認めない子   作:アイらゔU

3 / 50
第2章 「芸能界」
第2話 瞳


 

 

あの日を境に、アイはレイに対してより構う様になった。

 

 

それは彼の遺言通りの行動。

アイは認めたくなかったけれど、レイは明らかにその日を境に変わったから。

 

だからこその行動だ。

 

アイは知っているから、願われたから、何より自分自身が支えたいと思っているから。

それこそが自分が出来る最初で最後の恩返しだと解っているからこそ、レイのぽっかりと開いた心の穴を、自分が自分こそが埋めるのだとアイは決意をしたのだ。

 

不器用だと自覚しているし空回りしてしまうかもしれないが、それでも愛情と言うモノを意識して、本当の子供の様に接そうとしている。

 

ミヤコや壱護が多少驚いたが、それに口出しをする事は無かった。

 

雰囲気が明らかに以前までと違っていたから、下手に口出し出来なくなった、と言うのが正しいかもしれない。無論フォローはする。絶対にする。仕事に支障が出ず、尚且つメンタル面をケアする為に。

 

 

 

―——私は彼の代わりに成れるなんて思ってない。でも、成れると信じている。成れると嘘を付く。いつの日にか、それが本当になる事を信じて。

 

 

 

 

 

そして無論、疎かにする理由もない。

子供たち全員分け隔てなくにだ。

 

あの時の願いでは皆が笑顔で、だ。言われるまでもない。

アイはルビーやアクアに対しても等しく同じだけの愛を向ける。時折3人をまとめて抱きしめるのはその表れなのだろう。

 

 

そしてそんなアイに呼応される様にアクアやルビーも行動でみせた。

同じ様に誰もがレイを支えるんだという気概で接したのだ。

 

 

そして、レイ自身もそれを確かに受け取っている。

 

 

受け取っているからこそ、このままでは居られないと思っている。

 

 

 

 

 

一月後ーーー

 

 

 

 

 

「レイお兄ちゃん、まーたYouTube見てるの?」

「ルビー? うん。……ちょっとでも思い出せたら、って思ってね。勿論それだけじゃないけど」

 

 

レイは暇があればタブレットを使ってYouTube視聴している。

目に悪いと叱られる事もあるけれど、それでも人目を盗んでYouTubeを視聴。まさに現代っ子ーーーと言うわけではなく当然理由はある。視る内容は以前まで、かつての自分が映されている動画である。

それを目に焼き付けているのだ。

 

 

「結構見てるけど………何か思い出せそう?」

「ん……。やっ、まったく。ぜんぜん」

「そうか」

 

 

大人たちが居ない時にはルビーとアクアが結構面倒を見てくれている。

 

アイは兎も角、一番驚いたのがアクアの態度だった。

何かにかこつけて以前よりも話をしてくる様になったし、何なら頭を撫でたり、抱きしめたりと言ったそんな事やってた? と疑問に思うレベルで面倒見をよく見てくれているのだ。

その辺、ルビーは驚いていて。

 

 

『ブラコンの爆誕だ!!』

 

 

なーんてとんでもない単語を発する幼女になってしまった。

因みにルビーもそんなアクアに嫉妬して……なんて事には一切ならず、事ある事にレイにくっついてきて寂しくない様にと構ってくれる。

つまり、兄妹揃って構い倒して来る、と言う事だ。本当に失ったモノを埋めてくれている様に。

アイもそんな兄妹を見て微笑んでいる。

 

 

―—アイドルとして仕事も育児も熟そう。何よりいつもいつも笑顔でいよう。

 

 

そう想いながら、今日も一日を頑張るのだった。

 

 

 

 

レイにとっては本気で人格設定・憑依させておいてある種良かったとも言えるかもしれない。

※因みにレイの記憶障害 病名的に言えば『逆行性健忘』と診断されていて、記憶は無いが一般的な生活は支障がない、との事。

 

 

それはそれとして、しっかりと自分自身に自己暗示をかけて、本気の本気で取り組んでいて正解だった。アクアがあまりにも乖離があるから戸惑ってしまって演じる事にボロが出てしまう可能性が高かったから。

 

