認めない子   作:アイらゔU

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原作通りです。
このシーンは外せませんでした………


第35話 キャッチボール

 

朝の太陽の陽射しが都会の歩道をじんわりと照らしている。

アスファルトに伸びる2人分の影が、少しずつ長くなっていく。影が交わる度に、その足取りは軽やかになる。

 

かなは、ふくれっ面をしつつも何処か楽しそうに声を上げていた。

 

 

「はぁ~~! マジありえなくない!」

 

 

声は高く大きく、それでいて少しの力強さが籠っている。

そして、その表情はどこまでも晴れやかだ。口から出る言葉とその表情が全く一致していないのはその様子を見れば一目瞭然だろう。何より、かなの瞳の中は輝きに満ちていると言える。

 

 

「学校サボって遊びに行くとか、マジで不良じゃん! マジ非常識~~!」

 

 

スキップをする勢いでかなは、アクアの前へ。並んで歩いていたが、あまりの高揚に自然と歩幅や速度が上がった様だった。

笑みを決して隠す事は無く、更に表情と言動の一致しない言葉が口から出てくる。

 

 

「ありえない! マジさいあく~! マジさいあくーー!」

 

 

かなの様子を見れば、本心からではないのはよく解ると言うモノだが、こうも何度も最悪最悪言われると、アクアも多少なりとも気を遣う。誘ったのはアクア自身なのだから。

 

 

「そんなに言うなら、やっぱ止めとく?」

 

 

アクアのその言葉に対して、笑顔だったかなは、直ぐに笑顔を止める。その辺りの切り替えの早さは流石の一言だろう。即座に振り向くと手を振って首もふり、少しだけ表情を引き締め直してアクアのに伝える。

 

 

「そうは言ってない。なんだかあんたが思いつめた顔してるからね。ちゃんと見ててあげなきゃ、って言う先輩心?」

 

 

これは心からの本心だったりもする。

アクアがここ最近、例の事件の絡みもあってか、考え込む事が多いのはかなにも解っていた。でも、触れて良いものなのか否か、それが流石に解らなかったから、流石にそこまで追求する事が出来なかったのだ。

如何に有馬かなと言えども、あそこまで大きな事件に巻き込まれた直ぐ後に、無神経にも話題に触れる様な事はしないのである。アクア自身が話しかけてきたのなら話は別、と言う訳だ。

 

 

「流石は私。心が天使よねーー」

 

 

自画自賛をしつつ、誇らしく胸を張る。

アクアはそんなかなの様子を見て軽くため息を吐いた。

 

 

「で、どこ行く?? ディズニー?? 東京タワー??」

 

 

口から出てくるのは男女のデートの定番の地名。……でも、かなの様子は、デート云々よりも、まるで遠足前の子供のように目を輝かせている様だ。

アクアは呆れる様に口元を緩めた。

 

 

「自分で誘っといてなんだが、学校サボってそんな張りきったアソビ提案する度胸がヤベェな」

 

 

学校サボる、と言う事はつまり悪い事をしているという事。大なり小なり罪悪感と言うモノが芽生えたとしても不思議じゃない行動。でも、かなはそんなものは欠片も思ってない様だった。

でも、かなにも当然ながら言い分はある。

 

 

「だって! 制服でサボったら、周りの視線が気になるでしょ! 着替えに帰るのも時間のロスだし! そもそも私は1人暮らしだけど、アクアは違うでしょ! 帰ったら家の人にバレるかもだし! ほらほら、あの辺は制服の人多いし丁度良いかなー、って思っただけで………!!」

 

 

別に浮かれてる訳じゃない。

嬉しくて嬉しくてたまらない訳じゃない! と大慌てで言うかなだったが、身体の全体で喜びを表している様にしか見えないので、殆ど逆効果である。

その辺りを何も言わないのは、誘った側であるアクアの優しさからだろうか。

 

 

「まぁ、良いや。ちょっと寄りたい所があるから」

「うんうん、何処でもついてってあげますよー! 私は天使のように優しい先輩だからね!」

 

 

うきうきルンルン、とアクアの後をついていくかな。

 

