認めない子 作:アイらゔU
実は星野家の晩御飯はそんなに遅くは無い。
アイは売れっ子で日本一! 世界一!! とも呼べるかもしれないが、それでも家族の時間は大切にしていてくれる。可能な限り早く帰れるように手配をしてくれている。
だから、ルビーの言う【日曜日は家族でごはん!】が可能になっているのだ。
後々ルビーもアクアも、レイもきっと忙しくなってくるだろう。でも、日曜日の晩御飯はこれからも必ず行われる決まり事として続いていく事だろう。
因みにアイを中心として、アクアやルビー、そしてレイ。ミヤコや壱護も仕事の都合がつく限りで揃って食事を楽しむ機会を苺プロ内で設けていたりしている。
ちょっぴり忘れそうになるが、レイは戸籍上では斎藤夫妻の養子だ。なので、日曜日の晩御飯〜の中にはミヤコや壱護も加わっているのだ。
未だにこのファミリーが世間にバレてないのは最早奇跡では? と思う点もあるのだが、そこは物凄い労力をかけて鉄壁に仕上げているんだな、と無理矢理でも納得した方が楽だろう。
つまり、何が言いたいのかと言うとそれ程までにこの日曜日の晩御飯と言うのは星野家にとって重要なイベントなのです。
とても、とても重要なイベントなのです。そのイベントをキャンセルする~と言う事は相応な理由がないといけない訳で—————。
「ふーーーん、つまり? レイとアクアは可愛い子達に囲まれてお肉を食してきた、と?」
「………はい」
「まぁ、美味かったよ。また行きたい」
ずーん、となってるのはレイである。
でも、少々おかしい、と思っていたりもしている。……通常に戻った。いつも通りに戻った~となってなかったのか? と頭を抱えたりしています。
それに———。
「……何だか、僕の扱い方下方修正されてる気がするんだけど」
「気のせいだろ。そんなもんだ」
「いや、何か酷い……。アクアも同じトコから帰ってきた筈なのに、僕の方が………」
と、思ったりしている。
これまで家族のフォローをしたりアイの暴走に四苦八苦して諫めたり戒めたり、……偏差値70のアクア程は地頭が良いとは言えないかもしれないが、それとなく皆を支えて頑張れる、そんな姿を思い描いて……頑張って出していた筈……なんだけど、何だか変わった様な気がする。現実とは厳しいモノです、と思わざるを得ないレイである。
因みにアクアは何処となく嬉しそうだった。
何なら頬が艶々になった様にも思える。肉が美味しかった、と言うのも勿論あるだろう。……でも、それ以上に悪夢について追及される事を回避する事が出来たのが精神的に大きくウエイトを占めている。
アイには本当にファインプレーだ、と言いたい所である。
「あ~~ん!! ママーーーっっ! 2人して酷いんだよーーー!!」
「はいは~い。こーーんなに可愛い妹放っておくなんてヒドイよね~? こーーんなに美人なママ放っておくなんて、酷いよね~~??」
ちくちくちくちく———
ぐさぐさぐさぐさ———
と、言葉の刃が酷い。自分の事美人とか言っちゃって自己評価高い! と言いたくなるが、実のところそんな言葉全く言えない。何故なら正論で間違ってないから。
※マザコン&シスコン
そう言えば、初めて日曜日の晩御飯、家族以外と取ったんだな、と改めて実感をしてしまった。
一頻りルビーはアイ成分? を堪能して満足したのか、ウソ泣きでも多少流れていた涙は速攻引っ込んで、アクアの様に艶々に戻っていた。心労祟るのでは? と思える様な表情をしているのはレイだけである。実に不公平である。
「でも、やっぱり現場の付き合いはあるし、ね? 母さんだってそう言う付き合い位した事あるでしょ??」
「うーん。確かにそれを言われたらなぁ~~? 私だって現場空気とかは大事にしてるつもりだし?」
「お? 何かあっさり———」
現場の付き合いとは親密な関係を築く上である程度は必須な筈だ。勿論、固辞する人も居るかもしれないし、一概に全てが正しいとも言えないが、それでもコミュニケーション、飲みにケーションが良い方向に行く事だって決して間違ってるとは言えない。……昨今の時代の流れでは違うかもしれないが、少なくとも今ガチ♡のメンバーにとってはプラス方向に作用している事は間違いではないから。
