認めない子   作:アイらゔU

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第3話 10年後

 

 

 

ピヨピヨピヨピヨ~~~!

 

 

 

 

 

―――ぴえヨン ちゃんねる!!―――

 

 

 

 

 

さぁさぁ、現在小中学生を中心に爆発的人気を博しているYouTuber ぴえヨンが送る最高のエンターテイメントの始まり始まり~~。

 

 

「ピヨピヨピヨ~~~! ぴえヨンチャンネルぅぅぅぅ!!」

 

 

改めてもう一度盛大に高らかに開始宣言。

 

動画内に現れますは当然! 今や超人気YouTuber が1人【ぴえヨン!】

彼を知らない人からすれば……【海パン姿+ひよこを模したマスク】を被っているぱっと見なくても変態! な姿なのだが、よーく目を凝らして、恥ずかしがらずに見てみると分かる。

その驚異的な身体。その肉体美は視る者を魅了する。

 

更に子供受けもする容姿とトーク技術だから、彼自身に憧れを抱き、スマホ・ゲームばかりが蔓延る昨今、運動不足が否めない昨今、ぴえヨンに憧れて身体を少しでも動かし、健康的な身体を作る事が出来ているとのこと。

 

たまたまバズっただけの色物と思う事なかれ、物凄く社会貢献できているのである。

 

 

「ハイハイハ~~イ! 今回はネ! 前回大好評だったコラボ企画! あの有名な音楽演奏系YouTuberひかるん の再び登場ですっ!」

「はいはいは~~~い! みんな~よろしくね♪ ひかるんですっ!」

 

 

ぴえヨンとはまた違った姿。

……その姿は実物ではなく、所謂VTuber.。顔出しNGのYouTuberが主に用いる手法で、2DCGや3DCGで作画されたアバターを用いて登場。

映像編集技術はスゴイ。まさに実写と二次元のコラボ、である。

 

 

因みに前回はよくある質問でひかるんは、本当にたった数秒で即興で曲を作れるのか? やらせではないのか? と言う視聴者の疑惑を晴らす為に~だった。

そして呼んでみてビックリ。視聴者の質問型とはいえ、ちょっとでも疑ってごめんなさい、と頭を下げたのはぴえヨンだった。

 

 

「ぴえヨン的にはさぁ~~? 筋トレしてる時のBGMをリクエスト! メッチャテンション上がる即興の曲を披露してくれた瞬間からさぁ~ キミの実力疑った事は無いんだけどぉぉ、今日はまた違う企画なんだよネ」

「ほうほう。……ピアノもギターも、演奏する機材が殆ど無いトコに呼び出されたから、そんな気がしてましたー! でも、ほいほい乗っちゃう僕は基本! コラボNG出しませんよ! いつでも大歓迎! ――――なのですが、もちろん」

 

 

ここでひかるんは、指を下へと向けた。

そこには大きく大きく書かれている。

 

【必ず事務所を通すように!! ルールを守って楽しくコラボっ!】

 

と。

物凄く大事に大事に扱われているのが一視聴者間でも話題に上がっているひかるん。コラボ自体は全く問題ない、と公言しているのだが、姿を視聴者に晒さない所を見ても解る通り、素顔だしはNGとなっている。

コラボしたい相手はよく《ひかるん》の素顔を見てみた! 的な動画を出したい輩が多くて多くて、一時事務所である【苺プロ】がブチ切れた。

※因みに、ぴえヨンとは同門だと言う事もあって苺プロである事は伏せていて、実際は架空の事務所名を使っている。

 

訴訟問題に発展しかけた事だってあった。

相手が動画を全て削除、謝罪コメントアップ(動画等ではなく紙媒体、収益化もダメ)で何とか逃れた。

 

……が、それでも ひかるんの素顔を知りたい者は視聴者も含めて後を絶たないので、あの手この手で法に触れない様にYouTuber共が群がってくるのだ。

それなりにひかるんの歴が長いのでそろそろいけるのでは? と勘違いする輩も多く居るのだが、まだまだ事務所鉄壁の防御壁を物理的にも法的にも抜く事は出来ない。手痛いしっぺ返しが待っている。

そんな虎の尾を踏むような勇気あるYouTuberどんどん駆逐されて行っているので、ある意味時間の問題かもしれない。

 

 

「ルールを守って楽しく楽しくコラボしましょうね♪」

 

 

ひかるんの渾身の笑顔とガッツポーズ(アバター)。

先は果てしなく長いなぁ……と思わせてしまうのが不思議な感じだった。姿見せなくても十分過ぎるくらいには成功している分類だから……と言うのもあるだろうか。

 

