認めない子   作:アイらゔU

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第1話 二重人格設定

 

 

アイ的には、ほんの些細な切っ掛けで嘘に気付いただけだ。

それに別に大した程のものでも無い、とも思っていた。

 

後上げるとすればレイがミヤコ・壱護の養子となって自分達と接する事も以前より更に多くなったから、もあるだろうか。

 

レイは命の恩人。だから少しでも感謝を伝えたくて、少しでも力になりたくて、少しでも長く、多く、より接していた。

だからレイの違和感に気付けた、辿り着けたとも言えるだろう。

謂わば必然なのだ。

 

 

そして【嘘つきの目】

 

 

アイはそう自称しているが、実際にアイ自身その嘘つきの目をした人をハッキリと見た事は実はまだ1人しか知らない。

そもそも当たり前だが何でもかんでも腹の底が見える読める超能力者と言う訳じゃないのだ。

 

その1人も、深く深く付き合いがあったからこそ、自分自身と似通ってる部分が多かった事もあってより確信を得て、見抜く事が出来た。

でも、2人目となるレイに関して言えばまだ直感部分に頼ってる面もある。

 

 

つまり今回のコレは核心を見抜いた〜と言うより自身の経験則からくるものを活かしたカマかけだったりもしていた。

 

 

「(まぁ、隠したいって気持ちも解らなくもないよね。どんなに凄い子だったとしても、まだ小さな子供なんだから)」

 

 

レイの事を想えば記憶の蓋をしたままの方が良いのかもしれないし、少なくとも本人が打ち明けるまで待っていた方が良いともアイは考えていた。

それ程までに大変な事件だったから。

 

そして今日まで家族として過ごしていた間にレイの様子を見て、アイは決めた。

 

それとなく、本人に聞いてみよう、と。

 

それが正解なのかは解らない。

でも理解者が居るのと居ないのとでは全然気持ちが違う事はアイにも解っているから。だからこれが最善だと思い決めたのだ。

 

更に加えてこの深夜の時間帯というシチュエーションもアイの背中を押す切っ掛けに繋がった。

 

 

「(……うん。きっとそう)」

 

 

ずっと、自分の気持ちに蓋をし続けるより、理解者が1人でも居れば……救われる事もあるって。何より力になれる。

そう信じてるから。

 

これまでの経験で……傍に居られない。居ない方が良いって思って離れた人も居るけれど、流石にレイはそれじゃ駄目なんだ。

まだまだ小さな子供なんだ、だから傍に居た方が良いに決まってる。

少なくとも嘘が愛である事が解る様になるまでは。

 

 

アイ自身も嘘をつき続けているアイドル。

 

 

捏造して誇張して都合の悪い部分は綺麗に隠す。

偶像の存在。どんな辛い事があってもステージの上では楽しそうに幸せそうに歌う。

そんな風にレイも思ってくれたなら………と考えたがここで肝心な部分に気づく。

 

 

「(あ、でもレイ君はアイドルじゃなくない? マルチで活動してたんだっけ? いーや、もうそんなのどーだって良い!)」

 

 

よく考えたら今のレイは偶像(アイドル)じゃない、と。

マルチで活躍していた神童と呼ばれていたけれど、それは全て本物を見せ続けてきた結果の産物。……嘘つき(アイドル)としてじゃなかった、と少し慌てそうになったがそこは気合で、押し切る事にした。

 

 

「私はレイ君の味方! 家族だから! 安心してね」

 

 

辛いとき、悲しいとき、心に深い傷を負ったと言うのなら、それを本当の意味で抱きしめてあげたい。

それが、自分達家族の為に負った傷と言うのなら猶更だ。

 

何度でも言うがレイは命の恩人。

 

こうやって毎日を楽しく過ごせて、アイドルになって初めてたった東京ドーム公演を成功させて……皆で笑いながら抱き合ったあの幸せ。

どれもこれも、レイが居なかったら出来なかった事。

返しきれない、計り知れない恩がある。

 

だからこそ、その深層に触れたい。今度はこっちが守ってあげたい。

 

本当のレイに触れて、信じて信じられて……、嘘に気付いてあげて……、届く言葉も響く言葉も、アイはアイのままでレイの全てを抱きしめたいのだ。

 

 

 

 

 

「……そう、か。そうですよね」

 

 

 

 

 

 

そんな時、だった。

 

 

パリッ—————と、空気が変わった。何かが割れた様なそんな感覚に見舞われたのは。

 

 

 

 