そしてアクアはと言うと、ルビーを撫でていた手を離し、レイの言葉を聞き、それを言われちゃぁ仕方ないな、と言っている様子を見せる———が、それは間違いである事に直ぐに気づける。
仕草があまりにも芝居がかっているからだ。
頬に指をあてて、うんうん、と頷いていて……でも、何か話の肝を隠している様な様子。悪役? がしそうなムーブの要素をこれでもか! とアイは取り込んでいる様に見えるから。
「でも、流石の私でもそこまでの事は無かったかもだよ? 複数の可愛い子達を侍らせてお肉三昧でしょ? つまり【酒池肉林】してきた、って事でしょ??」
「ちょおっっ!!!」
「ちょっと失礼―――――――」
「いたいたっっ、痛い痛い! ちょっとアクア何するの!!?」
ここはアクアのファインプレーと言うべきシーンか。
アイが何を言うのか、何やら不穏な気配を察知したのか、とてつもないスピード。オレでなければ~とネタを言いたくなる位の素早さで、ルビーの背後に立つと、その両耳を挟み込む形でバシバシと叩いた。
ルビーは痛がっている様だが気にせず、耳を塞いでは離し~を繰り返して、まだまだ純粋な部分が抜けきってないルビー。前世持ちとはいえ、どう考えても子供な部分があるルビーに聞かせたくない兄心が見せた神業である。
「あの、アイ母さん?? しゅちに———って、アレだよね。酒や肉が豊富で豪奢な酒宴って意味で言ったんだよね?? でも僕達未成年だよ⁇ お酒は飲めないんだよ⁇ それにまさかだけど———変な方向に解釈した訳じゃないよね??」
「うんうん、流石レイ君だね~。アクアと同じで博識ってヤツ? でもざーんねんだなぁ、ムッツリなレイくん! 実は語源である中国の王が————」
「わーわーわーわー!! 言わなくて良いから!! 何にせよ、ダメなヤツだから!! そんなの絶対Rな18だから!!」
件の四字熟語。
レイの言う通り、「肉林」の「肉」には「肉欲」の意味は無い。なので、女性に囲まれて~侍らせて~~なんて意味では本来ない、と言うの意見もあれば、実際の使用で所謂【みだらな宴】と解釈されてそう言う場面で使うのが最も適切である、と言う文もある。
アイってそんな勉強出来てなかった気がするんだけれど……、もう三●路を過ぎてる年齢……「何か言ったかな??」————知識も備え付けて言ったのだろう。芸能界と言う荒波の中だ。トップを走り続ける彼女は日々成長しているのだ。
それはそれとして、アイはガシッ! とレイの頭を両手で挟み込んだ。
「ダメだよ? レイ
「あ、アイかあさん? いたい、いたいです……」
じっ、と至近距離で目を覗いてくるアイの姿が妙に恐ろしく感じてしまったのは言うまでもなく……、そして何だかアイの瞳の星が黒くなっている? 様な気がするのも気のせいじゃないだろう。時代的~と言うのはどういう事だろうか? 昨今厳しくなってきてるコンプラの話をしているのだろうか。或いは、アイ自身の場合は時代が~で済ませたいと言う気持ちの表れだろうか。答えはアイのみぞ知る内、である。
「でもさでもさ! やっぱりやらせなんでしょ! レイは可愛い子達2人にメチャクチャモテモテだけど、アクアはなんかパッとしないし! MEMちょと絡んでるだけだし!!」
「……遠回しに、僕のことディスってる感じがする。……そりゃ、僕だってアクアの方がカッコイイし、モテるとも思ってるけどさ」
「ふふふっ、違うちがーーう。ルビーはお兄ちゃん2人とも素敵だから、あんなに差があるのがおかしい! って抗議したいんだよ」
「ふーん……って、母さん、そろそろ離して」
両頬をむにゅむにゅと挟み込んでくるアイは楽しそうだ。
頬をむにゅむにゅされたのに、上手い事喋れたのも奇跡に近いかもしれない。褒めて貰いたい。腹話術氏に成れるかもしれない、と思ったり思わなかったり。
「はぁ、このままだと番組の方に色々矢印向きそうだから言っとくけど、今ガチ現場は学業優先してくれるし、間違いなく優良の一言だ。――ってか、ルビーが散々言ってる様なやらせは無いと思うぞ。……まぁ、いきなり勃発したあの三角関係を視りゃそう思ってしまうかもしれないが、2人視てたら結構ガチめだ」
