認めない子 作:アイらゔU
収録後のひととき。太陽が地平線に沈みかけ、辺りが夕暮れ色に染まる中、レイとあかねの二人は人通りの少ない公園に佇んでいた。
冷えたベンチに腰を下ろしたあかねは、手元のペットボトルを見つめたまま沈黙している。その瞳には疲労がにじみ出ており、心なしか肩も落ちているように見える。
「……やっぱり まだ気になりますか? あかねさん」
レイが柔らかい口調で問いかける。
あかねは微かに目を伏せ、苦笑した。
「気にしてないって言ったら、嘘になるかも……。……やっぱり、バレちゃってた? あ~ 頑張ってたつもり……だったんだけどなぁ」
アイを模してる彼女は、ここでもその演技力を如何なく発揮している———様に見えるが、やはり影響は隠しきれていない様だ。天才と呼ばれる彼女であっても、まだ17歳の子供。……ここまでの大事に巻き込まれて、一朝一夕で調子を元に戻せるわけがない。寧ろここまででも十分過ぎる位だ。
テレビで流れたあの記事。誤解を招く編集、視聴率至上主義の構成。
今回の渦中の3人の中の1人であるあかねが責任を感じるのも無理はない。あかねの優しさにつけ込むようなやり方に、胸の奥がかすかにざわつく。
もう大丈夫―――と、確信に近いものを持っているんだけれど、心だけはそう簡単にはいかないから。
「何度でも言います。あかねさんのせいじゃないですから。……今回の件、誰が悪くて、どちらが正しいのか。……もう夫々の配役は確定していますから」
彼女の隣に座り、目線を合わせながら言葉を続ける。
「それにあの番組の編集もきっと、今に変わってきます。……アクア達も頑張ってくれてる。だから、あまり自分を責めないでください」
「でも……私は、もっと気をつけるべきだったんです。本当に信じてもらいたかったから……。それなのに……」
声が震える。彼女の肩がわずかに揺れた。
憑依させていたアイは、完全にあかねの精神からいなくなり、今はあかねの素の状態。今にも泣きそうな声と表情だった。
レイは少しだけ言葉を選ぶ時間を取り、彼女の目をじっと見つめた。
「……あかねさん、あなたは十分すぎるほど頑張っています。誰が何と言おうと、例え、あかねさん自身が否定しようと、僕はそう言い切ります。何度でも、何度でも」
「…………うん。ありがとね。ひかりくん」
その言葉に、あかねは驚いたように顔を上げた。そして小さくお礼の言葉を呟く。その瞬間、ふっと柔らかな微笑みが彼女の顔に浮かぶ――。
そしてもう次の姿は、またあのアイの姿が降りてきた。
雰囲気だけで、仕草の1つ1つだけでよく解る。
もしも、アイと同級生だったら……こんな感じ、なのだろうか、とレイは思うと同時に。
「……本当に、そっくりですね。怖いと思える程に」
レイはポツリと言葉を漏らした。
それに対して、あかねが首をかしげた。
「え?」
「前々から、いや違いますね。初めて会った時から思ってたんです。あかねさんが今ガチで魅せる表情、仕草の一部一部、言動、その全てが、あのアイさんを彷彿させるものだ、って」
レイは、ニコリと笑ってあかねに言った。
アイに模すその姿はまさに完璧だ。それに加えて、あかね自身の17歳と言う年齢も考慮した上でのアイそのもの。17歳のアイに会わせてくれた様な気がしてならない。
あの不思議な引力もそう。ネームバリュー的な意味でも圧倒的なあの不知火フリルにも迫る惹きつけは凄まじいの一言。天才と呼ばれる所以をまざまざと見せつけられた気分になる。
ただ、解らない点もある。
何で、黒川あかねが、星野アイを選んだのか、だ。
レイはそれだけがどうしても判らなかった。
今ガチの舞台に、不知火フリルが降臨した事も衝撃だが、あかねのそれは、匹敵するものだと思っているから。
「間違いでなければ、教えてくれませんか? あかねさんがアイさんを
確かにアイは元トップアイドルであり、現在はマルチで活躍中の超人気タレント。
選ぶ理由は作ろうと思えば簡単に作る事が出来る———が、それをハッキリとあかねの口から聞いてみたいと思ったのだ。
「ぁ………、え、えっと………」
「あ、無理にとは言いませんよ? 良い気分転換になればな~程度に考えてましたので」