そして、寄りたい所? を見て笑顔だったその表情に陰りが見えだし、更に寄りたい場所を超えて、アクアがデート? にエスコートしてくれた最終地点に到達して、有馬かなの表情は完全に能面になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………やっぱ、あんた変わってる」

「そうか?」

「そうよ!」

 

 

連れてこられた、エスコートされた場所は都会にある公園。

寄り道した所はスポーツショップ。そこでボールとグローブを購入して、公園でかなに渡した。

 

この場所は子供たちがどんなボール遊びをしても大丈夫なように高いネットに囲まれている運動スペース。キャッチボールをしても変な所へ飛んでいくリスクはほぼ無いだろう。そして今は平日故に利用者は誰もいないので、人に当てる、ぶつける危険性も無しだ。デート場所としては落第点だが。

 

 

「うら若き男女が学校と言う牢獄から逃げ出して何をするかと思えば、公園で呑気にキャッチボールだもん! それにわざわざグローブとボールまで買ってさ。変なの!」

 

 

デートの誘いと(アクアの口からデートとは言っていないが)舞い上がっていた数分前の自分を殴りたい気分になってしまうかな。でも、ちゃんとそのグローブを身に着け、ボールを手にしている所を見ると、キャッチボールにしっかり付き合う様だ。

 

 

「私、野球なんてやった事――――あっ!」

 

 

かなは、それなりに身体は鍛えている。毎日の走り込み、つまり体力づくりは欠かしていない。役者とは当然演技力を求められるが、何をするにも先ず必要なのは体力。如何なる役をも演じ切る為に、一にも二にも、体力が必要な職業。そしてアイドルもそれは通じる。歌って踊って、いつまでも笑顔で楽しそうにする。その為には絶対に体力は必要な要素。

 

で、だからと言って運動なら何でも出来る、と言う訳じゃない。殊更、球技関係はかなは基本ノータッチ。これまでの役柄でも必要とされた事が無いので、少しもした事がない。

 

だから、アクアのいる場所を狙って投げる~なんて初歩的な事も中々出来なく、明後日の方向へととんでいく。

 

 

「ごめっ!」

「いや、いいよ」

 

 

アクアは素早く動いてかなのボールをキープする。その様子を見て、かなは少しだけ落ち込んだ。

 

 

「……私みたいな下手っぴじゃなくて、もっと上手な人誘えば良かったんじゃない……? ほら、ルビーとか、レイだっているし……」

「いや、妹に学校サボらせる兄が居るか。そもそもレイの方を連れてきたら、(ルビー)にも伝わって結局ついてくるだろ」

「シスコンきもっ……」

 

 

全てはルビーの為に……とまでは言わないが、アクアの言動の節々には抑えきれないルビーへの愛が伝わる。

 

 

「あ、でもレイに比べたらマシって思っちゃう自分が居る………」

 

 

ルビーを護る為に、惜しげもなく金銭を使い、様々なアイテムを購入し、実行しようとするその姿勢は、アクアの今の言動を遥かに超えるものだ、と言えるだろう。

 

 

「別に。それはただ金かけるか、かけないか、の違いだ」

「……なんか、張り合おうとしてない? 結局どっちも本質はヤベーシスコンってことじゃないの…………」

 

 

レイの方が~と言う部分を切り取ったアクアは、やや心外な顔つきをする。

事ルビーを想っているのは自分も同じだ、とでも言いたいのだろうか。どっちにしろ、有馬かなの評価は『シスコンきもい』になるが。

 

 

「んじゃ、同じ意味で「今ガチ」の人とかも誘えないって事? 結局レイに伝わっちゃうし」

「いや、それもあるが……、まぁ別にあるって言うのが本心だな」

 

 

アクアはそういうと、かなへボールを投げ返す。

 

 

「あのメンバーとやるのも悪く無いとは思う。……でも、一応、レイ以外は仕事って言うか、そう気安い関係性って訳でもないし」

「へぇ、そうなんだ」

 

 