でも、それはアクアの愛である事が痛い程解る。物凄く自分の事を考えてくれて、愛してくれているのが解るからこそ、このままじゃいられない、と思わせてくれる。

 

だからレイはただただYouTubeを視るのだ。

 

過去の自分の動画。ネットにアップされたモノを全て見て、少しでも再インプットが出来る様に。

 

 

「でもね、2人とも。……僕、思い出せないみたいなんだけど、こっちの方は思い出せたみたいなんだ! ……身体が覚えてた、って言うのが正しいのかもしれないね」

 

 

レイはアクアとルビーにそう言いながら、画面を指し示す。

そこに映されているのは最高峰とも名高い国際ピアノコンクールのピアノ演奏動画。

映されているのは特別枠として出演したレイの姿。

 

最年少記録、ギネス世界記録に登録された世界的な大ニュースとなったものだ。

 

 

「いや、いやいやいや……マジか」

「うん……。アレ、私最初見た時流石に引いたよ? どーんーだーけー!! って」

「……ええぇ。これ嬉しいニュースのつもりだったのに、2人はそんなにひいちゃうんだ……」

 

 

アクアもルビーもその一大ニュースについては当然知っている。

レイが苺プロに入る前に入る時にも紹介された事があったからだ。たった2、3歳の子供が世界で演奏して特別枠だったからこそ入賞の類は無かったが全世界がその業に驚愕。一大ムーブメントとして話題になったからだ。

 

そんな凄いレイが何で決して大手とは言えない苺プロへとやってきたのか、七不思議の1つとなっている。

 

 

「ごめんごめんってば、レイお兄ちゃん! でもひいちゃうくらい驚くのは許して欲しいよー。……だってふつーあんな指の動きなんか出来ない、って思うから。実は指6〜7本くらいあったりしないよね??」

「どこのお化けだよそれ。怖いよ」

 

 

ルビーは心の底からそう思ってる。

前世の記憶があって、前世出来ていた事をこの赤子の身体で出来るか? と問われれば……。

 

 

「……せめてオタ芸くらいじゃないとね?」

 

 

出来る事にも限度と言うモノがあるから。

 

 

「あははっ。見た見た! 2人ものすっごいキレで踊ってたよね? ばぶばぶばぶばぶ~~って。……今考えてみたら、あっちだって十分過ぎる事ない? 物凄い事になってたらしいし。当時の赤ちゃんコンテンツ」

「アレは本能で動いただけですから! 世界規模じゃなくて、日本のヲタク界隈規模程度だから! ねー、だよねお兄ちゃん!?」

 

 

ルビーはアクアの方を見る。

因みに、アクアは冷静キャラはフリをしてて、あの衝撃映像のオタ芸はほぼ同時にノリノリで打っていたんだ。

だから、ルビーに負けずと劣らない程のオタ魂を持っているの間違いない、と言える。

 

 

「流石にレイの国際シャパンコンクールと一緒にするのは無理があると思うぞ……」

 

 

最早歴とした黒歴史の1ページである赤ちゃんオタ芸。

それと今まさにYouTubeで回ってる動画内で見事な演奏を披露しているレイ。

どちらも確かに異常事態の一言になりそうだが………。

 

 

「うん。同系列には見えない。見たくない」

「うーん……本当にそうかなぁ? 僕はどっちもどっちだと思うんだけどなぁ」

 

 

最後の最後まで、レイはアクアの意見には同意する事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして暫くして―――過去一緒に共演した人達の動画も視る。

中でも特に多かった有馬かなについては、また出会った時に無視してしまったらあまりにも失礼だから、より重点的に確認をする。

 

 

「あ、この子確かアレでしょ? レイお兄ちゃんと一緒にいてめんどくさそうにしてた……………重曹を舐める天才子役?」

「っ……!! え? ええ??」

 

 

ルビーの不意打ち思わず笑いそうになったが、ファインプレイで笑いをこらえた。

ルビーはもう狙って言ってるんじゃないか? と思えるくらいに有馬の事を重曹呼ばわりしている。それがまた面白いのだ。

 

 