その言葉に、あかねは一瞬息を飲んだ。レイはそう言うが、今のあかねには伝わってない様だ。
今、この瞬間 アイを模したあかねではなく、素のままのあかねに戻した、とレイは感じた。
そして彼女の瞳の奥に、何かを決意するような光が宿る。そして、小さく息を整えると、静かに切り出した。
「……ひかり君、実は――」
その瞬間だった。二人の背後から聞こえる足音。何かを強引に引き裂くようなタイミングで、男の声が二人の世界に割り込んだ。
「おやおや、これはこれは。まさかここでお二人にお会いできるとは!」
その声は、皮肉と嫌味の塊だった。振り返ると、そこにはICレコーダーを手にした男――全ての元凶である悪徳記者、鮫島が立っていた。
そして鮫島はにやけた笑みを浮かべながら、二人の間合いに踏み込んでくる。
その手にはお決まりのICレコーダーと、肩から提げたカメラバッグ。それらが、この男が一体どういう人物なのか何も知らない第三者にもわかりやすく説明しているかの様だった。
「うん、実にいい絵だねぇ。これが本当のリアリティショーってやつかな? 僕限定でリアルなショーを魅せてくれるとは……。いやぁ、お2人に会えるとは本当にツイてる。怖いくらいだ」
彼の言葉に、あかねの顔が強張る。
まるで蛇に睨まれたカエルのように、一瞬動けなくなった。
不審者? と思ったが、男の吐いた言葉の一言一句、一挙手一投足の全てを理解しようと頭を巡らせると———1つの結論に到達した。
そして、あかねは震える声で口を開く。
「……あなたが、あの記事を書いた人、なんですね?」
あかねのその問いに、鮫島は目を軽く見開くと、直ぐに肩をすくめて両手を横へと広げていった。
「おやおや、そんな心外だな~。今巷じゃ空前の流行り、今ガチ♡の舞台でも見学させて貰おうかなぁ、って思ってきただけなのに、断定しちゃうなんて。………でもまぁ、もしそうだとしたら……どうだって言うのかな?」
その軽薄な口調には、人を喰った様な態度には、明確な挑発が込められている。
その仕草の全てが、肯定したとあかねは捕えた。
「どうして……」
あかねの声がわずかに掠れる。その眼には強い光が宿されていた。
皆の心を蹂躙してきたこの目の前の男を睨みつける。
「どうして、あんな記事を書くんですか? 全くの事実と全然違うじゃないですか……。あの日、私達はひかり君をみかけて————マネージャーさんが乗せてくれただけです。なのに、あんな出鱈目を。……一体何のために、私たちをそんなふうに傷つけるんですか? 私たちが一体何をしたって言うんですか?」
鮫島の表情が歪む。にやけた口元がさらに広がり、目には爛々とした嫌らしい輝きが宿る。
「何のため? いや、ほんとわかんないの? わかんないかーー、そりゃそーかーーー。……だってまだ若いんだもんな? んじゃ、大人の授業でも始めましょうかね」
鮫島の手に込められたICレコーダーは既に起動している。
後でどうとでも編集できるので全くを持って問題ない。そして、壊れた時様に胸ポケットにも同じ機種を忍ばせて、万全な状態。
そして、
「簡単な事で、決まりきってる事でもある。何、大人とは言っても、そんな難しい授業じゃないさ。つまりは重要なのは数字だよ、数字」
業界に居れば、誰もが容易に考えが付く事だろう。
だが、鮫島本人の口から聞く事こそに意味がある。本人の口から言わせる事が。
「視聴率・PV数・発行部数。この業界数字こそが命であり全て。芸能界なんてその最たるもので、そう言うエンタメの場だ。そんな本質を君たちが寧ろ知らないなんてある訳がないだろう? そしてその過程で君たちが傷つく? いいや違うね。これは通過儀礼。誰もが辿る道さ。……ま、傷ついたとして、それがどうしたってんだ? って話でもあるな」
その答えに、あかねは言葉を失った。彼女の目に浮かぶ涙を見ても、鮫島は全く動じない。むしろ、その反応を楽しむかのように、さらに追い打ちをかける。
「まぁまぁ、泣かないでくれ。そもそもこれは君たちが選んだ道だろ? この業界に足を踏み入れた時点で、こうなるなんて予想が出来るってもんじゃないか。言わば“有名税”ってやつか。――そもそも世間の目に晒される覚悟もなく、芸能人なんてやってちゃいけないもんだぜ」