不知火フリルがその中に居る。
その時点で何も知らない者が見たとしたら、やらせを疑ったとしても仕方がないだろう。数多の美形な芸能人やら歌手やら俳優やらを相手にしてきたあの不知火フリルだ。同級生で、いきなり一目ぼれの三角関係に始まる~なんて、そう言う設定と思われても仕方がなない。
ただ、それは不知火フリルを知らない層からの意見。
斎藤ひかり改めて、星野レイの事を知る者であれば、知ったものであれば、僅かな情報からYouTuberひかるんに辿り着いた不知火フリルの執念を知った者からすれば……、『今ガチ♡』でやらせ、と言うより、その舞台を私的利用して存分に接近をしている、と言う方が一番しっくりくる。間違いなく数字も取れるから番組としても利害関係は間違いなく一致している。ただ、どうしてもカメラワークは不知火フリルと言うビッグネームに寄りがちになりそうな予感もして、アクア的には楽になりそうな所だったが————そこはどういうやり取りがあったのか、尺の使い方は公平に分け隔てなくが基本となっている。
「でもまぁ、黒川あかねのレイへの接近はオレとしても驚いてる。やらせがあるなら最初から聞いてる筈だし。……後それ以上に流石は女優の一言かもしれないが、アイを模した雰囲気を出すあの役の入り方は凄まじい」
「だよねだよね~~~! だからレイはあかねちゃんにぐらっ、と来ちゃったんだよね~~??」
「むぎゅぎゅぎゅっっ! ひゃ、ひゃめふぇ!」
何時自分があかねにぐらっ、と来たのか?? そんな演出はしてなかった気がするが~と割と真面目に考えていたレイだったが、そんな事よりもアイのホールドからそろそろ逃げないと大変だ。色んな意味で。
「うーん……レイお兄ちゃん、実はフリルちゃん以外にも私達の知らない内にあのあかねさん? と何かあった~~とかあるんじゃないの?? まーーた、秘密にしてたのがさーー???」
「………ぅぅ」
レイはアイの中でしょんぼり、と肩を落とした。と言うより小さくなっていった。
「どしたどした??」
「い、いや。あの黒川さん、あかねさんの事は……多分、としか言えないのが何だか寂しくて、さ」
「うん??」
レイの言葉にアイもルビーも小首を傾げた。
寂しい、と言うのはどういう意味なのか? と。
「あかねさんは、先輩———有馬先輩と競演する事が多かったから。……多分、僕もその時傍に居たんだと思う」
「「……ぁ」」
過去のレイとあかねは知り合いだったかもしれない。
でも、そこの掘り下げは現在のレイには殆ど不可能に近い。
だからこそ、嘗てのレイの姿をYouTubeで研究してどうにか憑依される事が出来たとしても、映像に残らない交友関係まではトレース出来ない。
だからこそ、かな相手にはなるべく秘密にしようとしていたし、謝罪も欠かさなかったのだ。それは同じ苺プロ所属になって打ち明けた時も変わらない。騙していた事の謝罪から。誠心誠意の謝罪からレイは入る様にしたのである。
「そっかそっか。なら、あかねちゃんはレイのピアノにメロメロ~になっちゃったのかな?」
「アイ母さん……メロメロ~なんて今はもう使わないよ。古い」
レイの
そして何故だかアクアも同じ様な顔をしていた。
それはそれとしてレイは続ける。
「僕のピアノに惹かれた~って言うなら、光栄以外の言葉は見つからないんだ……。だから、やっぱりそっちも頑張らないと、だね」
嘗ての神童。世界を驚かせたピアニスト北斗レイ。あれに近付けたか否か? と問われれば首を縦には降れない。少なくとも、斎藤ひかり、ひかるんは、あの域には辿り着いてない。と戒めている。
「うーん、イマイチ差がわかんないんだよね。今のお兄ちゃんと、ちっちゃな頃のお兄ちゃんの。私はどっちも好きだけどなぁ~。あ、ママの曲! B小町の曲弾くお兄ちゃんが一番好き!」
「あはは。ありがとう」
ルビーの率直な感想も勿論嬉しい。
ただ、あの時は主にクラシック音楽をベースに弾きこんでいて、今はそんな縛りは一切ない。YouTubeで人気になる為にドラマ主題歌やアニメ主題歌、ジャズ系等幅は果てしなく広くなっている。