「この動画じゃ、10秒で泣ける天才子役って紹介されてるよ?」

「え? そうだっけ??」

「そうそう。……と言うか、お前それでこの間、レイに仲裁して貰ってただろ? まさかルビー。お前も記憶喪失になってるんじゃないだろうな?」

「ち、違うし! そ、そう! レイお兄ちゃんがもしかしたら思い出せるかも? って思ってあの時の事を再現しただけだし!!」

 

 

あの時の事、とはアイとアクアの初共演となるドラマでの出会い。

更に言えば、かなとレイもこの時初めてアクアやアイ、ルビーと出会った記念日でもある。

 

 

「あの時はルビーが泣いて泣いて大変だったよ……」

「え? そうなんだ。ルビーって気が強そうな感じがするから、泣くなんて想像できなかった……」

「わ、私だってか弱い女の子だもんっ! 泣く事だってあるし!!」

「まぁ、普通に泣く分には問題ないが、オギャりたいだのバブりたいだの、聞いてて筈かしい単語で喚いてたのはどうかと思うぞ」

「……わー、それは随分と独特な泣き方だね。………ほんと4歳?」

「レイにだけは言われたくありませーーーーーーーん!!」

 

 

前世があります! なんて中々言えない。言えるものじゃない。墓場にまで持っていく秘密。こればかりはアクアとルビーの2人だけの秘密。レイに明かす事で何か良い事、メリットがあるなら打ち明ける事に抵抗はないが、余計な混乱を生むだけだと思っているので、今のところ明かすつもりは無い。

 

 

「そこでな。有馬かなに会ったんだよ。最初はメチャクチャ生意気なガキ、って感じだった」

「へー。……ガキって、確か有馬かなさんの方が年齢的には1個年上じゃなかった??」

 

 

レイは頭に?をいくつも浮かべて唸る。

因みに、レイとかなの2人は同級生だと最初は思われていたが、学年は1つ上の年上。

親の対抗心故に、同級生の様な扱いをされてたので色々と勘違いをしていたのだ。

まだ哺乳瓶も離せない歳の子だと言うのに、何と言う事を……と今なら思うかもしれないが、生憎 徹底的に憑依させて自己暗示もさせてるので、過去の事は何にも思わない。

レイは今ある情報だけで全てを演じてみせているのだ。

 

因みにレイの誕生日は4/1のエイプリルフール。

まさにおあつらえ向き、である。

 

 

「良いか? レイ。……歳の差なんて些末な問題だ」

「……ふーん?」

 

 

さささ、っと手早く検索『些末』。

時折アクアは難しい単語を平然と使いこなして来るので正直困ってしまうが、色々と調べるのを習慣化させる事に成功しているので問題なし。ピアノの演奏技術があるからか、端末操作の速度もかなり高い、と言うのもプラスに働いている。

 

因みにもう大分難しい単語、熟語等を覚えている様に出来るのはアクアのおかげなのである。

 

 

「アイ……母さんの事をへったくそな演技って言ったり、ADの人を顎で使ったり……」

「だよねだよね。……ガキじゃなかったら殺してる所、だよね」

「やめやめ、怖い怖い怖い!!!」

 

 

アクアやルビーの目の中の星が黒く光る様な気がしてならないレイは思わず両手を振って、その暗黒オーラを鎮めさせた。

ある程度満足? したのか、自分自身を振り返ってダメだと思ったのか。アクアは咳払いを1つして更に続けた。

 

 

「その時だったよ。レイがアイツに言ったんだ。そんな言い方しちゃ駄目だって。皆一緒に良いモノを作ろうとしてる仲間なんだ、って。……あの高飛車な有馬でも、レイの言う事はそれなりに聞いててさ? ……ま、レイがADの人に頭下げて謝ってる姿を見て有馬も今のはいけない、って思い始めたんだろうな」

「そうなんだ。……ふんふん。ひょっとしてアレかな? 昔から【子役は大成しない】ってジンクスがあるから、その時がもしも来たら……ってリスクヘッジを仕掛けてたのかな?」

 

 

アクアの説明を聞きながら、レイは過去の自分の考えを自分なりに考えて、アレンジを加えつつ考察をしていっている。

確かに、アクアの目から見ても、有馬の庇い方はそれが一番しっくりくる。クラシック音楽を極めている子供は、頭の中が自分達classに大人な気がしてならなかった、と言うのが当時の心境だ。