 

でも、今日のチャンネルはぴえヨンちゃんねる。

やっぱり彼は一味違う。次に続く展開で視聴者の度肝を抜く事になり、回リアルタイム視聴者数が激増する事になった。

 

 

「確か、ひかるんクン! キミは演奏技術ずば抜けてるだけでなく~~、……実は体力面でもかーーなーーり、自信があるとかないとか、僕の方に届いてるんだよネ~~」

「はい? んん~~別に秘密にしている訳じゃないんですけどネ。演奏するのだってそれなりに体力使いますし?? 生中継の時、耐久演奏の時、やっぱり完璧なパフォーマンスを発揮するには1にも2にも体力が基本! なので普段から鍛えてますよーー!」

「ほほうほほう、ヨシ言質、捕れました~~! と言う訳で、このぴえヨンと勝負しろー!」

「ほほほ~~う。それは面白そうですね! 魅力的でもあります。よし、良いでしょう!! 受けます!!」

 

 

マッスルポーズを間間に挟んでいたぴえヨンだが、突然びょんっ! とジャンプして着地すると同時に、ビシッ! とひかるんに指をさす。

ひかるんも、ぴえヨンに真っすぐ向き直って胸を張って頷く(アバター)

 

 

「勝負内容は至ってシンプル! 【ぴえヨンブートダンスver1~3までついてこれたらキミの勝ちぃぃ!!】」

「よぉぉっしゃぁぁぁぁ!!」

「たーだーしーーー、ついてこれなかったら、【素顔ここで晒しちゃうマスク剥ぎデスマッチ】だーーー!!」

「わーーーぉ、なんだか実にプロレス的ぃぃ~~! でも嫌いじゃない!  なので僕的には全然OK! じゃあ向こうの方は~~~」

 

 

ここで、突然BGMが止み暫く続く無音の世界。

数十秒後にテロップが大きく大きく映し出された。一文字ずつ現れるテロップ、最終的にははこう書かれている。

 

 

 

【事務所OK!!】

 

 

 

 

わ~~~ ぱふぱふぱふ~~~♬

 

 

まさかもまさか……。

もうかれこれ10年近く素顔を明かさない大人気演奏系YouTuberの顔が今日明かされる可能性が出てきたのだ。

これにはネットは大盛り上がり。リアルタイムでtweetする者が爆発的に増えてお祭り騒ぎだった。

演奏系YouTuberの頂点の影響力の高さを今日再確認出来た。

 

 

それなりに話題に上がってるひかるんの素顔。

一体どんな顔なのか?

 

あの美しい演奏、クラシックピアノを奏でる姿を見れば絶対イケメン~~♪ と妄想する女子たち。

 

アニメやゲーム等の曲・BGMを再現したり、超アレンジしたり、オタ芸に合わせて演奏したり~で、オタク界隈を賑わせた事もあるから、実は重度のヲタク容姿なのでは? と想像するヲタク界層。

 

ジャズ系、歌謡曲系、アイドル達、その他諸々のカバーをしている所を見て、やっぱり相応なイケメン? と想像する男女問わず。

 

 

地上波でテレビ出演している人たちも一目も二目もおく存在のひかるんの素顔!

 

 

どんな素顔をしているのか?

とネットでは予想合戦で大盛り上がり。

 

その様子は、リアルタイムで表示されるテロップを見てぴえヨンは勿論、ひかるんにも伝わる。

 

 

「あっれれーー、おっかしーーぞーー? これって、もう僕が姿を出す! って確定で話してな~い~~??」

 

 

バサッっ!

 

ひかるんは、突如服を脱ぎ捨てた。

そこに光るはたくましい肉体美(アバター)

 

 

「ぴよよ! ……ほほう細マッチョ、と呼ばれる分類だねぇ~~! ボディビルの様に魅せる筋肉ではなく、機能性を重視した程よい筋肉……なるほどなるほど、体力自信の根拠はこれ! 燃えてきたヨ~~~!」

 

 

ピヨピヨ、と羽ばたく様に両手をばたつかせてジャンプ!

