認めない子 作:アイらゔU
場面は 今ガチ♡ 終了後。
BAR ~Fellini~
にて開催される打ち上げ会である。
照明は僅かに落とされ、琥珀色の光だけがBAR内を温かく照らす。
壁一面の棚には色とりどりのボトルが並んでおり、そのラベルがきらめきながら、夜会の始まりを演出していた。
生憎、出演者の(ほとんど)が未成年な為、大人な飲み物をこの場で堪能することはできないので、当然皆はノンアルコールを各グラスに注いで準備をする。
それでも大人たちはほぼ皆がアルコール入りを注いでいるので、微かに匂うアルコールの香りは、大人な雰囲気を演出してくれると言って良いだろう。
笑い声もあり、暖かな雰囲気にも包まれている。
BAR 『Fellini』は今ガチ全メンバーで今夜は貸し切り状態。
「じゃあ《今からガチ恋始めます》 全収録終了です! お疲れ様でした!」
『お疲れ様でした~~!!』
Dの大きな開始を告げる声に、皆の声が合わさる。
全員が手にしたグラスを高く掲げ、乾いた音が一斉に鳴り響く。グラスとグラスが触れ合った瞬間、まるではじける様に場が熱を帯びた。
数カ月に渡る長い収録が本当の意味で終わりを告げた瞬間でもあった。
「いや、あまりにも濃密過ぎて思い返すとほとんど一瞬だったわ!」
「わかるわかる! こんな経験、早々出来たりしねぇな‼ 経験値貰いすぎって感じ? レベルも上がってる! って思い込んでる!」
「思い込んでるだけかよ!」
ケンゴとノブユキの2人が互いに顔を見合わせながらイェーイ! と一声かけてグラスをぐいっ、と開ける。
まだ未成年だというのに、その飲みっぷりは堂に入ってる? と思えてしまうのだが、それは場の雰囲気が少し背伸びを演出させてるだけなのだろう。
高校生の恋愛系と言えども、大人の階段を上るステップアップには違いないので、本当の意味で階段を上った、と言えなくもないが。
「経験値……(はぐれメ〇ル、的な?)」
どちらかと言えば大人しく、目立たず、控えめに飲んでいたアクアは、経験値という言葉を聞いて、某有名RPGゲームが咄嗟に頭を過る――――が、口には決して出したりせず、グラスを一飲みして言葉を飲み込んだ。
これは、大人気と言えども、連想させるには今時では古いと言わざるを得ない過去のゲームだからだ。……おっさん臭い、と思われるのは嫌なので、何とか飲み込んだ形である。
「私もここまでの現場は早々あるものじゃないから大変だった。でも
「うん。確かに、色々あったけど……終わってみたら、本当に楽しかったね、って私も思う」
あかねの言う『色々あった』と言う言葉の重みは深い。
それを誰よりも近くで、誰よりも深く感じていたのがこの2人。
あかねとフリルだからこその言葉。
全てはあの週刊誌の捏造記事から始まった。
極めて重く、極めて大きな事件だったが故に、中々に口に出すのは憚れるが、その渦中にいた2人、あかねとフリルがそれを匂わせる様な事を言うので、大分精神的ハードルが低くなってくると言える。
「やっぱり、フリルさん的にもアレはイレギュラーだった……のかな?」
「そりゃ勿論。記者とかに追っかけられる事は多々あったとしても、あそこまで大きいのはそうあるもんじゃないよ?」
無論、あかねとフリルだけじゃない。トリプル主演が1人であるレイ。
渦中の1人であるレイもそれに乗る形で言葉にした。
すると、もう空気は和らいだ、と言わんばかりに言葉が紡がれ、広がりを見せていく。
「事件発生から一気に完結編にまで至ったってのもすごいよ。今ガチやりながら、サスペンス系ドラマにも出演してる気分だった」
「お? ケンゴもそう思う?? なんてったって、ひかりの堂々たる立ち振る舞いもすごかったよなーー。よっ、主人公!」
ケラケラと笑いながら、ノブとケンゴは2人して、改めてレイに対してグラスを向けた。レイは少し顔をそむけて、照れながらもそのグラスに合わせて。
「や、やめてよ2人とも。皆が傍にいてくれたから出来たんだし……、僕だっていっぱいいっぱいだったから。主人公、なんて烏滸がましいし、恥ずかしくてとても言えないよ。それに―――」
レイはアクアの方を見る。
そして皆の方も合わせてみる。
「仮に僕が主人公だったとしたら、皆は
