認めない子   作:アイらゔU

18 / 50
第17話 表と裏の舞台

 

今回のシーズン、今ガチ♡ 舞台の幕はとっくに上がっていたと思っていた……が、まだだったんだ、と痛感させられる。

 

不知火フリルと言う大物の登場で本当の意味で幕が上がったんだ。

 

 

『今回、スペシャルゲストが登場します!』

 

 

そうアナウンスされた時は少しざわついた。

ざわつくと同時に納得した面も皆あった。

 

それは当然今回の人数について、だ。7人と言う奇数の状態。

あからさまに仲間外れにする、と言うのは見栄えが悪いし、ハブられた者は勿論、仲間に入れなかったメンバーも心証を悪くする可能性が高い。まんま、学校内でのいじめ、と言う連想にも簡単に繋げられてしまうからだ。……特に匿名でのSNSコメントはそう言った負の側面を好む傾向にある。弱者を助けている、と大義名分を持てば加害者認定した者はどんな攻撃をしても良い、と思ってしまい、軈て炎上する事になる。

だから、かなり気を使い雰囲気を壊さず、更には恋愛リアリティとして成立させなければならない、とタフな現場だ。と思っていたんだが……、ここで欠けていた1人が追加される事になった。

 

 

「不知火フリルです。よろしくお願いします」

 

 

欠けた者は何で埋めたら良い?

貴女じゃないといけない……な訳が無い。まさかもまさか。これ程の、これ程の最上大物がこの場に登場するなんて誰が予想出来ただろうか。

 

 

現在は、取り合えずカメラは回ってない。時折良い画は抑えておきたいから、と回ってるカメラはあるが、それでも数は少ない。当然だ。不知火フリルの登場で場が混乱を極めるのはでも予想が出来る事。それはそれで面白いのかもしれないが、似たり寄ったりなシーンになる為、変に尺を取られ過ぎると、本命である恋愛・交流・親交部分がおざなりになってしまうのだから。

 

 

「へぇ、やっぱり不知火さん程の人も興味があったんだ?」

「ええ。勿論。……中々難しい事だったし、やっぱり同級生との恋愛。興味があったから」

 

 

フリルは真顔でそう答えた。

何故、彼女が参加したのかの疑問の答えがそこに全て入っている————だけとは思えないが。

 

 

 

 

そして遡る事数10分前。

不知火フリルが登場した場面に、混乱極まった場面に時間軸を戻そう。

 

 

「えー、ここで説明をさせてください」

 

 

ディレクターがここで混乱を納めようとある程度の説明をしてくれる。

 

不知火フリルとは自他ともに認めるビッグネーム。

委縮する可能性も当然あったが、利害が完全に一致したとの事で特別枠、スペシャルゲストとして参加して貰ったとの事。

※視聴者には実は予告していた。リアルなリアクションが知りたかった為、出演者には黙っていた。

 

後現在進行形で次のドラマ枠で似たような場面がある為にその糧にしたい、と言う裏事情。それはリアリティショーとしては正直好ましくないのでは? 本当に恋愛したい、ガチ恋と言う分類においては、仕事の為と言う割り切りはあまり宜しくないのでは? と思えるが全てが全てリアルな訳が無いのは出演者は皆知っているし、自分達も同じ様なモノなのでそれは良いとしている。極力面に出さない様にするだけで。

 

後は、彼女は元々クール系として完全にドハマりして売れていったのだが、ここへきて『親しみやすさ』や『自然体の不知火フリル』と言う新たな面を認知、周知して貰えたらとも思っているとの事。

 

ディレクターも、彼女を出せば当然視聴者が誰に釘付けになるのかは解っているので、それは好ましく無く積極的に皆を使っていくと約束してくれた。

不知火フリルが出た時点で、視聴率のブーストは掛かっている。だから多少不知火フリルの出番が無くて彼女に盛り上がっていた層からクレームが来たとしても大丈夫だ、と言う判断である。

 

 