身近な音楽と言う意味ではルビーにとってすれば今のレイの曲の方が好きなのかもしれないが。
それはそれとして、しんみりな空気感にならなくて只管に安堵したのはアイとアクア、そしてレイである。
過去のレイに関してはタブー……とまでは言わないが、あまりに気を使わせたくない、と言う想いもレイから感じるからなるべく触れない様にしているのだ。
だからこその畳みかけ、である。
「とまぁ、各々の本心の部分は当然は解らないが、それでも視た感じ大多数は極力自分をよく見せようとする程度だ。不知火フリルってビッグネームが入ってきたとしてもその点は変わらなかった印象だ。そう言う意味ではほんと度胸のあるメンバーだよ」
委縮したとしても何ら不思議じゃない。
それ程までに、ネームバリューがある存在なのが不知火フリルなのだから。そう言った意味でも今後
「あ、それは僕も思ったよ。フリルさんが気を使って皆に声をかけてくれたのも最初だけだったしね。特にゆきさんだって自分からグイグイ言ってる感じだしさ?」
「……まあ、
「……?? 誰かさん、って誰のこと??」
物怖じしないキャラで言えば、間違いなくあかねが筆頭に来るだろう。
いい具合の三角関係、と言う美味しくテレビ映えもする展開に持っていった。それが仕込みではなく、自分自身の意志で、と言うのだから猶更だ。
そして続いてはゆき。彼女も最初こそはフリルのオーラに気圧されている面はあったのだが、フリル自身の歩み寄りや彼女自身の性格も合わさって打ち解けるのは早かった。三角関係のドロドロとした青春ドラマだけでなく、王道的な惹かれ合い、と言う対比も演出する切っ掛けになったのだから、それを狙ったとしたら彼女も凄い。
そーんな一面を見破る事など出来る訳もなく、純粋だ! と評したのがアクアの言う誰かさん、ことルビーである。当然、ルビーは解ってない様子だが。
「まさに、次世代を担う~~って感じだよね~~」
「……そこまでネームバリューのある番組じゃないんだけど、まぁ。ランクは幾つか上がったよな。このシーズンで」
アイの表現も間違いではない。
元々恋愛リアリティショーは、ある程度の人気はあるが、それなりに層を選ぶと言っても良い番組だ。一定数の数字は獲れても中々突き抜ける事は無いと言って良い。
だが、そこにビッグネームである不知火フリルが加わり、嘗てない程の人気を博す事になった。……恐らく、今後の仕事にもいい意味で影響したとしても何ら不思議ではないだろう。
「えーー、結局どういう事なの? 恋愛してるの? してないの??」
「簡単にいや、合コンのノリだよ合コン。それを考えたら解るだろ?」
「そんなの行った事ないから解んないし!」
「何だか、アクア合コン行った事あるって感じだね? 私も行った事無いよ? ———今時の高校生……ってか、中学時代? はそんななの??」
「……SNSが発達してるからね。しっかりとフィルターかけてない子供が、アダルトな感じな世界を簡単に調べられて、足を入れるって事も有ったりなかったりで……。後は兄や姉から影響受けて真似てる、って言うのもあったかな??」
「ふーん……」
アクアに対してそれとなくフォローを入れるレイ。
不自然にならない程度の、それでいて実際に中学時代に合ったエピソードを織り交ぜて言う事で、不自然さ、その匂いは掻き消えた事だろう。
一昔前ならまだしも、スマホ等の便利なアイテムのおかげで、世の親たちは戦々恐々なのです。
しっかりとした知識を得てから、そして何より心と身体が未成熟になる前にはその深淵は覗かない事が吉だとは思います。非常に難しい事ですが。
「こほん。兎に角だな? オレが聞いた感じなのを纏めると———」
アクアも合コンワードを出してしまった事に対して少し焦ったが、レイのフォローやアイの納得を視て強引にではあるが先に進める事にした。
今ガチ♡の現場で答えていたのを纏めてみました。
Yちゃん(15)
『思った以上に好きになっちゃうなぁ、って感じかな? ファンの目もあるし、番組内ではそこそこに済ませたいけど』
Mちゃん(18?)
