認めない子 作:アイらゔU
「ぅぅ……」
「「―――――」」
さて、現在何が起きているのか。それを今から説明しましょう!
舞台は【今ガチ♡】―――ではなく苺プロの事務所。
本日のお勤め、皆終了していて現在事務所内に残っているのは星野ファミリーのみ。
因みに斎藤夫妻はまだまだ忙しいのでこの場からは居なくなってます。
一声【明日も早いから響かないように】とだけ言伝を残して。
助けてくれても良いのでは? と言う視線をとある男の子は送ってましたが、こうなった
そう、とある男の子……つまりアイとルビーの2人がレイを詰めていると言う状況なのです。
帰ってくるなり捕らえられて、ルビーから「裁判開始!!」みたいな事を言われたのです。
それを苦笑いをしつつ、軽く諫めつつも、仕事の方が大変、と放置してくれました。つまりはネグレクトと言って良いと思います。昨今特に問題になっている気がするヤツです。
———酷い親が居たもんだ、と心の中で愚痴ったのは言うまでもない話。
「ねぇねぇ、レイくん??」
いつもはレイお兄ちゃん呼びだというのに、この時はなぜか「レイくん」呼びになってるルビー。何だか怖い、と言うのが素直な感想。受けられる鋭い視線もそれを増幅させていると言うものだった。
「フリルさんの事はさ?
「あ、いや。そんなつもりは滅相も……」
そんなつもりは無くても、例え番組の構成的にも面白そうだと使われたのは事実。エンタメと言えどもリアリティーショー。完全否定するのは難しく……そもそも聞き入れてもらえるかどうかが怪しい。
「フリルちゃんもあのあかねちゃんも、レイのことよーーっぽど魅力を感じたんだねぇ? そうだよね? レイ??」
ルビーとは対照的に、ニコニコニコニコ——————と、笑顔を見せるアイの姿がそこにある。変に言い繕う事をせずに見たままの感想を述べたとしたら、単純に怖い。笑顔の美女。その本心に黒いナニカが宿ってるであろう美女の笑顔は本当に怖い。世界の一流暗殺者は実は女の方が数が多い、と何かで聞いた覚えがあるが………、本当なのかな? と割と現実逃避の様にどうでも良い事が頭の中を過った。
「え、エンタメだよ? 後勿論僕としても2人とも尊敬してます。役者としても、芸能人としても、遥か格上だし————」
侍らせるなんてとんでもない! そんな位置に居ない! と熱弁するのだが、アイは更に続けていった。
「まー、これだけモテちゃうのは、それもまた成長って思わないと駄目なのかもねー? ルビーもそう思わない?」
「駄目です! まだレイくんには早過ぎです!! あの時の初心なウブでウブブな姿を忘れないでください!!」
「―――幾らレイが初心な演技してたとしても、それを餌にあの2人は寄ってきそうだけどな。私達が教えてあげる。ってな感じで」
口調が右往左往していて一貫性が無い、と思わずダメ出ししたくなってしまったが、どうにかレイは堪えた。
そしてアイとルビーに続き、備え付けられているソファーの上で、参考書に目を通しながら聞き耳を立てているアクアまでもが変に参加してきたのにはさすがに文句を言う。
「アクア、黙っててよ」
フォローしてくれるならいざ知らず、火に油、火に火薬投げ込む様な真似はしないで! とレイはアクアに対して目でも訴えかけた。
でも、依然と飄々としているアクア。……実はアクアも不知火フリルに関して黙っていた事、まだ根に思っているのでは? と感じてしまって仕方がない。
星野兄妹には黙っていたのは事実。……一応、謝罪は受け取ってくれたし、状況を鑑みても仕方ない、と思ってくれた……と判断したんだけれど。
後はただ単純に性格のもんだい。遠いトコから石投げて楽しんでる??
