追記
一ノ瀬→一之瀬
修正しました
PPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPP
煩わしい音が右耳の近くで聞こえる、スマホが律儀に朝が来たことをお知らせしていた。
「・・・うるさいなぁ」
自分で設定したくせに、そんな愚痴をこぼしながら停止ボタンを押して体を起こす。
やっぱりアラームは人類の敵だ。
しかし一度起きてしまえばルーティーンが体に染み付いているので登校の準備は案外テキパキと進む。
顔を洗う、口の中が気持ち悪いので歯を磨く
食パンを一枚生のまま野菜ジュースで流し込む
歯を磨く(2回目)
今日も今日とてひどい寝癖だ。なんだこれ、蘭姉ちゃんかよ、つのドリルで相手を即死させられそうだ。
一度髪を全部濡らしてから獣耳を傷めないようにタオルで形を落ち着かせる。
寝癖を消し去っても、ショートの銀髪は髪質の問題でぼさっとしたままだ。そこから銀色の、柴犬のようなフサフサとした犬耳が顔をのぞかせている。
(ええっと、今日の予定は)
時間割の準備をしながら記憶の積み木を眺めてチェックをする。
(病棟で定期検査の手伝いか、そうだったそうだった。)
制服に着替えてバッグを持つ。
そして最後に、忘れないように白の手袋をしっかりと手にはめてシオンは寮を出た。
───────────────
俺───海馬シオンはミレニアムの生徒会「セミナー」の雑務である。
ミレニアムサイエンススクールは此処学園都市「キヴォトス」の中でも三大校と呼ばれる大きな力を持つ学校の一つで、千年難題に取り組む研究機関が集まり設立された。
偏差値も高く、保有する科学力はキヴォトスでも最高峰だ。
つまり簡単に言えば意欲と才能のあるものが自由に何でもできる学校なのだ。
そんな学校の生徒会になぜ俺のような平凡人間が入っているのかわからない。
謙遜しているのではない、ミレニアムには天才、鬼才が多い。
最強ハッカー集団ヴェリタス
ビッグシスターこと生徒会長の調月リオ
無自覚の暗号殺し黒崎コユキ
他にも最強のエージェントC&C、UZQUEEN、宇宙戦艦とか作ろうと思えばたぶん作れちゃうエンジニア部
ミレニアムの経済の守護者のユウカなんかも大概おかしい。
会長はなぜ俺なんかを引き抜いたりしたのだろうか、正直俺がいなくてもなんとかなるだろう。
まあ、仕事なので精一杯頑張りはするけれども
「ユウカ、エンジニア部がまたやらかした件、被害状況の確認終わったよ。」
「はぁ、またですか。資料ありがとうございます。」
顔と声色から怒りをにじませるユウカに書類を渡す。
「これだと・・・150万くらいですかね、まったく」
「───実はいつも思うんだけどさ、なんか高くない?部屋全体が爆発ならまだしも今回は壁の一部だけだよ?」
「あの部活が使う実験室ですよ?実績があるのと問題行動の対策のためにふつうの素材じゃないわけです、キヴォトス人でも簡単に壊せないはずなのに、なんであの人達はこうも易易と ──」
お労しやユウカ、自分は何一つ悪くないのに増え続ける仕事、盛られる体重、太い太もも──────
俺がセミナーに入る前は部活動の部費や生産性の問題に本人が動いてほとんどの対応をしていたらしい・・・いやどんな労働量だよ心配になるよ
ミレニアムに必要なのは人材じゃなくて労働力かもしれない
そんなことを思いながらこっそり彼女の机の上の書類を半分持っていこうとしたら普通にバレた。恥ずかしい。
「あっそれは───ありがとうございます、先輩が気にする必要はないのに」
「ユウカに任せっきりになってる仕事も多いからね、このくらいは任せてよ。
それにほら、俺は今日午後から居ないからさ。」
「・・・ああ、今日は定期検診の日でしたね!」
体調には気をつけてくださいねと言ってくれる優しいユウカに返事をして午前の仕事に取り掛かった。
──────────
「こんにちはドクター!」
「グッドアフタヌーンだねシオン君。」
「保健室」に入るとすぐロボットの医者が出てきた。本人から「ドクターと呼んでほしい」というリクエストがあったのでそう呼んでいる。
大人になった今でも青春に憧れているらしい。
「じゃあさっそく頼むよ」
「了解しました」
俺と部長は保健室の奥の精神病棟に向かうエレベーターに乗り込んだ。
俺、海馬シオンは他人の記憶に干渉できる神秘を保有している
