認めない子   作:アイらゔU

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第20話 幸せな時と悪夢

 

焼肉店の暖簾をくぐり、賑やかな店内に足を踏み入れた瞬間、香ばしい匂いと、ジュウジュウと肉が焼ける音が一行を迎え入れた。

 

「今ガチ❤」のメンバーで、急遽決まって勢いに任せたままの焼肉会である。

MEMちょが奢るという話になっており、みんな心置きなく盛り上がっていた。

 

 

「やっぱり焼肉ってテンション上がるよね〜! ガッツリいこう! どんどんいこう!! さあさあいこう!!!」

 

 

最初こそは、MEMちょは結構なきつめな口調となり、【おらぁっ!】だの、【思う存分食えや餓鬼共!!】だのと騒ぎまくりだったのだが、ある程度発散出来たのか、いままでのが嘘だったかの様に、笑顔で席に座っていた。

フリルの視線に気づき、ある程度自重を覚えよう! と思ったのがMEMちょ。でも、推しであるMEMちょの新たな一面を見たフリルにとってはご褒美の様なモノ。笑顔で一緒に盛り上がるだけに過ぎない~と言う事までは気づかない様子。

 

とにもかくにも、他のメンバーもただただ大盛り上がり。笑顔で掛け声と共にメニューに目を落とした。

 

「じゃあ、お言葉に甘えてここにあるもの全部頼んじゃおうかな〜!」

 

フリルがおどけて言うと、MEMちょが【今日は私の奢りだからね、遠慮しなくていいよ!】と胸を張る。内心ではガーン!! となっているが、流石にフリルの手前、拒否するのはフリルの推しの1人として情けない! と思いなおした。

 

そんな中、レイが自然体で一言。

 

 

「あ、別に僕の奢りでも良いですよー?」

 

 

彼が何気なく言ったその一言に、一瞬その場が静まり返った。

そして、レイ自身もつい口からぽろっ、と言ってしまった事に気付いて思わずハッとする。

 

 

「え、なにそれ? ひかりくんが奢ってくれるの?」

「ここの全メニューって合わせたら相当な額だと思うけど……さらっ、と言えるくらい懐事情余裕ってわけ??」

 

 

ゆきが、ノブユキが驚いたように聞き返す。

因みに内情を知っているフリルとあかねがニヤリと意味深に微笑んでいた。

 

 

「あ、いや、ちょっと…僕の仕事も割と稼げたりしてる時もあって……。こういう場面で奢るって言うのがちょっとした憧れで……、つい言っちゃいました……」

 

 

主に苺プロでの事。

ぴえヨンに次ぐ稼ぎ頭であるひかりんは、事務所の皆に奢る! って場面も何度かあったりするのだ。流石に高校生だし未成年だし~と苦笑いされながら止められるまでが一連の流れ……だったのだが、流石に外でその流れを作るのは不味かった、と後悔後に立たず。

 

 

 

「(……流石に今のはヤバいかも、か)」

 

 

 

そう思ったのはアクアである。

 

当然、レイの事務所でのやり取りはアクアも知っている。知っているからこそ、事務所秘匿にしている事も当然知っている。レイにしては珍しく口に滑らせたな、と思いつつ助け舟を出すことにもした。

 

 

「今ガチん時も鏑木Pから臨時ボーナスも入れてくれたしな? 明らかにひかりの方が金持ちで羨ましいよ」

 

 

同じ事務所である事もあって、アクアのちょっとしたフォローで皆は納得をしていた。

 

 

「奢る! って行為に憧れを持つって言うのもまた―――。なんか解る気もするけど」

「へっへっへ~♪ んじゃ次回はひかりんに奢って貰っちゃおうかなー! よろしく☆ ひかりん!」

「それ良いね! 私的にはいつもいつもカツカツで、奢ってもらえるのなら大歓迎♪」

「恐るべし、ひかり―――、あの感じ(初心)で金払い良しとか。将来結構な大物になるんじゃね?」

 

 

やんややんや~と騒ぐ一同。

勿論、レイ的には奢ったとしても全くを持って問題ないのだが……、やはりどうやって稼いでいるのか。ピアノストと紹介している所もあるから、そのつながりでYouTuberひかるんとバレてしまう可能性だってゼロじゃない。

