認めない子   作:アイらゔU

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第34話 自分にとっての一番

 

 

「もうまったく! 何時だと思ってるのよ!」

「あんな事件があって、今ガチの収録ってこんなに夜遅くさせてるの? その辺りはしっかりと抗議してるつもりだったんだけど、どうなってるのかしらね」

 

早速、母親その1・アイの口撃が炸裂する。

アイ程では無いにしろ、やはりアイ襲撃事件を連想させるくらいには当事者な為、ミヤコも気が気じゃないのは見て取れる。

取り合えず、ミヤコはちゃんと帰ってきたのでまずは手洗いうがい&手指消毒液を促した。

 

「ちゃんと手洗いうがいからね。もう夕食も用意してるから。しっかりと食べて、明日に備えなさい」

 

母ズの2人を乗り越えた所には、勿論ルビーも控えてる。

仁王立ち、と言うスタイル。腰に手を当てて怖い顔していた。

 

 

 

 

なんやかんやあって、ようやく夕食にこぎつける事ができた。

いつも通り、賑やかな夕食時だ。

 

 

「もうちょっと自重してよお兄ちゃん達!! 皆皆少し遅れただけでめちゃくちゃ心配してて、事務所はほんっと大変だったんだからねー!!」

「そう言うルビーが一番心配してたけどね」

「もう! 先輩もそーゆーこと言わない!!」

 

 

有馬かなは、やれやれ~~と何処か余裕そうな顔をしているんだけど……、別にそうでもない事くらいレイは解ってる。無論、アクアだって解っているが、一番わかっているのはレイだろう。

 

今でこそ、いつもの調子を取り戻しているが、あの事件でレイが刺されていたかもしれなかった事とアクアがそれを庇ったと言う事実を聞いてかなり取り乱していたのだから。

 

 

『あ、アンタは私の弟みたいなものでしょーが!! 心配するのが当然ってものよ!!』

 

 

と、力説していたのを忘れてはいない。

どちらかと言えば、有馬かなをしっかりと御していたのがあの時のレイ(・・・・・・)だったと記憶していたアクアは、渋い顔をしたのは言うまでもない事だ。

 

それに、まだ帰らずに事務所に残っている所を見るに、口では何だかんだ言いつつ、まだまだ心配をしているのは聞くまでも無い事だろう。

 

 

「それで、どーなのよ? 今ガチの方」

 

 

今更だが、ちゃっかり晩御飯を一緒に食べて帰る~と言うのも日常になりつつある有馬かな。

コロッケを頬張りながら、アクアたちの方を見た。

 

 

「どうってなに?」

「ほら、その――――そろそろ最終回(フィナーレ)なんでしょ? 終わっちゃうじゃない」

 

 

何処となく上の空な感じがするかなを見て、レイはピンとくる。

当然ながら、今ガチのラストシーンは告白とそれが成就したらカップル同士のキスシーン……と言うのが王道となり、かなりの人気を博すようになってきている。

毎回カップリング&キス、と言う訳ではないのだが、それほどまでに人気だったのが、あの流れだったからか、今ガチ♡を検索してみると そういうシーン画像が山の様に出てくる仕様になっているのだ。

 

つまり、有馬かなとしては それとなく探りを入れたくなるのは当然の成り行きと言う訳で――――。

 

 

「先輩、随分熱心に観てくれてるんだね、やっぱり。恥ずかしいけど、何だか嬉しいな」

「えー、でもそうでもないんだよ? 聞いてよレイお兄ちゃん、先輩ってば途中から今ガチはもう見ないつまんな~~~い! とか言ってたんだから」

「え? そうなの??」

「うん、ほんと」

 

 

レイはルビーの話を聞いて首を傾げる。

確かにそう言う事もあるだろうけれど、今の現状でかながへそを曲げるなんて事があるのだろうか? と。

 

 

「えっとね。途中から『私はもう観ない。そもそもああいうの、趣味じゃないし〜』とか言ってて」

「そこ! やかましいわよ!!」

 

 