 

 

「……確かに、あの時の有馬の演技は相当なモノだったし、演技に対する情熱、熱意は誰にも負けてなかった。貪欲だった。……でも、それだけで生き残り続けれる程、芸能界は甘くないから、か」

「うん。そう分析……そう考えて、前の僕は彼女にアドバイスしたんだ、って考えたら、色々納得できる面があって。後、有馬さんは――――」

 

 

中々高度なやり取りをし始めて、最初に重曹を舐める~から発言出来てないルビーはただただ置いてけぼりになった。

 

 

「レイお兄ちゃん、記憶ないのに、このスペック……。ヤバくない? 前世有と同等とか………」

 

 

誰に聞く訳でもなく、ルビーはそうぼやくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんとビックリよ。あの子は……」

「そうでしょそうでしょ? そりゃぁ、私の教えが凄いのと遺伝、ってヤツが相乗的に~~だよ☆ うん。ビックリするくらい天才だね♪ この事務所ヤバい事になるよ将来!」

「いや、遺伝とか関係ないから。アンタの遺伝継いでんのはアクアとルビーの2人でしょ。……まぁ、あの2人も大概だけど」

 

 

ミヤコはパソコン入力しながらスケジュール管理をしながら……、あの子供たちの事を考えてはため息が出る。

悪い方向ではないとはいえ、驚きの連続で心労がたたってる、と言うのもホントだ。

 

 

 

「まぁ、先行き安泰所の話じゃないわ。……アイ。あなたに言っておく事があるけど、レイがデビューする事になったわ」

「え!!?」

 

 

ミヤコの言葉に驚愕させられ、思わず身を乗り出していく。

 

 

「嘘! それ嘘じゃないよね!? 絶対嘘じゃないよねっ!!? まさか、私と共演したりする!? 親子共演!? 夢、叶っちゃう!!?」

「落ち着きなさい。デビューはデビューでも『ネットタレント』としてね。平たく言えばYouTuber。……一応、壱護とも話して決めた事よ」

「ああ、そっちの方か~~……ん?? 尚更コラボし易いじゃん! 苺プロ所属なんだし!!」

「軌道に乗ったら、ね。……ただ、やっぱり末恐ろしいわ、あの子」

 

 

カタカタカタ………、とある程度データ入力を終えた後、最後のタイピングで、たんっ! と指を弾くと、操作を一時止めてアイの方を向く。

 

 

「つい最近。つい一月前にあの子は記憶欠乏を診断された。なのにも関わらず、恐ろしい速さで自身の技能を取り戻しつつある。天から与えられた才能。【小さなピアノの魔術師】の異名通りの技能を、よ」

「………ほぇ。そうだったね。レイってすっごくピアノ上手かったんだ。忘れてた」

「忘れんなよ。そこんとこメッチャ重要だぜ」

 

 

そうこうしている内に、壱護がやってきてため息を吐いた。

吐くと同時に、その眼は野心で満ちている。

 

 

「レイの技能は世界の頂点レベルだ。……あの時のままの技能なら、って前提の話だが。それを上手く活用すりゃ幅が倍増しで広がる。……アイ。お前自身を喰っちまう程デカくなるかもしれねぇぞ」

 

 

そんなスターをもう1人抱える。

この苺プロの未来は輝かしいモノになる、と確信している。確信しているからこその興奮だ。

 

 

「えー。喰っちゃう~だなんて、そんなアダルティな単語使っちゃだめだよ社長さん? レイはまだまだ小さな子供だし、それに私だってそんなに餓えてないし。流石に一桁な子供相手は……ねぇ?」

「何の話だなんの!」

「あ、でもでも。私がアクアやルビーを生んだのが16の時だから……、その時レイにアタックしてみても良いかも? 遠い未来の話だけど夢膨らむよね~~」

「「止めて!」くれ!」

 

 

近親相姦なんて世のタブーを破るな、とミヤコ&壱護の同時ツッコみが入る。

厳密に言えば、レイは子供じゃないし、ミヤコと壱護の養子。なので、近親相姦とはならないかもしれないが……それでもダメなモノはダメ。絶対。特大スキャンダルを何個も抱えてたら精神が持たないと言うものだから。