 

ここには本業にしてるMEMちょもいるし……、もう既に知っているであろう2人もいるから、これ以上は止めておいた方が良い。焼肉~と言う大ステージにあまりにも油断、隙を見せすぎるのも良くない! と気を引き締め治す所存だった。

 

焼肉店の席で、メンバーたちは賑やかに肉を焼き、楽しんでいた。

 

その中で、しっかりとトングを握りしめ、焼き加減に、それでいて皿が空いている皆へ肉を配る事にこだわるあかねの姿があった。

彼女は皆に良い焼き加減で肉を提供しようと、集中して焼き台の前に立っていたのだが。

 

 

「黒川さん、ありがとう。でも、黒川さんもしっかりと食べなきゃだめだよ?」

 

 

レイはあかねの一瞬の隙? をついたかの如く、上手に焼けました~♪ と言えるような焼き加減の肉を空いたトングで一掴みすると、あかねの何も入っていない皿へと入れた。そして空いたスペースには新たな肉を補充し、手際よく進めていく。

 

それに【あっ!】と何故か目を見開くのはあかねである。

 

普段なら、お礼を言う所―――な筈なんだけれど、何だか違和感を覚えるのは2人の様子を見ていた周りだ。

 

あかねは負けじと焼き台に戻ろうとしたが、レイは隙を見てはトングを持って立ち回るため、あまりにも手が出せない。隙がない。

勿論、レイはあかねを妨害してるといった類はでは一切なく、会話会話の僅かな隙間を見極めて、、絶妙なタイミングで肉を焼き上げるだけのこと。

 

最初こそ、あかねはトングを離さない。

こういう場では自分はトングを離さずに皆に配る。精進している、と言っていたのだが、あかね自身が食べる事が出来てないのをレイは察したのか、あかねに気を遣うようになった。

 

それでいて、あかねは負けじと肉番をしようとするのだが、他の皆との会話をおざなりにする訳にもいかない。肉だけに集中して言い訳じゃないからだ。

 

 

「はぁ~、ひかり君って手際良いね? さっきの注文もそうだけど、凄く気配り上手と言うかエスコート力? が凄いと言うか……。あかねが何もさせてもらってないのが何だか面白くなってきた」

 

ゆきは、会話会話で盛り上がりつつも、視線の中ではレイvsあかねの肉焼き合戦? を見ているので、何だか途中から面白くなって食べるのをやめて笑っていたのだ。

 

 

「え? 僕はそういうつもりは無かったんですが」

「むぅ……、むーー」

 

 

ちらっ、とあかねの方を見て見ると……頬を膨らませている。むーむー言いつつ、今度はぷくーぷくーと、口で言いながら、頬を膨らませている。

 

 

「あかねちゃん、頬を膨らませながらぷく~、って、めっちゃ可愛いね。ツボっちゃったかも?」

 

 

あははは、とフリルが大きな声で笑うから、彼女に続いて皆が笑う。

中には頑張れあかね~~! 負けるなひかり~~! と応援する者まで出てきて、一体何をやってるんだろう? とレイは思わず首を傾げてしまうのだが。

 

 

「黒川さんのムーブ、ウチではひかりがやってるからな。別に競い合ってるつもりじゃなくて、自然にいつもやってる事だから、その辺りは気にしない方が良いよ。悪気があってやってる訳じゃない」

「いえっ! でもこれは私の決め事なので! 先ほども言った通り私は精進の身。最初こそはよく焦がして怒られてました。けど、今では上手に焼ける様になって、それで………」

「その一瞬を、ひかりに奪われる、と。悪い男だ」

「人聞き悪い!! もうアクアにこれあげないから!」

 

 

レイは温めていたアクアの好物な分類、カルビを他の空いているノブユキの皿へとシュート。

 

 

「ちょ……!」

「お! サンキュ、ひかり」

「どーぞどーぞ」

 

 

気付けば更に追加してくれるレイの気遣い焼肉。結構ウチでは皆が好きで、勿論レイだってちゃんと食べているから気にする事なく楽しんでいる。食事に労力をかけずに絶妙な焼き加減で入れてくれる肉はアクアも本当に好きだから――――。

