認めない子   作:アイらゔU

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第9話 決定事項

 

 

「あ、アイかあ……、アイさんっっ!!? なんでここにっ!? と言うか1人できたんですかっっ!!?」

「おっ、さっすが私のレイくんだね~~☆ ここで小声は正解っ! 目立っちゃったら流石に気づかれちゃうし? 私のオーラも合わさればもー大変っ!」

「も、もーーーじゃなくて! そーゆこと言ってるんじゃなくて———!」

 

 

アイが居たのを確認すると同時にそれとなく、それとな~~く自然に目立たない様に、他の人達の邪魔にならない様に移動を開始。

かな辺りにさっきメルトにしていた演技の指導? 指摘? について詰められるかと思ったけれど、彼女も彼女で役が回ってきているし、あまり自由に時間を使えないので今は見逃された。

 

だからこそ、その他の皆に気付かれない様にアイと接触する事が出来たのである。

 

 

但し———隣に鏑木が居るので大っぴらな事は言えないが……。

 

 

「ごめんね、レイ君。でもやっぱし来たくもなっちゃうのは仕方がないんだよ? 丁度、合間の時間だったし。……アクアとレイ君の2人が一緒に、って考えるだけでドキドキしたんだから」

 

 

目をキラキラと輝かせながら。どれだけ齢を重ねたとしても衰える事を知らないその輝きに満ちた目で訴えられたらもう何も言えない—————と言う訳ではない。

 

 

「だからって駄目なものは駄目でしょ!? って言うかミヤコ母さんは!? 壱護父さんは!?」

「ん~~~~……勿論!」

 

 

アイは人差し指を顎に当てて、少し上向きに視線を向けて……、流石は元最強で無敵のアイドル様。男心を一瞬で鷲掴みして二度と離さない、まさに沼に引きずり込む。

そんな凄まじい破壊力を保ったまま、今度は拳を頭にこつんっ、と当てて笑う。

 

 

「撒いてきた☆ みたいな?」

「ちょぉっっっ」

 

 

流石に大きな声になりそうだった。

勢いで前のめりで、更にあのメルトに対して教えていた通りの感情を全面に、腹の中からの大声で……だったが、アイにそれは止められてしまった。

 

 

「大丈夫。だって私は最強で無敵の元・アイドル……なんでしょ?」

「それは比喩! 比喩表現です! あぁ、もうっ、もうっっ」

 

 

アイ襲撃事件。あの日以来……アイは、いや星野家族は殆ど単独行動は避けてきた。と言うより御法度になってきた。必ず誰かしらは共にいる事。防犯グッズの準備も良し(会社とレイが総揃え)。兎に角、もしもの事を常々考えていて細心の注意を計らってここまでやってきたんだけれど、まさかのアイの単独行動。

 

説教のフルコースを会社を上げてやってもらわないといけない……と、色々考えていたその時。

 

 

「ほらほら、アクアの出番がきたよ? 一緒に見よっ!」

「わぷっ!!」

 

 

レイの腕を取って、レイを抱き寄せるアイ。

その視線の先にはアクアが居る。

 

アクアは―――アイが来ている事には気づいていない様だ。本当に良かった。

もしも、アイがこの場に来ている~なんてアクアも知ったら、絶対に平常ではいられない筈。レイの様に、或いはそれ以上に取り乱す可能性だって十二分に在る。

家族の、母親の安全に関しては誰よりも考えていたから。

 

 

「レイ君。いきなり不意打ち気味な爆弾発言をする様で申し訳ないが、実は君たちとアイ君の関係性をオレは知っている。だから無理に言葉を選んだり取り繕ったり、気を使ったりする必要はないよ。……まぁ、あくまでオレに対してだけ、の話だがね。周囲に人がいる時は当然気を付けた方が良い」

 

 

アクアの演技が始まると殆ど同時に語られる鏑木からの告白。

レイは当然驚き、目を見開く。でも、アクアの演技も見ていたいからあっちにも集中したい。それらがせめぎ合って精神がおかしくなってしまいそうだった。

 

 

「……アイ、母さん。ほんと?」

「うん? 鏑木さんは知ってるよー。レイ君、レイは私の大事な大事な息子だ~~って事はね?」

「……………」

 

 

秘密を隠し通してこその一流アイドルっ! と遠い昔言ってたのは誰だったっけ?

