認めない子 作:アイらゔU
現在——
アクアはレイと別れた後、とある理由の為 MEMちょに頼みごとをしていた。
「ええ~~~……皆が映ってる映像や写真って言われても……」
「ん? 無いのか?」
それは、MEMちょ個人的に、動画や写真、今ガチ♡メンバーが映っているものがあるかどうか、である。だが、予想に反してMEMちょの反応は芳しくない。
『YouTuberであるMEMちょなら、素材集めとしても絶対美味しいからそれなりに集めてる筈だよ』……と言う話をレイとして、アクアもその線は間違えてないだろうと判断していたのに、意外にも当てが外れた? と思ったのだが。
「そんな沢山はないよ? 言うて200枚あるかないか……」
「いや、めちゃくちゃあるじゃねーか。予想の倍だよ倍」
「うん? 予想??」
「……いや、こっちの話」
全然そんな事は無かった。
『MEMちょなら多分100枚くらいは抑えているんじゃないかな? だって彼女はYouTubeだけじゃなくてTikTokもしてるって言うし』 と言うのがレイの意見の通りだった。
正直昔気質? なアクアは、現代っ子の様にスマホ片手に写真パシャパシャ撮る世代感性じゃないので、そんなに撮る事あるか? 撮る必要あるか?? そもそも容量オーバーしないか??? と懐疑的だった。
けれど、レイは自信満々に言っていた。レイ自身もYouTuberひかるんだし、懐疑的~とは言いつつも信頼はある。……でも、レイは写真撮ってない。だから正直疑いつつ信頼もしつつ、そんなには————とも思っていたアクアだったが、見事に(アクアの)予想が外れたのである。
「それで何に使うの? ドロップボックスのリンク送っとくー」
「さんきゅ。………それとあれだ。【今ガチ】はプロが編集したコンテンツだろ? 今回の件、あの記事が出た途端、明らかに意図的に介入してきてるのに、不自然なく上手く仕立てあげてきてる。その辺の手腕は流石プロの一言だが」
「ああ~~、それねぇ。メム的にもああも映像とか一瞬描写に加えて、音声ナレーションの煽りを入れられたら……、
MEMちょもYouTuberだ。
動画編集なんて日常茶飯事の定常業務で悪戦苦闘してる。どれくらい大変で、どのくらいの時間がかかるかもわかっているし、何よりその難しさも身に染みている。
わざとらしい演出過多だったら視聴者は離れるし、飽きだって来る固定ファン獲得も大切だが、何より飽きさせない努力が大切だから。
今のTVとネットの対立構造も色々囁かれる昨今だが、出来立てほやほやの個人事業のYouTubeと昔から積み上げてきたTVの編集技術は、やっぱり違う、と思わせられた瞬間だった。
「……腕もあるだろうが、見せられるのは仕方ない。どんな聖人であっても一面だけ切り抜いて繋ぎ合わせれば悪人に早変わり。それが演出って言うものだ。―――が、これ以上好き勝手させるのも気分が悪い。オレには映像編集スキルがあるし、素材さえあれば状況を覆せるって思ってる」
「ふむふむ……。なるほどねぇ。つまり、アクたんは、『私達目線の今ガチ』をやりたいんだ?」
「やりたいって言うか、歪で利己的。歪み切った映像を正したいって気分なだけだ」
今思い出しても腹が立つ、とアクアは思いつつも表情には出さない様にして、MEMちょに告げた。元々裏方志望な面もあるから、この件に関しては相応の自信がある。……それに、MEMちょの話し方的にも、彼女も思う所はある様なのは明白だった。
「それって誰かの入れ知恵だったりする? 自分で考えたの?」
「? まぁ、自分……だな」
「へぇ……、なーんか、アクたんの背後に、誰かいそーな気がしなくもないけど。それはそれとして勘所は、いい線いってる。わるくないねぇ」
MEMちょは、にまっ、と笑みを浮かべるとアクアに解説するかの様に告げた。
間違いなく現状を鑑みれば、演者と言う立場で出来るベストの反抗……と言えなくもないからだ。
ただ、これは相手側の思惑から外れる部分である事も明白。それでも尚、やろうと言うモノなら、相応のペナルティを課してきそうなのも明白。だが、それでも止まる事は無いだろう。