すると、場面が暗転して舞台背景が変わる。

 

 

「じゃあ、行ってみよう! ぴえヨンブートダンス! 全verついてこれなかったら、素顔晒す!! ヨシ!」

「言い方がアレだけど、よっしゃGOGO♪」

 

 

陽気なBGMにひかるんのカバー曲が加わったモノが流れ、マッスルポーズからの右ストレート右ストレートなボクササイズ。そしてリズムに合わせて台詞を合わせて様々なキツイポーズをとっていく。

 

 

「最初は誰でもヒヨコマッスル!」

「ピヨピヨぴ~~!」

 

「生まれる生まれる新たなマッスル♪」

「生まれて、テンション上がって、モチベも上昇!」

 

「ピーチク、パーチク、言うよりもDo it!!」

「できる・できる・できる!」

 

「今日から皆で覆面被ってピヨピヨぴ~~!!」

「無い子は全然素顔でOKだからねっ!」

 

「この世は~~弱肉強食さDo it!」

「ひかるんも~~思い知らされた内の1人!」

 

「パワーは力、厳しい業界 Let`s Survive!」

「パワーは力! ただの翻訳なのはご愛敬!」

 

 

「飛べない鳥のポーズ!」

「いつか、きっと、大空へ!」

 

「鳴かない蝉のポーズ!」

「また来年の夏に!」

 

「眠れない熊のポーズ!」

「蜂蜜食べて乗り越えろ!」

 

 

 

 

耐久ぴえヨンブートダンス。

物凄い長い尺で、そろそろ一体何をみせられてるんだろう? と思う視聴者も続出したようだが、不思議と同時接続数は安定値。

きっと、視聴者も同じ様にブートダンスでついてきているんだろう。……そして、力尽きてそのままダウンしているのかもしれないが、その辺りは自己責任で。

 

 

―――いや、ヤバいって。

―――オレも事務通ってるけど、アレ普通にしんどい分類。アレ長時間やるとか普通にヤバい。

―――何なら職業インストラクターです。はい、断言します。ひかるんさんの体力は普通に凄いです。

―――あたし~、途中までついていったけどダメ……5分でダウン。

―――そこはもうちょい頑張らない??

 

 

そんなテロップが流れに流れてきて~~………結果、連続時間2時間経過。

 

 

 

「ぴえヨンブートダンス!! こんっっっぷりーーーと!!!」

「ぴよ~~、ぴ……よ~~~~………」

 

 

コンプリート!

 

その字が出てきた途端、糸が切れたかの様に ばたんっ、と とうとうひかるんは倒れた。

ぴえヨンは立ってる。はた目から見れたらぴえヨンの勝ち! と言いたくなるような気もするが……最後の最後までたってたので、この勝負はひかるんの勝ちだ。

 

素顔晒しは無!!

 

 

ががーーーーーん!!!

 

 

 

「お見事! そして流石! どうやら噂はまごうこと無く本当だったネ!!」

「お、おほめに、あずかり、きょうえつ、しごく………」

 

 

ぴえヨンとひかるんは、そう言ってがっちり握手を交わした。

それを見ていた視聴者からは落胆したものが多かったが、最終的には大喝采コメントで埋め尽くされた。

 

だけど、それ以外にも多数あったのが。

 

 

「はいはいそこの君たちぃ~~! このぴえヨンとサドンデス、無制限マッチをすればマスク剥げるんじゃね?? って思ってないかぁぁい??」

 

 

テロップが流れるよりも先に、ぴえヨンが図星を発信。

すると、完全に図星でした~~と言うコメントであふれ出た。

そして、その期待もしていたのだろう、ぜひ!! と言うコメントも埋め尽くされんばかりに現れる―――が、ぴえヨンがそのコメントをパンチでぶっ壊すとハッキリと宣言。

 

 

 

 

 

 

「流石にこのぴえヨン! そこまで大人げない真似はできないのサ! 彼の年齢を考えたら(・・・・・・・・・)、ネ」

 

 

 

 

 

 

 

ここで、ぴえヨンちゃんねるは終了になった。

 

まさかの最後のぴえヨンの発言により ここで、年齢不詳でもあったひかるんの大体の年齢が推察できる!! と新たに論争を沸き起こさせたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜひっ、ぜひっ、ぜひっ………」

「はいはい、お疲れ様~! ……やっぱ、凄いネ。ひかるんは」

「い、いった、とお、り。な、なにをするにも、最後に、ものを言うのは体力、ですから………。げ、げんき、があれば……なん、でも…………」

 

 

タオルとスポドリを手に、ぴえヨンがひかるんを起こす。

 

 

「お疲れさま~~~~!!」

 

 

そんなスタジオにどたばた、と入ってくるのは1人の少女。

もうそろそろ高校生になるルビーだ。

 

 

「いやぁ、手に汗握っちゃったよ! だって、レイお兄ちゃんがとうとうデビューしちゃうかも? って思っちゃったんだよ! すごかった! 物凄く盛り上がったよ!! 2時間超えの動画なのにリアルタイム接続数凄かったよ!」