一筋の涙、それをあかねは青ざめた表情で拭うと、言葉を搾り出す。
「……ひどい……」
「それは一般人の考え方。
何処まで言っても独善的論理。業界の狂気じみた常識が絶対と言った考え方だった。
あかねは、ぎゅっ、と拳を強く握り、カタカタと震える。知っているつもりだった。けれども、いざ自身の……大切な人達の身に降りかかって初めて本当の意味で知れた。何処までも苦しくて苦しくて、苛立って、何より辛い。
今、何を言ってもこの男の嘲笑、人を嘲るその仕草を崩す事が出来ない事が何よりも悔しい。例え人を呼んだとしても、飄々とした態度でこの場から踵を返すだけだろう。そう、何の意味も無い。
こんな男に、楽しかった現場を台無しにされたのか、とあかねは涙が零れた。
そんな時、だった。
レイが静かに一歩前に出たのは。
あかねを庇うようにして、背後に追いやると、鮫島と向き合う。
「……あなた、想像通りの面白い人のようだ」
レイの声は冷たいが、どこか感情を抑えた穏やかさがあった。
この柔らかい物腰の話し方は、普段のレイを知ってる者ならより違和感を感じ、より内包されているものを鮮明に感じ取る事が出来るかの様だった。
「そんなに自信満々に自分の屑さを語れるなんて、ある意味尊敬しますよ。僕達タレントが何時。何処で見られているか解らない世界で、こうも堂々と———心から笑えます」
「は? なんだと?」
鮫島の眉がぴくりと動いた。
斎藤ひかり。目の前の男のプロファイリングはそれなりにしている。
だが、それは不知火フリルに引っ付いてるだけの男、程度の認識しか無かった。
デビューはこの恋愛リアリティショー『今ガチ♡』。
つまりただの新人。
「(なんだ? このガキ)」
それをあの不知火フリルが何をどう思ってそうなったのか、背後でどんなやり取りがあったか、創造し真実として創り上げる事は容易だが、
レイはポケットからスマートフォンを取り出し、ゆっくりと通話画面を開いた。
「さて。ここまで解りやすい飛んで火にいる夏の虫———とは。申し訳ない、ちょっと相談させてもらいますね」
「はぁ?」
鮫島が嘲笑する。
「なにそれ? パパとママに助けてもらうってか? やれやれ、甘えん坊だなぁ。ほら、ママに泣きついてみなよ。あ~~、それとも事務所の方かな? 怖いなぁ~~」
その嘲る言葉に、レイの事を調べに調べて、その内情をほぼ解っているあかねは顔面が一気に燃え上がるのを感じた。
調べたそれが間違いないのであれば、レイには両親は—————。
「ッッ—————!!!」
あかねは前に出ようとするが、それでもレイに制される。
怒りに満ちたあかねのそれを、優しく抑えてくれる。
この時、あかねはレイが以前言っていた『大丈夫だから』の、説明しようのない説得力を、何故だか感じる事が出来たのだ。
その言葉にも、レイの表情は微動だにしない。軽く息を吐き出すと、通話相手の名前を押した。
電話の向こうから聞こえてきた声は、低く落ち着いていた。
『こんな時間に珍しい。どうした? 何か問題があったか?』
レイは通話をスピーカーに切り替え、静かに答える。
「ええ、問題と言えば問題なのですが、僕にとっては嬉しい誤算、と言った方が正しいかもです」
『は? 嬉しい誤算??』
スピーカーにしている為、会話の内容は周囲に丸聞こえである。
ただ、その内容の意味はまだつかめてない。あかねは勿論、鮫島もそうだ。
だが、直ぐに真意を知る事になるが。
「例の記者、今、目の前にいます。今回は止められてしまいましたし、僕も了承してましたが、向こうから来たのなら、話は別。今から全てを披露しても問題ありませんか?」
その一言に、鮫島の表情が一変する。
だが、まだ余裕を崩していない。
「ははっ。披露? 面白いねぇ。一体何を披露してくれるのかな?」
確かにレイの物言いには妙に腹が立ったのは事実。
でもそれは、言わばモブに噛み付かれた事に対する憤りであり、身分を考えろ雑魚、とでも言いたかった気が流行ってしまっただけだ、と鮫島は解釈した。