そう言って朗らかに笑った。
炎上騒動を最終的に収める形になったのは、アクアが中心となって作成した今ガチ♡舞台の裏側のPVだ。
渦中の炎上の中心は、レイ・あかね・フリルによる不純異性交遊、淫行、乱交である。高校生と言う年齢を考えたらあまりにもセンセーショナルで大変な騒動になったが、それは鮫島記者が逮捕されることで収束に向かった。
でも、3人が人気を傘に、皆を見下し現場の空気が最悪で殺伐としている~類のものは完全なる捏造で、中々一度根付いたものは解消に至らないと思っていたのだが、それを解決する事が出来たのは間違いなく皆が作ってくれたPV。
今ガチ♡ の現場は本当に平和そのものでほのぼのとしていて、ネットの記事の全てが嘘で捏造だった、と思わせるには十分過ぎる程のものだったから。
「ヒーローか。……おお、悪くないな! 照れるけど。まぁ、やるだけ何とかやってみた、ってだけだよ」
「一番何もやってない人が未だにリーダー面してるし」
「そーだそーだ! 少なくとも、こん中じゃ、アっくんが一番だろ」
ノブの調子の良い言葉に苦言を呈するゆきと便乗するケンゴ。
PVだが、編集は主にアクアが対応。夜通し行っていた。
こういうのはスピード勝負。遅くなればなるほど、心象が悪くなっていく、というものだ。裏工作をした、と揶揄される可能性だってあるわけで。
で、ケンゴは楽曲を提供してくれたし、MEMちょは素材となる写真・動画をかなり用意してくれた。(合計200を超える写真+合計200分を超える動画)
ゆきも映像や構成に合わせたそれらの素材を組み合わせるのに一役買ってくれた。
「うん。確かに一番何もしてないね」
「ひでぇな皆!! 辛辣すぎ! おれら仲間じゃん!! チームじゃん!! パーティーじゃん!!」
そしてそして、場の盛り上がりが上がっていく。
比較的暗い話ともいえるあの事件はもう良いだろう、とMEMちょがにやりと笑ってレイに近づいて。
「それにしても、やっぱひかりんはすごいネ~~。個人的MVPだヨ。なんせあーーんな可愛い、美人は2人をそれも同時にフっちゃうなんてさ??」
「ぅ………」
レイ的には、事件の事を言われるより、あかねとフリルの2人の告白を断った、という方がダメージがある。
話題としては上々。人気も勿論落ちてない。評価は4.9のほぼほぼ満点☆☆☆☆☆の満点評価。
申し分なしどころか大成功! と言って差し支えないのだが……やはり、告白を断った、フった、という現実は演技を終えた後に重くのしかかってくるものがあるのだ。
「ほらほら、そーんな萎縮しないで? 本心は別にあるんでしょ~~?? 吐いちゃいなって」
「どっちがええんや~~? どっちが好みなんや~~?? ほれほれ、はれほれ! 飲んで吐いて楽になってしまえ~~!」
MEMちょとゆきの2人に囲まれるレイ。
今ガチでは、フリルとあかねに囲まれて―――どこでも女性陣に囲まれるのは最早宿命なのか?
「ヒーローよりモテるのがやっぱり主人公か~~」
「うんうん、やっぱりうらやましいぞ? このやろー?? な、アクアもそう思うよな??」
言葉とは裏腹に、物凄く笑っているケンゴとノブ。
2人の容姿を鑑みたら……見た目は文句なしのイケメンの分類。モテる、モテないで言えば間違いなくモテてる分類だろう。芸能界と言う大きく、極めて深い業界では競争倍率が高いので、中々難しいのかもしれないが、まだ高校生。ここから始まるのだ―――が、今までモテてきて、今回差をつけられた現実を悔しさよりも楽しんでる様に思えるのが不思議。
「まぁ、ひかりだし。別に違和感とかは無いかな?」
「へーー。って事はやっぱ苺プロでもモテモテってこと?」
ケンゴの言葉に、アクアは少しだけ思案する。
主に自分の家族に―――だが、玩具みたいに扱われているレイの姿がありありと脳裏に浮かんでくる。
自分の家族は当然ながらSSS級を遥かに超える容姿(マザコン&シスコン)。その中心にいるレイ。
で、今の様子を見比べても……当然違和感なんてないに等しい。
「……まぁ、そんな感じ」
「そんな感じって何!! 変な事言わないでよアクア!!」
すぱーんっ! とどこからともなく取り出すのはハリセン!