ルビーの言葉を遮る様にかなは声を上げた。

どうやら本当の事な様だ。

 

そこからルビーの話を色々と漸くすると。

 

 

『ふーん。レイと誰かさん、なんかいい感じ? ふぅーん?』

 

 

先ず目を付けたのが、レイ×あかねのやり取りだった。

商売敵と言うか、宿命のライバルと言うか……兎に角目の上のタンコブ意識をしている有馬かなにとって、記憶喪失とは言っても、言っていた通り姉! を自称していた様に、弟であるレイとあかねがくっつくのは胸中複雑なのである。

 

アクアに焦点が合ってなくても、かなにとっては十分へそを曲げるレベル~~だったのかもしれないが、そこにアクアが時折絡みに行くシーンも見せられて、それがトドメになった。

 

アクアがあかねに絡むのは、レイによるキラーパスや、元々あかねのあのアイと錯覚するレベルの演技をするあかねには興味があり、レイと同じ事務所である事は今ガチ内でも公言している事なので、そのネタで嬉しそうに楽しそうに話をしていたのが、あまりにも芯を食っていたのである。

 

 

『横恋慕? 寝取る気なの? NTR※する気なの? アクアが黒川あかねを?』

 

 

みたいに拗らせていった。

※ルビーがNTRって? 何?? みたいに聞いてきて興味を持ちかけてしまったので、その辺りはしっかりと調節しなおした、と言うのが別の話。知らなくて良い事はこの世の中には沢山あるのです。脳破壊駄目!と。

 

 

『――ていうかさぁ、そもそもな話、他人の恋愛を安全圏から眺めるなんてさ、悪趣味じゃない? 誰と誰の相性がいいとか、掛け合わせがどうのこうのとか。……は? なんなの馬主なの? 菊花賞狙える馬でも産ませたいの? って感じよねーー。あーもうやだやだ! アクアの顔もレイの顔も観たくない。ばいばいさよなら~~~』

 

 

色々こじらせた結果、最終的にこうなったとのこと。

レイにとて遠い遠い昔……何処かで聴いた事あるような、魂に刻まれてそうな印象ある台詞をバンバン残していったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

「くふ……ふふふふっ」

「ね? ね? 先輩ってば面白いでしょ??」

「うんうん、だね。これぞ有馬先輩、って感じで面白いよ。僕もそこに居たら絶対笑ってたかな」

 

 

口元を抑えて、美味しい美味しい晩御飯が口から出ない様にどうにかお行儀よくさせながら、レイは笑う。ルビーも笑う。そして、かなはその話を聞いて憤慨する。

 

 

「ちょっと! だからやかましいっての! 何言ってるのよルビー!!」

「えー、だって本当の事だしー。嘘言ってないもんっ」

 

 

ルビーはケロリとした顔で、焼き鮭を一口ぱくり。反論する気などまるでなく、むしろ得意気にふわふわと肩を揺らしている。何だかんだとルビーはかなに対して辛口だったり遊んだりする事が多いので(有名なのが『重曹を舐める天才子役』などである)、最早見慣れた光景と言って良いだろう。

 

そして暴露されてしまった かなは頭を押さえて俯いたかと思えば、バッと勢いよく立ち上がった。椅子がきぃっと軋んだ音が、食卓にちょっとした緊張を走らせる。

 

 

「そ、それよりもっ!」

 

急に声のボリュームを落として、かなはレイの方を振り向いた。強引に話題を変える気配は誰の目にも明らかだった。

 

 

「アンタよ、レイ! 今ガチの中心と言えばアンタ! いい加減ふらふらしすぎじゃない!? 女二人をいつまでも侍らせて、どういうつもりなのよ!?」

「えええ!!」

 

 

いきなりの強引な話題逸らしにレイは驚いたように瞬きをして声を上げる。

それから、箸を止めたまま言葉を選ぶように、ゆっくりと視線を泳がせた。

 

 

