認めない子   作:アイらゔU

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第13話 しょーがないなー

 

学校も終わり事務所へと帰宅。

マネージャーに一旦出てもらって、1人になったフリルは考える。高鳴る気持ちをどうにか抑えて、平静を装いつつ、皆にもバレないようにポーカーフェイスを意識しつつ………今日の学校でのやり取りを思い出す。

 

頑張っても頑張っても、どうしても表情が綻びる。

これ以上は無理だ、と早々にフリルは諦めた。

取り敢えず、1人の時は無理しない様に、と考え方を変えた。

 

 

 

「……まさか、会えると思ってなかったな」

 

 

口元が緩む。

頬も熱くなる。

 

偶然。本当に偶然だった。だからこそ、喜びも倍増であり、自身の影響力も解っていた筈なのに、あんな行動を取ってしまったんだ。

 

 

 

 

 

 

不知火フリルが彼をーーー北斗玲の存在を知ったのは、今回の再会と同じく偶然だった。最初は一方的に知っているだけだった。

 

 

画面の中で彼が奏でるあの音が、初めて心を打った。感動というものを、本当の意味で教えてくれた。

 

その瞬間は今でも鮮明に覚えている。

 

それは、幼少期から音楽や演技、様々な芸術に囲まれてきた私にとっても、あまりにも衝撃的な体験だった。

世界が一瞬で色づいたような錯覚。

だが、あれは錯覚ではなかった。

 

 

――北斗玲の演奏が放つ音色は、確かに私の中に広がる何かを変えたのだ。

 

 

当時、姉の影響で芸能の勉強に励んでいた私は、有馬かなのように子役として成功していたわけではない。

彼の隣にあの人気子役である有馬かなが居た事が悔しく羨ましく思っていたと思う。

 

まだ自分の道を見つけかけていた途中だったのも事実。

幼いながらも、本能で理解していた自分も居たんだ。

 

あのシャパンコンクールで世界最年少記録を樹立した北斗玲の演奏を聴いた時、色んな悩みや迷いはすべて消え去った。あの演奏だけで、すべてが満たされた。

 

フリルは、部屋にあるピアノの前に座り、自らの指先を見つめた。軽く指を弾く。音が部屋中に響く。そして、首を左右に振る。

 

 

ーーどうして……こんなにも違うんだろう。

 

 

同じ様にピアノも習った。

最高峰の曲を弾く事は、とても無理だったが、簡易な曲であれば弾く事ができた。

彼の動画を見ては弾く、を繰り返した。

 

でも、全然違ったんだ。

 

同じ曲を何度も練習してきたのに、レイの音は全く違った。音符は同じ、メロディも同じ。けれど、その響きには他にない特別な何かがあった。自分が持っていない何か。それを手にしたかった。その思いは次第に、北斗玲という存在そのものへの興味へと変わっていった。

 

 

 

レイとの再会への期待。

 

 

 

私はいつか、彼と対等に話せるようになりたいと思った。ピアノの前だけでなく、舞台の上でも。彼に見合う自分にならなければ――そう思って努力を重ね、ついにトップタレントの座に辿り着いた。

 

だが、その時にはもう、彼はいなかった。

 

 

 

ーーあの事件……。

 

 

 

北斗玲という名前は、世間から忽然と消えた。

それは苺プロの厳重な情報統制のせいで、事件の詳細は表沙汰にされなかったと言うのが真相だったが、当時の自分が知れる訳が無い。後々に分かった事。真相は闇の中だったが、それでも彼が巻き込まれたことは確実だと思った。

 

兎にも角にも、彼の名前も、姿も、まるでなかったことにされてしまった。 

 

 

 

フリルはその事実を受け入れられなかった。

 

 

長い間、何度も何度も彼のことを思い出し、そして悲しんだ。自分が追い求めた存在が、突然姿を消してしまう――そんなことが本当にあるのか?