「わっ! やっぱりフリルさんって生で見ると本当に綺麗ですね! 凄くオーラもあって何でも着こなせて映えそう。私、ファッションモデル始めたばかりなんですけど、いつかフリルさんみたいになりたいなー、って思ってたんです!」

 

 

ゆきが笑顔でフリルに話しかける。物怖じしない姿は流石の一言、だろうか。

超大物だけど、なるべく同じ高校生同士の会話でお願いします、とお願いされたとはいえここまで踏み込めるのは彼女の才能と呼べる。

 

因みにフリルもフリルで、流石の対応力で答えた。

 

 

「ありがとう、でも ゆきちゃんにはゆきちゃんにしかない、あなただけの良さがあると思うわ。無理に誰かに似せる必要なんて無い。……自分の魅力を磨いていけばきっと大丈夫」

 

 

そう答えて……それだけじゃない。

鷲見 ゆき が乗っていた表紙を当てて見たり。ただ綺麗事を言っているだけじゃなく、ゆき自身の事をしっかり見ていて、知っているから、と言う気遣いも忘れない。

……事実、フリルには面食いな面があるから、気に入った可愛い子の事はしっかりと覚えている。その中にバッチリゆきが居た、と言う事である。

 

 

「自分の魅力かぁ……、ありがとうございます! 頑張ってみます!!」

 

 

こちらも流石の一言、である。

 

 

 

「えっと、オレは熊野ノブユキで、ダンサーです! 今度是非見て貰えらたな~~って」

「ダンス———いいわね。私も熊野君が躍っているところ、是非見てみたいわ。でも、私の前だからって変に緊張しないようにね? 本来の実力の貴方を視てみたいから。……この現場で慣れてくれると私の方も嬉しいから」

 

 

柔らかな笑みを見せるフリル。思わず少年の様に目を輝かせるノブユキ。

名前を言って貰えた事も嬉しさに拍車をかけた。

 

 

「ッッ!! め、めっちゃ難しい。でも、やるからにはやりますよ! かっこいいトコ、アピールしときたいんで!!」

 

 

ノブユキとのトークも恙なく。

不知火フリルの前だったら誰でも緊張して委縮するだろう。それをさせまいとする所作や言葉。ノブユキは感動、感銘を覚えた様で今後更に期待できる事間違いなしだろう。

 

 

 

そして続いて———状況が少し動き始める。

 

 

 

「~~~~ッッ(不知火フリル、ほんもの、ほんものだぁぁ!!)」

 

 

MEMちょは、彼女を視た瞬間から色んなメーターが振り切ってしまっていた。

ゆきやノブユキの様に気兼ねなく、気さくに、緊張なく話しかける~~なんて難しい所の話じゃなく、先陣切ってくれた2人の事を尊敬し敬愛までしそうになる———が、自分が前に行く事がなかなかできない。

彼女を視た瞬間から心臓が飛び出そうだった。いつも画面越しに憧れていた存在が、今目の前にいる。フリルのどこかミステリアスで堂々とした雰囲気が、他の人とはまったく違う輝きを放っているように感じられて、足がすくんでしまうからだ。

 

 

「あ————」

「っ!!」

 

 

ぴたっ、と目が合った。

緊張が最高潮になって変な汗、手汗も凄い事になる~~と大混乱だったMEMちょなのだが。

 

 

「MEMちょさん、ですよね? 私ファンなんです。お会いできて光栄です」

「………ふぇ??」

 

 

まさかの不知火フリルに認知されているだけじゃなく、ファンだと言わせると言う強者っぷりを発揮したのはMEMちょの方だった。

当の本人は、生まれたての小鹿? と思えるくらいにはプルプルとフリルの前で震えていたと言うのに、まさかの展開に思わず息を呑む。現実感が無くなってくる。

 

 

「わ、マジ!? マジでフリルさんMEMちょさんのファンなの!? うわーー、何か良いなぁ!! 私も認知してもらえる様に、って言うか、推しになってくれるくらいに頑張るッ!」

