認めない子   作:アイらゔU

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遅くなりました、あけましておめでとうございます!

3期始まりましたね〜!

はてさて、どうなることやら………………


第39話 星の陰

半分は眠っている筈だけど、半分はまだ起きている。

そんな状態。色んな事が重なって差しの体力自慢な所のあるレイもオーバーワークだったようで、ただただまどろみの中で、思考だけが彷徨い、揺蕩っていた。

だからなのだろうか、これまでの事を思い返し、そっと撫で合わせるのは。

 

 

 

 

 

アクアが2人と……あかねさんやフリルさんと何を話していたのか……。

凄く、気になるなぁ……、2人とも内緒って教えてくれなかったし……。

そう言えば、鏑木さんともアクア、話をしてたって言ってたかな……。

それにあかねさんやフリルさん。

あの2人がどうしてここまで()に執着するんだろう? そんなに惹かれる様な要素、あるとは思えないのになぁ。

あの時は本当に僕の本心だから、2人とも解ってくれたと思うんだけど――――やっぱり、気に、なっちゃう……かなぁ……。

 

 

 

 

 

考える事が山積みだ。しなければならない事だって多い。

まだ―――まだ―――本当に、多い。僕が、僕である為に……。これから先の事も、今日の出来事も、全部整理して明日へ備えて……。

 

 

 

けれども、そんな泡沫の状態も終焉を迎える。

 

 

急に霞がかり、視界が黒くなっていくような感覚がした。頭の中がどんどん重くなっていくのも感じられる。まとまっていた言葉の一つ一つが、まとまらない。言語化出来ていた感情の一つ一つが、定まらない。

重く、重くなるのに……不思議と不快感は無かった。もう身を任せて良いんだよ、と傍で誰かがあやしてくれているかの様だった。

 

まだ、頑張れると思っていた身体は思考は、軈て本当に終わりを迎える。疲労は既に深い所にまでしみ込んでいて、最後の一呼吸で、ふっと最後の意識をも手放した。

 

何もかもが無くなり、静かな闇が。それでも暖かな闇が心地よく広がる。誰も邪魔しない領域へと誘い―――レイは眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先ほどまでのどんちゃん騒ぎの喧噪が嘘の様に、苺プロには静寂が訪れていた。

つい今しがた、有馬を見送った後にアクアはそれとなくレイを託されていた。

 

 

『レイ、色んな意味でもう限界かもね。あんたが傍に居た方が良いんじゃない?? ママさんや妹は当てに成んないんだし』

 

 

何処かぶっきらぼうで、可愛げのない言い方。

それこそが有馬だと言って良いし、節だとも思えるが、その深奥にはレイの事を思って言っているのが伝わる。有馬かなとはそういう女なのだという事くらい、アクアはとうに知っている。

 

言われなくとも、もう一度くらいは顔を出そうと思っていた。

それもルビーやアイが戻ってくる前に。あの2人が揃うと直ぐに解るので、様子を見るとしたら、今のタイミングが一番だろう。

 

 

冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り出し、喉を潤すと、アクアは向かう。

ドアに手をかけて、あける前に少し中の様子を耳を澄ませて探ってみると―――ほぼ無音だ。空調機、エアコンの音だけが室内にある唯一の音だと思わせる程に。

 

 

アクアはゆっくりと扉を開ける。

 

 

すると、開いた扉の先に見えたのは、打ち上げで色々と散らかしていたテーブルを几帳面にも整理して、スペースを確保しつつ……そのテーブルに突っ伏しているレイの姿だった。

見ただけでわかる。眠っている、と。呼吸はほんの僅かで静か、肩が小さく上下していた。どことなく哀愁漂う姿なのは、散々皆に弄られた事や今ガチのメンツにさえも弄られた疲れからだろう、とアクアは察して小さくため息を吐いた。

 

最後の最後、ある程度の掃除までしている所を見ると……どうやら、全部は無理で力尽きてしまったようだ。

 

 

「全く……。変わってないな」

 

 

そんなレイを見て、ため息を吐きつつもアクアは目を細めた。

レイのこの姿は昔はよく見ていたモノだ。

幼き身体に対して酷使するその仕事量は、大人も驚く程のモノだった。自分たちでさえ、無駄に眠気を感じてしまう幼子の身体は燃費が悪すぎた。

それでもピアノを全力で弾き、全力で応え、全力で笑顔を見せる。

 

 

誰もが、その音色に、身体全体で表現するその姿に目を奪われる。

既視感とはまさにこのこと。アイドルとしてのアイのその属性と何ら変わらないものを、レイは持っているのだ。

 

 

「最強で、無敵……か」

 

 

今際の際の話をアクアは覚えている。

レイがアイに対していった言葉だった。

あれはアイに対してだけじゃない。自分の目から見ても、星野レイは星野アイと同じ域に居ると言って良い。

 