———無論、それらは全て誤りであり、そもそもが悪手も悪手、最悪に繋がる事に違いは無いのだが。
そして、スピーカー越しに響く夏樹の声は、冷徹そのものだった。
『ああ。予定は狂うが、構わない。やれ。こっちでフォローするから遠慮するな』
「大丈夫。全部覚えてるから」
『あん? ……ってマジか? 教えてやったヤツ全部?』
「うん。勿論だよ」
ぞわり、と妙な震えが夏樹を襲う。電話口にでも、今レイがどういう顔をしているのか、どんな雰囲気で佇んでいるのかが、解る程だった。
夏樹がしようと思っていた事の情報量は、全て合わせたらとてつもない量になる。それら全てレイの希望で見せた事があった。守秘義務等に引っかからないラインは見極めてはいるが、それでも量は膨大。
「だって、
『………だったな』
明確にレイが『敵』と認識するのは珍しい部類。これまでに、敵だ、と言い切った人物は数える程度、夏樹が知る中でも3人しか知らない。
ここに4人目が追加された、と言う事か、と夏樹は行く先に一抹の不安を覚える。
「やっていい」との夏樹の許可を得たレイは、一瞬だけ目を閉じ、静かに息を吸い込む。その瞳に宿るのは、もはや一片の迷いもない冷徹さだった。
「じゃあ始めましょうか。鮫島大輔さん」
「!」
フルネームを口にされた瞬間、鮫島の眉がピクリと動く。そのわずかな動揺を、レイは見逃さなかった。
「鮫島大輔。1977年7月14日生まれ。出身地は埼玉県川口市。現在47歳。離婚歴あり、それと——————」
レイの口調は冷静そのものだが、どこか凍りつくような迫力を帯びている。
淀みなく、鮫島大輔の情報をスラスラと並べていく様に、鮫島の目は見開かれ、漸くこれまで見せていた余裕の表情は完全に崩れ去った。
「おい……何を勝手に他人の情報調べてやがる!!」
「何を異な事を言います?
鮫島の声に焦りの色が滲むに対して、レイはあくまで淡々としていた。
その後もレイは構わず続ける。
「1999年、大学卒業後に地方新聞社に入社。その後、週刊誌の記者として転職し、ここ10年はフリージャーナリストとして活動中。これまでは名前を出さずに記事を売り込む形が多かったようですが、最近は自らの名前で炎上商法に走ることが増えている、と。少なくとも転職後の10年間、のべ520件も積み上げてきた」
その詳細な情報に、あかねは息を呑み、静かにレイの横顔を見つめていた。
ものを調べ上げる事に関しては、あかねも負けてないつもりだったが、レイのそれも凄まじいものを感じられる。
ただ、あかねはレイの電話先に居る人物について心当たりがある、ほぼ間違いない、とも思っている。
そして、鮫島の表情や仕草から、それらが全て正解である事が如実に表れていた。
「……はっ、だからなんだ?」
鮫島は虚勢を張るように口元を歪ませた。
「俺がどうやって記事を書こうが、誰にも止められねぇだろ。それがこの業界のルールだ。それともなんだ? 法にでも訴えてみるか? いいぜ幾らでもよぉ。正面から相手してやるよ。……ま、何年かかって、幾ら金がかかるかも想像できねぇけどな?」
鮫島はそう言い捨てた。
これまでに幾らでもあった事だから、と強気な姿勢は崩さない。名誉棄損と裁判で言われ認められたとしても、売り上げ的な数字を鑑みたら賠償金額は端金も同然だからだ。
訴える側の方が遥かに負担が大きく、社会的な信頼の回復にも時間がかかる上に、望む結果になる保証もどこにもない。和解、示談で終わる事なんてザラにある。そこから面白おかしくネットで拡散されて、また良い記事を書ける温床になってくれる事だってある。
だからこそ、鮫島は自分達は最強を信じて疑わないのだ。加えて、各組織との繋がりもあり、それらが余計に拍車をかける事になる。
そんな鮫島の思惑をまるでどうでも良い、と言わんばかりに調子を崩さずに話を続けるのはレイ。
「そうですね、確かに記事の書き方については自由でしょう。―――ただ、それは
その言葉に、鮫島の顔色が一瞬変わる。だが、すぐに取り繕うように嘲笑を浮かべた。