あの今ガチの番組を観てみると、色々と絆が出来上がっている様にも見えなくはない。いや、寧ろ観えている、と思う方が大多数だろう。

件の記事のせいで、対立構造が出来上がっていると熱烈に報じられていたのだが、記者が捕まり、それを否定するSNSの写真・動画が拡散して、あのメンバーは全員本当に仲が良く、楽しそうにしている事が解るのだから。

 

 

「演じる事は突き詰めれば嘘だ。打算で動く事だってある。……だから、そんなしがらみも何もなく、無駄な会話が出来る人間ってのは、オレの中ではやっぱ限られてくるから」

 

 

アクアから投げられたボールをかなはキャッチした。

ボールと共に、アクアの想いが届いた~様なセンチな感情が芽生えてくる……が、次のアクアの言葉で台無しになる。

 

 

「その点、有馬相手なら気を使わなくて良いだろ?」

「いや、そこは使えやコラ。先輩ぞ?」

 

 

いってる内容自体は理解できる。でもイラッとムカッともする。……でもでも、やっぱり本心の部分では嬉しく思う。

 

 

「……ま、そういう相手に選んでくれた、ってのは悪い気はしないかな。ルビーでもなくレイでもなく、私。うん、悪く無いわ」

「そりゃどーも」

 

 

そして、暫くの間キャッチボールは継続した。

回数を重ねれば重ねる程に、要領を掴んでいるようで、かなは暴投する事は無くなり、それなりに狙った所へ投げる事が出来る様になっている。

体力がある、運動神経もそれなり、そこが強みでもある、と言う事だ。土台がしっかりしていれば、後はある程度の練習があれば、熟す事が出来るのだから。

 

 

「それにして、『今ガチ』も大詰めね。ラストのネタバレも、アイさんから聞いたし」

「アイから、って言うか、レイからだけどな。殆ど脅迫で強制自白させたって感じだけど」

 

 

今ガチのラストについては、アクア自身もレイから聞いてなかった。それはある意味当然ではあるけど……あのレイの言う結末については、色々思う所がある。

 

 

「まぁ、それはそれとして―――優柔不断(ゆーじゅーふだん)、の一言よねーー」

 

 

かなは、はぁぁぁ、と大きなため息を吐きながら告げた。

 

 

「まーーた、燃えちゃうんじゃないの? 折角鎮火して、おまけに最高の逆風だ、って言う所で、まさかのラストの展開。ま、元々きれーな女の子2人侍らせた二股野郎で浮気性で意気地なしで~って感じだったし、行き着くところは〜って納得もするけど」

「炎上よりも酷い怒涛の罵倒攻撃だなオイ。それも身内相手に。辛辣過ぎるだろ」

 

 

色んな怒り? を乗せたボールがアクアへと迫る。

なかなかに良いボールだ、と感心するが、それでも毒舌なのが気になる所だ。無論、かなの評価も間違ってないと思ったりするし、世間からそう評される可能性だって十二分にある事だろう。

 

だが、レイが選んだもの、レイの選択だって決して間違いとは言えない。

 

 

「ま、有馬の言う通りになる可能性は高いかもしれないが、全部やり方次第だ。同じ結末であったとしても、魅せ方(・・・)1つでどうとでもなる。神展開にもクソ展開にもなりうる。……そんでもって、レイならどうとでも料理出来るって思うし」

「あ~~~、そりゃ、そーでしょーね」

 

 

かながむくれっ面になった。

そんなにレイの選択が気に入らないのか? 失敗してほしいのか? と思ったが……そうではないだろう、と言う事も何処かでは解っている。

 

 

「有馬、レイとあかねがくっつくの絶対嫌~って感じだもんな。盛大にコケた方がまだマシってか?」

「べーーつーーにーーー、そんな事考えてないしーーーー」

「解りやすい嘘つくな。こちとら、何年そのスペシャリスト(・・・・・・・)と付き合ってると思ってる?」

 

 

嘘つきと言えば、そのスペシャリストは言うまでもない。自分の母親……アイだ。

あれだけの高性能、高度な嘘を傍で見続ければ、嘘もまた本当になる、真実になる、と言うのも信憑性を帯びてくると言うものだ。

 