「ふっふっふ~~~。収益の方もバッチリさ! 過去一かもネ!」

「すごっっ!! 流石ぴえヨンとレイお兄ちゃんのコラボ♬」

 

 

ひかるんの正体。

それは、北斗玲……改め 星野 レイ 

 

何故斎藤じゃないの? と聞かれるかもしれないが、そこは最強で無敵の元アイドル、現タレントのアイが譲らなかった、と言うのが真相である。

 

因みに、学校的な公共の場では斎藤の名を使っている。

その名も斎藤ひかり。

 

3つくらいの名を使い分けてるレイ。それもある意味凄い。

 

因みに、わーわーと燥ぐ妹分にゲッソリして酸素ボンベを吸ってるレイを心配して追加のタオルやらスポドリを持ってきたのはルビーの双子の兄であるアクア。

 

 

「いやいや、滅茶苦茶運動した後なんだから、もう少し慮って休ませてやれよ」

「あ、ありがと……あく、あ……。ごめ、もう……ダメ」

 

 

そう言い残すと、レイはばたんっ、と倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……やっぱりまだしんどいかも?」

「そりゃそうだろ。あの運動量を考えたら限界突破して極限だ」

「いやほんと心配かけました、ありがとアクア」

 

 

その日の夜、レイの寝室でアクアがやってきて今日の話をしていた。

ブートダンス~の話だけでなく、妹のルビーの事をだ。

 

 

「それでやっぱり、今も意思は変わんない? アイドルになるのは反対?」

「当然だ。……ルビーをアイドルにはさせない。アイと同じ様な目に合う可能性だって否定出来ない。どうやったって許容できるもんじゃないでしょ」

「……良い具合にシスコンになっちゃったね、アクアも」

「……レイだって気持ち解るだろ? 当事者の1人なんだ」

「うん。そうだね」

「なら、レイだって同じだ。シスコン(同族)

 

 

アイが襲われたあの日の事。

レイの中には記憶としては存在しないが、事実としては存在している。

レイが居なかったらアイは死んでいた。そしていつでも守れるようなヒーローなんかじゃない。レイだってたまたま大丈夫だっただけで、ひょっとしたら本当は身代わりになってたかもしれないんだ。……いや、事実なっている。身代わりに、なってしまっている。

 

 

「B小町が解散して、アイ自身は全く人気は衰えない。でも鳴かず飛ばずになったアイドル部門。苺プロはそれを消滅させて、新たにYouTuberやネット系に力を入れた。幸いな事に、レイやぴえヨンちゃんねるのおかげで事務所は超黒字。経営には一切問題ないし、暮らしていける。僕にとっては今で十分理想的な展開なんだよ」

 

 

アイが引退した後、それなりに頑張ってはいたが……、あまりにもアイと言う光が強すぎた。失った光が大きすぎたが故に、その後は実績を伸ばす事が出来ず、アイとどうしても比較される様になり、鬱になったり、どうしても後に続く者が現れなかったのだ。

ルビーが~ともなりかけたが、まだまだ子供だった彼女に白羽の矢が当たる訳もなく、そもそもアイとの関係は伏せているので、そこまで目立つような真似をさせたくないと言うのもあった。

 

 

でも、だからと言ってルビーが諦める訳もなく。

 

 

「私は私の実力で、ママみたいなアイドルになってみせるんだ! 伝説のアイドル、【アイ】に次ぐのは私、【ルビー】!!」

 

 

そう言って、某大型アイドルグループ追加メンバーオーディション に応募。

 

 

応募総数13万6114人 第1審査 書類選考 合格者 1288人 倍率105.7

 

 

第2審査 面接 合否待ち 前回開催参考倍率 12.7

 

 

 

流石はアイの娘だ。

兄の心配などなんのその。このまま破竹の勢いで駆け抜けていくのが目に見えて解る。

 

 

 

「……頼むよ。解ってくれ母さん」

「んっん―――――」

 

 

そして水面下。

連日連夜、アクアはアイに直談判。

 

 

「母さんだって、解ってる筈だ。……オレはもう……あんなの、嫌なんだ」

「………はぁ」

 

 

息子の懇願、そして娘の煌びやかな笑顔。

それらを天秤にかけた結果――――アイも決めた。

 

 

 

 

そして更に数日後。

場所は苺プロ。学校終わりに直ぐに事務所へとやってきていた。

 

 

「「「ただいまーー」」」

「皆~、今日も学校お疲れさまー!」

 

 

今日は特別な日になるから。

今日―――アイドルになれるか否か、それが決まる運命の日だから。

 

 

「見ててね! 私、ママみたいになってみせるから!!」

 