 

 

「……すまんかった」

 

 

直ぐに白旗、である。

味付けから焼き加減まで、自分で焼くよりレイにやってもらってる方がやっぱり美味い。変な意味かもしれないが、ある意味胃袋掴まれている、ともいえるのかもしれない。

レイも【わかればよろしい!】とにやりと笑って次の肉をアクアにプレゼント。

あかねは更に出鼻を挫かれてしまったのは言うまでもない。

 

 

 

「ほらほら、アクア、さっき食べれなかった分、こっちを食べてみなよ! 今日のおすすめらしいよ」

 

 

ケンゴが特上カルビをアクアの皿に置くと、アクアは「ありがと」と返事をしながら、その肉に箸を伸ばす。口の中でとろけるような柔らかさと、程よい脂の乗ったジューシーな味わいが広がり、彼の顔が綻ぶ。

 

 

「…これ、うまいな」

 

 

以前の身体では脂っこい肉を大量に食べるとすぐに胃もたれしていたが、今の若い身体ではどれだけ食べても体が重くならず、まだまだ食べられそうだ。「これが若さの特権ってやつか…」と少しおかしくなり、心の中で歓喜する思いだ。

 

 

「あはははは」

「フリルさん、そんなに笑わないでくださいよぅ…」

 

 

またまた負けた、と思ったのか、しょんぼりしているあかねにフリルは笑い、そしてあかねは恥ずかしそうに俯きつつも、気持ちを切り替えてまた笑顔を浮かべる。

 

 

「楽しいね?」

「ん……」

「あははっ。帰ったらルビーにどう言い訳するか考えておいた方が良いよ。お互いに」

「……だな。食べれなかった食い物の恨みは怖そうだ」

 

 

不意にレイはアクアと目が合い、ニッと笑いながらそういう。

確かに楽しい。沢山食べれる肉は本当に最高だし、周りの和気あいあいとした感じも悪くない。

無難に過ごそうと思っていたアクアだったのだが、思いの他楽しんでいる自分が居る事に気付く。

 

ここまで自然体で過ごせる場面は、家族以外では中々ないからある意味新鮮の一言

。だから―――ただただ【今】を楽しむことに没頭する。……する、つもり、だった。

 

 

 

 

 

やがて、会話は食べ物の話から当然【今ガチ♡】の話になる。

アレだけ、次回フリルは何を言うのか!!? と煽りが入ったというのに、【何を言おうか?】と素で返してきたフリルに思わず笑ったり、【役】から【素】のあかねの姿のギャップが大き過ぎて更に笑えたり、笑顔が絶えなかった。

 

 

最後には少しずつ彼ら自身の生活や夢の話へと移る。

 

 

そこにいた全員が思わず引き込まれる。「焼肉を囲んでの一時」が、彼らにとっても特別な思い出となっていく瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

アクアはその瞬間、ふとレイが言っていた【楽しいね】と言う言葉が頭の中で変換されて、【幸せだな】となった。

このような普通のひとときを味わうことが、自分の人生でいかに貴重であったかに気付く。彼の中には、様々な思いが渦巻いていたが、今だけはそれを全て忘れ、仲間たちとの時間を堪能したかった。

 

そして、目の前に焼き上がった肉を口に運びながら、彼は心の中で「これがずっと続けばいいのに…」と考えた。

 

しかし、その背後には、彼がいつも抱えている「悪夢」の影が忍び寄っていたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗闇の中、足音だけがやけに響く。

視界はぼやけ、まるで深い水底に沈んでいるかのように息苦しい。

これがいつもの夢だ、と理解するのにそう時間はかからなかった。

アクアは心の中でつぶやく。この夢は何度も何度も見る──忘れるな、とでも言うように、いつも彼の意識にすり寄ってくる夢。―――悪夢。

これは自分への罰なのか。……幸せを感じちゃいけない。感じている場合じゃない、と言う戒めを、自分自身へと課しているのか……。

 

 

だが、何やら今日の夢は少し違った。

 

 

いつもの悪夢は、血溜まりの中にレイが倒れていて、その傍らには人成らざる異形なものが佇んでいる。黒い靄とでも言えば良いだろうか。ソレ(・・)が彼を見下ろしていて、何も出来ない自分。と言う痛みに苛まれる。

