認めない子   作:アイらゔU

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第36話 協力者たち

 

今回のシーズン。

 

正式名称【今からガチ恋♡始めます】は、嘗てない程の盛り上がりを見せた。それは感覚ではなく数字的な意味でも、類を見ない程に盛り上がりを見せた。

主演者たちの力量もあるが、異常事態を迅速に対応をし、何より目に見える形で今回色々と関わった者たちを処分したこと。その誠実さも人気に更なるブーストを賭けたと言って良い。

 

 

そんな舞台も―――終幕の時が近づいている。

 

 

「……いよいよ撮影も終わり、だね。何だか寂しいなぁ」

「だね。ここまで濃い現場は私も滅多に経験がない……と言うか、初めてかもだ」

 

 

あかねとフリルは、2人同時に深く、長く息を吐いた。

緊張する事が多かったこのスタジオ。その空気感が緩んでいる様にも感じるのはきっと気のせいじゃないだろう。

勿論、比喩などではない。……でも、仕方がない事だ。ここまでの規模になり、それも犯罪にも巻き込まれる程の濃さ。比肩する事が出来ない程の現場になってしまったのだから、自然と肩の力が抜けるのも無理はない。忘れていた疲れが全体的に出てきたと言った所だろう。

 

 

何せ、あのトップタレントのフリルを以てしても、此処までの現場は無かったとの事なのだから。疲労感が半端ない。

 

 

「あかねさん、フリルさん、お疲れ様です。最後まで、頑張りましょうね」

 

 

全体的に浮きだってるのは解るけれど、最後の最後まで姿勢を崩さないのがプロと言うもの。そして、妥協をしない許さないのがこの目の前のレイである。

 

 

「ええ。勿論。……ひかるの最後のシーン(・・・・・・)、とても楽しみにしてるし」

「それは――――確かに。終わりって事は、そういうこと(・・・・・・)だしね」

 

 

きらんっ☆

 

2人とも同時に目が光った? 様に感じたのは決して気のせいなどではないだろう。

あかねにしろ、フリルにしろ、先ほどまでは何処となく疲労感を醸し出していたと言うのに、今は、笑っているだけだと言うのにまるで捕食動物の様な目付きになってる様にも見えるから不思議だ。

そんな捕食者たちの圧力を受けたレイはと言うと、当然萎縮して――――。

 

 

「あははは……、頑張りますよ。……勿論全力、で」

 

 

いる訳ではない。

如何せん何度もこの手のオーラ? 圧? は体感しているのである程度の慣れは出てくる。故にその圧力を一身に受けつつも、レイは真剣な顔を変えないのだ。

 

今、この瞬間は初心設定? なレイではなく……最後の演技に赴く前の戦士の様な顔立ちだから。

 

勿論あくまで仕事の範疇内であれば、職場内であれば、の話ではあるが………。

 

 

「……ずっと、ずっとやっていたかったな。このレイ君(・・・・・)が視続けれるならもっと……」

「光栄ですよ。ありがとうございます。でも……その、フリルさん。僕の名はひかりなので……」

「ふふふ。ごめんね。つい言いたくなって」

 

 

ついつい、ひかると言う芸名ではなく、本名で呼んでしまうフリル。

学ぶべき所が多い。数多の現場を巡り、熟してきたフリルであっても、そう言わせる。

ドラマ、映画、CM、バラエティ、舞台―――共演者も豪勢で豪華。そんな経験を積んだ筈なのに、自負があったのに、レイを観ているといつも初心に還らされる。学ぶべき所が多く、まだまだ自分も未熟なのだと思わされる。心の底から尊敬できるのだ。

それはそうと、レイの本名は他の誰にも聞かれてないだろうか、とレイは周囲を観た。フリル以外に傍にいるのはあかねだけ。自然と目が合う。あかねは ぱちんっ、とウインクした。

 

 

「そういえば、今日はあかねさんは、スタートはいつもの(・・・・)あかねさんの方だよね?」

「え? ……あー――、まぁ、そうなの、かな? 最後の方は少しずつ、少しでも素の自分を見せても良いのかな、って。実はこれ、アクア君にアドバイスを貰ったんだ。上手くハマってくれて、人気も出て本当にアクア君にも感謝しかないよ」

 

 