アイは思わずレイを二度見する。

目を凝らして、もう一度改めてレイを見つめ直す。

右手で顔を覆い、軈て下へとずらして表情が露になった途端、まるで人が変わった様な気がした。

 

言うならば……今までの《レイ》と言う仮面をかぶっていたウソ(ソレ)が割れて、本当(・・)が出てきた。そんな感覚、だろうか。

 

 

 

「そうでした。貴女は、とても凄くて、とても素敵で、とても素晴しくて。……何より最強で無敵のアイドルでした」

「は、え? さいきょう??」

 

 

最強のアイドルなんて誰に言われた? 初めて言われた単語に思わずアイ驚く―――以上に、レイの異質なオーラに目を見張る。

 

 

 

今、この瞬間、この子は……()は確かに変わった。まるで別人。身に纏う雰囲気が完全に変わった。

 

 

 

アイドルとしての活動だけでなく、アイは役者と言った何かを演じる女優業も行っている為、こういった役をその身に窶す時に発せられる独特の雰囲気自体は味わった事がある。

 

 

プロと呼ばれる人達、熟練した俳優たち、観た事があるし、接した事もあるし、沢山勉強させてもらった。

 

 

でも、本当に申し訳ないけど―――――今の彼を見たら、それも全てが霞む程のものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、これはレイの心情。

 

 

こちらは落ち着いていたアイとは実に対照的。

アイに言われた瞬間、レイは驚き慌てて、何より強い強い衝撃を受けていた。

 

それはあの凶刃を背に受け死を意識したそれに匹敵するかもしれない。

 

 

アイが突然この場所に来たのもそうだが、何より不意に言われたウソと言う単語に思考が奪われ、目も奪われた。

その真っ直ぐ見据えるアイのあの瞳から目を離せず、発せられた言葉はレイの核心を突いた。

 

 

 

――それは絶対ウソじゃない。

 

 

 

その言葉をアイの口から自分に向けて聞く事になるとは想像だにしてなかった。

 

そして同時に思うのはこの似通った言葉、聞き覚えのある台詞に対して記憶が呼び覚まされる。

 

その記憶とはこことは違うまた遠い遠い世界でのアイの今際の台詞。

 

 

 

 

『この言葉は絶対嘘じゃない』

 

 

 

 

 

それは思い出したく無い圧倒的なトラウマ。

精神が崩れる様なそんなトラウマ。

 

あの場面が鮮明に脳裏に浮かんできた。

憑依させてしまったかのよう。

絶望し、絶望し、そして命の火がその瞳からも消える瞬間最も絶望した。

たった数年、確かな幸せな時の終焉。

人生の絶頂とも言えるかもしれない幸せが、奪われた。

 

目に浮かんでは負の感情が襲ってくる。

 

 

だからこそ身体の芯が震えあがる。

 

 

前世の精神の病がまた発症してしまったのか? と絶望色に染まりそうになる。

ひょっとしたら、自分がやってきた事が全て無駄になるんじゃないか? とも思ってしまう。

 

ただ、そんな思考の渦から救い出してくれたのは、そのアイ自身だった。

生気をなくし、物言わぬ身体になってしまったアイ自身を打ち破る形で伸ばされる手。そしてあの笑顔。

 

 

 

―――ね? ね? 実はレイ君。記憶戻ってない??

 

―――私はレイ君の味方! 家族だから! 安心してね。

 

 

 

笑顔の彼女を見て、それらが、それらこそが嘘じゃない、と再認識出来て……心の底から安堵できたんだ。

思わず泣いてしまいそうになったが、その前に顔を手で覆う事が出来たので、涙を見られる事は無かった。深夜帯で暗かった事も功を成した様だ。

 

 

 

安堵して、安堵して、安堵して、あの病も嘘のように霧散してかき消えて――――軈てその後に湧き上がってくる来る感情はコレ。

 

 

 

 

 

「(悔しい。悔しい。………悔しい悔しい悔しい)」

 

 

 

 

 

心から安心できた後は大変遺憾である、と言う気持ちが次から次へと湧き上がってくる。そう言えば、自分には負けず嫌いな一面もあったんだ、とまるで他人事の様に感じる。

 

そうこうしているうちにも悔しいと言う感情が身体の内から留まる事無く出続けている。それは先程の強烈なトラウマを思いっきり吹き飛ばす、消し飛ばす勢いで。

 

 

ここからは頑張って自分と向き合った。アイに悟られない様に頑張って向き合った。

 

