認めない子   作:アイらゔU

13 / 50
第12話 不知火フリル

 

登校初日の初授業開始直前。

陽東学校芸能科の教室はざわついていた。

ある程度の自己紹介を終えて、これから始まる学校生活に胸を驚かせる中……それは突如として現れた。

 

 

「!!」

 

 

がらり———

 

教室の扉が開き、そして軽やかな足音が響く。

続いて彼女からの第一声が、声色もそこまで大きくないと言うのに教室中に響いてきた様な気がした。

 

 

「すみません。今日番宣で朝の生放送があって……。入学式くらいは出たかったんですけど……」

 

 

その声に皆が注目し、そして連鎖する様に生徒たちが夫々口々に彼女の名を呟いていく。

 

 

【不知火フリル】

 

 

場がざわつき、初授業中だと言うのに騒然としたのは言うまでもない。

朝の生中継……それを実際に観た者だっていただろう。実物が、テレビの中から出てきた様な美貌を兼ね備えてこの教室に降臨したのだから。

周囲に居る面々もそれなりに名のある事務所に所属しているだけあって、耐性と言うモノが備わっている様だが、明かなる格上。天上人と言って良い存在であるフリルには言葉もならない、と言った様子。名を呟くだけで精一杯だった。

 

 

そしてそして、当然ながらそれはルビーも同じ。

目を大きく見開き、その中にある煌びやかなアイ譲りの輝く瞳をフリルに向けて、口を半開きにさせて驚き、感激していた。言葉にならなかったのである。

 

ただ———そんな中、1人だけは皆と違う反応を見せていた。

 

 

「ッッ!!?」

 

 

不知火フリルが、まさかここに居るなんて思っても無かった。

同じくらいの歳である事は知っていたが、それでも同級生とは思ってなかったし、更に言うなら芸能科に来るとも思ってなかった。……いや、違う。

有馬かなが言っていたではないか。

 

 

【ここは日本で一番観られる側の人間が多い高校】

 

 

だとするなら、彼女がここへ入学をしてきたとしても何ら不思議じゃない訳で……。

 

 

「!」

「ッ!!!」

 

 

呆然としていたのが悪かったのだろうか。

彼女とバッチリ目が合ってしまった。

 

不知火フリルは全員の視線を一身に集めている。つまり、彼女の一挙一動が全て皆の目に入ると言う事。更に更に言えば彼女の座席は直ぐ傍も傍。まさに隣。最初は男子と女子で分けられている状態だったのだが、その男女の境界線では必ず隣同士になる席が何人か当たる。

 

何の因果か、フリルの座席は彼の————レイの隣。

 

 

遅れた事に対する詫びと、簡単な挨拶をそこそこにフリルは自身の席へと目指す。

 

でも、その視線が向けられているのは座席の方ではなく、明らかにこちら側。

 

反射的に目を逸らせた。

それが少し悪かったのかもしれない。フリルが次に魅せたのは、小さくではあるが、それでも確実に目立つ形で頬を膨らませるフリルの姿だったから。

 

その様子も無論、視られている。

一体何事!? と思った者も少なくないだろう。

 

 

そんな混沌としかけている教室内。更にフリルは爆弾を仕掛けていく。

 

 

「―――――久しぶり」

 

 

明らかに耳打ちする様に、レイにそう言ったのだから。

 

びくんっ! と身体が反射的に跳ね上がる。

フリルの声が耳元で微々射てきた衝撃もそうだが、それ以上に皆の視線をいっぺんに集めてしまった事に対する視えない衝撃の方が大きいかもしれない。

 

 

当然更に教室がざわついたのは言うまでもない。

レイにとっては物凄く大きく聞こえたフリルの言葉だけれど、実際には物凄く小さかった。彼女は元々クール系で売っている所もあるから、そんな大きな声を出したりする様なキャラじゃない。でも、どれだけ小さな声であったとしても近くに居る人には届いている様で……。

 

 

 

 

【久しぶり……だって】

【え? 彼一体何者……?? 知ってる??】

【知らない。見た事もない……筈】

【あの不知火フリルとだよ……!? そんなの、ある??】

 

 

 

 

まるでぷ〇ぷ〇の連鎖のよう。

1,2、3と連鎖が続けたら続けただけで指数的成長を遂げてクラス中が騒がしく……となりそうだったんだけど、そこは流石に授業中、それも初授業と言う訳で皆ある程度は空気を読んでくれたようで、葛藤やら何やらは自分達の頭の中だけで完結してくれた様だ。