 

だが、フリルは歩みを止めることなく、ショックを乗り越え、マルチタレントとしての活動を続けた。家族や友人、スタッフに支えられ、仕事に没頭することでどうにか前を向いた。

 

 

 

そして、第二の運命の日。

YouTubeで見たんだ。

 

 

 

それは今から1年前のある日のことだった。

彼女は普段通り、推しのМEМちょの動画を観ようとYouTubeを開いていた。気分転換にと思っていたその時、偶然目にしたサムネイルが、彼女の胸をざわつかせた。

 

 

「……ひかるん、ちゃんねる?」

 

 

その名前には聞き覚えがあったが、フリルはあまり気に留めていなかった。だが、動画タイトルにはこう書かれていた。

 

 

"かの失踪した天才子供ピアニストの正体はこのひかるん?"

 

 

彼女は思わず手を止め、その動画をクリックした。

再生ボタンを押すと、懐かしい旋律が耳に飛び込んできた。間違いない――それは、北斗玲の演奏だ。

奏でる曲は違う。でも解った。それが音色………と言うものなのだろう。

だが………フリルは気付いた。

 

 

「でも、何かが違う……」

 

 

その音色は、あの時の玲の演奏と同じ曲でありながら、深く、重い何かがこもっていた。あの時の音楽が再び心に響いてきた。それが玲であることを、彼女は確信した。

それでも、ほんの僅か。違和感と言うにはあまりにも乏しい小さな小さな歪を感じた。

 

でも、ひかるんこそがあの北斗玲だと言うのは本能で解った。

 

だからこそ、この瞬間からフリルは決めたんだ。

苺プロとの対峙する、と。

 

 

「どうしても会いたい……!」

 

 

フリルは、苺プロの厳重な壁を乗り越えるために、出来る事を、あらゆる手を尽くした。

確かに時間がかかった、それ程までにその壁は高く強固。

 

苺プロ自体は大手とは言えず、精々中小規模の事務所。あのアイと言うアイドルのワンマン事務所、宝くじに当たっただけのラッキー。そう業界では囁かれる事も少なくはない。

 

でも、北斗玲を守ろうとするその壁は果てしなく堅牢だった。

 

並みの力では、大手だろうが最大手だろうが突破出来ない程だった。

 

 

でも、フリルは諦めなかった。

 

 

彼女の執念と想いの強さ、何よりここまで彼女を本気させた彼の事はマネージャーは勿論、事務所も興味を持ったらしい。

全力でバックアップする最大手事務所の力も合わさり、ついに彼女は玲と再会することができたのである。

 

そして、彼の生演奏を再び耳にした時、彼女は涙を堪えることができなかった。

 

玲のピアノは、あの頃と同じ音色を奏でていたが、そこには深い悲しみと苦しみがにじんでいた。それでも、彼の音楽は変わらず美しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

苺プロ事務所にて。

 

 

 

「さっ、教えてもらうからねレイお兄ちゃん! 言ってたもんねー? ちゃんと説明する、教えてくれるって」

「も、勿論。今更嘘を言うつもり無いし、事務所の中なら安心だし………」

 

ルビーは今日有耶無耶にされた〜と思っていたが、レイはそんな事はするつもり無いのは何となく解っていたので今から真実を聞く事にした。

まっすぐにレイを見つめた。

 

 

ルビーの心には、正直複雑な想いも内包していた。

何か理由があった事は理解できる。理解するつもり、だったけど、それてじわじわと不満が膨らんでいく。

 

幼い頃、レイとは仲が良かった、アクアとルビー、レイは本当の兄妹の様に毎日過ごしてきた。ルビー自身は面倒もよく見た! とかも思っていた。

 

それなのに、この大事なことを知らされていなかったとは、と。

 

家族なのに、まるで仲間外れにされたような気持ちがして、自然と頬を膨らませる。

 

 

「一先ず、どうして言ってくれなかったの? 教えたくなかったの?? あの不知火フリルだもん。レイお兄ちゃんだって男の子。……だから独占したかった、とか?」

「いや、教えたくない〜とか、独占〜とか、そんなつもりは一切なくて……」

 

レイは困惑した表情で平謝りしていた。

彼もまた、フリルとの関係を公にしたくなかった。

何しろ彼女はビッグネームであり、スキャンダルの可能性だってあった。それに、事務所としてもできる限り穏便に進めたかったのだ。

 

 