と、レイは思いそうだったが……どうにか言葉を紡ぎ、呆れるだけで終える事が出来た。

 

それよりも、アクアの演技の方だ。

 

 

あの日から――――きっと、研鑽を重ねてきたんだろうことが解る演技。

アクア自身が演じるのは……忌むべき存在。ストーカーを演じると言う因果に対する怒り。その感情も上手く利用して―――活かしているのがその一挙一動を視れば直ぐに解る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ぁぁ、今日は……驚きばっかりだ。

 

 

 

それは有馬かなの心境である。

 

いつ、どのタイミングであのカチンコの音が鳴ったのだろう? 何処から何処までが現実で、虚構なのかが解らなくなるほどに、混乱極まってしまっていた。

 

 

カメラは、間違いなく回っている。つまり、今は演じている場面……なんだろう。

まだ、少し考える余裕はある。……だから、少し振り返ってみる事にした。

 

 

今日は 少しでもこの作品に貢献して、少しでもみられる作品に仕上げたかったから、藁にもすがる想いであの時に輝いていた子役……アクアを引き入れた。

それと同時に、偶然か必然か……もう1人気になっていた後輩……ひかりも一緒にここにやってきた。

出会った時から想っていた。その纏う雰囲気は、嘗て弟の様に想っていたレイの姿を彷彿とさせる事に。

心の中では勝手に決めつけていて、素性を暴いた後には一発重いパンチを想いを込めてその頬に入れるつもりだったんだけど……残念ながら叶わなかったが。

 

でも、今は良い。残念だと思っていたし、ひょっとしたら演技に支障をきたしてしまうかもしれない、とも思ってしまっていたが、兎に角今は良い。

 

驚きの肝はそこじゃない。その先だ。……まさに怒涛だった。

 

 

メルトの大根ぶりは良く知っている。嫌と言う程知っている。メルトに限った話ではない。この作品に出る全キャスト(自分を除く)もれなく大根大セールス状態だったんだから。

 

だから、当初クソ作品不可避だって思ってた。自分が頑張って立ち回ったとしてもマイナスをゼロに、☆1評価を☆1.1くらいに……程度だと思っていた。

 

 

でも、今はどうだろうか?

 

 

あのひかりの指摘で、明らかにメルトは変わった。

付け焼刃かもしれないが、少なくとも真剣味は増した。演技に味が出てくる様になった。

 

 

―――ひかりっていったい何者?

 

 

その疑問が頭の中をぐるぐると巡る。

嘗て連想させていた弟、レイの姿はその疑問の波によってかき消され、新たな大きな存在として……レイと言う面影を投影していたそれをかき消す様に今のひかりの姿が出てきたんだ。

 

 

 

【――もっと滅茶苦茶にしてやるよ】

 

 

 

そんな時、だった。

新たなる驚きが目の前に現れたのは。

ひかりの齎したモノにまるで呼応するかの様に………。

 

 

 

 

ぴちゃ、ぴちゃ……。

 

 

 

 

雨漏りで濡れた床を歩き、不規則にならせる事で不気味さを演出させる。

台本では雨は降っていない。だから、水たまりの上を歩くなんて事は起りえない事……なのだが、それを止める者はいなかった。

 

全員が引っ張られている。

 

これまで以上の絵が撮れると何処か確信していたから。

 

 

 

「この女はお前が思ってる様な人間じゃない……。お前みたいなチャラついた男とは絶対に相容れない。そいつはオレと同種の人間なんだよ」

 

 

 

ライトの逆光を利用して、より暗く、より不気味な雰囲気を演出させる。

足りないモノは、他で補う。自分の低い絶対値は、他の加点で水増しする。

 

 