 

アイに抱き着きながらルビーは宣言。

アイも笑顔でそんなルビーを抱きしめた。

 

その背後でアクアは参考書片手にルビーの頭を小突く。

 

 

「夢を語るのは大いに結構。でも目先の現実から目を背けるのは感心しない」

「ほらほら、ルビー。受験勉強も3人でしよう、って話してたでしょ? 電話待つ間も勉強勉強! ……この中で一番学業ヤバいのルビーだし」

 

 

世間では受験シーズン到来。

ルビーの中ではアイドル確定で浮かれている所申し訳ないが現実に引き摺り戻させて貰った……が、残念な事にルビーは全く動じてない。

 

 

「ちっちっち~~。甘いなぁ、お兄ちゃんズ」

 

 

大袈裟に人差し指を立てて、左右に振る。

何か手があるのか? 学業の方も大丈夫だと言うのか? と期待した……レイが馬鹿だった。アクアは解ってた様子。

 

 

「芸能科がある高校は面接重視! 学力なんて参考程度! アイドルになれば受験勉強なんてしなくて良くて一石二鳥!」

「豆知識感覚で人生賭けたギャンブルしようとすんな」

「はぁ~~~……。あの時、私頑張る! って聞いてたのに、なんかつらい。その辺はど―思う? お母さん」

 

 

某新喜劇ばりに見事なツッコミを入れるアクアと違って、中間期末とそれぞれで色々言ってきたレイは力が抜けた様子。

 

その後、アクアはルビーにアイドルとしての夢を壊さんばかりに現実を突きつけてゆく。母親の最初の給料からありとあらゆるリスク。メリットとデメリットがこんなにも釣り合ってない職業は無い、と滾々と。

 

ルビーに関してはアクアに任せる事にしてレイは、一応母親のアイにも一言貰おう! と思っていた。

 

 

「うーーーん、まぁ、私もべんきょーはしてこなかったからなぁ。ピンとこない? みたいな。後、親の給料事情を子供に聞かせたのは失敗だったーー、って今更ながら後悔してるくらい?」

「わぁ~、聞く相手間違えたかなぁ」

 

 

母であるアイの人生も中々壮絶。毒親で、途中から施設で過ごしてて、都会へ飛び出してきた女の子だった筈。

壮絶な人生と言えばレイもそうだが、事学業面で鑑みたらアイからの助言を貰うのは人選ミスを否めない。

 

 

「コーラ。今親をバカにしてない?」

「いたっ! ば、バカにはしてないけど、相手間違えたとは思ってるよ」

「バカにしてるって事じゃん! それ」

 

 

ぐりぐり~~と、ゲンコツとぐりぐり攻撃を喰らう。

そこにミヤコが入ってきた。

 

 

「そりゃ当然。仕方ないでしょう? あんたの生い立ち考えたら」

「ぶーーー、そーかもだけど、納得も出来ないっていうかーー」

「やれやれ。ほんと、こんな真っすぐ育ってくれたのは奇跡に近いわね」

「因みに、私に次ぐ事務所の出世頭! 四天王の1人になったレイを私はかんどーしてます!」

 

 

レイをアイは抱きしめて撫でた。

 

 

「まぁ、それも凄いのには違いないわね。……まさか、宝くじにこう何発も当たるような事になるなんて、昔の私じゃ夢にも思わなかったでしょうに……」

 

 

軽くため息を吐いて、ミヤコは椅子に腰かけた。

 

 

「あ、そーだ。ミヤコママ! またアイドルグループとかやらないの? 苺プロ(ここ)でやるんならわざわざオーディション受けたりしないんだけどー」

「簡単に言わないで。……そりゃ、私だってやれるならやりたいわよ。アイに次ぐ二の矢三の矢、某アイドルグループにも負けないチームをどんどん量産していきたいわ。………でも、奇跡ってのは2度あったから3度目もある、なんて安易に考えちゃダメだったの」

 

 

なまじアイで大成功しているから……その辺りが麻痺していたのだろう。

アイと言う強烈な個性。最強無比な個性があったからこそ、成り立っていただけに過ぎなかった……と現実を深く思い知らされたのはミヤコや壱護だった。

 

 

「まぁ、一度ドームを満員にさせて、サイリウムに染めたあの体験しちまったからなぁ。……そこんところは同情するぜ」

「同情すんなら金寄越せ。そんでもってさっさと仕事しろ」

「辛辣だな、オイ」

 

 

そこへ話題に惹かれてか、会話を聞かれていたか、壱護がやってきた。

 

 