 

「複雑なのは察してよ」

 

 

アクアから投げられたボールを取ると、かなは更に大きなため息を吐いた。

 

 

「レイは私にとって弟みたいなもんなのよ? それが、あの黒川あかねとくっつくだのひっつくだのしてみなさいよ。そりゃー誰と付き合おうがレイの勝手だけど、それを今後も近くで視なきゃいけない私の身にもなりなさい!」

「いや、そんなの知らんし。つーか、レイが弟? 逆じゃね?」

「うっさい! 年齢的にも私が姉!!」

 

 

ぱしんっ! とアクアのグローブにかなのボールが入る。

まだ少し甘い。ストライクゾーンには入らないボールだ。

 

 

「……なら不知火フリルの方なら良いって事か?」

 

 

アクアはそういうと、ボールを投げ返した。

日本トップタレントである不知火フリル。それが相手であるなら、不足なんて事は無いだろう。と言うか、間違いなくトップニュースで連日報道される。今ガチでも毎週の様に、トレンド1位に君臨していたのだから、本当の意味で結ばれたともなれば、連日連夜、だろう。

 

あの記者の逮捕事件があったから、強引なパパラッチは暫くは身をひそめるだろうが。

 

 

「いや、それもそれで……」

「なんでだよ」

「だーーかーーーらーーー! おとーとの恋愛を! 間近で見るの!! すごーーーーい複雑なの!!!」

「なんだ。ただの嫉妬か」

「やかましいわ!」

 

 

ばしんっ!

良い球だ、でも惜しい。まだストライクゾーンには入ってない。

 

アクアは、かなのボールを受けながら……今日、かなに聞きたい事、本当に話したかった事を、聞く事にした。

 

 

 

 

「有馬の目からみて……、レイはどうだった?」

「はぁ?」

 

 

 

 

アクアの言っている意味がいまいちわからず、かなは首を横に傾げた。

 

 

「ほら。確か有馬は、オレ達以上に古くから、レイの事知ってるだろ?」

 

 

昔のレイ……もう、いなくなってしまった(・・・・・・・・・・)レイの事を、そのレイを知る数少ない1人である有馬かなの口から、聞いてみたかったのだ。

 

今のレイと、昔のレイ。……何か違いがあるのか? と。

 

 

「そりゃ、物心つく頃には芸能界にいたし、年齢=芸歴だし、そのスタート付近からレイとは知り合ってたけど、付き合い事態はアクアたちの方が長いんじゃないの?」

「……まぁ、それはそうだが………」

 

 

言い淀むアクアを観て、かなは何かを察した。

レイの記憶喪失について、かな自身も聞いている。だから、昔のレイはもっとすごかったのか? とその辺りを聞きたいのだろう、と。そして、それは恐らく『対抗心』が少なからずアクアの中に芽生えているからだろう、とかなは考える。

黒川あかねをライバル視する自分にとって、アクアのその感性は身近なモノで、他人事とは思えない。故に気持ちは解るし、いつもの様に茶化したり、テキトーに言ったりするのは、かなの中の主義に反する。

 

 

「そうね。……今だから言えるけど、当時のレイは正直生意気な奴ーー、って印象だったわ。親が仲良しなだけで知り合った、って感じなのに。歳下の癖に口出してくるし、やたら演技にはストイックだし。あ、共演者の子供を何人も泣かせたりしてたわね」

「いや、歳下って、殆ど変わらないだろ。姉強調したいだけか?」

「余計な茶々をいらないわ。レイの事、聞きたいなら最後まで聞いててちょーだい」

 

 

アクアはかなの言う通り、少し口を噤んだ。ツッコミを入れるにしても、心の中で告げるにとどめよう、とする事にしたのである。

 

 

「本業はピアノの方だった。……まさに神童って言葉が似合うとてつもないレベル。私も完全に別分野だし、偉そうな事は言えないけど……、異常だって事くらいは解る。シャパンコンクールって名前くらいは知ってるし。人生何周したらあの域にいけるのか、理解が出来ないくらい…………」

 

 