 

でも今日は違った。

ぼんやりと浮かんでいた黒い靄が居なくなっていて、その代わりにいつも倒れていた彼──レイが立ち上がっていた。

 

血塗れの衣服、傷だらけの幼い姿。普段は地に伏せて動かないはずの彼が、今は自分をじっと見つめている。アクアの心臓が一瞬、痛むほどに強く跳ねた。懐かしいような、心が締めつけられるような表情だった。その顔には悲しみと痛みが色濃く浮かんでいる。彼のその姿が、どうしても胸に刺さる。

 

「どうして……そんな顔を?」

 

声にならない問いがアクアの中でくすぶる。

助けらなかった事に対して恨んで欲しい。寧ろ恨んでくれた方が良い。そう思っていたのに、その表情はただただ悲しそうだった。

やはり自分のせいだろ? 何も出来ず、力になれず、最も大切な者を守ってくれたと言うのに、何も出来なかった。返せれない、返しきれるものじゃない程恩を受けていて何も出来なかった。だからそんな顔をさせてしまっているのか? 

 

でも、アクアのある意味期待する答え(自分を責めて欲しい)は返ってこない。

彼はアクアの疑問に答えるように、小さく首を横に振る。

 

 

「ごめん……」「ごめん……」「ごめん………」

 

 

アクアはただただとめどなく流れる涙のままに、謝罪の言葉をどうにか口にしようとする。しかし彼は、その謝罪に対してもさらに首を振り続けるのだ。

 

その仕草が、まるで夢とは思えないほど現実味を帯びてくる。

次の瞬間、レイの唇が何かを言うようにかすかに動いた。しかし、言葉は音にならない。聞き取ろうと必死に耳を澄ますが、どんなに集中してもその言葉はかすれた囁きにさえなれない。アクアは思う。呪詛だろうか?だが、それも違う気がする。呪いのような重たい気配はない。もしそんなことを言うのだとすれば、それはあの黒い靄の方だろう──。

 

ふと気づくと、視界の端に異様な気配が漂っている。アクアの背後、まるで自分をじっと見つめる何かがいるような……黒い靄は、いつの間にかアクアのすぐ背後に潜んでいる。その存在に気づいた瞬間、背筋を冷たい氷で刺されたような感覚が全身を襲う。重たい汗が首筋を伝い、全身が硬直する。背中に寒気が這い上がるような感覚を拭いきれない。

 

レイがこちらを見ている。その瞳に、一筋の血の涙が流れた。

 

彼の唇が動き、微かに、しかし確かに言葉を刻みつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

【……ごめんね……】

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしアクアには、その言葉がどこか遠く、不確かな音となって耳に届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風呂上りのレイはガチャリ、とリビングの扉を開いた。

そこにはルビーが居る。ソファーで寝落ちしているアクアをジトっと見下ろしながら眠っているアクアに対してぶーぶーと言い捨てる。

 

 

「もう、ど~せお腹いっぱいになったからって、満足して寝ちゃったんでしょ? そーですかー。可愛い子たちを眺めながら食う肉はさぞかし箸が進んだでしょーね~~」

 

 

想像通り、夕ご飯を断られたルビーは拗ねていた。何かフォローを考えないといけない、とは思っていたんだけれど、アクアは寝落ち、レイはフロに入っていて出来なかったのが悔やまれると言うもの。

いや、ルビー相手だったら何を言っても無理だったかな? と諦めの境地だったりもするが。

 

「お腹いっぱいになって、寝ちゃうなんて……ほんとに余裕だよねーー」

「まーまー。アクアも疲れちゃったんだよ。結構ハードだと思うよ? 朝収録だってあるし、時間速いし。学校だって休めないし」

「ぶーぶー! やらせじゃん!! 放課後に集まろう! ってコンセプトはどこ行ったのよーー! 土日だし! 土日普通に休みだし! 何より日曜日は皆でご飯食べるって約束なのにっっ!!」

「わー、ごめんごめんってば! 今度皆で焼肉行こう? 今日行った所も本当に美味しかったし、芸能人が入っても全く問題ない個室だったし、アイ母さんたちも皆連れて、楽しもうよ」