「うおおっっ、まさかのフリルさんも虜にするレベルのユーチューバーだったのか! 俺も肖っとかないと———」

「うわっ、何か次俺の自己紹介だったけど、そんなのどうでも良くなったレベルの衝撃だわ!!」

 

 

大いに盛り上がってしまった。

目を白黒させていたMEMちょだったが、次第に回りが盛り上がってくれた事で段々と言ってる意味が理解してきて。

 

 

「こちらこそ!! よろしくお願いします~~! 私の方もフリルさんの大ファンでぇ~~♪」

 

 

目に視えるかの様に、自己肯定感がUP!UP!UP! していっている。

これは、ゲーム仕様? な世界間だったら恐らく効果音(レベルアップ音)の嵐だろう。

 

その後 森本ケンゴが自己紹介の流れになっていたのだが、まさかのフリルMEMちょファンのインパクトが強くてどうでも良くなったようで、ただただ雲の上の存在の様に思っていたフリルが同じ目線にまで降りて着てくれた。普通の女の子の様に感じられた事が何だか嬉しく親近感が持てて、バンドマン! と言う肩書を説明するだけで強引に終了。

 

 

ただ———1人だけは胸中穏やかでは無かった。

 

 

勿論、フリルが登場した時点で、混乱極まっていたのだが、彼女がMEMちょのファンだ、と言う発言に頭に【?】が幾つもついて回った。

 

 

「(あれ? あれ?? だってフリルさんがMEMちょのファンになった時期って……い、いや! それより!!)」

 

 

時折覗く過去の自分の思考回路。

自己暗示をいくつも重ね掛けしていると言うのに、こういう混乱が極まった時? 不可思議?? な事が起きれば直ぐに起き上がってくれるかつての魂。

 

それは危機回避と言う意味ではありがたい事なのだが……それでも今回のに限っては何の解決策にもならない。

まさか彼女がこの場に来るなんて想定してなかった。どうすれば良いのかが解らなくなってしまった。

 

でも、あくまでこの今ガチ♡は恋愛リアリティーショー。自分が作り上げた《役》で演じるだけだと思い始めるのだった。

 

 

そんな時だ。

肩を叩かれた感触があったのは。

 

 

肩を叩いたのはアクアだった。

 

 

「まぁ、アレだ。……うん。頑張れ」

 

 

アクアの言葉は短く、それ以上の感情を含んでいる様で、余韻だけがレイの肩に残った。

 

 

「……メッチャ他人事!」

 

 

アクアのその表情は、間違いなく自分の事を憐れむ様な同情するかの様な、そんな顔だと思ったのは言うまでもない。

 

 

 

「……不知火、フリルさん」

 

 

 

続く形で、あかねがフリルの元へと向かった。

MEMちょのファンである事を公言してからか、より皆と親しみやすく、話しやすい雰囲気を醸し出す事が出来ていたから、あかねがより近づく事が出来た……と言う訳ではない。

 

あかねの違和感。この場で唯一フリルの出す『皆に公平な雰囲気』に違和感がある事に気付けた。ほんの些細なモノだったのだが、そこから彼女はどうやって繋げた(・・・)のかは……不明だが、彼女がほんの少しだけレイの事をみていた時、他の誰とも違う何かがある、と察知したのだ。

ほんの些細な仕草や視線の端々に感じられるその「特別感」が、あかねの胸に奇妙な重みを与えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒川あかね。

 

ここで、彼女のレイについての立ち位置について少し語ろう。

 

斎藤ひかりについて何も知らずにまるでこの現場で一目ぼれをしたかの様にふるまっていた事だが、それは無論、恋愛リアリティショーのひとつと言える。一目ぼれだって場を盛り上げる重要なエンタメ要素の1つになりえるだろう。

 

だけど、ここでは一旦否定をしておこう。

 

あかねは、この現場にきて一目ぼれをして……と言った訳ではない。恋愛リアリティショーの為に、打算的な演技をしている訳でもない。

 

 

彼女は最初からひかりの事を――――レイ(・・)の事を知っていたのだ。

 

 