本来子供が参加できるレベルのコンクールじゃない。世界的権威のある、世界の頂点が鎬を削り、競い合うピアノの世界の最高峰。そんな場所に前例無しに、いきなり彗星のごとく現れたのがレイだった。元々は動画配信で、その腕に目が留まった関係者から直接オファーが来て、一気に広がったのが切っ掛けだった筈だ。

 

 

「それだけの感情をピアノに込める事が出来たから、演技にもやたらとストイックになれた、って事かもしれないわね。……それに―――」

 

 

かなは、何処か遠い世界を見据える様に、空を見上げた。

ボールを一度、二度と高く上げては捕りを繰り返しながら、言う。

 

 

「あのレイが、傍に居なかったら……私は芸能界で生きていけてないって思ってる。天狗になってた生意気なガキの私を、いつも傍で抑えて、諫めてくれたのはレイだったから。……あのレイだったから、きっと私は素直に聞く事が出来たんだって思う」

 

 

分野は違えど、日本を飛び出て世界で活躍を見せたレイからの言葉だったから、口では言わないが、明らかに自分より凄いヤツだったから、その言葉にかなは耳を傾けたのだ、と今なら認める事が出来る。

 

 

「……へぇ」

「なによ。その【意外】みたいな反応」

「いや、有馬がそこまで素直になるなんて、って思ってな」

「うるさいわね。私だって素直に言う時は言うのよ」

 

 

何処か懐かしむ様に、それでいて寂しそうに……そんな顔をするかなを前にして、アクアは決して胸中穏やかではいられなくなっている……が、何とか自分の胸の内に、その想いを閉じ込める。

 

 

「兎に角、レイはスゴイヤツだった。……目指そうって言うなら、覚悟した方が良いんじゃない?? 何だかんだで、あの頃のレイに、今のレイもきっと負けてないって思うし」

「は? 目指す? 覚悟?」

「え? 聞きたいのって対抗心があるから~とかじゃないの?」

 

 

かなが何を言っているのか理解が追いつかなかったアクアだが、ボールを捕球する間に、かなの勘違いに気付く事が出来た。

でも、それはある意味好都合とも言える勘違い。

 

 

「そもそも、オレは一般科だし。裏方志望だし。別にそこまで考えてない」

「なら何で聞きたかったのよ?」

「いや、さっき有馬が言ってた通りだ。……【昔のレイにも負けてない】、って。それだけ聞けたら満足だ」

 

 

それは嘘だ。

アクアの嘘。

かなにも見破る事は不可能な精度の……嘘。

 

 

アクアは、近頃こう思う様になってしまった。

それは、自分自身を重ねてしまったが故に、想ってしまった事。自分の心の弱さの象徴。

 

 

人間の思考は、身体の発達に大きく影響を受ける。赤ん坊のころは幼児期健忘で記憶の定着が難しく、現在の第二次成長期、思春期には周囲への警戒心の高まりを感じている。

身体が成長をしていくに連れて、その精神の方が身体と環境に適合していく。

 

 

「―――どんどん【僕】と【星野アクア】の境目が無くなっていく」

 

 

これは、ひょっとしたら―――レイも同じだったのではないか? と。

異常とも言える幼少期のスキル。それはあまりにも成長が早いが故のもの。前例のない、超常的な速度で成長したが故に、様々な事件の影響で、レイの中にあった2つの人格。その内の1つが、消えたのではなく――――境目が無くなり、融合したのではないか? と言う淡い期待だ。

 

亡くしたのではない。……きっと、1つになったんだと、アクアは思いたかったんだ。

自分の心が弱いが故に。……レイを奪った事件、あの黒幕に中々辿り着く事が出来ない焦りと苛立ちが、都合の良い方へと結論を急がせるようになったんだ、と。

 

 

そんな訳なかったんだ。

有馬かなと話をして、改めて理解し、改めて、戒めた。

レイは――――あの、レイは――――居ないんだと。

 

 

 

 

「………前から思ってたんだけど、怖くて聞けなかった」

 

 

 

そんなアクアの姿を見て、かなは物凄く複雑そうな、それでいて心配そうな顔をしながら、聞いた。

 

 

「ひょっとして中二病? そういうの早く卒業しなさいよ。……正直、見ててイタイから」

 

 

有馬かなの的外れな考えへの返答はアクアの強烈なストレートボールである。

 

 

ぱぁんっっ!