「―――お前とオレ達とは、違う!」

「………」

 

 

メルトの目を、見る。

確かに感情はこれまでとは比べ物にならない位には乗っている……が、正直物足りない。

超一流が、幼少期より過酷極まる過去を超えて……1人の男を模索し模倣し、演じ続ける最高の男を、最高の教本を得ても尚、その程度なのが許せなかった。

 

 

『おまえ、その程度なのか?』

「!!」

 

 

すれ違いざまに、そっとメルトに耳打ちをする。

 

 

『情けねぇな……。五歳児のガキでもお前以上の爪痕残すぞ。……まぁ、程度が知れるお前じゃ土台無理な話か。顔もブス極まってるし』

「ッッ!!!」

 

 

メルトにとって、正直生まれて初めての感覚だった。

本物(・・)をそこに見た気がした。だから、だから必至こいてやろうとした矢先のこの蔑み。

 

 

「ふざけんな――――!!」

「ああ? ふざけてねぇよ。何度でも言ってやる! そんな女、守る価値なんて無いって言ったんだ!」

 

 

立ち位置、台本、台詞……殆どにアドリブを交えて、本筋へと戻る。

普通ならば、ここらでカットを入れるだろう。本来無い台詞をアクアもメルトも口にしているのだから。……あまりにも個人プレーに走りすぎている。如何にクオリティ最悪と呼ばれたドラマであっても、本筋を歪めるのは許容できない筈、だった。

……でも、それらを止める者はいない。

 

続けろ、と言わんばかりに照明の濃さが変わり、周囲のカメラも慌ただしく動く。

演者たちに引き込まれる形で、引っ張られる形で進めていく。

 

 

「この子は――――オレの大事な友達だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うん、良いね。段違い。流石はレイだ。弟子一号にしちゃう?」

「弟子なんて烏滸がましい事言わないよ。……それに今のはアクアのファインプレイだ。メルト()の怒りの火に油を注いだ形。……ここは、この場面は一番燃え上がらなきゃ、一気に燃え上がらなきゃダメな場面。迷いが少しでもあったら、雰囲気も半減だ。……僕の切っ掛け程度で燃えたあの火じゃ、全く物足りない。だから凄く上手い」

「ぶー、そんなのわかってますー。……今はしっかりと褒められときなさい、って言ってるの!」

 

 

小声で話しながら、アクアたちの演技を見守る。

場に走る雰囲気がこれまでとは比べ物にならなくなっており、それこそ原作の世界が現世に降臨した様な、その舞台を袖の特等席で視れている様な感覚になってくる。

 

 

「今、現状で出来うる最高のシチュエーション。……やりたくて、やりたくて、やりたくて、ウズウズしてた筈、だよね?」

 

 

アクアの演技を、メルトの感情を見て……その後総仕上げである かなの方を見た。

 

 

自分も【今日あま】は大好きだと言っていた筈だ。

そして、漸く巡ってきたヒロインの座だと喜んでいた筈だ。

 

持てる全てを出すのは、今この瞬間しかない。それ以外の選択肢なんてある筈もないんだ。

 

 

今の有馬かなは、今日あまヒロイン『神楽未來』

 

愛を知らない少女が、初めて誰かに守られた場面。

 

 

『本気で、やってみろよ有馬かな』

 

 

アクアの意思に推される形で、その目からは有馬かなを象徴させる珠玉の涙がこぼれ堕ちた。

 

 

 

 

「――――それでも、光はあるから」

 

 

 

 

ずっと闇を彷徨っていて、今初めて得た光。

生まれて初めて流す……そんな涙。

 

 

「……100点満点、どっちも最高、だよ」

「………だね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはそれとして!! 母さん!! そこに座って!!」

「わーーーんっ、ごめんってばーーー! それにもう座ってますーーー」

 

 

最高のシーンを見る事が出来た。立ち会う事が出来た。

それはそれでよかった……が、直ぐに現場を離れないといけないので、レイはアイを引っ張っていく形で現場を後にした。

勿論、鏑木には了承を得た形で、だ。こんなところにこんなスターが居たら大変な事になる。情報は瞬く間に拡散されて、不特定多数の厄介な追っかけに遭遇する。

 

それ程までに影響力のある人なんだ、と、日本で最も影響を与える人物十選に余裕で乗る事をもっともっともっと―――×∞ 自覚してもらいたい!