今ガチ♡で共演する様になったのはあくまで偶然だが、今回の出演者を見た時にあかねは全て決めていたのだ。性格上、自ら積極的に彼に対してアプローチをかけると言うのは非常に困難だった。そこで同じ劇団の子のアドバイスも貰って……、あかねはリアリティーショーだけど、《役》を演じる体で、レイに対してアプローチをする、と決めていたのだ。

 

 

レイの好みは概ね把握しているつもり、だったから。

 

 

そして、あかねが北斗レイに惹かれたのは奇しくも不知火フリルと同じく、彼の音色に心を掴まれた、と言うのが事の真相である。

少し違う点があるとするなら、彼女の想いは有馬かなと北斗レイ、2人を好きになった事から始まった。

 

 

 

あの日(・・・)から あかねは、ずっとずっとこの瞬間を待っていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幼少期、あかねはテレビのとある場面に目を奪われた。

 

 

 

 

 

 

それは有馬かなが子役として出演しているTVドラマ。子供とは思えない堂々とした立ち振る舞い、台詞回し、そして彼女の代名詞にもなっている『10秒で泣ける天才子役』と言う部分。

 

母親と再会し、出会って直ぐに目から溢れる大粒の涙。

それに見惚れ、魅入ってしまった。

 

あかねは母親に録画したドラマを何度も何度も巻き戻しするようにせがむ様になった。ドラマに関しては難しい事はまだ解らない。でも、かなの凄さは直ぐに解ったのだ。

 

 

「あかねは本当にかなちゃんが大好きねぇ」

 

 

それは思わず呆れそうになる程に、だった。何度も何度もこの台詞をあかねに言っていた母親。そして何度も返ってくるのは同じ答え。

 

 

「だってだって! かなちゃんすごいんだよ! 10秒で泣ける天才子役なんだよ! かわいくてお芝居上手でっ、おとなあいてでもハキハキお喋りできてっ」

 

 

そこからは有馬かなの話題ばかり。本当に夢中になったんだな、と誰が見ても解る場面だった。

だが、今回に限っては少し違った。

 

 

「ママは、かなちゃんも好きだけど、こっちのレイちゃんの方が好きねぇ」

「えーー! なんでーー! かなちゃんすごいんだよ! どうすごいか、もっともっと説明してあげるよ!」

 

 

あかねは今まで以上に有馬かなの事を熱弁するが、今回のドラマの話で初めて出てきた男の子、レイの姿が出ている場面を早送りをしてあかねに見せてみた。

 

 

「まぁまぁ、あかねも見てみなさい。レイちゃんも負けないくらい凄いんだから」

「はぁ~~ぁ。……あかねはかなちゃんファンに、ママの方はレイちゃんファンになっちゃったね。夢中なのは良い事かもだけど、パパの方もちょっとは気にかけてくれても良いって思わないのかなぁ……??」

 

 

父親だけが肩身が狭そうに苦笑いをしていた。

最愛の妻と我が子が違う子に夢中。更に言えば母親に関しては子供とは言え男の子……と。当然本気にはしてないが、寂しく感じてしまうのは仕方がない事だろう。

 

 

それはドラマのエンディング。

 

1人の男の子が花道から歩いてくる。

そして、有馬かなが、その男の子の手を取って丘の高台へと走る。

暖かな太陽の光が降り注いだかと思えば、次にはいつの間にか設置されているピアノに、男の子は座った。

時折、テレビでもやっている『街ピアノ』かな? とあかねは思った。

同い年くらいの子が弾く姿を見るのは初めてだな―――と、あかねは思っていたが、どうしても目を向けるのはその隣で楽しそうに座っている有馬かなの姿の方。

 

 

でも、それも……彼が音色を奏でるまでの話だった。

 

 

本当に楽しそうに音を奏でながら、かなと一緒に笑い合う場面。

なんでこの場面をドラマの中に持ってこなかったのか? と子供ながら疑問が浮かんで浮かんで仕方が無かった。

笑い合い、背中合わせになり、軈てエンディングの曲が終わると―――彼は花道を去っていった。

 

 