自身の神秘を変化させて相手の頭に流し込むことで記憶を改変できるこの力は神秘の蔓延る此処、キヴォトスでも異端だったらしい。
「予知夢、自己再生、第六感、さまざまな神秘をこの目で見てきましたが、ここまで他人に干渉できる代物は初めてです。」
ミレニアム、キヴォトス全体で見ても最高の頭脳と知見を持つ「全知」のヒマリでもそう驚くほどだ。
しかし余計な偏見やキヴォトスの企業による悪用を防ぐなどの理由、そして何よりシオン自身からの頼みによりこのことは機密とされている。
知っているのは前述した「全知」の称号を持つ明星ヒマリ、その後輩でヒマリと同じ「特異現象捜査部」のメンバーの和泉元エイミ
直接その力を体験したことのあるセミナー書記の生塩ノア
保健室のロボット医師。
そして関わりは無いに等しいが、おそらくセミナーの長でありミレニアムサイエンススクール生徒会長の調月リオも認知しているだろう。
「今日は201と202号室の患者さんを頼むよ」
「いつも通り、記憶をぼかす感じでいいですか?」
「うん、それでいいよ、特に201の奥の患者さんの記憶を見てくれるとありがたい。」
シオンはその特異な神秘を見込まれ、過去のトラウマなどで精神疾患を患った患者たちの治療を週に3日程のペースで手伝っていた。
事情を知らない生徒には「定期検診」と伝えている、つまりごまかしているのだ。
「失礼します、頭触らせてもらいますよ」
「・・・」
物言わぬ獣人の患者の一人の側頭部に指先で触れる。
海馬シオンの神秘は粘着質で、よく伸び縮みをする
自分の性格が反映されているのだろうか、あまりそうは思いたくない。
「シオン、お前ってなんか粘着質な性格してるよな」
そんなこと言われたこともないし言われる予定もない。
俺が感じられる生物の記憶は
古い重要な記憶が下の方にありそこから大きさと形が様々な積み木が積み重なっていて、そこに神秘を介入させるイメージだ
神秘をこねて新しい積み木を作れば「記憶挿入」
積み木の順番や形を入れ替えてしまえば「記憶改変」
積み木を消すことはできないが、神秘で覆って見えないようにしてしまえば「記憶消去」も可能だ。
名前をつけるなら、好きな漫画のキャラの能力をもじって「メモリーガム」なんか良いのではと思っている。
───────────
「一族代々の土地を悪徳企業に奪われた時に抵抗した所、オートマタ達から暴力を受けたようです」
「やはりそうか、本人の口から無理矢理話させるわけにはいかないからね」
「・・・・・・彼女は親からネグレクトを受けていました、結婚後も一族の土地と誇りを守るよう夫と舅から圧力を・・・」
「・・・」
「───人が受ける理不尽には、差というか、レベルの違いがあると思っています。他人では理解できないような傷には、やはり寄り添うことはできないのでしょうか。」
「・・・寄り添うことはできないかもしれない、理解も完全には不可能だろう。精神の治療というのは本人の強さに依存するところがある、
────だからこそ、痛みを記憶ごと和らげられる君の力には、本当に感謝しているんだよ、シオン君。」
「…はい」
メモリーガムを使って記憶を曖昧にしたり、消したりするときに、迷わない日はない。
────────────
「シオンさん、検診は終わったんですね」
「ああ、ノア、そうだね、今帰ってきたところだよ」
ミレニアムの校舎に戻るとノアが声をかけてきた。此処は保健室の近くだ、俺になにか用事があったのかもしれない
「もしかしてなにか用事が・・?」
「はい、記憶の整理を頼みたいなと思いまして」
「・・・最近回数増えてきてない?大丈夫?」
実はセミナーに入ってからノアから記憶の整理をよく頼まれる
確かにノアの記憶の積み木は、もう、なんというか、ビル?っていう感じなのだ。始めて見たときは正直ビビった。
ノアの神秘の力なのかもしれない。
「はい、今日もおねがいします。」
ノアはそう言うとその場で目を閉じる、周りに人影はない、俺も手袋を外して、髪型を崩さないよう気をつけながら彼女の頭に触れた。
積み木のビルの屋上あたりの乱雑な部分をメモリーガムを使って移動、接着して整理する
俺が来る前にもノアはセミナーに居たようだし、こんなことしなくても大丈夫なんじゃないかとは思うが、ノアは頑なに必要だと主張してくる
最近だとさらにペースが上がっている、今や毎日の習慣になっちゃった、そんなに効果あるかな?