勿論、それはMEMちょであってもそうだ。
「今のこの状況って、広告代理店風に言うと『能動視聴者数が多く、強いインプレッションが期待できる状況』ってヤツなの」
それはMEMちょが長らく主戦場にしてきたからこそ、その分野で生き残ってきたからこそできる主観である。
「一見、フリルちゃんやあかね、ひかりんへの大バッシング、叩きが目立っている様に見えて、実はそれは表面的なモノ。実態としては数%程度のものでしかない」
そもそも、週刊誌自体真面目にしっかりと隅々とまで~見る層は少ない。
それがネットニュースで上げられて、地上波でも上げられて、部分部分を切り取った報道の仕方をしているからここまでの炎上をしているのだ。
ただ————、明らかに消極的だが事務所的には否定をしているし、そもそもTVに対して不満や偏向的な目を持ってる視聴者も多いから。
故に、今はまだ何もしていない層が圧倒的に多い、と言えるのだ。
「何せ未成年を扱う記事。そもそもが条例違反だし、まさにセンシティブな話題……。美男美女だしね? 裏では~~って下世話っぽく想像しちゃう層はどうしても居るのは仕方ない事だけど、昨今は安易に書きこんじゃうだけで、名誉棄損~って事になっちゃうし、殆どの客層は叩くべきか擁護すべきか悩んでる『
そこにはある程度のファンやアンチと言った視聴者心情も混ざっているだろうが、大体ここに落ち着く。
幾度となく見てきたからこそわかるのだ。
「つまり、今は『答えを求めてるユーザー』が最も多い。あの位の事務所対応じゃ足りないって思ってるだろうしね」
不知火フリルお抱えの事務所にしては明らかに消極的だ。
苺プロはガンガン周囲に対応していると言うのに、そこと比べても明らかに比率が低い。
片方だけが否定して、片方は沈黙……これは心象的には悪い方へと向かいかねない。
『認めている』と取られてしまう可能性だって高いからだ。
「そこで、アクたんのこの作戦! これは効果的だよー」
MEMちょは指をぴんっ、と立てて胸を張っていった。
「今の段階で、当事者でもあるアクたん、メム達が『
ここで、MEMちょは少しだけ表情を落とした。
「あくまでもそれは、記事の一部の誤りの指摘。意図的に組み上げられてる『3人VS 4人』って言う対立構図が根も葉もない捏造だった、って言う事だけ。発端である、あの3人の……その、
「————まぁ、それはそうだろうな」
未成年の淫行をセンセーショナルに報道した。
そこから派生したのが、今ガチ♡内部での対立構造だ。
根本的な部分を解消するなんて早々出来る物じゃない。下の話なんて、晴らすのは悪魔の証明他ならない。ここが本当に忌々しく憎々しい。
あの記事には、決定的なんて言える瞬間は一切ない。ただそれっぽく見える様に加工を施されているのと、事実かどうかも第三者では解りようもない証言で創り上げているだけの創作だ。
これを覆すには————当然今のやり方では弱いし、絶対に届かない。そのくらいはアクアも解っていた。
「うん? んっん~~~?? でも、アクたん、なーんか自信満々、って顔してるけど~~?」
そんな時、MEMちょはニヤニヤと笑みを浮かべ、アクアに対してそう言った。
なるべく表情には出さない様にしているアクアだが、ここに関しては読まれてしまった様で。……その表情の機微にさえ気付いたMEMちょが鋭いだけなのかもしれないが、間違いではないので、ゆっくり頷き肯定した。
「勝算はある
「ほっほーー」
MEMちょは、にやっ、と笑みを見せたままアクアの方を見て言った。
「つ・ま・り、やっぱひかりんの方も動いてるって訳だ?」
「……まぁ」
確信を持って聞くMEMちょに対してアクアは肯定する。
ここまで来て誤魔化す必要は無いからだ。
最初からMEMちょが感じていた通り、自分の後ろに居る存在とは紛れもなくレイ。……ただ、レイに対してMEMちょは『ひかり』と呼ぶに過ぎず、今ガチの現場以上に知ってる訳じゃないから、説得力と言う意味では低いと称するかもしれないが。