『全然するよぉ! だってだって、国民的スターでもグイグイ行く時代になっちゃったんだよ?? メムも頑張らないと~って思っちゃったなぁ。最初はホストに本気になる、って感覚だったかなぁ』
Kくん(17)
『カメラ向けられると仕事モードに入っちゃってなかなかねぇ。それでも学べる所は多くて、情報量がとんでもなく頭の中に入ってきて、結局仕事モードの自分なのか普段モードな自分なのか、解らなくなってくるくらいには、入れ込んでるなぁ』
Aくん(16)
『するわけない。仕事だぞ』
Nくん(17)
『オレは最初からガチよ? なんなら結婚までいけたらおもろない?』
Hくん(16)
『自分の成長の糧にする為に、何事にもチャレンジしてる最中だから。僕としては引き出しが増えて嬉しいし、それに皆との交流が、輪が広がるのがもっと嬉しい。……それが恋なのかどうかは……。答えになってなくてごめんね。やっぱりまだ解らないかな? だからあやふやな答えはしない様にするよ』
Fちゃん(16)
『……自分に足りない
Aちゃん(17)
『………譲れない
「こんな感じ」
「へぇ~~……なんか、質問に答えてないのが何人かいるよね? それが逆にすごーーく意味深」
「な、何もないからね! 僕が知ってる事はもう全部話してるから!!」
「解れば宜しい!」
アイの視線に対して自己弁護をするレイ。
思いの他信頼値、信用値が減った気がしなくもないが、取り合えずこの件に関しては信用してくれた様だ。
「色々と当初は心配していたけど、まあこのメンバーだったら大丈夫だろ、ってのが今の率直な感想だな」
「心配? アクア心配なんかしてたんだ?」
「……なんか、とはなんだ。なんか、とは。リアリティーショーだぞ。人間性をそのまま映す構成なんだぞ。そりゃ心配の1つや2つ、するだろ」
「???」
アクアの心配はルビーには届かない様だった。
そして、アクアの心配事に関してはレイも勿論考えていた事ではある。
トラブルの種。それはゆきが、誇張表現をしたとは言え感じていた感覚に近い。
自分自身を恋愛と言う舞台で演じるリアリティーショー。
現実と虚構の境界線など、最初から存在しないのかもしれない。
カメラの前で交わされる笑顔、涙、そして衝突———それらが作られたものであろうと視聴者にとってはどうでもいい事だろう。重要なのは『面白いかどうか』だけだ。例え打ちひしがれて、傷つき、涙を流し、絶望し、壊れたとしても、それすら『物語の一部』に過ぎない。
視聴者はリアリティと言う言葉に喰いつき、限りなくノンフィクションに近いと頭の中に刷り込み———それらを楽しむ一方で出演者を現実の人格として裁く傾向にもある。正義の刃を振りかざし、断罪する。それらに高揚し———そして大義名分を得たモノは、それを楽しむ。
各国でSNSが原因で命を絶つ、奪われた者達が居る事は記憶に新しい。だが、大義名分を得た者達にはそれらは一切考慮しない。ただの画面の向こう側の娯楽。叩いた者がどうなろうと何一つ関係ない。……だからこそ、何よりも危うく感じてしまうのだ。
「………」
このメンバーなら、この現場なら、杞憂だろう、とアクアは思う。
でも、どうしても心配になってしまうのは………人は、簡単に
「―――大丈夫、だよ」
そんな時、だった。
まるで心を読んだかの様に、いや、最初から解っていたと言わんばかりに、レイがアクアにそう言ったんだ。
「あ、でも次の日曜日———確か花火イベントだったからさ? だからまた夕飯難しいかも……」
「「ええーー!!」」
くるり、とレイはルビーとアイの方を視てそう言った。
まるで先ほどのアクアの葛藤はもう終わり! と勝手に〆たかの様に。
そして、レイの言う通り大丈夫だった。
その後も問題なく、時には楽しく、時には煩わしくも、物語は進んでいった。
レイを巡るフリルとあかねの三角関係は、時にはバラエティの様に盛り上げたり、それでいて殺伐とした雰囲気も演出したり、と余念がない。視聴者を飽きさせない手法を見事に心得ている。
フリルとあかね両方が極めて高いレベルの演技が出来るからこそ成立する場面だと言えるだろう。
勿論、他にも王道とも言える恋愛展開だって控えている。コンテンツの中に更に違うものがあり、こちらも要望を応えている、と言っても良い出来だろう。
その1つがゆきとノブユキのカップリングだ。