少し話題をそらせようとレイが始めたのはあかねについてである。

驚異的な役作り。それはしっかりとレイの目に焼き付いている。元々知っていた(・・・・・・)とはいえ、実際に目の前にするのとでは、感じ方が全く違う。

驚嘆に値するとはまさにこの事だろう。

だが、今ガチ後半部分に差し掛かってきたところで、あかねはアイではなく素の自分を出すことが増えてきた。

アイという光の影に潜んでいた素の自分、黒川あかねを断片的に滲み出し始めた。

完全なる模倣から意図的なズレーーーそれは当然ながらレイはもちろん、フリルや他のメンバーも気づいている。

そして、それが生み出した新たな波は、周囲に波紋を齎す。

純粋なる好意、アイがレイに好意を寄せてーーーやがては気恥ずかしさ、照れくささ、それらが黒川あかねに更なる可愛さが生まれた、と視聴者は思い、そしてそれが想像以上にウケた。アイで惹きつけ、少し自信の無さがまだ内包する素の自分を見せ、恋する乙女を演出して見せた。

ギャップが生む愛嬌。

そして愛嬌が生む説得力。

 

 

「(あれはアイには無いものだ。……端からアイを模したあかねが、この今ガチを通してレイに、……ひかりに恋をする。そのタイミングであかね自身を前に出すようにすれば、こうも映えてくる……か)」

 

 

あかねにアドバイスをした、というアクアだが、実際には少し違う。

あかねにはあかねの、そしてアクアにはアクアの思惑があり、結果良い方向へと進んだに過ぎない。

 

不知火フリルと黒川あかね。

 

現時点でSNSでも行われてる視聴者投票では、その知名度や実力もあり、フリルが人気トップだったが、ここへきてあかねが迫って追い上げてきている。

演者として、役者としてこれ以上ない評価は、あかねをさらに躍進させることだろう。

 

 

 

 

 

【――――黒川あかねは、使える】

 

 

 

 

 

アクアの瞳は、その黒く光る瞳は、黒川あかねをとらえて離さない。

今楽しそうにレイやフリルと話をしているあかね。ここで、会えたのは本当に僥倖だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、あの時から―――アクアはあかねに目をつけていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あかねのそのキャラ付け―ーーモチーフはアイなんだろ?』

『え? あーー……、あはは。やっぱりアクア君はわかっちゃうかな? そうだよね。同じ事務所だもんね』

 

 

当初からアクアは感じていた。吸い寄せられる引力。無意識に惹きつけられる引力。不知火フリルというビッグネーム。圧倒的な知名度や認知度、そして経験。すべてで劣ってしまうあかねが、ここまで拮抗したのは、することが出来る相手なんて、アクアは一人しか知らなかったから。

あかねも否定せずに照れくさそうに笑った。

そしてなぜ、あかねがアイを選んだのかは大体察しが付いている。

 

 

『再現度が高すぎて逆に不気味に感じたよ。事務所で顔合わせてる俺からしたら、下手したら本人よりアイらしかったかも、って』

『うーん……、微妙な言葉だけど、最高の誉め言葉として受け取っておくね。……ただ、アイさんの反応だけはどうしても気になるかなぁ……失礼になってなければ良いけど』

 

 

アクアは笑った。あのアイがそんなこと考えてるわけがない、と。というより喜んでいた事実もあかねに伝える。

それはそうだろう。アイにとってもレイは特別で、画面の中でレイが女の子とイチャついている(死語?)様子を見るだけで、そういう仕事だとわかっていた上で、ああも頬を膨らませていた。けれど、あかねに自分を感じてからは、清々しいほどまでに手のひら返しをしていたのだから。いろいろ厄介なのは、事務所ではあの有馬かなくらいだろうか。

 

 

『全ては意中の男を攻略するために……か。恐れ入った』

『っ!! あ、あぁ……えっと、そのぉ――――』

『誤魔化さなくて良いよ。見ていたらわかるし。……つか、よくそこまでできたな、ってところに驚嘆してる。何でアイを選んで、どうやってそこまでやれたのか……、純粋に気になってる』

 

 

アクアの指摘に対して、流石にあかねも照れる。

しかも、今は演じている場面ではなく休憩中の一幕。巣の自分しかいないような場面で、こうも的確に言われてしまえば、仕方がないだろう。

 

 

『え、えと。いや、そんな大層な物じゃ……。元々誰かを模す、役作りに活かす手法として、プロファイリングの本を読んだりとかしてて、アイさんについては一杯調べたんだ。……これ、5歳くらいからずっとやってることで』

『……そんなに小さなころから。ある意味納得といえばそうか』

 

 

役作りに活かす為に、何かを調べて調べつくして、深い考察、洞察、そしてそれらを完璧に演じ切る天性のセンス。すべては培われ、磨き上げ続けてきた努力の結晶だった、というわけだろう。天才が努力をしたというなら、最早必然ともいえる。

 

 

『あと、アイさんを選んだのは……その、アクアくんの、言う通り、です………』

『……アイツ(・・・)がアイが好きって事が分かったから、か。でも、よくわかったな? 他人の好みなんて。そもそも、あかねはひかりとそこまで面識あったのか?』

 

 

黒川あかねと星野レイ。

黒川あかねと北斗レイ。

 