「今回からエンディングの演出が変わったのよぉ♪ 何でもかなちゃんの幼なじみで、レイちゃんって言って。世界的な賞を最年少記録で受賞してギネス記録にも認定されたとかでぇ~~」

 

 

鼻高々に、自分の事じゃないと言うのに、まるで自分の事を自慢するかの様に説明に入る母。

そして勿論呆れる父。

 

 

「……すごい」

 

 

目を輝かせてしまった。

かなの事を観ていた筈なのに、気づけば音の虜になった。目には映らないモノだと言うのに、はっきりとそこに色があったと思えた。

傍で聴けているかなが、同時に羨ましいとの思ったんだ。

 

 

「すごいなぁ、良いなぁ、良いなぁ、すごいなぁ―――――」

 

 

ただただ、その言葉だけを繰り返し呟く。何度も巻き戻しては再生を繰り返す。

 

 

「あ、そうだ! ならあかねも演技かピアノ、どっちかやってみたら良いんじゃない??」

「……え!?」

 

 

その後に聞いたのは演技かピアノか、どちらかをやってみれば良い、と言う親の打診である。母としては娘も夢中になれるくらいのファンになってくれたのが純粋に嬉しかったりしたのは別の話。

 

 

 

 

そして―――その後、大好きな気持ちが揺らぐ事件が起きてしまった。

 

 

 

 

 

大好きだった筈なのに―――……。

物凄く、大好きだったのに――――……。

 

 

 

 

 

【私はアンタみたいなのが一番嫌い】

 

 

 

 

あの時有馬かなに、はっきりとそう言われた。

心が壊れそうになった。涙で前が見えなくなった。大好き、だったものが崩れていく感覚だった。

でも、完全に壊れた訳じゃなかった。

打ちひしがれる私に優しく声をかけてくれるのが、彼……北斗レイだった。

 

 

今度は、大好きなモノが―――もっともっと大好きになった出来事。

 

 

 

【ごめんね】

 

 

 

彼が悪いことをした訳じゃないのに、真似をしてかぶっていた帽子を掃われて落ちてしまっていたのを拾ってくれて、埃を払ってくれて、手渡ししてくれた。

その子が北斗レイだと言うのに気付くのには時間は掛からなかった。

 

でも、初めて会う事が出来て嬉しい筈なのに、こんな風に出会いたくは無かった、とも思ってしまった。

 

 

【…………今、凄く大変なんだよ。……とても、苦しんでて。……身勝手かもしれない。難しいかもしれない。だけど、あの子の事嫌いにならないであげて欲しい、です】

 

 

申し訳なさそうに、それでいて寂しそうに笑っていたレイの姿があかねの脳裏から離れなくなった。

 

その後は少しの間だったけど、彼と話をする事が出来た。

あのドラマのエンディングテーマ……。ピアノが凄かった事も、伝えることができた。

どうせなら、かなと一緒に3人で話しをしたかったな、と何処か思ってしまったが……それでも、それをかき消すかの様な心地よさがそこにはあった。

 

でも、楽しいひと時と言うのは時間がたつのが早いもの。

レイは他の人に呼ばれて……最後に何度も何度も頭を下げて戻っていってしまったんだ。

 

彼には彼女の事が解っていて、それは自分には解らないんだと、この時のあかねは思えた。

何より同い年だと言うのにまるで大人の様な対応に驚いた。慰めてくれる所作なんて、子供のそれじゃない、と思った。とても温かくて、心地よくて……涙を止めてくれた事が嬉しかった。

 

だからこそ、もっともっと知りたいと思ったんだ。

あんなにやさしい人が傍に居るんだから、きっと かなだって優しいんだと、本当は優しいんだと思いなおす事も出来た。

 

 

でも、なら何でそんな顔をするのか。その表情の意味はなんなのか?