「いや、侍らせてるって~なんて……。僕はそういうつもりはまったくないし、そんな演出もしてないと思うんだけど……」

「……むしろ、最近じゃ捕食される側みたいになってるしな。レイは」

「酷い誤解を生むような表現は避けてよアクア!」

 

 

今ガチ♡も佳境を迎えている。

我こそは! と手を上げるあかねやフリルからの熱烈なそれは、十分過ぎる程の肉食女子だ。そして、レイはどう見ても草食系。

 

 

「まぁ……、あの2人の前でどれだけ童◎が粋がったとしても、一瞬で喰われておしまい……って感じはするわね? 御愁傷様。でも、ちゃんと色々しなさいよ?」

「ぶっっ!! み、ミヤコ母さんも何言ってるのさ!! しなさい、ってなに!??」

 

 

曲がりなりにも自分の息子に対して使う言葉じゃないでしょ! と思わず吹いてしまうレイ。その慌てた様子を見て、かなは話題逸らし完了! としてやったり&小さくガッツポーズ……だが、レイの行末が気になるのは事実。

 

 

「うーーーん。実はそれは、かなちゃんと同じくらいには、私もちょっと気になってたんだよねー」

 

 

そんな時、箸を止めて声を上げたのはアイである。

いつも暴走しがちな天真爛漫を絵にかいたような人で、いつもいつもどこか浮世離れしたような笑顔を持ち合わせている。

でも―――今のアイには ほんのわずかに、違和感がある様な気がしてならない。

 

 

「レイってば、最終的にはどうしちゃうのかなぁ? まさかの、ハーレムエンド~~♡ とか? 狙っちゃってたりするのかなぁ? ………レイにとっての一番って誰なのかな???」

 

 

明るく、軽やかな声音だった。

けれど、その“軽やかさ”が逆に重たかった。

テーブルに座る誰もが、数秒だけ黙った。

まるで、「何を答えたら正解か」を探す時間のように。

ミヤコの時の様にレイは笑えなかった。

冷や汗ひとすじ。箸を持つ手の力が、自然と抜けていく。

 

 

「え、えっと……その……」

「レ~~~イ~~~??」

 

 

 

ニコニコニコニコニコニコ―――――

 

 

 

 

顔は物凄く笑顔なんだけれど、その目の奥は笑ってない様な気がしてならない。

眼の中の星のように輝いてるそれが……まるで黒くなったようなそんな気がしてならない。

 

レイ的には、物語の最終章、ラストシーンについてはちゃんと考えてあるし、番組側にも通達している。リアルが売りなんだけど、そこは相談させて貰っていて、ある程度のすり合わせもしている。

 

で、共演者であるあかねやフリルにはそれは伝えていない。

 

裏で色々しててリアルも無いかもだが、視聴者側にはリアルさを出さなければならない。その為にも、本人たちには言わないのがベストだと判断したからだ。レイもそれに対しては同感で、番組側以外には誰にも言っていない。

 

 

番組のネタバレ~~になるから、言わない方が良いだろう。と言うのが普通の考えだと思うんだけど――――。

 

 

アイのプレッシャーからはレイは逃れる事は出来ず、正直に行末(ネタバレ)を話してしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝の通学路は、ざわついていた。

季節の変わり目で肌寒い空気に包まれながらも、学生たちの足取りは軽い。すれ違う女子たちは、制服の裾を翻しながら、今日も「今ガチ♡」の話題で盛り上がっている。

 

 

「え、でもやっぱさー、あの回、第3話のフリルの涙やばくなかった? 私も泣きそうになったもん!」

「わかるわかる! あ、でもあかねだってよくない? あの目線ひとつで空気変わるの伝わってきてマジすげっ、って感じだったし!」

「てかさ、ひかりってどっち選ぶのかな~? あの2人のどっちを選ぶのかな???」

 

 

話題の渦中の3人の話が耳に入ってくる。

皆には申し訳ないが、結末については既にかなは『知っている』

ある程度納得出来たし、自身の中でも消化出来たとも思ってる。そもそも、レイの行く道に対してとやかく言える立場か? と言われればそうではないだろう。……でも、あの時のように、子供の時の様な事だけはもう二度と嫌なので、その辺りだけはこれからも十分過ぎるくらいには絡んでいきたい、とは思っているが。