そう、自分は悔しかった。とても悔しかった。

何故悔しいのか? 勿論決まってる。アイに簡単にバレてしまった事が、だ。

 

 

一瞬過去の病が顔を出してしまったが、これはもうイレギュラーの様なモノだ。何故ならこれは殆ど克服出来ていたから関係がない。

 

この世界に来れた事で8割型。そしてアイを救う未来を勝ち取れたことで9割。

その世界の先を生きる事が出来ると認識してからはほぼ10割。

心の痛みや苦しみから解放された。

自分の中の時間が進む気がしていた。

 

ここから先、これ以上ない幸せをかみしめながら……懸命に生きていこう。勿論、変えてしまった事への責任もある。だからその弊害もしっかりと注視して、色々と画策めいた事も人生プランに掲げて生きていこうと考えた。

 

そして、今までは全部手段でしかなかった芸の力もちゃんと自分が培ってきた財産。

前世で頑張って頑張って創り上げてきた自分の力をハッキリと認識する事が出来たのでそれも存分に活かし、磨き、支えにしていこうと思った。

 

新たな人生、新たな自分を演じる事に躊躇いは無かった。

 

そもそもアイドルと同じ様に俳優だってウソの塊。

大体の物語は放映される時はこう一文が追加されるのだから。

 

 

【この作品(話・番組・物語・映画)はフィクションです。実際の人物や団体などとは関係ありません】

 

 

 

……………

それはそれとして、話が脱線してしまったので元に戻そう。

 

悔しいのはアイに簡単にバレた事。

そう、目の前の彼女は――――最強で無敵のアイドル様は、一目でいとも容易く、嘘を見抜いた。看破してきたのだ。

 

 

嘘をつい(演じ)ている事を、あっさりと呆気なく見抜いてきたのだ。

 

悔しい以外の何物でもない。

 

記憶を失っている態で行く……と演じていたのに、こんなに簡単に見抜かれた自分が情けなくも思う。

 

これこそがアイである、と納得している自分も何処かに居るのだが、そんな風にアイを使って言い訳はしたくない。余計に惨めになるから。

 

前世を含めたら間違いなくアイ以上に磨いてきた筈の技能が軽く捻られた事。それが全て。

 

そして大した事のないチンケなプライドかもしれないが………それでも矜持というものがある。

 

 

「(……よし。ここからが本気です星野アイさん。次は思いっきり、本気で、………持ってるもの全部使って、嘘を付きます(演じます))」

 

 

確かに憧れている。間違いなくそれこそ嘘じゃないと言える。

夢の様な〜〜ではなく、正しく夢そのものな存在であるのだから当然。

 

でも、今は一端忘れる事にしたんだ。

 

挑んでみたくなった。

 

 

 

 

 

その後はひたすら集中して集中して集中して………憑依させた。

自分はこうである、と設定……した新たな 北斗 玲 を憑依させた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、私ってば君の中じゃ最強? だったのかな?」

「あははは。今のは忘れてください。……ただ、間違ってないとは思ってますよ」

 

 

君は最強で無敵のアイドル。

 

それは間違いなく、物凄く流行ったフレーズだったから。でも、ここではまだその言葉を使う人は居ないだろう。……多分。

 

 

「それで、貴女の問いに対する答え、ですが……」

「う、うん。よっしゃ! 来〜い!」

 

陽気に話をしているが、実際はごくり、とアイも生唾を飲む気持ちだ。

 

レイの雰囲気がガラリと変わった事に対しては特に何も言うつもりは無かった。……聞くまでもなくレイ自身が打ち明けてくれると心の何処かで確信があったからだ。

 

 

「正解でもあり、不正解でもある……が正しいかと思います」

「へ? なにそのふわっとした解答! ちゃーんと教えてよー! 溜めは要らないよ? クイズバラエティじゃないんだし。と言うかホラー? サスペンス? って感じだよー」

 

 

バラエティどころかサスペンス系だ、と思わずツッコんでしまうアイ。時間帯も深夜。異常事態。

でも、こういうのは口に出さない様が良い様な気もしていたが……、まあ言ってしまったものはもう取り消せないし、仕方ないだろう。

 

 

「ふふふ。そうですね。……では、答えを言う前に少し注意事項を、そして再確認をさせてください」

「注意?? 再確認??」

「はい。……これから言う言葉、その内容は正直 荒唐無稽だと自分でも思ってます。それでも良いですか?」

 

 

レイの言葉にアイは少し考える。考えて、考えて、考えて――――少しだけ苦笑いした後にレイに言った。

 

 