・・・最初の方は気づかなかったがノアの頬もほんのり赤くなっている気がする、恥ずかしがっているならもっと別の方法を研究しなければならないかもしれない。
「───終わったよ」
「────はい、ありがとうございました。」
手を離すとノアも目を開けた。白い手袋をつけ直す。
「もしかして最近疲れてるノア?最近回数が多いから心配だよ・・・」
「いえ、体調は問題ありません、回数については────頭がスッキリするのと仕事の効率が上がるからですよ。
・・・・・・もしかして・・・」
ノアは上目遣いで少し不安げに見上げてくる
「・・・ご迷惑でしたか・・・・・?」
それはずるいだろうがい、いやこれっぽちも迷惑とか思ってないけどそれはずるい、うん。
そもそも記憶整理のときに目をつぶるのもずるい、無自覚?あれほんと破壊力Aだから。
「まさか、迷惑だなんて思ったことないよ。そうか、頭がスッキリするのか、ノアが快適ならそれでいいんだ。」
「・・・いつもありがとうございます」
いつもの笑顔で応える彼女はつくづく美人だと思った。
すると次の瞬間少し真面目な雰囲気に変わるノア。
「・・・・・実はシオンさんを待っていた理由は2つあるんです。」
「とすると、2つ目の理由は何?」
「シオンさんの神秘に関わる話です、ここでは少し不都合なので移動しましょう、実は人も待たせています。」
こちらに、と先を歩く彼女を追って、言われなければ気が付かないような小さなドアを何回か通る
ミレニアムはホグワーツか何かなのだろうか
そんな事を考えていると、目的地の部屋についたらしい。
ノアがドアを開け、入ると明らかに防音の設備がある特別な部屋だった
白い部屋の中、待ち人がシンプルなパイプ椅子に足を組んで座っていた。
「すみません、待たせてしまいましたね」
「おう、確かにちょっと長かったな、なにか変なことでもしてたのか、書記さんよ?」
「あなたほど移動が早くないもので、申し訳ないです」
ニヤッと笑う彼女に淡々と応えるノア、背はかなり低いが、圧倒的な神秘の圧力がその体から放たれている。メイド服にスカジャンという謎の服装が逆に彼女らしさを引き立てていた。
「そしてそっちの犬耳が例の?」
「はい、彼がシオンさんです」
椅子から立ち上がった彼女は興味深そうにこちらを覗き込む、たしか同い年のはずだがその眼光には貫かれるような感じがした。
「はじめまして、セミナーに所属している海馬シオンです。よろしくおねがいします。」
「あたしは美甘ネル、よろしくな。」
互いに軽く頭を下げると全員が一つの机を囲むような形で座る。
「さっそくですが、あのC&Cの部長さんがどのような要件で俺を?」
「おっ!あたしを知ってんのか、まぁあたりめぇだけどな!ははは!それなら話が早い
・・・あんたの力についてはそこの書記さんから聞いている」
ノアはむやみに秘密を話すような人じゃない、なにか複雑な問題のようだ。
「────あたしらC&Cのメンバーの、一之瀬アスナについて頼みがあるんだ。」
人の頭に神秘とかよくわからないものを流し込む!?
記憶に干渉!?
なんかエッチ!エッチは駄目!死刑!
コハルは純愛物が好きだけど守備範囲は割と広いと思う。
ミレニアム:記憶といったらノアとアスナですね。