「……何が言いたいんだ? 俺が何か犯罪でもしたってのか? ああ、めいよきそん~~か? だから言ってるだろ? 幾らでも相手になってやるって。……これだから解ってない世間知らずな御坊っちゃんはよぉ。やってない事の証明、悪魔の証明の難しさってもんをわかっちゃいねぇ」
「いえいえ、もちろん。全部解ってるつもりですよ? その上で言ってます。……貴方のそれは、犯罪というほどではないかもしれませんが……いや、違う。これから
レイはスマートフォンを操作しながら続けた。
「たとえば、これ。2015年に取材相手の自宅に無断侵入した件。2018年には、未成年のアイドルのスキャンダルを捏造したとして告訴されそうになったが、証拠不十分で逃げ切った件。そして最近では、タレントのプライベート写真を盗撮して販売していた疑惑。どれも、しっかり記録に残っていますよ」
「っ……」
鮫島の顔が引き攣る。何故その情報を持っているのか? ただの高校生、ガキがどうしてそれを知っているのか? だ。
だが、それらを思案する間もなく、レイの口から語られる、鮫島自身の【
「2014年 当時人気モデル アマ宮事務所所属のアヤカ・タカハシさん、本名 高橋 綾香さん。彼女の過去を暴露すると脅す。加えて写真等の要求、金銭をも事務所へ要求。警察の捜査も始まりましたが、所謂金に物を言わせて様々な証言を『創造』。加えて弱小故に資金力も乏しい事務所です。故に脅迫を繰り返し被害届は結局取り下げられることに。結果、彼女はその年に諸事情で引退を余儀なくされてます」
「2016年 若手俳優の宮本雄介さん。彼の私生活に関する虚偽の情報を流布し、彼が積み上げてきたイメージを完全に破壊しました。所謂ハニートラップを仕掛けた上での
「2018年 シンガーソングライターのユウカ。本名 中村優香さん。過去の出身校から知り合いを通じて接触。交友関係を暴き出し、それら、特に恋愛についての誤解を広めてスキャンダルを創り上げた。おかげで彼女は事務所を解雇され精神的なダメージを受けた末に引退。『一度失われた信用は二度と取り戻せない』 まさにその通りの結果になってしまいましたね」
その後も淀みなく、言葉に詰まる事なく続く。
2020年、2021年と、各年代で何人も何人も聞いた事のある引退していった人達の名前が読み上げられていく。
驚く事に、これらは全て暗記している様で、電話先である夏樹も誤り箇所があればフォローするつもりでは居たが、完全に完璧だったゆえに口を一切挟まなかった。
「さて、ここまで把握しています。勿論ただ
「…………」
鮫島は言葉を探すように口を開くが、次第に追い詰められていく表情が露わになっていく。読み上げられたその事件の全てが自分が関与している。当事者なのだ。間違いない事くらい自分自身がよく知っている。
そして何より————ただ、読み上げただけに留まらないだろう事も、理解した。させられてしまった。言葉が出ない。その代わりに嫌な汗が止まらない。
餓鬼の戯言だと切って捨てて良い筈なのに、何故だか言葉が全く出てこないのだ。
「お兄さん、補足があればお願いします」
『あ~~、ごほんっごほんっ、本日も晴天なり~~』
マイクのテストじゃないんですから、とレイは軽くツッコミを入れ……そして、夏樹の方から言葉が投げかける。
『鮫島。……
「ッ、ッッ!! お、おまえは………」
スピーカー越しでも、その声に聞き覚えがあった。最初は一切気にしてなかったが、今の精神状態故にか、嘗ての記憶が揺り動かされる切っ掛けになるものに全て反応してしまう様になってしまっている。
『情状酌量の余地は一切無ぇし、こちとら加減するつもりも毛頭無ぇ。先ずは高橋 綾香氏の件。お前のそれは脅迫罪に該当する』
次々に罪状が、犯してきた罪が読み上げられ積上げられていく。
詐欺罪、恐喝罪、強要罪、名誉棄損罪、不法侵入罪、証人隠滅罪、証拠隠滅罪、偽計業務妨害罪、組織的犯罪処罰法違反、継続的恐喝罪………
一個人の罪として、ここまで重なる事などあるものなのか? と思ってしまうが、これまで様々な傘の中で、闇に葬ってきた結果がコレだ、と言う事なのだろう。
『ああ、最後にウチの
———自分を無敵だと勘違いしてきた者の寿命は短い。