「こ、骨董(こっとー)……模型(もけい)? え? レイ君はその……ひとじゃない、ってこと??」

 

 

どうやらアイの耳には荒唐無稽、と言う難しい四字熟語は入って来なかった様だ。

で、バラエティ番組で骨董品鑑定~的なのがあって、それにゲスト出演した事があったから、骨董品と結び付けたのだろう。

難しい顔をしていたのは、本当に解らなかったのか、或いはレイが骨董品の類? と驚いたのか……それは不明だが。

 

 

「……ふ、ふふふ。あははは!」

 

 

レイは口元に手を当てながら朗らかに笑った。

その笑みを見たアイは、漸く難しい顔をするのを止める。

 

 

「そうですね。貴女はそうでした」

「むっ! なんかそれバカにされてる気がするんですけどー!」

「いえ、とんでもない。バカになんかしてませんよ。……する訳もありません。それで荒唐無稽は骨董模型じゃなくて、要はでたらめな話、に聞こえる内容かもしれません。って事です。……それで良ければ」

「成る程! よっしゃ! もうその難しそうなの覚えたよー。………と言う訳で、どんとこーい」

 

 

異様に難しい言葉を使う様だが今更ながらアイは思う。目の前の子供は普通の子供に非ず、と。そもそも自分の子であるルビーも極楽浄土〜なんて難しい言葉を使っていたんだ。

今更何を驚くことがあるだろうか! と、改めて認識しつつ、アイは母親なんだから全てを受け入れて見せる! と胸を張って叩く。 

 

 

そんなアイを見て、またレイは少し笑うと―――続けた。

 

 

 

「僕は、レイであってレイじゃない」

 

 

 

そして、想像の遥か先を行く答えが返ってきた。

 

 

 

「なので記憶が戻ったのではありません。元々レイ自身とはまた違ったもう1つの人格。と言えばわかりやすいでしょうか。彼が面なら僕は裏。そう言う関係です」

「………ほうほう。…………ほうほう??」

 

 

 

中々話が頭に入って来ないぞー。追いつけないぞー、とアイは思った。

確かに、こうとう……つまりはでたらめ。子供の戯言、で済まされる様な話だ。

二重人格ネタなんて、最近じゃドラマでもみない設定だから。

 

でも、レイのその姿は真に迫るものを感じる。

 

 

「なので、記憶が戻った―――とは少し違いますね。僕自身(・・・)には元々記憶は欠如しておらず最初から健在ですから」

「へー。…………へー??」

 

 

まだまだ理解が追いつかない。3周ほど周回遅れを食らってる気分だ。

でも、そんなアイに遠慮することなく、更に驚く事をレイは続けた。

 

 

「ただ、レイはそうはいきません。………この身体と心を、僕のミスで傷つけてしまいましたから」

 

 

朗らかに笑っていたレイだったが、直ぐにそれは陰り俯く。

身体と心に傷……何の事? と、そこだけは聞くまでもない。

 

 

「それって、私の………」

 

 

身体の傷は間違いなく背中に刺さったナイフの傷。そして当然心にも深い傷を負った。 自分達を救う為に。

 

 

「はい。ですが、アイさんが気に病む事はありません。アレは僕のミスでした。僕がしたくてやった事なので。……ただ、レイには申し訳ない、と言う気持ちでいっぱいです」

 

余りにも現実離れした情報が次々と頭の中に入ってきて混乱しかかっていたが、アイはここで冷静さを取り戻す事が出来た。

 

レイに聞きたかった事第1位が、あの日の事件なのだから。

何故自分を、子供たちを助けてくれたのかもそうだが……今、1つだけ解った気がした。

 

所謂レイは二重人格なのだということ。

 

確かににわかには信じがたいモノだが、それならばある程度納得が出来る点がある。

 

 

「……そして、ここからは貴女が言うホラー的な話が少し加わるかもしれません。信じるも信じないもご自由に、と言いたいですがその前にもう一度確認を。………聞きたいですか?」

「勿論」

 

 

迷う訳がない。

アイは知りたくて知りたくて、レイの事を見ていたのだから。

レイはそんなアイを見て、小さく【解りました】と告げると……続けて言った。

 

 

 

「……星野アイさん。貴女はあの日……」

 

 

 

まるで周囲の温度が冷えていくかの様だ。

告げられたのは更に驚愕の言葉。

 

 

 

 

 

 

 

「20の誕生日を迎えたあの日に、あの場所で死ぬ筈、だったんです」

 

 

 

 

 

 

 