「実は! ひかりんならやってくれるかも~ってメム的にも思っちゃう所があったんだよねーー」
思い返すはつい最近のやり取り。ここぞと言う場面で黙るのではなく動いてくれる、想定外な時にこそ、そう言う事が出来る人は信じるに値する、と言うモノだと解っている。
大体は自分自身が可愛いと言うのが本音だと思っているから。
「……あそこで、泣いちゃったあかねに対して、励ますだけじゃなく
当たり前だが、今ガチ♡内でのレイの立場は、期待を一身に浴びても問題なく、難問にも果敢に挑み解決に導く~と言ったキャラにはしていない。
所謂サクセスストーリーの主人公型、と言った売り方だった。
最初こそは、この現場に慣れてない様子だったが、日を追うごとにその頑張る姿が視聴者たちの共感を呼び、更にそこに不知火フリルがレイにロックオンすると言う現状も繋がり将来のスター性がそこにはあるのでは? と思う部分にも期待値が上がった。
無論、あかねからも好意を寄せられているから、そこに嫉妬心だって生まれるかもしれないが、夢見る男の子の中には、ハーレム的な願望も持ち合わせていたりしても何ら不思議ではない。
くど過ぎず、飽きさせず、それでいてシッカリと前へと進む姿勢は見せていて、そのバランスは完璧に近いと言う評価も貰っている。
まさに演者としての技能の高さが伺える3人だった。
だからこそその時点で、初心っぽいレイの姿は偽りだったと言う事くらい簡単に連想出来ると言うモノである。
「その時の絵を納めれたら、めーーーっちゃ、バズるって思うし! 何なら実況生放送で視聴者たちにお送りしたい気分だよ~~!!」
「それは止めてやれよ。流石にひかりだってそれは好まないだろ」
MEMちょが言う事も間違ってない。
エンタメとしては確かに面白いかもしれない。
大なり小なり、世間では連想させ妄想させるメディア、芸能界に犇めく巨悪。
それに一石を投じる~と言ったストーリー。それがリアリティで行われるとしたら? 番組内だけで収まる話ではなく、もっともっと広がって動かざるを得ない様な状況になったとしたら、———視聴者にとってはこれ以上無い最高のエンターテイメントだ。
だが、それを提供する気は更々ない。ただあるのは傷つけられた痛みに対する報復。……侵してはならない領域、一線を越えた者に対する相応のもの、一罰百戒の為にもここで止めなければならないだろう。
安易に過去を掘り下げようものなら……
「それでそれで? ひかりんはどうしてるの?」
「…………」
「やだなぁ、アクたん。そんな警戒しないでよ~。一枚嚙ませてもらってるし、何より私だって、私達だって怒ってるんだし? 変な事する訳ないじゃん」
仲間を貶められた。仲間の尊厳を踏みにじられた。
メディアで食っていく以上、波風をたたせない生き方が最も賢い方法なのかもしれないが、そうも言ってられない。それ程までに、この現場は楽しくて楽しくて仕方が無かったから。
だからこそ、MEMちょも協力を惜しまないのだ。
何となくだが、アクアもMEMちょの考えてる事が解ったようで、少しため息を吐くと説明をした。
「ひかりなら、鏑木Pの所」
「へ~~Pのとこに。…………ん? んん??」
アクアの説明を聞いて、MEMちょは微妙に首を傾げたまま黙り込んだ。先ほどの彼女とは思えない程の静寂な時間が流れる。……そしてその静かな間はアクアにとっても違和感満載だった様で、上手く聞き取れてなかったのか? ともう一度言おうとしたその時だった。
「ええええええええええ!!!」
突如、MEMちょから大声が響き渡る。
驚きの余り、彼女は座ってた椅子から飛びあがり、何ならギャグ描写か? と思える位にこけそうな勢いで……実際にはこけなかったが、それはそれとして身を乗り出して来て、アクアの両肩を思い切り揺さぶる。
「鏑木P……って、プロデューサーの事だよね!? えええ!! ひかりん、色々飛び越えていきなりそんなトップに直談判でもしにいったって事!? どういう事マジで! 殴り込みなの!? 短期決戦!? ひかりんは仮の名で、実は勇者だったりするの!??」