 

 

レイが頑張ってルビーをフォロー。

幸か不幸か……、この時のアクアの表情には気づけなかった。

ルビーが見下ろしていた時とは比べ物にならないくらいに、苦痛に歪む彼の顔を。

悪夢に囚われていた顔を。

暗闇の中で浮かび上がる血塗れの少年の顔――それは幼いレイ。慣れ親しんだ恐怖の景色の中、彼が小さく口を開き、囁くように何かを告げようとする。

 

 

「……ッッ!!」

 

息苦しい闇に飲み込まれそうになりながら、アクアはハッと目を覚ました。額には冷たい汗が滲んでいる。荒れた呼吸を整えようとするも、ルビーの視線が自分に向けられていることに気づく。

 

「あ! 起きた!! ちょっとアクア、あんた女の子たちを眺めながら焼肉、楽しんできたんでしょ?? 美味しかったんでしょ!! どーせどーせ!」

 

レイにフォローされたとはいえ、アクアにも不満をぶつけたくてたまらないルビー。

しかし、悪夢の余韻に囚われたままのアクアの様子には気づいていないようだ。

 

アクアは意識を引き戻し、平静を装うために深い呼吸を一つ。

 

 

「ん――? アクア、大丈夫?」

 

 

ほんの一瞬、アクアの様子がおかしいと思ったレイが声をかける。

そのレイの問いかけに、アクアは一瞬動揺しそうになるが、すぐに表情を整えた。弱さを見せない、これは昔からアクアの心の中で決めたことだった。

 

アクアはそっとルビーから顔を背け、心の中で深く息をついた。悪夢の記憶が残る今、少しでも気を抜けば、その不安や焦りが表に出てしまいそうだった。特にレイにだけは――絶対に悟られたくない。

 

「(……俺の復讐(・・)なんて、知られちゃいけないんだ。絶対に)」

 

彼の胸の奥では、まだ熱く燃える復讐心が息づいている。それでも、それを隠している間に自分の目の中にいつの間にか星が消えていないか、時折、自らの意志が揺らぎそうになる瞬間があった。

 

「いや、……美味かったよな、焼肉って思って」

 

無理に自然な口調でつぶやくことで、平静を装う。だが、レイの鋭い視線がこちらに注がれているのを肌で感じていた。彼は何かを察し始めているのか?それとも、アクアがまだ過去に囚われていることを理解しようとしているのか――。

アクアのそんな心情を他所に、レイは、静かに近づいてきた。彼の優しい眼差しがアクアの顔を見つめている様に感じる。その視線には疑問も、不安も、ある種の覚悟さえも含まれているようだった。

 

 

「(やめろ……頼むから俺を探らないでくれ……)」

 

 

アクアにとってすれば今はあまりにもタイミングが悪い。

ソファで寝落ちしてしまったのは一生の不覚だった。

 

 

「………」

 

 

そんな葛藤を、レイが知る訳もない。

彼は相手の心を読めるような超能力者だと言う訳じゃない。でも、どうしても引っかかってしまう。

あり得る訳がない、と思っていたのに、時折……ほんの一瞬だけどアクアに対して引っかかってしまう所がある。

 

 

「(……そんな訳、ない。いや、そんな事、ある筈が――――)」

 

 

変えてしまった者に降りかかる責任。

それを、出来る形で、レイが出来うる形で、己が理想とする形で、世界へと投げかける。形作る。その為に……家族にも明かさずに走っているのだ。

 

でも、たまには後ろを振り返らなければならないのだろうか。

黙って誰もいない所を、暗闇を走っているのに、もしも……もしも、自分の後をつけているかの様に、追いかけてくるのがいたとしたら……。

 

 

 

この後、はた目からすれば奇妙な【間】だったが、それを打ち破ったのは、何だか仲間外れにされた? と勘が良いのか悪いのか解らないルビーの【無視するな~~!】と言う一声と、アイの【たっだいま~~~!】と言う二つの声。

 

 

 

 

アクアの表情は完全にいつも通りに戻り、そしてレイ自身も同じく家族とのいつも通りの一時を過ごすのだった。

 

 

 

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