 

 

クラス中の視線を一身に集めてしまって、レイは視線の熱さ? 圧力? などで悶えていたのだが、ある程度落ち着いた所で一息………出来る訳もなく。

 

 

 

「―――――――――――――—じぃぃぃぃぃぃぃ」

 

 

 

じぃ、っと見る視線が1つ、残っていた。

いや、じっと見ながらじぃぃ、と口にする人初めて見た。

 

その人物とは当然、我らが妹。カワイイ妹のルビーである。

友達になったばかりの寿みなみも何処かチラチラと視ている節があるが、ルビーに比べたら本当に可愛らしいモノだ。

 

 

———いいから授業に集中してください。

 

 

と言える訳もなく、それから暫くの間レイは針の筵状態だったのである。

 

 

「………ふふ」

 

 

そんな様子を知ってか知らずか、不知火フリルは妖艶に笑っていた。

黒幕や悪女……とまでは言わないが、それでも何処か楽しんでいる風にも視えるから、そう取られても不思議じゃない。ただ、普段のフリル像から鑑みたら、それと結び付ける事は果てしなく難しいだろう。

 

 

「ほんと久しぶり、だね。……ひかるん?」

 

 

レイには3つの名がある。

斎藤ひかり、星野レイ……そして ひかるん。

 

フリルは、ひかりでもなくレイでもなく、VTuberひかるんの名を口にした。

誰にも聞かれない程の小さな声で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って事があったんだよー! そりゃ尋問の1つや2つ、するってものでしょ? ねー、みなみちゃんに大地くん!」

「うんうん。ウチもめっちゃ気になるしー」

「そりゃあの不知火フリルとだ。他の誰かだったら別に目ぇ瞑られてたかもしれねぇけど、あの不知火フリルとだったらもう無理だろ」

 

 

1人、何だか怖く感じる男子は兎も角として、みなみは何だか楽しんでる風潮だった。ルビーは蚊帳の外にされてる疎外感の様なモノが合って憤慨している。

これでもし、アクアも知っていたとしたなら……? と考えたら益々だ。

 

 

「へぇ……、ひかり、不知火フリルと接点あったのか。それは知らなかった」

 

 

レイにとっての命拾い? である。

どうやら、アクアは知らなかった様だった。

でも、ルビーの様な嫉妬? 疎外感? に似たようなのはアクアは持ち合わせていない様子。

 

 

「ちょっとお兄ちゃん! あのフリルだよ! 不知火フリル!!」

「いや、力説しなくても普通に知ってる。有名人じゃん」

「そう! 月9ドラマで大ヒット! 歌って踊れて演技も出来るマルチタレント! 美少女と言う言葉を聞いたら殆どの人がまず思い浮かべるのが不知火フリル!!」

 

 

ぐわっっ! と両拳を振って振って力説を続けるルビー。

みなみは、ちょっと苦笑い。フリルの事に興奮しているのは間違いないのだが、ルビー程ではない。と言うか、レイとフリルの関係性の方が気になっているのだ。

 

 

「凄い興奮してるねルビー。……不知火さんのファンだったっけ?」

 

 

レイも便乗して紛らそうとルビーに話しかける。

当然、ルビーはそんなレイの思惑など見通している————訳はなく。

 

 

「今、私の中で最推しだよ!!」

 

 

ただただフリルが推しだ、と笑顔で返してきた。

そんなルビーを視てレイは少しジト目。

 

 

「ふーん。ルビーって、推し変しちゃったんだー」

「え! 何の事!!?」

「れ……、ひかりが正しい。我が妹ながら推し変とは情けない。オレ達は」

 

 

ばんっ! とハイタッチをし合うアクアとレイ。

 

 

「「今も昔も最推しはアイだけ」」

「………うわー」

 

 

シスコンに加えてブラコンの気もあって、更にはマザコンと言うコンプリート。いや、ファザコンがないから、ある意味父親が居なくて良かったかも、とルビーは引いていた。

 

でも、だからと言って同意しない訳ではない。

 

 

「そういや、ひかりは苺プロ。それにルビーも。……そりゃ事務所先輩にあんな超大物が居れば視える景色も他と違ってても不思議じゃない、か」

「そやねぇ。同年代でいや不知火さん決まりや思うけど、オールで考えたらウチも中々選べへんなぁ」

 