壱護父から譲り受けた―――否! 託された至高の一品なのである。……変な方向へ暴走しない様に、これで引っ叩いてやれ、と押し付けられた~と言うのが真相だったりするが。
「いや、それどこから出した?」
「細かい所は気にしない気にしない。ってそれより、もう一回! 変な印象を僕につけないでよアクア!」
すすっ、と背後にハリセンを隠しつつ、アクアに厳重抗議。
モテモテとはかなり悪意がある評価だ、とレイは思っているからだ。本当にモテモテなら、あんな大変な扱いは受けたりしないだろう。あんなに心労祟るような事はきっとないだろう、と思うから。
「まぁ、それはそれとして、
「うわっ、軽く流された!! ……ってあっち?」
アクアの視線、そして指さす方向へと目にやると―――そこにはあかねとフリルの姿があった。つい今しがたまでは、女性陣を中心に色々と楽しそうに話していたというのに、何やら雰囲気がおかしくなってる。
「え? え??」
「オレ知らねぇぞ。レ……ひかりが何とかしろよ」
「それ、何か知ってる人の言い方だから。……いや、ほんと何があったの……? ちゃんと、納得してくれてた筈……なんだけど……」
恐る恐る2人が居る方へと視線と共に距離を詰めようとするのだが……、何となく凄まじい引力? みたいなのを感じたので、どうにかレイは2人と距離をとる様にした。
これは不知火フリルの心情。
【月9のドラマで大ヒット】
【歌って踊れて演技も出来るマルチタレント】
【美少女と言う言葉を聞いたらほとんどの人が思い浮かべる】
これは、学校でルビーがフリルを称する時に使った言葉だ。
フリル自身も時たまに自慢をする事はあるけど、聞いてくれる人は大体ネタ扱いするし、彼女もまた鼻にかけるような事は言わないし、するつもりも無い。印象が大切と言う事もあるし、下手な事を言ったら直ぐ炎上して仕事に支障を来す世の中だから、と言う理由も勿論あるが、そもそもそんな性格をしていないからだ。……身内判定した時は辛辣な対応は多々あったりするが。
――凄かった。
そんなフリルが今深く考え込んでいる事。それはレイの最後のシーンである。
最後の
誰も選ばないことを告げたレイの姿。
その理由も丁寧に作り上げ事前準備をしていたのだろうという事はわかる。Dもスタッフもあまりにも自然体に進行していっていたので、恐らくは演者以外は結末を把握していたのだろう。
その辺りはどうでも良い。
ただ、レイのあの姿だけは圧巻だった。
今ガチが始まってから積み上げてきたレイ自身のサクセスストーリー。それは最初から上手く演出していたし、リアリティショーと言えどもある程度演じていた面もある。
レイへの気持ちは偽らざる本心ではあるが、《不知火フリル》ではなく、《恋愛リアリティショー》を見てもらいたいと思ったからだ。それがかなり強引に無理を言い、この番組に飛び入り参加した際に自身に貸した枷だとも思っていたから。
だが、そんなものは関係ないと言わんばかりだった。最後の最後にすべてを持って行った。持っていかれた感がぬぐえない。神がかっていた、と言っても良いレベル。
積み重ねてきた時間は決して劣っていない。
舞台もドラマも歌番組も、それこそ数えきれないほどに経験してきたから寧ろ自分の方が遥かに上だと自負しているというのに、『人間』としての輝きの差を見せつけられたような気もした。
――ピアニストとしての、彼は……?