ガクガクガク、と揺さぶられるアクア。驚くのも無理は無い事かもしれないが、あまりに長く頭を揺らされるとしんどいのも事実。まるで子供の様に興奮したMEMちょを宥める為に、アクアは真っ直ぐ彼女の目を見て言った。
「少し落ち着けって」
それでいて、頭を軽く叩く。丁度、チョップするかの様に。
ぽすっ、と乾いた音が頭に響いた所でMEMちょも漸く揺さぶっていたアクアの肩から手を離した。
でも、アクアを解放しただけで、彼女自身の目にはまだ興奮の色が残っているのが解る。
なので、変な事を吹聴されない為にも、しっかりと説明をする事にした。
「元々鏑木Pとは顔見知りで知った間柄だ。今ガチ以前にもな。だからつまり、間にDやら他の面子を入れるよりよっぽどスムーズに話が聞けるし、伝わる」
淡々とした口調で語るアクアに対し、MEMちょはぽかん、と口を開けたまま数秒間固まった。また違う意味で固まるMEMちょは、本当に感情表現豊かで、自分には無いものだ、と割とどうでも良い事をアクアは考えていたのだが、その間にMEMちょは復活して再び勢いよく声を上げた。
「ええっ!? 顔見知りなの!? それ初耳なんですけど!!」
「そりゃ、言ってないからな」
「確かに言わないのは普通だと思うけど! でも聞いちゃった以上は凄いって思わずにはいられないよ!? アクたんといい、ひかりんと言い、やっぱりただ者じゃなかったって事かぁ……。うんうん心強いねぇ~~」
プロデューサーが顔馴染みともなれば、色々と事情を聴けるかもしれないし、何より事態が好転する可能性だってグッ、と高くなるだろう、とMEMちょは思った。そんな心の機微を、アクアは見逃さない。
そして、視線を細くさせながら言う。
「………まぁ、それは今回の件に鏑木Pが
そして最後の一言にはほんの僅かだが怒気を孕んだ空気が含まれていた。
内心では、きっと絡んでないと信じたいのだろう。
でも、もしも————絡んでいたとすれば? その心情は計り知れないものをMEMちょは感じている。
思わず息を呑むMEMちょだったが、やがては顔を引き締め直し、無理にでも明るい調子を取り戻していった。
「だよね。……でもさ、大丈夫だと思うよ。鏑木さんがそんな事する~って想像できないし。ちょっと話しただけだけど、根拠全然無しだけど、きっときっと大丈夫! ひかりんを信じて、メムとアクたんは動画編集の方に全力でいこう!」
「そっちはまぁ、言われるまでも無いって所だ」
鏑木について思う所が無い訳じゃない。
アクアにとってもそれなりに付き合いは深いと言っても良いだろう。
直接的な繋がりじゃなく、アイとレイの2人が深く繋がり……それでいて、アクアの知りたい情報を少なからず持っているであろう人物筆頭だから。
実の母親の色恋を知りたいと思う息子の図は少々特殊に見られるかもしれないが、現状を鑑みれば、普通を演じる事は出来る。幼い頃から父親の事は気になっていて、片親である事も少なからず心に来るものがあった。
でも、それは
「(————知られる訳にはいかない………)」
アクアは実行には移さずに今は一歩前でとまっている。
アイとレイ、2人ともが鏑木と繋がりが深いのだ。自分が探っている事を、鏑木を通して伝わる可能性はゼロじゃないから。聞くにしても、それは最終手段だと位置付けているから。
なので直接的に聞くと言う案は止めにし、次に考えていたプランの方へと舵を切り直した。物的証拠を押さえる、と言う手段。どれだけ時間が掛かろうとも、回りくどいと思われたとしても、……知られる訳にはいかないから。
「(まぁ、……鏑木Pは、違ったけど)」
咥えられ唾液が付着している煙草、そして毛髪。
DNAを採取する上で必要なモノを抑えて、鑑定に出す。
これは、言葉で説明するよりも遥かに信憑性が増す物的証拠。
途方もない作業だし、金もかなりかかるが全く苦にならない。
これで自身の父親を追い続ける。………きっと、そいつが——————。