 

 

と、車の中で大説教大会が開催されたのである。

 

 

「今回ばかりは、肝を冷やしたわ……。まさかトイレに行く~~って言って、あの小窓から外に出て勝手に今日あまの現場に向かうんだもの。泥棒にでもなったつもりなの? あんたは……」

「全くだ。子にここまでの心配かけるヤツなんざ母親失格だ。親権放棄して反省しろ反省」

「うぅ……、2人してひどい~。わ、私だってね、すごーーく悩んだんだよ?? それに頑張って仕事も終わらせてきたし。親としてはやっぱり子供たちの晴れ姿はみたい訳で……」

「僕はアイ母さんの事を心配して言ってるんだよっっ!! 何かあったらどうするのさ!!」

「ぅ……」

 

 

正論攻めをされては中々下手な返しが出来ないのがアイにとってはつらい所でもある。

その場のノリと勢いで押し切れるかな? と思っていたんだけれど、やっぱり当てが外れた~と言った顔をしていた。

いつものテヘっ☆ ペロっ☆ な顔はもうどこにもなく沈痛な面持ち。

 

でも、それは仕方がない事なのだ。

 

確かにこれまでだったら、これまで程度なら、その無敵なテヘ☆ ペロ☆ でなんやかんや解決していただろう。だってアイの傍には必ず誰かしら居たから。

だから、安心はある程度出来たんだけれど……今回は完全な単独行動。心配するな、と言う方が無理がある話である訳で……。

 

想定以上に、想像以上にレイを不安にさせてしまう結果になった。

 

 

 

「……お願いだから。僕の仕事の付き添いくらい、いつでもやって良いから。でも、こんな無茶な行動だけは、ほんと止めて欲しい」

「はい、反省します……」

 

 

子供にここまで言われたら流石のアイも反省しない訳にはいかない。

 

 

 

目的が【まだ】あったとしても、どうしても譲れなかったとしても、強引だったのは言うまでもない事だから。

 

 

 

 

 

「ちゃんと防犯グッズはいっぱい持って行動してた……ってだけは言わせて……。何も考えてない訳じゃないから……」

 

 

 

 

ぐすんっ、と鼻を啜るアイ。

ぞろぞろ~~とカバンから出てきたものをミヤコは見てため息を吐く。

 

 

「大男の1人や2人、余裕ね。でもまぁ職質されたら一発でアウトなものばかりだけど。……ぁ、連行された方がまだ安心安全で良かったかもしれないかな」

「事務所看板タレントの不祥事なんて勘弁してくれ。対処すんの想像したら頭が痛くなるわ」

 

 

そして、事務所へと向かう帰りの道中。

レイの電話が震えている事に気付く。

一息ついたから気付く事が出来たのである。

 

 

 

 

 

スマホを開いてみると――――着信件数が物凄い事になってしまっている事にも今更ながら気づけた。

 

 

 

 

「あ、アクアから……って、そうだ。アクアには詳しい事何にも言ってなかったし、メッセも残してなかった……。鏑木さんに言っただけで……」

 

 

こっそりと現場を抜け出したも同然な状況になっている。

鏑木がアクアに説明をしてくれる~~って保証はどこにもない。何ならアイが来ていた事もきっと秘密にしていただろうから、ただ帰ってしまった~と説明しているかもしれない。

 

そうだとしたら、物凄く白状だ。

 

 

 

電話通知が沢山来てて、急いで掛けなおそうとしたその時、一通のメッセージが届いた。

それは短い一文。想像していたものより遥かに短く、そして想像してなかった文章。

 

 

 

 

 

 

『恋愛リアリティーショー【今ガチ】 斎藤ひかり。出演決定』

 

 

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