「アクアは、まだ良し! 因みに今度こそ私がお兄ちゃんが付き合うべき相手を決めますからね! レイは勝手にやっちゃったけど!!」
「いや、勝手にも程があるだろ」
「……僕が勝手にやった訳じゃないのに」
「うーん……、私達が相手を選ぶ。……コンセプトとしては面白いんだけどぉ、やっぱし2人ともまだ早いって言うか……」
話が逸れてレイ的には良いかもしれない。
アクアは変に絡んできたので、これまた変に飛び火してしまって自業自得だ。
アイは……見て解る通り、子離れ出来てない典型的な例。ひょっとして嫁姑問題で厄介になるパターンじゃないだろうか。
「なのでこれから発表しま~す! アクアお兄ちゃんが付き合うべき女性、つまり私の一押しは鷲見ゆき! 多分、この子は純粋で良いコだよ!!」
「「…………」」
ゆきの事は―――当然2人は知っている。アクアは直接的に見て、レイとしては情報として彼女を知っている。
彼女は言っていた。あの不知火フリルが参戦した時点で、注目は彼女に集まる。それは解っている。でも、そうだったとしても、私は私が一番目立つように戦う事を止めない。
かなり強気モードに入っている彼女を視ているので……純粋とは? と疑問に思ってしまう。
そして、アクアはレイの方を見た。
レイはアクアに視線に対して、無言を貫いたまま、ふるふる~ と左右に首を振った。言葉は出さずとも、思いは通ずる。共にシスコンであるが為。
「ルビー」
レイとアクア、代表してアクアがルビーの方を呆れながら視ると、ハッキリと告げた。
「お前は見る目がないから暫く恋愛すんなよ」
「はぁっ!! 何それ失礼じゃん!!」
まさかの暴言にぎゃーぎゃー! とルビーが騒ぎ、兄妹喧嘩が勃発(一方的にルビーが怒ってるだけである)。
今の内に痺れかけた足をどうにか戻して立ち直ろうとするレイ。
「それにしても。レイのこの表情……。……あかねちゃんと一緒に居る場面とか特に変わって見えるんだけど、気のせいなのかな? 特に最初のこの辺りとか。レイ
「!!」
いつの間にやら背後に現れし
その手にはこれまたいつの間にかタブレットが握られていて、すっすっすっ~~と操作すると同時に、今ガチ♡ の絵が流れていた。
おかしい。オンエアされるのはまだ先な筈なのに、まだ公になってないシーンまで流れている。
「いや、えと。母さん? なんで
「ふふんっ。私の力を持ってすればこの程度朝飯どころか夕飯前!」
「……今は夜だし、朝も夕もとっくに食い終わってるけどな」
「ちょっとお兄ちゃんこっち向いてよ!! なんでゆきちゃんダメなのさ!!」
アイのコネ? はどうやら想像以上らしい。と言うかそんなの横流しして大丈夫か? 犯罪の類ではないのか?? と思ってしまうのも仕方がない事なのだ。
それはそれとして、先ほどまでアクアの相手に関してのやり取りで一時離れていた筈のルビーが戻ってきてしまっていた。もう少し粘ってくれても良いのに、とレイは心の中で愚痴る。
「まぁ、それはオレも気になってた」
「……だよね? いくら母さんでも収録の内容を勝手(予想)に外に持ち出すなんて———」
「そっちじゃなくてレイの反応の方」
「いや なんでだよっっ!!?」
持ち出し厳禁な筈だろ!? 何で自分の演技の方が気になるんだ!! と大声で言ってやりたかったのだが、アイが遮る様に前に出てきたから言えなかった。
「でしょでしょ? アクアもそう思うでしょ? そりゃあかねちゃん可愛いし? いきなり前に出てきて、それもレイ一点狙いにだったから面食らっちゃった~~ってのはあるかもだけど、それにしてもここまで変わっちゃうのは珍しいかなぁ、って。レイ、お芝居に関して、拘りとか信念? みたいなのも凄いし。何人泣かせてきた事か……」
「……………」
役者としてのレイの力量はこの場の誰もが知っている。
幼少期の記憶は無いにしても、レイ自身は嘗てのレイを思い出す為に、嘗てのレイを取り戻す為に、レイの過去の映像を何度も何度も見続けて、レイ自身を演じ続けてきた、と言う他の誰にも出来ないキャリアがある。
そう言う意味ではキャリアは大物役者と何ら遜色ないレベルにまで培っていると言って良い。スタートもストップもない。……延々と戻る事の無い嘗てのレイの面影を追って……嘗てのレイを知る者の為に、追い求め続けてきたんだから。
でも、アイの最後のコメントだけは誤解を招きそうなので止めていただきたい。小さなころは、やっぱり仕方ない。小さい子相手にはやっぱり難しいから。
「………原因があるとすれば、やっぱり母さんかな」
「って、ええっ!? なんでここに来て私のせいなのっ!?」
アクアの何気ない一言がアイに多段ヒット。そんなバカな、と思いつつもアクアの表情や声色から冗談の類で言っているのではない、と。嘘を見抜くのが得意なアイからすると、嘘じゃない、と言うのがよーくわかってしまったから、殊の外ダメージが入ってしまったのだ。