2人の関係性についてはアクアは勿論、有馬かなも知らなかった事柄だ。交流があったという話も聞いたことがない。記憶を失う前の事であるなら、その事実を知るものはもはや誰もいないと思う。

でも、ピンポイントであかねは当ててきた以上、有馬かなも知らない内に何かがあったのだという推察はできる。

 

 

『……これ、言って良いこと、なのかな? その……斎藤ひかり君の秘密って事になりそうなんだけど』

 

 

あかねは少しだけ慎重になりながらも、言葉を選び紡いでいく。

そこには照れた様子はなく、ただ心配そうな顔つきになっている。

そんなあかねを見て、アクアはある程度の理解を示した。

 

 

『うん。……大丈夫。どうせここには俺しかいないし。別にあかねが何を知ったとしても、どうこう言うつもりもなければ筋合いもないよ』

『……そっか』

 

 

ここであかねにとって有利な事柄へと進んでいく。

 

 

斎藤ひかり――――即ち北斗レイを知るために、もっともっと知るためには、内部に通ずる人とコンタクトをとり、信頼をしてされて、と構築しなければならない、と常々思っていたからだ。流石に苺プロへの移籍~までは考えていないが、どうしても協力者は欲しいと思っていた。その点、アクアはあかねにとっては最適な人選だと言える。北斗レイに最も近しい人物の一人である、とあかねは思っているからだ。

 

 

だから、あかねは打ち明けた。

斎藤ひかりは、北斗レイだと自分は思っている、と。たくさん調べて調べて―――――辿り着いた結論だと。

 

 

 

『……やっぱりわかってたのか』

 

 

 

ここまで来て誤魔化そうとなんてしない。ここまで的確に調べつくしてきたあかねは、最早役者云々ではなく、探偵のそれなのではないか? と思わずにはいられなかったが、疑問を解消できたのでそれは良い、と思ったのである。

 

そして―――ここからがアクアにとっての最大の衝撃であり、分岐点になる。

 

 

『うん。最初はね。レイ君は実はアイの、アイさんの隠し子(・・・・・・・・)で~って勝手な設定をしてたりしてたんだ』

 

 

 

それを聞いた時一瞬、時が止まった気がした。

 

 

『だとしたらさ、色んな感情のラインに整合性が取れるし、不可解だった数々の行動の理由がわかってきて、何をどう考えて、どういう人格なのか、数式パズルみたいにわかってくる……んだけど、実際はレイ君の親族関係も色々考察してみたけど、その線は薄いかな? って思ってるけどね』

 

 

幼少期のレイの活躍を知っているあかねからすれば、あの今はいないレイの本当の母親の事も当然知っていて、その親子関係はおそらく間違いない(見た目にも特徴があり、そして似通ってる面がある)。

 

 

『……それ、ひかりに、レイに言ったりした?』

『え? あははは……。流石に本人には言えないよ。だって役作りの為とはいっても、私の勝手な解釈と設定なんだし。デリケートな部分でもあるから。……でも、アイさんに隠し子がいるかも? って設定は私はかなり気に入ってる。だからこそ、アイさんを深く演じることが出来たんだ、って思ってるから。――――あ、アクア君。アイさん本人には言わないでね?』

 

 

ぱんっ、と両手を合わせてアクアにいうあかね。

そんなつもりは毛頭ない―――というより、アクアにとってそれどころではない。

 

 

『………いわない。でも、アイについては俺も気になってるところがあった。あかね的な解釈で構わないから、教えてほしいんだけど……、アイの思考パターンってどれくらいわかるんだ?』

『……言っても良いけど、本人には言わない?』

『絶対いわない』

 

 

あかねは少しだけ考えて――――そしてハッキリとアクアの目を見て答えた。

その黒く光る瞳をまっすぐに見据えて。

 

 

 

『―――どういう生き方をして、どういう男が好きかまで……、たぶん、大体わかると思う、ケド?』

 

 

 

答え合わせはできないけどね、と薄く笑うあかね。

アクアはそれを聞いて―――あかねとある種の同盟関係を築こうという方向性へと舵を切ったのだ。

 

そしてまた、あかねもアクアとの関係性は好都合であった。歪な関係性かもしれないが、紛れもなく同じ方向へと向くことになった。

軈て――あかねもあの日のレイの真実(・・)を知ることになる。

 

 

それらが未来へどう影響を及ぼすのかは……今は誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れの校庭。

差し出された2つの手。

 

ぎゅっ、と閉じられた二人の瞳。

 

そして―――強い決意を秘めた顔。

 

 

 

 

 

「ごめんなさい。……僕には、まだ『選ぶ』なんて、そんな立場なんて……無いんです」

 

 

 

 

そして、今ガチはクライマックスを迎える。

 

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