「はぁ~~。果報は寝て待て、って言うけど、寝てらんないねー。こっちも頑張らないと!」
MEMちょは心ここにあらずなアクアとは対照的に、自身の持つ素材で更に使えそうなものをピックアップするのだった。
「来ると思っていたよ。レイ君」
「お忙しい所、時間を取らせてしまって申し訳ありません」
「いや、構わないさ」
鏑木はレイと相対し、そのいつもとは違う雰囲気を一身に浴びて感じていた。
久しぶりに再会したあの今日あまの時とはまるで違う。言葉遣いこそ礼儀正しく、いつもの彼と言った印象だが、その内に内包するモノが大きく大きくなりつつあるのが感じられるのだ。
こういうのをなんと呼べば良いのだろうか。内に秘めるモノを他者にまで見せる程に具現化してくるソレを纏うものを。
ソレを、
「……寧ろ、君が来ることを僕の方が待っていた、と言っても良いくらいなのだから、ね」
鏑木は軽く微笑みを浮かべながら手を広げて見せた。
その両手を広げて見せる仕草は、『何を聞いてくれても構わない』と表現しているかの様だ。
「何でも聞いてくれて構わないよ。答える事なら全て、答える。……約束しよう」
そして、口でもハッキリとそう言った。
レイは、それを聞き遂げた後に、鏑木に倣って同じく軽い微笑みを向けて聞いた。
「では———」
勿論、もう言い繕う必要も無いのでストレートに。
「単刀直入にお聞きします。―――
レイの言葉は静かだ。……だが、そこには明確な意図が込められているのは解る。
普段なら『今回の件』だけじゃ解る筈もないが、この現状を考えたらたったそれだけでも十分過ぎる程に伝わると言うモノ。
「当然の疑問、だろうね。……では、私も真摯に答えよう。言い訳と捉えられたとしても、今から言う事に嘘偽りはない」
鏑木は軽く息をつきながらレイに視線を戻した。
その眼は、何処となく疲労感が見える。彼も彼の中で相当の苦悩や葛藤があったのだと言う事が垣間見える気がした。
だが、声色に関しては落ち着いている、の一言だ。
「———今回の件。私の知らないところで話が進行していた。事後報告も同然だ。構成に関して、私の意見は全くと言って通っていない」
苦悩、葛藤、それでいて申し訳ない、と言う気持ちがその言葉から掬い取る事が出来る。
それもそうだ。苺プロの若手新人である『斎藤ひかり』に出演依頼を出したのは、『星野アクア』を経由して依頼を出したのは他の誰でもない、自分なのだから。
その結果、ここまで大きな事態に巻き込まれてしまった。
「つまり、私よりも上の人間がこの話を強引に進めたと言う事だろう。……様々なクレームは寄せられているが、その辺りに関しては一貫して否定している。……メディアには一切流れてない情報だがね」
未成年の淫行を推奨しているのか。そう言う場が、今ガチなのか、と言うクレームはあの事件発生から最早数える事が出来ない位には届いている。
その全てで否定をしているが、公に会見を開いて否定したのはたった1度だけであり、更に言えば非常に短い時間帯だった。未成年のメンバーの気持ちを慮って、と言う意味では立派に聞こえるかもしれないが、どうしたって説明不十分だろう。
「私としてはね。君たちと争う事なんてこれっぽっちも考えてなかった。どう考えても、貶めている記事に加えて、連想させる演出。『うちに、ケンカ売ってるんだ? そうなんだ?』とアイ君にも散々咎められたよ。無論、斎藤社長にも、ね。……全くのお手上げ状態だ」
「……あはは、それは」
流石にレイもこの時ばかりは苦笑いをする、と言うのは本心からの行動。
アイは、母は、どちらかと言えば過激派だ。結構レイ自身がマークされているとの事だが、アイこそが最も危険ではなかろうか? と言うのがレイの意見。因みに、アクアもルビーも(ある程度)は頷いてくれている。
でも、アクア&ルビーからすれば、どっちもどっち、と言うのが本心であり、目を離しちゃいけないとも思っていたりするのだ。
これはアイもレイもお互い様なのだが……所謂『おまゆう!!』※お前が言うな!!