ガーン、と項垂れてしまうアイの所に追撃の一撃——はせずに、回復の一言をいう。
「いや、何だか黒川あかねって、どことなく母さんに似た雰囲気って言うか、言動の節々や仕草の癖々が似てるって言うか。……感覚で、だけど」
「「!!」」
アクアの一言で、ダメージを受けていたアイの傷? は回復に向かい。
そしてレイ自身は驚きを隠せない様にアクアの方を視る。
【気のせい?】と思っていた節はある。
そう思っていないと、【何故?】で埋め尽くされてしまうから。
『何故黒川あかねは、アイを演じているんだ?』と。
アクアの言う様に、確かに黒川あかねの技量、そのスタイルを駆使すれば、アイだろうと誰だろうと、自身に投影し演じる事は出来るだろう。
ただ、何故アイを、それも初っ端のいきなり演じたのかが最大の疑問なのだ。
あかねがアイを演じる切っ掛けとなった件のあの事件………、今は起こっていない。寧ろ起こさない様に務めるのがこの【今ガチ♡】出演の最大の理由だったから、最初から役と言う鎧を着る事を選んだあかねに対して喜ぶべきモノなのだが……。
どうしても【何故?】が付きまとってくる。
何か重要な点を見落としているのでは? と疑心暗鬼になってくるのだ。
「ママに??」
そして置いてけぼりにされていたルビーだったが、ここへきてようやくアクアに突っかかるのを止めて、アイが持っているタブレットに、その映像に目をやる。
「…………ほんとだ」
じっ———とあかねを視る。
アクアが解ったのだ。妹のルビーが解らない訳がない。今も昔も最推しはアイ。……以前、フリルが最推しだと言ってしまったのは完全に無かった事にしてる。
兎にも角にも、ルビーは完全アイ推し。解らない訳がない。
「だろ? ってか、
幼少期より、このルビーと言う妹は結構ヤバいレベルのアイヲタクだった。
母親に甘える時、入浴する時、果ては授乳する時、その全てに自らを曝け出して心の底から楽しんでいる、と言う。……見た目がアイの子供だから何ともないのだが、中身を視られた日には、逮捕されるんじゃないか? と思ってしまう程だった。
だからこそ、ルビーが気付けなかったのが意外だった。
そして意外と————推し変したのは本心だったのか? とも思えてしまう。
「ちーがーいーまーすーーー! 私だって今も昔も推しはアイ!! ママ1人だけ!!」
ルビーはアクアの心を読み、更には何処からともなく取り出した応援団扇を片手に、サイリウムを振る様にぶんぶんと振りまわした。
「ぶっっ!」
勢いが付き過ぎたのか、勢い余ってレイの顔面にヒットした。
「ちょ、ちょっと! 周りに気を付けてよ!」
一応、ルビーを庇うとすればこれは仕方ない事故。
何故なら、ずっと正座をしていたレイがしれっと立ち上がった時に、足が痺れてしまって少し体勢が、位置が下がってしまっていたから起きてしまったのである。
「…………ふむふむ」
そんな間にも、何やらアイの思案は続く。
あの演技に関しては熱く妥協を許さない性質のレイが、ほんの僅かにとは言え決めていた役がブレる程に変わったわけ。
それがあかねと絡んだ時が最も顕著に表れていたのは言うまでもない。
フリルが登場した時も勿論変わったが、それは想定の範囲内であり、皆一様に驚いている様子だったから、その周囲に溶け込ませているから違和感は全くない。
だけど、このあかねとのシーンではどうしても違和感が残る。
そして、今の話……。
自分と似てる~と言うのは正直解らない。自分の事だけは中々に客観的に見るのが難しい。いつも理想を追いかけ続けて高見を目指し続けているから。常に最高で最強で無敵を目指しているから。
でも、アクアやルビー、反応的にもレイもそうだと言っている。
「(―――つまり、レイ君は あかねちゃんの雰囲気が私に似ていたから動揺しちゃった、と。恋愛リアリティーショーって場面で、私を思い浮かべちゃった、って訳かぁ。だからレイってば、色々慌てちゃってて……。それでいて恥ずかしそうにしてて………)」
いつの間にか難しく考えていたアイの表情が笑顔に戻っていた。
つい今し方の怖い怖い感じの笑みではなく、本当に心から笑っているそんな笑み。
「も――――しょ―――がないな~~~! レイってばぁ~~♪」
「むぎゅっ!!?」
そして、アイはレイを抱きしめた。上手い具合に首元に入って……極められた。
「と言う訳で、ぃよしっ! 許します!! 判決
「えええ!! ママが裏切った!! 何で!!?」
そんな感じで、ルビーこそはまだ納得してなかったが、足が痺れていて、アイにされるがままになってしまったレイは、知らない内に無罪? を勝ち取る事が出来た。
それにしても裁判の要素ーーー最後の判決! な部分しか無かった気がする……と、薄れゆく意識の中でレイはそうも思ったのだった。
そして今ガチ♡が始まって数週間後。
展開が動く。
「私……もう【今ガチ】辞めたい」
突然のシリアスな展開。
この温度差に思わず【風邪ひきそう】……と内心ぼやいたアクアだった。