時にはコメディに、時にはサスペンスに進んでいくかの様な三角関係ばかりだと胸やけがしてしまう所で、正統派王道な恋愛模様を2人が演出していき、その対比もまさに素晴らしいの一言。
嫉妬心を見せる、我こそは~と爪痕を残そうとケンゴやアクア(疑)が割って入ろうとするが、コメディチックに飛ばされて、その内にMEMちょが2人をよしよし~とあやす姿がまた癒しのポイントとなって、お茶の間をにぎやかせた。時折見せるMEMちょの本来の姿。YouTubeでも見せるおバカキャラも盛り上がりに拍車をかけた。
そして とあるロケバス内にて。
皆が就寝中の中、アクアとMEMちょは起きていた。
「アクたん的にはさぁ? ひかりんの方がめっちゃ目立っちゃってるけど、事務所的に大丈夫なのぉ? ほらほら、ここぞって所のゆき争奪戦! ……あっさり身を引いちゃったし」
「オレはいい。……ってか、最初の1回目だっていく気無かったし」
無難に安全圏で、目的が最初から違うのだから、とアクアはそう言うスタンスだったのだが、そこはバッチリとレイに目をつけられていた。自分だけヒーヒー言ってる状態なのにアクアが楽してズルい!! なのか、はたまた、リアリティショーとは言っても、自身を演じると言う意味ではこれも役者業。妥協を許さないスパルタな面がまた出てきたのか。
アクア的にはその両方だと睨んでいる。
「そなの? ひかりんに負けたくない~~~!! みたいな男の子な面、アクたんにもあるって思ってたんだけどなぁ~」
「………無い、って言いきったりはしないけど、やっぱりここでは安全圏の方が良い。立つ舞台が違う」
「はぁ、アクたんは野心が無いね」
MEMちょ的には、アクアとレイの絡みも面白かった、と思っている。
流石は苺プロだと。美男美形同士、数字をいっぱい持っていく! と独自の嗅覚が言っている。唸っていると思っているのだ。
「そっちはどうなんだ? 最初は目立ってたけど、一気にペースダウンした印象だぞ。いっちょ噛みしにいかないのか?」
「んーー」
アクアの言葉を聞いて、MEMちょは少しだけ考える。
そして直ぐに結論を出した。
「私もこのままかな? おバカ系癒し枠ってヤツをキープしておけばそれで。何せ、あの不知火フリルちゃんが好きになってくれた!! 推しになってくれたMEMちょキャラがそれだからねっ!! 最早いっちょ噛みしなくても十分過ぎる以上に数字はガッポガッポでふえているのだよ!」
「……メッチャ饒舌になった。相当ウハウハなんだな。YouTubeの方覗いてないけど。登録者数的に?」
「もっちだよ☆ 何せ万単位で動いちゃったんだからにゃ~~♪」
MEMちょは、にゃはは! と何故かネコ鳴き声で笑う。相当ご機嫌なようだ。当然の事だとも思えるが。
「あのフリルちゃんが私の事を~って言うのもとっても嬉しかったし、欲しい以上に得るものがあった。これ以上欲張るのは何だか危なそう!? って思っちゃってるんだ。元々の目的が自分のチャンネルにお客の導線を引く事、だったしね。……あ、恋愛~に勤しみたいならさぁ? アクたんがマジでアプローチしてみる?? ならメム的にももういっちょ頑張っちゃうよ??」
「……それはあまり期待しないでくれ」
「それはざーんねんっ!」
MEMちょはぐ~~~~~っと背筋を伸ばした。
バスの天井を眺め、そして外の景色を眺める。
時間が経つのは本当に早い……。そうしみじみと思う。
「楽しい時間って、どうしてこう終わるのが早いんだろうね~~。……ず~~っと皆とこのお仕事したい、って思っちゃってるよ」
もうあまり長く無い。
そう考えてしまうと、どうしてもしんみりしてしまう。
こんなに楽しい案件————MEMちょ的にもかなり久しぶりだったから。
「…………そう、だな………ッ!」
アクアは、肯定しようとした。いや、実際に口では肯定した。
でも、心の奥底では……その気持ちを否定する。懸命に否定する。心を凍らせる。
あの悪夢が————この幸せな空間に侵食しない様に。皆に迷惑をかける訳にはいかないから。
「ふぁ~~~……むむ。んじゃ、メムもひと眠り、するね………、アクたんに、もたれかかっても、良い?」
「重いから駄目」
「ぶーーー……、女子に、重いとは、なにごと、か……………」
MEMちょはそのまま眠った。
こてん、とアクアの肩を枕にして。
アクアはそう言っても振り払ったりはしない。
ただただ、万が一にも、あの悪夢を視ない様にと———それなりに疲れているが、眠らない様に務めるのだった。