「それでもまぁ、オレはルビーにある種期待はしてるぜ? 何せアイの娘だ。ポテンシャルはぴかいち。……ま、大っぴらにゃ出来ねぇけど」

「だよねだよね! 最強の遺伝子、ってヤツだよね!!」

 

「変な漫画の見過ぎじゃないかな?」

「はぁ………」

 

 

図らずも、全員で合否判定を聞くタイミングになってしまった。

 

事務所に電話のメロディが鳴り響く。

息をのむ。……勿論、その受話器を取るのはルビーだ。

目をきゅっ、と閉じて……万感の想いを胸に窶して……その判定を聞いた。

 

 

暫く続く沈黙。

 

 

ルビーの性格を知っている者だったら、その少しの沈黙だけで、理解が出来た事だろう。

ただ、誰も口にする事なく、ルビーからの答えを待った。

 

 

通話終了した後―――長い長い沈黙の後流れる大粒の涙。それは歓喜のモノではなく、悲痛なモノだと誰もが解る。どれだけ鈍い者でも、それは解る。

 

何かを言う前に、アイがルビーを抱きしめた。

そして、その胸の中で、ルビーは嗚咽を漏らすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は五反田スタジオ―――兼五反田家《実家》

 

1人の中年男性が盛大なため息を吐き―――、手に持ったスマホをベッドへと投げ込んだ。

 

 

「ったく、アイのヤツ、アクアのヤツも、……なんだってオレがこんな真似せにゃいかんのだ。妙な工作までしてやがるし……」

 

 

ルビーへの合否判定。

その連絡をしたのはこの男、五反田である。

勿論、彼が審査員だった~と言ったオチではない。

 

五反田は、審査員に成りすまして、不合格を伝える様に頼まれたのだ。

 

 

「兄妹ん中で唯一、背押してんのはレイだけ、か。……まぁ、アイツの場合ちと特殊だし、どっちもどっちのシスコンだな。………」

 

 

五反田は険しい表情をした。

レイは万が一の場合、自分が守れば良いと思っていそうな気がして危うい面がある事を知っているからだ。

実際、あの男は一桁前半の歳で大人1人を救ってしまった前例がある。

でも、あんなものそう何度も防げる訳がない事くらい解っている。アイドルが変態に、狂人にヤられる、なんて話はこの業界では珍しくない事。

 

 

「アイはアイでなんか考えがあるっぽいし……。ああ~~~、めんどくせぇ」

 

 

ぽいっ、と乱暴にスマホを寝台へと投げ捨てる。

何だかんだ言いながらも協力している所を見ると、五反田も星野ファミリーの事を心底気に入っている節があるからだ。

間違いなく、近い将来……また何か大きな事をやらかしてくる。脚光を浴びる機会がまた増える、と。

その波に乗り遅れない様に嗅覚を研ぎ澄まさせておかなければならない、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして更に数日後―――

 

 

 

「えっへへ~~、重大な発表がありまーす!」

 

 

最近まで意気消沈。

友達と遊ぶ時でさえも暗い表情をしていたルビーだったが、一転して花開く笑顔を取り戻していた。

 

何事か? とルビーの近くに皆が集まる。そして集まったと同時にルビーは高らかに告げた。

 

 

「この度、星野ルビーはアイドルになれます! スカウトされました!!」

 

「「………はぁ!!?」」

「まあ、驚きはしないけど。だってルビーだ。こんな僕でさえ、声が掛かった程だし」

「こーら、レイは自分を過小評価しすぎ。十分かっこ可愛いよ」

「……いや、可愛いはなんかヤダ」

 

 

吃驚仰天するのはアクアとミヤコ。

そして、十分過ぎる程あり得る事だと納得するのはレイ。そのレイの誤った自虐ネタ、美意識を何年も矯正しようとするアイの構図。

 

 

「えへへ! ま、アイドルって言ってもいわゆる地下アイドルなんだけどね! ママもスカウトからアイドルになって、伝説になった! その後を継ぐ私としては、やっぱり運命だと思うんだ! 導かれてる~~って思わない?」

「ふむ」

 

 

ルビーが目を輝かせて夢をおう。

決して諦めない姿勢がしっかりと現れていて、これは誰がどう止めようが止められない。そんな風を、アイは感じた。それと同時に腰に手を当ててアクアとミヤコに向き直る。

 

 

「もう、諦めなさいアクア。それにミヤコさんも。これ以上駄々こねると、私本気でルビーをプロデュースして、ここを出てって私個人でグループ立ち上げるからね!」

「いや、いきなり何言ってるの母さん!!?」

「へ? へ??」

 

 