 

 

知りたくなった。

同じ地平に立ちたい。そう思った。

元々、大好きな2人だったのだから、2人の事を良く知る為にも、沢山沢山勉強しなければならない、と思った。

 

あの日から勉強に勉強を重ねて、それに役者としての道も走って走って……、いつの日にかあの時の事を、あの日の事を彼に伝える為に。自分なりの答えを彼に伝える為に、頑張ってきたんだ。

 

 

だけど―――、彼はある時期を境に、忽然と芸能界から姿を消した。

 

 

北斗レイと言う名は、最初からなかったかの様に、その存在の全てが解らなくなってしまったんだ。正直、ショックだった。地面が崩れていくようなそんな感覚に見舞われてしまった。いつか、また絶対に会うんだ、と思っていた筈なのに。

 

 

そこから、あかねは心を学ぶ事と並行して、まるで調査。探偵? を見紛う程の行動力と調査力を伸ばそうと躍起になった。

 

唯一の救いは【死亡】となる様な事件報道がされていないと言う事だろう。鬼才、天才と呼ばれた幼きピアニストの失踪だ。それなりにワイドショーで取り上げられていた事もあったから、きっと生きている。大丈夫だ、と心を安定させる事にした。

 

世間ではその後も様々な憶測こそ流れ出ているが、残念な事にその全てが信憑性に欠けると言う事も理解した。

誰かが、何処かが、何処かに匿っているのでは? と言うのが一番しっくり来た。

だとしたら、【何故?】と言う疑問が次に浮かぶ。

事件性があるとするなら、警察だって黙ってない筈だ。なのにも拘わらず動く気配が無い、と言う事はある種解決をしている事なのだろうと理解もした。

 

 

☆ 精神的な疲弊からの逃避?

芸能活動や家庭環境からのストレス、プレッシャー。それらが重なってしまって、如何に超人的な技能を誇る彼でも、まだ歳は子供。精神が持たなかったのではないか?

 

☆ 新しい自分を求める決意?

レイは違う分野を求めようとしたのではないか? 考えたく無かったが、有馬かなから離れる、と言う決断をしたのではないか?? その結果、芸能界から離れて全く新しい分野へと手を出したからこそ、失踪に繋がったのだろうか?

 

☆ 家庭環境の影響?

子供故にその親の影響力は絶大だ。そこにトラブルがあった可能性も否定できない。精神的に追い詰められたが故の逃避行動? 

 

☆ 友人や近しい知人、親しい人との関係が悪化した?

親以外にも周囲の環境の変化も注意すべき点の1つだ。

何らかのトラブルが発生し対立する様な事態が起きたとしたら? 耐えられなくなって、全てをリセットしたい気持ちになってもおかしくはない。それこそ、芸能界だけじゃなく、ピアノ、ピアニストとしての彼も消えてしまったのだから。

 

 

 

様々なパターンを考えていた時、あかねが注目したのは、【レイの所属事務所】について、だ。有馬かなは子役に対して力を入れている【煌童社】に所属しているモノだと思っていた。先入観を持ってしまっていた。

 

でも、少し調べたら―――彼は移籍していた事が解った。

あの【苺プロダクション】に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……正直、困った。ほんとに、困った。どうしよう? アクア……」

「そりゃ頑張る以外無くないか? 一応リアリティショーだ。その困った反応ってのも映えるかもしれないし。あのフリルと話が出来るって言うのに、何処か困った様子のひかり。唯一違う反応を見せる異性。……うん。存外視聴者からの食いつきもありそうだ。………普通にくっついたらどう? 好かれてんだし」

「やっぱり他人事、って考えてるでしょ?」

「そりゃ、実際他人事だし?」

「……ぅぅ、家族が冷たい」

「その家族にずっと秘密(不知火フリル関係)にされてたしなぁ~」

「………ぅぅ、それなら自業自得………って思いたくないよぉ」

 

 

どよよん、とさせているのがレイである。

 

丁度小休憩タイムな感じで、教室外で休憩を取っている。他のメンバーは各々別の場所で居る。積極的にカメラに収まりに行こうとする者やフリルとコミュニケーションを取ろうとするもの、何かを熱心に勉強している者、と様々。レイとアクアは丁度同じ事務所から来た、と言う事なので、2人で居ても不自然さが無い。