不意にフリルが思い浮かべるは、あの幼き日の記憶。
世界からの脚光を一新に浴びた幼き天才が演じるあの姿を画面越しに見た。その音色ですべてを表現する圧倒的な存在感。それに充てられたフリルは直に見てみたい。感じてみたいと強く思ったんだ。……
可能な限り、レイの事は調べた。苺プロに『斎藤ひかり』として所属をしていたことを突き止めるくらいには、調べてきたつもりだったんだけど……未だに、
これは黒川あかねの心境。
あかねはプロの役者として、もう数え切れない舞台と映像を経験してきた。幼き日よりまるで恋焦がれる様に……憧れを追ってこの世界へ入り積み上げてきた。
その過程で心理学を学び、観客の心を動かす術を体に刻み込んできた。
恐れ多くも、その甲斐もありあかねは劇団ララライの名を背負い、若きエースとして称されることもあった。そんな評価に胡坐をかく事なく、天狗になる事もなく、研鑽を続けてきたつもりだ。
――それでも。
あの瞬間、自分は完膚なきまでに打ちのめされた感覚がある。
舞台でも映画でもなく、恋愛リアリティショーという、ある意味もっとも生々しく、自分と言う存在が全面に出る不安定な場で。
台本もなく、役柄すら与えられない“素の人間”として挑まされたその場で、目にしたのはレイは神がかった輝きのそれ。
――演技をしていたのか。
――それとも素の彼が、ただそのまま光を放ったのか。
自分の目で見ておきながら、あかねには判断できない。その深奥をのぞく事が出来なかったんだ。あれだけ、
【まだまだ未熟】
そう突きつけられた感覚だった。
――悔しい。
自分の自負が一瞬で崩された。
そして、何より胸の奥から湧き上がってくるこの感情に自分で自分に驚いている。
あかね自身がレイを羨んでいる。追いつきたい、と言う思いが溢れ出てきている。
ただ、レイの事があの日から大好きで、男の子ならレイ、女の子ならかな、と心に決めていて―――そして自分の中の世界が崩れたあの日に、それはより強く心に、刻まれたんだ。
ただただ拒絶された事を悲しんでいた自分。でも、レイはそんな彼女の事を深く理解していた。……あんな風に見てほしいと強く思った。その為にはもっともっと高みを目指して、彼が見ている
胸の奥に残るのは、敗北の痛みと同時に、強烈な高揚感。
「もっと上に行ける」「まだ伸びられる」という確信を与えられたからだ。
だからあかねは、あの言葉を忘れない。
――待っていて欲しい。
挑まれたのは、フリルでも自分でもない。
役者・黒川あかねそのものへの、宣戦布告だった。
「ひ~~かりんっ! こりゃ、今後が怖いかもですぞーー」
「そーそー! 逃した魚はデカい!! って言うけど、ひかり君が捕食されちゃうのも時間の問題かも??」
「ほれほれ、ここに男をとっかえひっかえしてそうな、ゆきからのありがたーいアドバイス! 貰っとかないとじゃない??」
ここぞとばかりに弄ってくるMEMちょとゆき……だったが、MEMちょの発言で聞き捨てならない事があったのか、顔をムっ、っと顰めるゆき。
「なにそれ! 私そんなイメージ??」
「メムさんひでーー。ま、芸能人とはいえ高校生にもなったら彼氏の1人や2人、とーぜん? って印象はあるな」
「ノブまで何言ってんのよ。マジでリアルに本当に仕事第一にやってきて、私は今まで彼氏なんて作った事なかったんだよ?」
「うっそ!!」
完全なオフ。
こういう時はぶっちゃけた本心を口にするものだと思うけれど――――ゆきの言葉には嘘の感じは見受けられなかった。
アイ関連もあり、嘘をつく人間の目は解る様になってきたのかも? と思ってるレイをして、これは本心で本当の事なんだろう、と判断した。
「うん。これは本当の話らしいよ」
そんな時だ。
離れていて、異様な圧をフリルと共に発していたあかねがこちら側へと合流を果たす。
つい先ほどのアレはなんだったの? と思いたい所なんだけど、何でもないいつも通りなあかねの姿に、フリルの姿に戻っていたから藪蛇だと言う事で突っ込まないでおく面々。無論、レイも含めて。
「そうなの?」
「うん。ゆきと同じ芸能化の子も言ってたから間違いないよ」
「へーー。身持ち堅いんだね」
悪女な印象を、悪質な印象操作を受けかけていたゆきだったが、あかねのおかげで何とか難を逃れるとふーーっと1つため息を吐いて。
「そういうフリルちゃんはどうなの? 私らとは違うレベルな人脈あるでしょ?」
「んーーー」
フリルは少しだけ考える素振りをみせると、思い返した様に握りこぶしを掌にぽんっ、と乗せて告げる。