ルビーはいきなりのアイの宣言に目を白黒させて戸惑った。

今の今まで酔いしれていた自分が完璧に霧散し、ただただアイの言葉の真意をどうにか探る。……全然探れない。

 

 

「はぁぁぁぁぁ……、正直もうちょっと時間が欲しかった、っていうのが本音よ。ソロでやるのは効率悪いし、知名度もない。ある程度人数が集まって、それと同時進行でアクアを説得して―――って感じで」

「うん! それは私も同意してた。でも、もう無理。ルビーはほんと色々と惹きつける。流石は私の娘!!」

「………良くも悪くも引き寄せるだろ。オレが言った事もう忘れたの?」

 

 

全然納得できていないアクアは表情を硬くさせ、声を低くしてアイに訴えかけた。

どうやら、アクアの願い―――ルビーにアイドルをさせない、と言う決意は表面上は納得したようだけど、水面下では何やら画策をしていた様なのだ。

 

 

「流石、母親だよね。アクアとそっくりだ。やる事色々」

「……………」

 

 

そして、アクア自身もおなじこと。

ルビーがアイドルにならない様にとあの手この手で工作をしていた。つまるところ、アイもアクアもまさに似た者親子と言う訳なのだ。

 

 

「ここまで来たら腹をくくろう。大丈夫だよ。何かあったとしても僕達皆で――――」

「何かあってからじゃ遅いんだよ!!」

 

 

アクアは大声を上げた。

そして、場に沈黙が流れる。

 

 

「何か、あってからじゃ遅いんだ。……それくらい、みんな、わかってるはず、だろ?」

 

 

表情が歪む。苦痛に身もだえる。

そう、此処にいる全員が知ってる筈なんだ。あの痛ましい事件の当事者たちなのだから。

 

 

「ルビーも考え直してくれ。あの時みたいな想いは………もう」

 

 

最後まで言い切る前に、アイがアクアを抱きしめた。そして、レイもアクアの傍によった。

 

 

「大丈夫。絶対、大丈夫。……レイに先に言われちゃったけど、もう前の様には私たちがさせない。誰よりも、私がそう思ってるから」

 

 

頭を撫でて、そしてつづけた。

 

 

「私だって、護られた側の人間(アイドル)だからね? アクアの気持ちだってよーくわかってるつもり。でも、ルビーの気持ちもわかる。止められないし止まらない事も解る。……下手したら暴走だってしかねないって」

「……なんか、説得力が物凄い」

「変な茶々いりません! 私を助けてくれたスーパー息子(ヒーロー)!」

 

 

こつん、と撫でていた手を放してレイの頭にゲンコツを入れる。

 

 

「でもっ」

「アクア!」

 

 

そして、ルビーが前に立った。

 

 

「気持ちは解るし、心配してくれてるんだって事も凄くわかる。でも、お願い解って! だって、したい事をするのが人生でしょ!」

 

 

ルビーはアクアの眼を見てハッキリと言う。……言い続ける。

そのアクアの瞳の中に居る自分の姿が視える。

 

それは、今の姿―――星野ルビーではなく………。

 

 

「綺麗事だけじゃすまされない事だってある。それに前に言ってたコストとかリターンもそう。だけど、そんなの私は嫌。だって、だって……」

 

 

前の自分の姿が、アクアの瞳の中に居た。

何も出来ず、ただただTVの画面の中にあこがれ続けたかつての自分の姿。

 

 

 

「―――何も出来ないまま、終わる人生だってあるんだよ。私はそれだけは嫌。……もう、二度と……絶対に嫌」

「ッ………」

 

 

アクアは、もう何も言えなくなってしまった。

させまい、としていたのに、何を言われても聡明な頭で色々反論を準備していた筈、なのに。

 

 

「ルビーの心を殺してまで、止めたい事、なのかな」

 

 

レイはアクアの眼を真っすぐに見ていった。

 

 

「絶対に大丈夫。何なら、セキュリティ強化に僕のギャラ全部使っても良い。……それにあの時はお母さんが不用意にドアを開けちゃったから」

「う゛………」

「今はAIだって凄い発達してるし、顔認証システムだって凄い。そりゃ、それに対抗した犯罪も総じて行われてるけど、絶対に負けたりしない」

 

 

レイは目を大きく開いて、そして笑顔で言った。

 

 

「僕は、皆と楽しく、笑顔で、色々と頑張っていきたいんだ。……ルビーから笑顔を取り上げる様な事は、やっぱりしたくない」

「……俺からなら、良いのか?」

「そうは言わないよ。……アクアだって同じ。でも 心配は杞憂だ、って言えるくらいに。無用な心配だった、って笑っちゃうくらいに、頑張って見せるから。……だから、少しで良いから。信じて欲しい」