ひかるんの様に変に所属事務所をいじってなくて良かった、と思った瞬間である。

 

 

 

「ひかりくん。ちょっと良いかな?」

 

 

 

そんな時だ。

あかねから声をかけてきたのは。

 

 

 

「あ、はい。大丈夫ですよ、あかねさん」

 

 

 

そしてレイもそれに応える様に立ち上がる。

そんな姿を見たアクアはボソリと一言。

 

 

「……役者、だな」

 

 

どれだけ困ったとしても、どれだけ大変だったとしても。仕事には私情を持ち込まない。直ぐに体制を整える。

その辺りは見習うべき点があまりにも多いのが、ダントツでレイなのだ。

あの今日あまのドラマ……、もう少し早くにレイが参戦していたとしたら、もっと評価が上がっていたんじゃないか? とアクアは信じて疑わない。

 

 

そんな時、だった。

 

 

「私も話に混ぜて貰って構わない?」

 

 

フリルまでやってきた。

丁度、あかねとフリル、そしてレイの3人が絡み合う感じになる。

 

 

「おっ、修羅場」

 

 

思わず普段の倍増しくらいには陽気な声でアクアはボソリと呟き。

 

 

「バランス的に、2対2で話しをしませんか? やっぱり孤立しちゃうのは、同じ事務所としても見てられないので」

「っておい、コラ」

 

 

ぐいっ、とアクアを引っ張り上げたのはレイである。

当然、アクアの妙に楽しそうな一声は聞こえていた訳で、ムカッ! と来たのは当然の話。

 

 

「それに、僕達は同じ学校。フリルさんとは面識ありますから」

「……ええ。その通りね。それにひかり君とは同じクラスでもある事だし」

 

 

この時、フリルはあかねに対して、ふふんっ と笑った様な気がした。

多分、気のせいか何かだと思ったんだけど……、それは違った。気のせいなんかじゃなかった。

 

 

「む……」

 

 

あかねが何故だか、解りやすい。物凄くわかりやすく……頬を膨らませるから。

 

 

「でも、ここで初めて沢山話せて楽しかったよね! ひかり君!!」

「え、あ?? う。うん??」

 

 

ずいっ、とやや強引に入ってくるのがあかね。同じ学校、同じクラスと言うアドバンテージを持つフリルに対してあまりにも弱いカードでしかない訳だが……、でも切り札はまだ持っている。使う場面が中々に難しいけれど、幼少期に昔あった事があると言うカードはきっと強力だと思っているから。

 

 

「そう。……私も、今からとても楽しみにしてる事、ね」

 

 

フリルは不敵に笑った。

脳内ではバチバチにレイの事を取り合ってる三角関係にしか見えない、とアクアは笑う。

一応、巻き込まれる形になったかもしれないが、これじゃただの置物を置いてるくらいの事しか出来ないぞ? とレイに同情もしたりした。

2人はプロだ。現場の雰囲気もしっかり汲み取って、無難な言動をする程度で番組事態を成り立たす事は出来るだろう。

水面下の戦いに関してはそちら側で頑張ってほしい。若者の恋愛バトルはあまりにもハードルが高すぎるから。

 

 

あかねにとって、当たり前だがフリルは競い合うとすれば、超が幾つもつく程の難敵。

でも、それでもあかねには他にも強みがある。

 

いつもの素のあかねは大胆な行動をとる事は出来ない。恥ずかしさが勝ってしまうから。

でも、今のあかねは―――対レイ用のアップグレードしてきた、という強みがあかねにはあるのだ。

 

 

至近距離であかねを見たからか、レイには よりそれが解る。そして感じたのはレイだけじゃない。アクアも同様。

このあかねの仕草や雰囲気。そして今向けている瞳。

 

それらを総合して連想させる人物は……1人しか知らない。

 

 

 

【……アイ?】

 

 

 

あかねの瞳の中に、あのアイに通じる星の輝きを見た気がした。

それにレイに対しての接し方までが、まるでトレースさせたかの様に、生き写し? かの様に思ってしまった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。