「そう言えば、つい最近俳優の松山くんからDMで食事に誘われた事とかあったかな?」
「………俳優の松山って」
「激ヤバなメジャークラスな名前デタ――」
朝ドラ繋がりで出てきた認知度の桁が違う、次元が違う名前が出てきて戦々恐々とする面々。それなりに今ガチで知名度はアップしたと思うんだけれど……それは別次元の話だ。
「まぁ、確かに色んな場所で仕事してたら、そういうのそれなりにあるけど―――基本全部断ってるし? 複数で行く場合は付き合いもあるから行くパターンもあるけど、個人的なお誘いは私はNG」
「お~~~……こっちもめっちゃ、身持ち堅っ」
意外そう〜と言わんばかりに、MEMちょは驚き、そして言い終えた後きゅっ、とノンアルコールで喉を鳴らすフリル。
両眼を閉じて、のど越しを感じつつ―――片目を開けて、レイの方を見た。
「こう見えて、私は一途なつもりだし。二兎追うもの~って言うし?」
「ぅ……」
耳が痛い台詞がやってきた。
この角度からやってくるとは思っても無かったレイは、思わず喉を詰まらせる…けど、何とかキープ。
「あーぁ、やっぱひかりんって、厄介なルート選んじゃったんじゃない? 仮に他の誰かとくっついた~~とかなったらさ? スキャンダルレベルに報じられる可能性極大じゃん??」
またまたMEMちょが特大な爆弾を投下してくる。
フリルは、ノンアルのグラスを口につけて、ちょぼちょぼ飲みだして、半目な視線はこちら側へと向けてるし、あかねは、あかねで。
「……ぷくーー、ぷくーーーー!」
ぷくー、と言いながら、ぷくーと頬を膨らませている。
現実では発音しない、音がしない擬音な筈だけど、あかねは止める気配がなく。
「あっはは。あかね何それー」
ゆきはそんなあかねを見て笑う笑う。つられて、皆笑う。
で、視線はレイへと集中した。
「な、なんで最終回はまだ終わってないよ~的な流れになってるの??」
口には出してないけど、皆が目で
『どっちを選ぶんだ~~』
『どっちを選ぶんだ~~』
『はよ選べや』
と言ってる様に見える。
で、レイはジリジリと追い詰められていく―――様に見える。
「まぁ、上手い具合に番組を使って盛り上げてもらいたい、ってのは本心だけど―――こっから先は、番組側は関与しないからな」
そんな背後でビールを一気飲みしているDが助け舟? を出してくれた。
「色々叩かれるかもだが、ひかりもまだ
レイ・フリル・あかねの3人の盛り上がりは最早異常値と言って良い。
普通の高校生なら好いた惚れた、寄り道回り道、失恋、横恋慕。色んな事を経験していって大人になっていくものだけど―――あまりにもストーリー的に完璧すぎたが故に、将来どうなるか、実の所Dにも解ったなかったりする。
「―――何が言いたいか、って言うとアレだ。ちゃんと自分で考えて、自分で決めろ、って事だ。なんせこの業界は君たちの才能を利用するだけ利用して捨てる様な悪い大人が跋扈してる。そういう意味じゃ、あの鮫島って記者もその内の1人。やばめな奴だったけど、たった1人に過ぎない」
ちらり、とレイの方を見た。
その悪い男の1人を完膚なきまでに粉砕した男がレイなのだが……、あくまで数ある内の1人に過ぎない。意表を突かれて、と言う結末だってないとは言えないのだ。
それでもレイのあの時の雰囲気も、数字同様異常と言って良いかもしれないが。
「兎にも角にも、この業界は甘い誘惑が多い。雰囲気に流されやすい子が行きつく先は決まって奈落。今回の現場で、すげー事経験してきたかもだし、早々
Dの言葉に皆が笑う。
確かに今回のは特別過ぎた……けれど、それだけで全てを把握出来たと言うのは全くの間違いだ。
あの不知火フリルをして、芸能界の深奥まではまだほど遠いと言う説もあるのだから。
「そう言えば、悪い子供はどこ行った?」
「え?」
Dが周りを見渡す。
つられて、レイも周りを見渡した。
何時からだろうか? この場にアクアが居ないのだ。
「アクア君なら、鏑木さんの所ですよ」
「いつの間に??」
「私たちと少し話したあと、かな? 呼ばれてたよ」
「へー……んん?」
あかねとフリルの言葉に違和感を覚えるレイ。
少し話した後……と言う部分だ。
そう言えば、不穏な気配を纏わせていた2人がいつの間にか霧散していたのはいつだろう?
少し話した、と言うのは何を話したのだろう?
「あの、2人はアクアと何話してたの?」
つい気になったレイは、フリルとあかねに聞いた。
それを聞いたフリルとあかねは、互いに見合わせた後、意味深に微笑んで。
「「ナイショ」」
そう言って、ぴんっ、と立てた人差し指を口元へ持っていくのだった。