「――――――」

 

 

アクアは、頭を掻きむしった。

一頻り、搔きむしった後に小さく一言だけ呟く。

 

【わかった】

 

 

と。

 

 

「―――はい。なんか、私だけ蚊帳の外にされてた感じだけど、一先ず注目」

 

 

ミヤコがここで手を叩いた。

アイはアクアの身体を離し、ミヤコの方を向く。皆も同じだ。

 

 

「まずルビー。いまいちど聞かせて。……貴女が入ろうとするアイドルの世界は、大変な所よ。アイの姿を見て、色々夢を抱くのは良い。でも、それ以上に大変。あれだけ駆け足で上がっていったアイでさえ、本当に大変だったんだから」

「はい。大変だったけど頑張りました」

 

 

思い返すのはB小町の初期時代。

アイだけが確かに人気になっていった。あっという間に周知されていった。

でも、強すぎる光故に、闇も同時に生まれていった。嫉妬、妬み………様々な負の感情が一点に向けられたあの感覚を覚えている。

アイだって、何でもない風に装っていたが、実際は他人では解らないくらいの葛藤を抱えていた筈だ。

 

 

「それに売れなくて惨めな想いをするかもしれない。給料面でも。自分で稼げないから(レイ)に頼ってばっかりなのもまた違う意味で惨めになってしまうかもしれない。他人の視線を常に意識して、気にしながら送る事にもなる。【ストーカー被害】なんてそこら中にありふれた話。―――それでも」

 

 

ミヤコが言い切る前に、ルビーは一歩前に出た。

 

 

「当たり前だよ! 私、頑張る! だって、なれるんだよ? 私だてやっとアイドルに、ママと同じ舞台に立てるんだよ!! ママを継ぐのは、絶対私なんだ!!」

 

 

ルビーの強い強い決意が、曲げられない意思が、そこにあった。

これを自分は防ごうと、矯正しようとしていたのか、とアクアは頭が痛くなってしまう。大砲の軌道を紙の束で変えようとしてるも同然ではないか、と思う。

 

 

「じゃあ、結論は1つね。……ルビー。貴女、その地下アイドルのスカウトは断りなさい」

「え………えっ!? なんで!? わ、私は本気でアイドルを――――」

「ルビー。最後まで聞いて」

 

 

断られた事に驚き、目を見開くルビーだったが、そんなルビーを安心させてあげる様に、アイは頭を撫でた。

 

 

「本日をもって、ウチの事務所―――苺プロは新規アイドルグループを立ち上げます」

「そう! そして、母である私がそのグループを日本一に――――」

「貴女は全権参加不可! っていうか、そんな事出来る余裕一切ないでしょ!」

「えーー、けちーー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アクア!」

「ん」

 

 

全ての話が終わり、正式な書類を纏めてルビーは晴れて苺プロ所属になった。

それを見届けた後、アクアは五反田の所へ向かうと外へ。

そのアクアを追いかける形で、レイが駆け寄ってきた。

 

 

「その、えと、……なんて言っていいか………」

 

 

今の今まで、ついさっきまであんなにつらつらと言えていた筈なのに一転してしどろもどろになるレイ。

何処か申し訳なさそうに表情を歪めてるのを見て、アクアは軽く笑った。

 

 

「さっきまでの威勢は何処にいったんだよ。バカ兄貴」

「な、ば、バカはヒドイじゃん! 僕は僕で、どうにか妹を守りたかっただけで。でも、その……アクアの事を蔑ろにしたかったわけじゃなくて、色々とぐちゃぐちゃになっちゃったんだよ。わかってよ」

「………ああ、わかってるよ」

 

 

アクアは少しだけ笑うと続けた。

 

 

「どこの馬の骨とも解らんグループでやられるよりは良いって もう割り切れてるから。身内が運営。悪いようにはならないだろ。……それに、レイだっているしな」

「ッ………」

 

 

レイがアイを守った事で、アクアは深い傷を残してしまった。

アイを守れたら全てが救われる―――と思っていたのが甘かった。どうしてもトラウマと言うモノは精神に蔓延ってくる。それを失念していたんだ。

 

でも、アクアの今の言葉を聞いたらひょっとしたらもう――――……。

 

 

 

「何をするにしてもやっぱ肝心な時に力になるのは財力。うん、信頼してる。絶大な信頼を送る。これからも頼むよレイ・マネー」

「って、何その嫌な言い方!」

 

 

 

 

 

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