 

 

 

「でも、問題がない訳じゃないわ。と言うか、ここからが重要点」

「へ?」

 

 

ミヤコが真剣な顔つきになる。

 

 

「アイ。お前だって想像出来てるんじゃないか? レイがまた脚光を浴びて、メディアに露出して、……そのレイの名の通りRAY()を放ったらどうなるか。……過去(・・)がまたアイツを苦しめる可能性があるって」

「……………」

 

 

過去……つまり、レイの過去。記憶の事じゃなく、何をさしているのか? 考えるまでもない。レイの本当の母親の件だ。考えなかった訳じゃない。

 

 

「法的にも私達とレイは親子関係。その辺りは一切問題ないわ。……ただ、精神を病んで何もかも放棄して突然消える様な人が、またレイが輝きを持ち直して、それを知ったとしたら? ………何をされるか解ったものじゃないわ」

 

 

ミヤコの表情が鋭くなる。

あの幼子を捨てた母親に対する嫌悪感……だけじゃない。

 

精神が病んだ人間は本当の意味で無敵の存在となる。何をしても、何をやらかそうとしてもブレーキが完全に壊れてしまっている。

 

だから、あんな凶行に走れるんだ。……それをアイが知らない訳がない。

アイ自身も、似たような存在にその命を奪われかけたのだから。

レイが記憶喪失となる切っ掛けになったのも、あの凶行のせいなのだから。

 

 

「だから、ネットタレントとして露出はさせていくけど、芸名をしっかりつけて、色々と隠しながら様子をみながら徐々に、って感じでやっていくわ。……今回は絶対にぬかりなくやる。その辺は信用してくれて良い」

「………でも、それならレイがもうちょっと大人になった後でも」

「いや、それはオレも思ったが、あいつの熱意に根負けしたから無理だ」

「え??」

 

 

熱意とは一体?

アイは首を傾げた……が、直ぐにその意味を知る事になる。

 

 

「今回のネットタレント、YouTuberの件。レイからの提案だ。少しでも早く役に立ちたいっつってな。そんな急がなくても良いって言ったんだけど。……アイツの目、頑として曲げない目ぇしてた。……まさにお前さんの目にそっくりだ。断り切れなかったんだよ」

 

 

壱護はそう言って頭を掻いた。

曲がりなりにも養子。自分の子だ。危険な目に遭わせたくないなんて当然な話。……でも、それでも尚折れない信念をそこに見た気がした。

考えられるだろうか? あの歳で、あれだけの事件があって、記憶障害と言うハンデを背負って尚、あんな目をする。……正直、最初に思った通り人外なナニカ。バケモノだと思った。

 

でも、それ以上に支えてやりたい。全身全霊をもって支えてやりたい、と思ったんだ。

そして、ミヤコが言う通り……次は無い。十全を喫して安全面には何よりも配慮する。

最高級のセキュリティ設備が整った場所で行う。そもそも最初は顔出しさせない。年齢も誤魔化す。画像加工して歳も大きく見せる。

少しでもレイに繋がりそうな場面を削って削って……万が一でも毒親の侵攻を阻止する。

 

 

「はぁぁ……一応親になったっつーのに。その親が死んでたら良いのに、って思っちまう事になるとは思わなかったよ。最低だよ全く」

「ええ。気持ちは分かる。……解るけど優先順位の問題。手を出すなら、出そうとするなら容赦はしないわ」

「おお。それは勿論だ」

 

 

 

何よりも頼りになる親がこんなに居て……アイは自分の事の様に喜びを見せる。

出来る事なら、約束通り……自分の手で守ってあげたい。と思いたかったが、皆で守るのが正解。間違いなく正解だから。

 

 

「レイ……」

 

 

アイはレイの方を見る。

楽しそうにアクアやルビーと話をしている彼を見る。

 

そして、心に決める。

 

 

―——これからも絶対に、絶対に守ってみせるからね。……皆で。

 

 

 

輝かしい未来の為に。

アイはそう誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな大きな光に向けて前へと進んでいる最中。

 

1人だけ闇に視線を送る者が居た。

 

 

 

 

 