なのだ。つまり自分自身の事になったら鈍感になってしまうのは常なのだろう。
そして、アイやレイネタで隠れてしまいそうになるが、ミヤコや壱護も相当にお怒りだ。
アイを抑える為にも表立ってないだけで、日々多方面への抗議をしているのだから。
「でも、アイ君にも斎藤壱護社長にも言ったが、改めてレイ君にも誓って言う。私は一切関与していない。……Pの立場で関与出来なかった、と言うのがあまりにも不甲斐ない事ではあるが、ね」
監督不行き届きと言う意味ではそうなのかもしれないが、でも今回の件は預かり知らぬ話であったのであれば、完全に被害者側の人間でもある。
レイは一通り話を聞いた後、表情を緩めた。それと同時に纏う雰囲気も緩和されていった。
「僕自身、信じてましたよ。でも、やっぱり鏑木さんの口から直接聞いておきたかったんです。……疑う様な物言いをして申し訳ありませんでした」
「いや、謝る必要は一切ないよ。君たちは言わば被害者だ。……汚い大人らの思惑に巻き込まれた完全なる被害者。そして同じ土俵に居る我々こそが何とかしてやらなければならないとも思ってる。時間は掛かるかもしれないが、必ず何とかして見せる」
鏑木はそう言うが、レイは首を左右に振った。
そして、笑顔に成って言う。
その笑顔が—————また、変なんだ。
「大丈夫ですよ」
「なに?」
その意味深な笑顔の圧に揺らぐ鏑木は、続くレイの言葉に疑問符を浮かべた。
「大丈夫、なんです。……心配せずとも、そう遠くない内に全て終わります」
「ッ………」
黒い笑顔の奥にある光。
それは、その言葉に説得力を持たせるのには十分過ぎる程のモノだった。
理屈じゃない、理由も説明出来ない。だが、それだけで十分過ぎる程の説得力。
この雰囲気を持つ者には、これまでの人生でも指折り程度なもので————それ以上に。
「……何をする気だい?」
鏑木は心配した。
目の前のレイに対して。……斎藤じゃない、星野でもない、……北斗レイに対して。
「え? 僕は何もしませんよ」
「申し訳ないがそうは見えないな。……君の事は、
鏑木は、レイの事をよく知っている、と強調していった。
だからこそ、レイにも伝わったのだろう。
「ははは……、鏑木さんも、
「まぁね。もう長い付き合い故に、当然こっちの耳にも入る。もしもの時は手綱を握って離さない、と言う話も聞いている」
危うい。
普段の立ち振る舞いとは大違いで、一度事が起きれば暴走するかの様に立ち回る。その危うさは、やはりあのアイに通じる所がある、と言うモノだった。親子とはよく言ったモノだろう。
「僕としても、もしもの時は、その握る手綱の一員にはなりたい、と思ってるくらいだ」
「!」
それ程までに、危ういのだと鏑木は思った。……そして、それはレイ自身にも伝わった。本当に心配してくれているのだと言う事も、伝わった。
「本当に大丈夫なんです。詳細を明かす事は今は出来ませんが、変な事は一切しませんし、危ない事もありません。―――ここは、僕が誓います」
鏑木はそう言うレイの目を真っ直ぐに見据えた。
2人の間に短いが沈黙が流れる。
そしてその沈黙を破ったのは、鏑木の方だった。
「わかった。……君が信じてくれた様に、こちらも君を信じる事にしよう」
何をどうすれば解決に至るのか? 正直検討が付かない。プロデューサーを飛び越えて番組構成を決めた事もそうだし、何よりあの記事に対しての他の対応の遅さもそう。間違いなく大きな力が動いているのは明白。
そこにどうやって対応すると言うのか? 疑問が尽きない。
『因果応報。それが世の摂理である。………まぁ、起こる全てがそうなら良いのですが……ね』
ただ、レイの中には黒い怒りの他に絶対的な自信もあるのを、その眼に垣間見た気もした。
そして急展開。
レイ自身は何もしない、と言っていたのだが、そんな訳は無かった。
「おやおやおや~、こんな所でお2人仲良くデートですか? 是非話を聞かせて貰いたいですなぁ。――ああ~~申し訳ない、私、週刊雷鳥記者の鮫島と申します」
単なる獲物として見ているだけだった。
言わば捕食者側だと信じて疑ってなかった。
その捕食者は、最高の獲物である超が付く大物、不知火フリルが居ない現状を少々嘆いていたが、特段気にする事無く、淡々といつも通りに獲物を捕食するだけだ、と思っていた。
———が、それは大きな間違いである。
鮫島は自ら飛び込んだ獲物の檻の中で、冷たい視線を浴びる事になる。
それが、最後の『取材』になるとも知らずに。