その言葉を聞いて刃物を持った男が部屋へと入ろうとしていたあの場面が、鮮明に浮かんだ。

そして白薔薇の花束を持って、鈍い光を放つナイフも持って……その凶刃が迫ろうとしたその時だ。

 

 

 

 

 

『やめろぉぉぉ!!!』

 

「僕は、そんな死の運命から貴女を助けたくて此処にきました」

 

 

 

 

 

レイの言葉が聞こえるのと同時に。

あの場面、あの時の記憶が更に鮮明に映し出される。

 

凶刃が来る刹那、大きな子供の声が響いた。男は一瞬動きを止めると、何かが首に当たったのか突然白薔薇を落として首筋に触れて………。

 

色々な事が聞きたかった。

そもそも、何故そんな未来予知の様な事が出来るのか? 神様か何かなのか? と。

 

でも、それ以上にまず先に聞きたかった事はコレだ。

 

 

 

「それは、どうして? そもそもどうしてあなたは私を助けようと思ったの? 自分の身を危険に晒してまで……大怪我までして……」

「……………」

 

 

 

何度も聞きたかった事の1つ。

何故知る事が出来たのかよりも、何故自分を助けてくれたのか。その理由。

あの光景を幻視しながら、アイは彼に聞いた。

 

 

「人を助けるのに理由は要らない……と言いたい所ですが、僕は貴女の笑顔が好きだったから、ですかね? 誰もが目を奪われる貴女の笑顔に惹きこまれて恋焦がれたから。アクア、ルビー、そして皆の笑顔を、守りたかった。あんな悲しい想いは必要無かった(・・・・・・・・・・・・・・・)、と想いたかったから」

 

 

 

そこから、レイはゆっくりとした口調で続けた。

アイの死を引き金に起こる事を順を追って。

悲痛なレイの表情を見るだけでも、伝わってくる。

 

 

残された皆のこと。何より子供たちのこと。アイは一言も口を挟まずに頭の中に入れて、その光景を浮かべていた。

 

 

 

「……アイさんは、もう大丈夫」

 

 

 

そう言うとレイは笑顔になる。

でも、その笑顔も何処か暗くも感じる。

 

 

 

 

「……信じ難い話だと僕自身が思ってますが、それを踏まえても正直に告白したのには理由があります」

 

 

 

にこっ、と笑う彼の笑みは何処か儚く――――悲しげだった。

そして、それ以上聞く前に彼は話を続ける。

 

 

「あの日。僕のミスのせいか、元々レイの精神が影響しているのか、定かではありません……が、僕と言う存在がもう消えようとしてます。なので、伝える事が出来なくなる前に言いたかったんです。ですから、アイさんが今日ここに来てくれた事を深く感謝しているんです」

「――――は?」

 

 

まだまだ聞きたい事が山の様にあった。話したい事も沢山あった。

なのにも関わらず、彼はもう終わり、と言わんばかりに立ち上がったんだ。

 

 

この時点で、アイはこれは本当の事である。真実である、と信じて疑っていなかった。

 

 

「そ、そんな! もっともっとこれからもあなたの事知って、何より助けてくれた恩をどうにか返して、一生かけてでも返して、それにもっと楽しく皆一緒に頑張って過ごそうって思ってたんだよ?? なのになんで消えるなんて――――」

「……この話、信じて、くれるんですか?」

「もう疑わないよ! 疑ってない! だから消えるなんて言わないで!」

 

 

アイのその言葉を聞いて、レイはまた笑顔を見せた。

だけど……その願いだけは聞けなかった。

首をゆっくりと左右にふる。

 

 

「……僕の事を打ち明けたのはアイさんだけで良かった。申し訳ありません。ただ、レイが消える訳じゃないです。皆は気付いていないレイの中に居た()が消えるだけです」

 

 

彼は、アイの手を取った。

 

 

「最後の最後まで自分勝手で本当にごめんなさい。どうしても僕は、消える前に……貴女には知ってもらいたかった。どう伝えたら良いか、最後の瞬間まで解らなかった。………だから、ありがとうございます、とも言わせてください」

 

握られた手は温かかった。

想いが、心が手を通して伝わってくる様に感じたから。

だから、消えるなんてより信じられない。……いや、信じたくなかった。

 

 

「僕は、貴女の、貴女達皆の幸せを願ってます。それともし……もしも、叶うのであれば。僕の齎した行為に恩を感じて頂けるのであれば」

 

 

彼の瞳に、光が宿った気がした。

誰よりも明るく優しく、全てを照らす。そんな光が。

 