「きゃあ!!」

 

 

と乾いた音を奏でながら、丁度開いていたかなのグローブの口の中に入る。

 

 

「否定する、って事ね。解ってるなら良いわ」

 

 

ジンジンする手を思わず摩りそうになりながら、かなは少し安心した様に呟いた。

中二病は恥ずかしい事で、高校生になったんだから卒業すべきだ、とアクアは解っていると思ったから。……それも結構的外れな気もするが。

 

 

「って言うか、今度は私の質問に答えなさいよ。答えてあげたんだから」

「ん。別に良いよ」

 

 

先ほどの中二病のやり取りはこれでおしまい。

アクアにあった様に、かなにも聞きたい事があるのだ。

 

 

「今ガチの件よ。今はトップ人気の3人は別だろうけど、ゆきとか、MEMちょとか、あんたは実際な所、狙いは誰なの?」

 

 

当然、そこの所はしっかりと聞いておかなければならないだろう。かなにとって、最重要事項だからだ。

 

 

「あくまで仕事だから。そういうのはない」

 

 

アクアの返答はあっけらかんとしたもので、今までのレイに対する熱量とは比べ物にならなかった。それ程までに関心が無い、と言うのは好都合な気もするが……、でも、まだ聞きたい。

 

 

「でも、恋愛リアリティショーやってる以上は、タイプとかもあったりするんじゃないの? 年下、年上、どのタイプが好きか~~とか!!」

「滅茶苦茶必至だな……。そりゃ、オレだって高校生だ」

 

 

かなのボールを受けながら、しっかりと答える。

無視したり、拒否したりする事だって出来るが、それでも答える。それはある意味有馬かなの応えてくれた事への敬意、もあるからだろうか。

 

 

「オレも自分と近い年齢の子を恋愛対象として認識する。……まぁ、ある程度上の方が良いのは間違いないけどな。年下は無理」

「ふーん。……つまり、年上好きって事ね。―――へーーー、ふーーーん? ほーーー??」

 

 

顔を赤くさせながら、ニヤニヤとするかな。

それも仕方がない。有馬かなは今年は高校二年生。方や星野アクアは高校一年生。つまり、年上とは自分の事だから。

 

 

「早く投げろよ」

 

 

ずっとニヤニヤしているので、アクアが投球を促す。

その瞬間、かなの中にとある記憶が蘇ってきた。

 

 

―――アクアは、MEMちょとくっつく可能性がある。

 

 

と言う点だ。

MEMちょは、(18?)である。つまり、自分より年上。

 

 

「へぇ……、ふーん……、ほぉ……………」

「? なんだよ」

「なんでもない!!!」

 

 

ばしぃぃん!!!

今度こそ、有馬かなの全力投球は、アクアを捕らえた。ど真ん中のストライク。

 

 

「お、今のは良い球だった」

「そう?」

 

 

MEMちょ×アクアを連想した瞬間は、顔が真っ赤になりそうだったが、アクアの褒めに対しては違う意味で赤く反応する。

 

 

「えへへ~」

「投げる度に良くなってるぞ。本当に初心者か?」

 

 

褒められるのは――好きだ。

大好きだ。

これまででも何回もあった。

そして、今も―――改めて大好きだと言える。

きっと、言ってくれた人によって、その嬉しい加減は変わってくる。

 

 

 

 

「そうよ。アクアとするのが初めて。一番最初」

 

 

 

 

アクアが褒めてくれたから。

それがただの投球であったとしても、純粋に嬉しいのだ。

 

 

「アクアが今後も付き合ってくれるなら、もしかして始球式アイドルだって狙えるかもよ??」

 

 

素直な笑みを浮かべるかな。

本当に、誘って良かったと思った。

 

気分転換になったし、何より気を新たに持つ事が出来たのだから。

 

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