 

完璧で究極で最強で無敵の元アイドル アイ。

彼女を前にすれば如何に不知火フリルと言えども……。

 

 

「ああもう! それはそれ、これはこれ! 私だってアイ推し止めた訳じゃないし! でも、近い歳で~~って考えたらこうなっちゃっても不思議じゃないでしょ!!」

 

 

ぶんぶん手を振って抗議の姿勢を取るルビーだった。

レイはしめしめ、このまま隠し通せるぞ、と笑みを浮かべていたが。

 

 

「ウチはそろそろ聞きたいわぁ。ひかり君と不知火さんの関係性」

「ぅ………!」

 

 

有耶無耶には出来ない様だった。

包囲網はルビーだけじゃなかったから。

 

 

「そーだそーだ。このままなーなーで終わるにゃ見過ごせねぇレベルだぞひかり」

「あぅ……」

 

 

どうしよう、どうしよう、と思わずアクアを見たレイだったが、アクアは素知らぬ様子。

ただ、視線を外したので……どんなタイミングだよ! とツッコミたくなるタイミングで、その視界の中にある人物を見た。

 

 

「あ」

「ああ! 不知火フリルだ!! 実物だ!!」

 

 

なんとなんと、物凄いタイミングで不知火フリルがこの場を通りかかったのだ。

ただ、まだ遠い。このままやり過ごせるかも? と淡い期待を抱いていたのだが……。

 

 

「ほぁ~~、遠目でもかわい~~~!」

「まじでただのファンじゃん。クラスメイトだろ? そもそもひかり関係だって直接聞けば良いじゃん」

 

 

アクアは放っておいてくれない様だ。

と言うより、何処となくアクア自身も気になっている、知りたい、と言った様子が要所要所で見て取れるというもの。

 

 

「いや、だってぇぇ、流石に直接聞くのはアレ、って言うか……。ひかり取っちめて吐かせれば良いって思ってたって言うか……。ほら、強引な手法は色々ありそうだし?」

「……怖い。僕に何しようとしてたの??」

 

 

拷問の類でもされるのか? と身震いするレイ。

兎にも角にも色んな思惑が交差し合っていた最中、真っ先に行動をしたのがあまり不知火フリルの姿を見ても動じなかったアクアである。

 

 

「こんにちは不知火さん」

「「「「!!!」」」」

 

 

微塵の躊躇いもなく気負いもなく、遠慮さえもなく……。同い年である事とルビーやレイのクラスメイトである事。ただそれだけの事だと言わんばかりにアクアは前へ出た。

 

 

「オレの妹がアンタと同じクラスなんだ。仲良くしてやってくれ。次いでに———もがっ」

 

 

最後まで言わせない様にアクアの口を手で覆うのはレイである。

 

 

「(一応、事務所関係の事でもあるから! お願いだから公共の場ではNG! で!! ね? ね??)」

 

 

レイの嘆願にアクアはどう出るのか。

と言うより、こんな派手な行動をフリルに視られたらまた面倒くさい事になるんじゃ? ともアクアは思った。

 

 

「…………」

 

 

当然、レイだってそのくらいのことは想定している。

でも、今更なんだ。もう既にフリルとは目が合った。今更何をしても何を言っても……彼女の行動を縛るのには無理があるし限界がある。

一定ラインを超えてこない様に~はフリルには言ってあるからその辺りは弁えて欲しいのだが………彼女の一定ラインと一般人に毛が生えた程度な認識中のレイでは齟齬がある様で。

 

 

「貴方の事は知ってる。『今日あま』に出てた人?」

 

 

フリルはレイを軽く一瞥した後、アクアの方を視て言った。

これはちょっぴり想定外だったのはアクアである。突然のレイの奇行に何かツッコんでくるのでは? と思ったが、まさかの自分の事を言い始めるのだから。

 

 

「よく知ってるな。そんな話題にもならなかったのに」

「いえ。ちょっと界隈で話に上がってて……最後の話は特に注目(・・・・・・・・・)して観てた」

 

 

そのフリルの言葉に秘められたものがある……と言うのは恐らく当事者たちしか知る由もない。

 

 

「良かったわ」

「………ありがとう」

「ええ。それと貴方が聞きたそうにしてた事、だけど、長くなりそうだからその前に———」

 

 

