゃないですか!!」

 

 

『・・・・・・』

 

 

「そのオートマタはどうする?」

 

「・・・動きません、壊れてしまってるみたいですね。」

 

「・・・ごめんなさい、あなたは置いていかなくちゃいけないみたい。オートマタさん。」

 

(エ?)

 

「私が担いで走ります、ユメ先輩は荷物をお願いします!」

 

「う、うん!わかった!」

 

 

 

二人の生徒は、シオンを担いで走って行ってしまった。

なぜかスク水姿だったが、そんなことは今はどうでもいい。

 

 

(マダ息があったのか、シオン)

 

 

カシオはもう声も出なかった。腕も足も動かなかった。このまま死んでくのが怖くて怖くてたまらなかった、ただ・・・

 

 

(・・・・・・ヨカッタ)

 

 

シオンが無事だった、それだけで少しだけ・・・ほんの少しだけ恐怖が和らぐのだった。

 

そんなカシオに黒い影が接近していた。接近と表現したが、現実的な距離が狭まっていったのとはすこし違った。同じ次元の座標軸的な接近ではなかったのだ。

その黒い影は空間を裂くようにして現れた。なんてことはない、小鳥遊ホシノを覗いていたら見たこともない玩具を見つけただけ。好奇心がその大人の一番の原動力だった。

 

 

(・・・?)

 

「クックック、これはまた・・・大変興味深い・・・!」

 

(こいつ、砂漠でマックロな服て、アタマおかしいんじゃないのか)

 

 

そのままカシオは、その大人と共に裂けた空に飲み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シオンがまどろみから目覚めると、まず知らない天井が瞳に映った。

そしてその次に映ったのは水色の髪。髪についた砂埃など関係ない、シオンはそれを美しいと思った。

 

ベッドの右側の棚の上には、水とおかゆのようなものが乗せてある。その先に水色の髪の持ち主が、椅子に座ったまま時折カクッと頭を揺らしながら寝ていた。

左側には窓があり、赤い朝日がシオンの顔を照らしていた。

 

 

「・・・俺、生きてる。」

 

「むにゃむにゃ・・・ん・・・?」

 

「本当にむにゃむにゃ言う人始めて見た」

 

 

寝ていた彼女は、可愛らしく目をこすりながらシオンを見つめた。多分あの目は普通に寝ぼけている。

 

 

「・・・おはよう?」

 

「・・・おはようございます。」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────起きてるーーー!!!」

 

「あの、助けていただいてありが────」

 

「起きてる!起きたよ!ホシノちゃーん!!犬耳くんが目を覚ましたよーー!!」

 

(あれ、・・・カシオは?)

 

 

 

 

 

 

 

 

ともかく、シオンとカシオはなんとか生き延びた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






:カシオ

シオンの時間を唯一正確に観測できる存在。
主人公のクローンで息子で兄弟で相棒、ついでにメカ枠まで担う仕事が多いやつ。
生前は兵士をしていたが、戦闘は好きでも得意でもなかった。任務中に砂漠で遭難しそのまま絶命。
数十年後、変な神秘を持った変な少年のクローンの器となり第二の人生を始める。
彼の過去は本編で触れられることはないだろう。
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