「ルビーだって解ってると思うけど、あのフリル、あの不知火フリルだよ? やっぱり慎重にならざるを得ないよ。事実あの時、事務所の中ほんと騒然としてたし」

「うん、想像できる。だって、あの不知火フリルだもん!! ……でもやっぱり家族でしょ? って思うんだもん! 言ってくれてもいいじゃん! って!」

 

ルビーは拗ねながら、小さな唇を尖らせた。彼女のいじけた様子に、レイはますます困り果てる。

 

 

「ルビー、ほんとにごめん。そんなつもりじゃなかったんだ。フリルとのこと、言うタイミングを逃してた、って事もあって……。そもそも口止めもされてて…………」

 

 

2人のやり取りをアクアは、静かに傍観していた。

 

今回の一件。

 

確かに自分の最推しは不動のアイである事は間違いないし、不知火フリルだからといって、無条件に惹かれるというわけじゃない………が、そこにレイが加わると言うのなら話は別だ。

 

だから、興味深そうにそのやり取りを見守っていた。

 

彼の口元には微かな笑みが浮かんでいる。

興味が有ることと同時に、何やら面白い展開になりそうだと感じ、静かに兄妹の「争い」を傍観していたのである。

 

 

「……まあ、ある程度は予想通りだけど」

 

 

色々と、心の中でくすぐったい気持ちを抑えるつつ、読みかけの本の頁を開く。目では本、耳ではやり取り。実に器用なアクアである。

 

 

 

 

 

 

 

 

ミヤコが、どこか遠慮気味にレイとルビーの間に入ろうとするも、やっぱり限界と言うものはあるだろう。

 

事務所としては、レイが言う様に騒ぎにならないように秘密にする。最小限にとどめる。それが家族であったとしても。

 

そうするのが最善だと思っているが、ルビーの勢いに押されてしまう。ルビーは誰彼構わず吹聴する様な子じゃないし、話しても大丈夫ーーーとは思っているけど、そう思う前にルビーの勢いにミヤコは殆ど陥落しているのだ。

 

取り敢えず詳しい説明は当事者の1人であるアイが帰ってくるまで待機。

 

「アイが帰ってきたら、ちゃんと説明するわね、ルビー。だから、今は落ち着いて……」

 

ミヤコの言葉にも、ルビーの不満は収まらない。さらに言い募ろうとした瞬間、アクアがぽつりと口を開いた。

 

「それにしても、不知火フリルが【今日あま】を評価して、観てたってのが1番意外だったな………。最終回以外の評価は死屍累々………阿鼻叫喚の地獄絵図も同然だったって言うのに」

「何アクア。自分が出た最終回、不知火フリルに褒めてもらえたの?? それは嬉しかったでしょうね」

「いや、そんなんじゃないけど。………やっぱり気になるし」

 

アクアはミヤコからの言葉に視線を切る形で答えた。

何だかんだ言いつつも、アクアも嬉しかったんだ、ということがよく分かると言うもの。

 

隠そうとしても、親の1人であるミヤコには筒抜けだから。

 

 

 

そんな時、だった。ルビーの顔色が変わったのは。

 

 

「あっ……!」

 

 

彼女は急に、レイに問い詰める姿勢を辞めて、思い出したかのように震え始めた。

 

不知火フリルが、あの「今日あま」を駄作ではなく評価してくれた時の光景が、鮮明に目の前に浮かび上がってきたんだ。

 

 

「そ、そうだった……! みんなみんな、あの不知火フリルに認知されてる……お兄ちゃんたち、みなみちゃん、浅倉大地くん、私以外全員全員!」

 

 

あの時の光景が、鮮明に映る。

フリルが1人1人顔を見て、目を見て、何をしている人なのかを言い当てて、覚えている。

でも、ルビーを見る時は……………。

 

 

 

「っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

 

 

わなわなと震えながら、ルビーは自分が一歩遅れていることに気づく。絶対に負けられない――自分もアイを継ぐアイドルになってやる〜〜〜〜と思う以上に怖い事が、非常に怖い未来が垣間見えた。

 

そして、ついに彼女は我慢できずに叫んだ。

 

 

 

「ミヤえもーーーーーん!! 早く私をアイドルにしてよーーーーー!!」

 

 

 

その叫びは事務所中に響き渡り、ミヤコは思わずぎょっとした。突然のルビーの大騒ぎに驚き、目をぱちくりとさせた。

 