ちらり、と次に見たのは寿みなみの方。

フリルは記憶力はかなり良い方だ。芝居稽古や歌、ダンス、等々で記憶力を求められる事は多いし、色んな人と接する機会も多いから、誰かの顔を視て覚えるのが得意となっていた。

そうでなければ芸能界は生きてはいけないとも思っているから。

 

 

「そちらの方はミドジャンの表紙で見た事あります。みなみさん、でしたっけ」

「はい!! 光栄です!」

「それとそちらの方は、新ミュージアム期待の練習生グループの中に居た……浅倉さん、でしたっけ」

「あ、う、うす!! 浅倉大地っス!! マジ覚えてくれて感激っス!!」

 

 

練習生グループまで目を通し覚えているとは……不知火フリルの記憶力は凄まじいものがある、と改めて思わさられた。

 

 

「……えと、貴女は………」

 

 

そして最後に観たのはルビー。

ルビー自身は、みなみ、アクア、大地……と、あの不知火フリルに認知されている事に衝撃を受けていたのだが、いざ自分の方を視られたら、自分の事として考えてみたら……どうしても、何もない。

 

 

「ごめんなさい。何をしてる方ですか?」

「あ、その………私は、今のところ……特に…………」

 

 

そう言うしか無かった。

アイドルとして修業中。現在練習中、等々色々と言える事はあるだろうに。変な所では背伸びをしない所もまたルビーの美徳である、と思いたいが流石に憐れになってしまう。

 

 

「そう。……えと、がんばって?」

「っ~~~~~~はぃぃ」

 

 

不知火フリルと話が出来た事は嬉しい。物凄く嬉しい! でも、でもでも何もない自分が嫌になりそう。このままじゃ学校生活も上手くいかないに決まっている。

 

 

「じゃ、じゃあ。そろそろお暇して……」

 

 

ルビーのダメージは計り知れないだろう。

ここは血のつながりはないが、兄貴分の1人としてルビーのケアに回った方が良いと判断したレイは手をぽんぽん叩きながらお後が宜しいようで~~と〆ようとしたが、そうは問屋が卸さない。

 

 

その腕をぐいっ、とフリルに引き寄せられたかと思えば。

 

 

「結構、久しぶりに会った。私は嬉しかったのに、そっけないのが何だか悲しい」

「!!!」

 

 

至近距離で寂しそうな悲しそうな表情をされるのはかなり効く。

こんなの、世の男子たちが黙ってないだろ! と思ってしまう程のインパクトがあって、振りほどくなんて事出来る訳がない。

 

 

「むむ、無茶言わないでよ不知火さん! 以前僕、言いましたよね?? 秘密にしてる~~って。不知火さんの影響力半端ないんですから!!」

「…………」

 

 

わたわた、と慌てるレイに向かってフリルは微笑む。

今し方寂しそうな顔をしていた筈なのに、いつの間にか笑っていた。

切替もとんでもなく早く……自然だ。

 

 

「ふふ。やっぱり貴方は可愛いわ。……素敵な音を奏でるのだから、ある種当然、とも言えるかもね」

「っ~~~~え、えっと! ちょっとまっっ」

 

 

だだ~~~!! と、レイはみなみや大地の元へと走った。

 

 

「ご、ごめん! これ、苺プロも絡む話だから! 不知火さんとの関係性って! だから、あんましツッコんだ話しないで聞かないでお願いです!」

 

 

苺プロの皆に迷惑が掛かる。

不知火側が全力で守るし、大丈夫~とも言ってくれていた時期はあったが、自分としては護られてばかりで情けなくも思ってしまっているので、両親以外には遠慮をして貰って……つまり、フリル側からの庇護も遠慮しているのだ。

 

 

「ゴメンなさい。貴方にまた会えて、嬉しくてつい燥いでしまったわ。……次から気を付けます」

 

 

慌てるレイを視て悪いと思ったのか或いはある程度満足をしたのか……フリルは軽く頭を下げた。

 

 

「彼とは共演した事があったの。……だから、彼の事を私は知ってた。それだけよ」

「………えと、そんな感じ! そうそう」

 

 

あまりもの一生懸命に隠すレイと、フリルの言葉もあって、みなみや大地はこれ以上聞く事を止める事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその日の夕方————

 

 

当然事務所でルビーに事情聴取ならぬ尋問をされたのは言うまでもない事だった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。