 

 

「いやいや~、わかってないなぁ! 埋もれてるって思ってる? 私の中じゃ推しはアクアくんなんだけど! ひかりくんとアクアくんの絡みだって良いでしょ? 何なら一番いいでしょ、恋愛~だけど、男子のやり取りだってまさに光ってたじゃん!」

 

──有馬かなは、一瞬ぎょっ、と耳を澄ませてしまった。

 

 

アクレイ??

※アクひか

 

 

世の腐なる女子達がこぞって歓喜の雄叫びを上げてその熱気は温暖化を促進させてしまうんじゃ? と思うくらいの破壊力がある、と勝手ながらかなは思ってしまったが……。直ぐに逆に耳をふさぎたい気分にもなってしまう事になる。

 

 

「私は、MEMちょとアクア君が気になる!! やり取りしてて、癒される~~って思ったシーン、幾つもあるし!」

「あーーー! わかるわかる!! でも、最初の方はゆきちゃんと良い感じだった気配もあったよー? だから、ノブやケンゴを押しのけて、アクアがゆきちゃんと~~って妄想してる!!」

「アクネム、アクゆき……。うーーん、そっちも気になる~~~!!」

「あ、でもゆきちゃんがアクアとくっつくのは、流石にノブたちが可哀想って思っちゃわない??」

 

 

──話題がアクア関係に移行したからだ。

 

別に、自分が出てこないからじゃない。いや、多少はある。けれど、それよりもずっと胸を締めつけてくるのは、どの声も、どの評価も、正しくて、鋭くて、否定しようがないからだった。

MEMちょにしろ、ゆきにしろ、客観的に見ても魅力あふれるキャストだ。まさにリアリティーショーで映える存在だといえる。

あかねやフリル、そしてレイに隠れがちになっていたのかもしれないが、実際に話題に出るくらいには活躍している。

そう、今シーズンの今ガチは、まさしく豊作だと言って良いシーズンなのだ。全員に個性があり、全員のレベルが高い。番組を通して上がっていっている様にも見えて、まさに集大成を魅せてくる。

 

 

だからこそ、その結末(・・・・)は十分過ぎる程にあり得るから……と、かなの中では、ざぁ、っと波が掛かる様に雑音が広がってきたのだ。

 

――アクアと、誰かがキスする?

――昨日、レイの事ばっかでアクアの事聞いておけばよかった。

―――仮にそうだとしても、それは、番組の中での話だと分かってる。

 

 

でも、どうしても喉の奥がきゅう、と痛くなった。

 

 

「……何考えてんのよ、私」

 

 

吐き捨てるように呟いて、有馬かなは一度立ち止まり、深く息を吸った。

冷たい朝の空気が鼻を抜け、頭が少しだけ冴える。

でも、どうしてもそういうシーン(・・・・・・・)を一度でも考えてしまったら、想像してしまったら、どうしても頭から離れてくれない。

胸が痛くて、苦しくなってきて―――離れてくれないのだ。

 

 

そして―――そんな気持ちから、かなを、有馬かなを救える人がいるとするなら1人しかいない。

 

 

「有馬」

 

 

心のもやもやを晴らしてくれるのは、1人しかいない。

 

 

「有馬かな」

 

 

そう―――アクアだけだ。

或いは吐露する事だけなら、レイに対しても出来るのかもしれない。恥ずかしさが勝って素直に言えない様な気もするが、昔の記憶があるからか、今のレイと昔のレイは違うと言うのに、正しい道を示してくれそうで、話をする事が出来るのかもしれない。

 

でも、やっぱり一番は……。

 

 

「なぁ……。今から学校サボって遊ばね?」

 

 

有馬かなにとっての一番は。

 

 

「――いく!」

 

 

星野アクア以外いないのだから。

 

 

 

 

 

 

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