「な、何事!? いきなりどうしたのよ、ルビー!?」

「どうしたもこうしたもないよ〜〜! このままじゃ、このままじゃ〜〜〜いじめられる!!!」

 

 

と、ルビーは勢いよく叫ぶ。

一体なんのこっちゃ、である。

 

 

ルビーとしては皆のように認められたい、だから早く私をアイドルにして!!と。言ってるつもりだけど、コレじゃ伝わらない。

 

ただただ、未来の自分が悲惨。その映像が鮮明に視えた。

芸能科に在籍してると言うのに、一般人じゃん。ミーハーじゃん、と、囲まれてる自分の姿が……。

 

 

想像力豊かな事で、と思ったのは言うまでもない。

 

 

勿論、いきなりの事でミヤコは大混乱だ。

今の今まで簡易裁判か? と思いたくなるものの後に突然のコレ。レイとフリルの関係性の説明もそれなりに頭が痛くなる件だと言うのに、ルビーのその願望、願い、要求はまた別の意味で大変だ。

 

 

ミヤコはルビーの圧に押されつつ、状況が全く読めていない様子だった。「とにかく、少し落ち着いて」となだめにかかる。

 

「わ、分かったわ! でも先ずはアイが帰ってきたら! 1つずつ、片付けていきましょ? じゃないと片付くものも片付かないわ。今日の出来事も整理して、次のステップ。それで良い?」

「うう〜〜〜〜〜〜〜」

 

ルビーはまだ興奮していたが、何とか落ち着こうとしていた。ミヤコの言葉に、少しだけ納得した様子で大きく深呼吸をする。

 

 

そんな時、だった。

ガチャッ! と扉を開ける音。そしてまた頭が痛くなる様な、それでいて陽気な声が部屋の中に響くのは。

 

 

「ちっちっち〜。ダメだよミヤコさん! そーゆーときの返し方は相場が決まってる、ってヤツなんだよ?」

 

 

部屋に帰ってくるなり、大袈裟に人差し指を顔の前で左右に揺らせる。芝居がかかってるのは、最近の仕事内容が余計に影響してるんだろう………事は想像だに頑ない。

 

 

「【ミヤえも〜〜〜ん!!】 と、きたら。次は【しょーがないなーールビ太くんは〜〜】でしょ??」

 

 

ぱちんっ

 

ウインクされた瞳。

本当に星が目から飛び出してきた? と思わず錯覚してしまう様な登場&所作だった。

そして、誰なのかは最早文面化する必要性を、感じられない、と言うもの。

 

 

「アイ母さん………」

 

 

最強元アイドルのアイ。

只今、仕事を終えて場に降臨! である。 

 

 

「わーーーん、ママーーー!!」

「はいはいはーい。いつまでも甘えたさんだね〜ルビーは」

 

 

ルビーは本当に色んな事があり過ぎてあり過ぎて、アイに抱きついた。

アイもそんなルビーをしっかりと抱き留める。

 

 

 

「ったく。いつかは話さねーと〜な案件だと思ってたが、想像以上に早かったな」

 

アイと一緒に、帰ってきた壱護は深くため息。

事前に連絡は受けてるので大体の事は解っているのだ。

 

 

「あん時の対応、マズったか?」

「………今更でしょ。最終決定は壱護とアイがやったんだから、しっかり説明責任果たしてよね」

 

 

アイが戻るまでミヤコが引き伸ばした最大の理由。

それは全てアイ、壱護に丸投げするつもりだったからである。

 

 

 

「…………ま、それも何となく察していたけどな」

 

 

 

アクアは、読んでいた本を閉じると改めて席に着き直した。

漸くここから始まるのだ、と思ったからだ。

 

 

「ようやくか、って思ってるかもだけど、ほんと大した理由じゃないからね? 不知火さんの知名度とか、その他諸々を考えたら、多分ほぼ全員が行き着く結論だと思うから」

「しれっと心読まないで貰える?」

 

 

アクアはレイの読心術に眉を潜めた。

それに、ほぼーーー全員か。 

 

どうやらルビーは数少ない希少的な存在になるんだな、と割とどうでも良い事を考えるアクアだった。

 

 

 

 

 

 

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