『レイの記憶を……もう1人のレイ(・・・・・・・)を奪った男に情報提供したヤツがいる』

 

 

様々な可能性をかんがえて、組み立てて……そして何よりあの晩 真実を聞いて……確信が出来つつあった。

 

 

『恐らく、あのストーカー男と俺を殺したヤツ(・・・・・・・)は同一人物。……アイの入院先を突き止められたか。何故、引越ししたばかりの新居に来れたか。……22歳のガキ。何のスキルもないただの学生。そんな探偵みたいな真似が出来る訳がない』

 

 

今回はレイが犠牲になってしまった事でアイは助かった。

だからといって、それで良しとする事なんて出来る訳が無い。

その犠牲もあまりにも大きすぎる。

今、目の前にいるのは間違いなくレイ。……でも、あの時のレイはもう何処にも居ないんだ。付き合いもそれなりに長くなり、もう単なる知り合い、他人じゃなくなっている。

 

それにアイと言う存在を失ってしまったら自分がどうなってしまうのか。……それも、あの時全部レイが教えてくれた。

人生の大半を復讐に費やすと。

 

 

そう、自己分析しても間違いないと断言できる。

 

 

必ず見つけ出して俺の手で殺してやる。そう決意をする筈だ。

 

 

アイが死に、ーーー闇に落ちる。

そして紡がれる温かなホームドラマから一転したダークでサスペンスなドラマ。

 

 

フィクションであるなら、それも物語の1つとして面白いのかもしれない。………が、生憎これはフィクションではなくノンフィクション。現実だ。

 

だからこそ―――それをさせない為に、その未来を変えたくてレイが命を賭けて戦い、アイを救い、未来を変えてくれた。

 

 

レイの意志を尊重するのであれば、このまま皆で幸せに暮らすのが正解だと思う。消える最後の瞬間まで、レイはそれを願っていた。本当に、それだけを願っていたんだから。

 

 

だけど、落とし穴がある。

一度アイを狙い、失敗したと言う事実だ。

 

何故、アイを殺そうとしたのか、その理由は解らない。でも、失敗してそれで諦める様な男だろうか?

 

 

答えは否だ。会ったことの無い存在だが、言い切れてしまう。

 

 

再犯の可能性は極めて高い。けしかけて来る可能性が極めて高い。アイの人気を鑑みれば、あのファンと言う名を騙る狂人が他に居ても不思議じゃない。

 

だから、また狙ってくる可能性が高いんだ。

 

今後、事務所はセキュリティ面を強化する。超強化すると息巻いているから正面突破は絶対にもう無理だと思うが……守ってばかりじゃ駄目なんだ。自衛するだけじゃ駄目なんだ。攻める必要は必ず出てくる。

 

誰に止められたとしても………誰か1人くらいは、攻めの姿勢が必須になってくる。

 

あらゆる言い訳を、大義名分を自分の中に渡して立ち上がる。

申し訳ない気持ちを黒く塗りつぶす。

 

 

 

 

 

「……俺の父親。必ず見つけ出す」

 

 

 

 

 

そして、元凶たる存在を口に出す。

 

密に、たった一人で黒い炎を燃やす。

その男はアクア。

 

アクアは、あの日———アイに全てを打ち明け、暗示で消滅させたあの場面に密に立ち会っていたのだ。大好きで愛していたからこそ、助けたかったと言う告白をハッキリと聞いた。

そんな無茶な話があるものか、と普通ならば疑う様な話だが、アクアが疑うなんてあり得ない。

アクア自身の存在がそもそも超常的なモノなのだから。

転生を果たして、別の人間になる事が出来たのであれば、未来からの戻ってきた者が居たって不思議じゃない。

 

 

正直、これは誤算だったと言わざるを得ないだろう。

アイが生き、皆が無事で、まさにハッピーエンドに相応しいストーリーとなった筈なのに、小さな嘘……いや、アクアにとっては大きな嘘が、黒い星を瞳に宿す切っ掛けになってしまった。

 

 

その瞳の星がどうなるのか。

 

 

再び眩く輝きを取り戻す事になるのか。

或いは闇よりも深い黒に染まるのか。

 

 

 

――その結末は、誰も知らない。

 

 

――もう、誰にも解らない。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。