 

「レイのことを、……どうかよろしくお願いします。レイは僕にとっては弟の様なモノ、なんです。……きっと、解らない何かを引き摺ると思います。気落ちするかもしれません。ですから、どうか……あの子を支えてあげてください」

「そ、そんなの、当然の事じゃん! 当たり前の事だよ! だからみんなで暮らそう! って事になったんだから!! だからそんなの全然恩返しになってない!」

 

 

言葉が出てこなかったが、ここだけはとアイも、力強く握り返した。

そして、レイの頬に一筋の涙が伝って落ちる。

 

 

 

 

「―――ありがとう、アイさん。じゃあ、願い事、変えますね………。今の、アイさんの、顔は、似合いませんよ」

 

 

 

 

 

ーーーどうか、僕の大好きだった笑顔のままで、いてください。見送ってください。………………愛してます。

 

 

 

 

その言葉を最後に、彼の身体は……レイの身体はまるで糸が切れた人形の様にガクン、と崩れ落ちた。

思わず、アイはその身体を支える。子供の身体とはいえそれなりには重たくなっていてこのままだと身体を打ち付けてしまいそうだったが……、何とか堪えた。

 

 

「れ、レイく――――」

 

 

そして、レイの事を視る。

そこに居るのは、寝息を立てている姿、だった。さっきまでの雰囲気はもう何処かへいってる。

 

 

 

「あ、あはは……これ夢かな? 夢だよ。きっとそう。もう、性質悪いよ!」

 

 

そして、アイは気づく。思い知らされる。

 

 

 

「………夢じゃ、ないんだ……?」

 

 

 

アイは、自身の頬っぺたを抓んだ。抓んでぐにっ、と伸ばしてみる。うん、痛い。凄く痛い。ビックリの連続で普通は解らないくらいだと思うのに、物凄く痛い。喪失感で胸が張り裂けそうになる。

 

 

 

「……ちょっとレイ君……、物凄い爆弾残していかないでよぉ……」

 

 

レイを揺さぶってみる。

けど反応は一切ない。寝息をたてて、ただ、眠っているだけの様にも見えるが……次に目を覚ました時、その目が開かれた時、もうさっきまでの彼ではなくなっているのだろうと、アイは感じた。

 

 

「それに、私まだあなたにお礼、言えてないんだよ? 居なくなっちゃったら、お礼……もう言えないじゃん」

 

 

そう、聞きたいことが多過ぎて………それ以前にあまりの衝撃的な事実だったから理解が追いつかなくて、最も言わなければならない筈の言葉が出なかった事にアイは今更気づく。

 

 

「そう言えば、君の名前だって聞けてない………。笑顔だって、作るの物凄く、大変なんだよ………?? 一夜限りなんてあんまりだよ」

 

 

もっともっと話したい事がある。

まだ、行かないで欲しい。

でも、それは叶わない。

 

アイの瞳から溜まっていた涙が流れ出た。

そしてレイの身体を抱きしめた。

 

 

 

 

「お願い。………どうか、伝わって」

 

 

 

 

ーーーーありがとう。過去一難しいかもしれないけど、頑張ってみる。頑張って、笑顔をつくる。君がくれたこの生命にかけて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

素ではなく、自分が演じる役に没頭している時は、自分じゃない自分を憑依させているイメージを持って演じている。

だから、あの時の様に全く恥ずかしくも無いし………アイには申し訳ないが罪悪感もそこまでは沸かない。

 

 

 

 

設定候補の中の1つがこの二重人格設定。

 

 

転生した事を打ち明ける候補も上がっていたが、説明が非常に難しいし、上手く演じられないかもしれない。その点、二重人格設定は前世で経験済み。それらを踏まえれば前者が一番良いと判断したのだ。

 

何故か、未来を知っているもう一人の僕が皆を助けて、助けられたけど、その結果消滅してしまう。

言い方は悪いがその他の説明責任から逃れる事ができると言うもの都合が良い。

まさにご都合主義満載な設定ではある、が見事綺麗な形であのアイを騙す事に成功した。

 

培ってきた技術は嘘じゃなかった、と安堵するのと同時にこれからはあの時の事はもう何も知らないレイを演じなければならないと気合を入れる。

 

アイと同じ様に嘘を付き、嘘を本当にする為に。

嘘で泣かせてしまったアイを、嘘でまた笑顔にさせる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ここで終わりにはならない。

この深夜の一幕。

アイとの蜜月。

 

実はそれを見て聞いていた者がいたのだから。

 

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