 

「――――」

 

 

だから、だから―――もう二度と失ってはいけないんだ。

もういなくなってしまった()の分まで自分たちが、何とかしなくちゃいけないんだ。

 

 

アクアはそう決意を胸に抱きながら、従いながら手始めに風邪でもひかれたら幸先不安と言う事で毛布を引っ張り出してレイにかけてやる事にする。

その毛布を肩先まで引き上げ―――僅かに止まった。

たったこれだけの動作なのに嫌に緊張が走る。残る。

 

 

レイは、ただ疲れて眠っているんだ。皆に散々弄られて、色々と疲れもたまっていたから、思わず寝てしまっただけなんだ。

 

 

と、思わずアクアは自分自身に言い聞かせている。 

 

 

そんな心配はない(・・・・・・・・)、と。

 

 

規則正しい寝息も、睡眠体勢は決して好ましいものではないが、若い身体だ。この程度なら普通にある事。何なら激務の大人の方が、身体にガタが来ている大人の方があり得過ぎる事だから。

 

レイは大丈夫だ。だから、ひと時の休憩をも、過剰な心配で邪魔してはいけない。

 

 

―――でも……。

 

 

アクアはそうは思いつつも、脳裏では別の光景が浮かんでいた。

この姿を守る為にも、しなければならない事がある事を、改めて思い返しながら――――あの賑やかな騒がしい舞台袖。人気のない喫煙スペースの場所でのやり取りを、アクアは思い返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BAR ~Fellini~にて

 

 

 

打ち上げ会場は、まだまだ熱気を帯びている。

 

夜はまだこれからだ、と言わんばかり。高校生(疑)達が中心となる打ち上げの場だというのに、聊かそぐわなくないか? と無粋な事は今更考えない。

 

そもそも、今自分自身は……アクア自身はその騒がしい場から離れている。

 

仄かに香る程度の場所に向かっている。

 

グラスがぶつかる音や笑い声、まだまだ騒がしい喧噪とそして鼻に届く大人の香り。

同時に享受しながらアクアが向かった先は外だ。もう夜空は暗く、星が瞬いていた。

 

 

「やぁ、お疲れ様だったね」

「ええ」

 

 

そこには1人、煙草を世知辛い、と言わんばかりに吹かしていた男がいた。

そう、番組プロデューサーの鏑木である。

 

鏑木の元へアクアは向かったのだ。

アクアは鏑木の隣に立つと、何が合図だったのかはわからないが、鏑木は話し始めた。

 

 

「今回の『今ガチ』。過去に類を見ないレベルで評判が良かったよ。……やっぱり、苺プロにパイプを持ち、そして此度、君達を起用した俺の手腕は間違ってなかったようだ」

 

 

鏑木はゆっくりと煙を吐きながら言った。

それは自画自賛の言葉だが、嫌味の類はその中には含まれてないようだ。

事実としての手ごたえと結果としての成功をただ告げているだけ。

 

イレギュラーと言えどもあのトップタレントである不知火フリルを起用することが実現した時点で番組の格が一段も二段も上がる事は元より想定していた。

 

彼女の影響で視聴者の入口は確実に広がるし、話題性も事欠かない。SNSを中心に上手く駆け巡り、全てに益を齎した。それらは想定の範囲内。

だが、ここまでとは思わなかった、と言うのが正直な感想。

これを嬉しい誤算と言うのだろう。

 

 

フリルを起用した時点で考えていた目標設定数値を大幅に超えてきたのだから。

 

 

まさに誰もが見たことの無い、想定外の結果をたたき出したのだから。

 

 

「……あいつ(・・・)は、優秀ですから」

「何を他人事の様に言ってるんだい?」

 

 

アクアの答えに対して、鏑木は少し大きく吸い込んでいた煙草の煙をため息交じりに大きく吹く。風に乗って、噴出された煙は軈て天へと上る様に消えていった。

 

 

「現場の話は勿論、俺も君の事を十分評価している。……アクア()あっての、レイ()だと言っても決して大げさじゃない。どんな人間にも支えと言うものは必要だからね。―――だから」

 

 

鏑木はまた軽く息を吸い込むと、穏やかな表情を見せて言った。

 

 

「誇って良い立場だ」

 

 

最大の賛辞の言葉である。

含みも何もない純然たる評価である、とアクアは感じた。嘘偽らざる鏑木の言葉だと。そう感じたから……だろう。だからアクアは話を()へとつなげたのだ。

 

 

「―――どうも、と言っておきます。でも、そう喜んでばかり居られる様な状況(・・・・・・・・・・・・・・)じゃなかった、ですよね?」

「―――――」

 

 

少し、鏑木は目を見開くと……やがて視線をアクアから空へと映し、またため息を吐く。夜空に瞬く星々。歓迎してくれているかの様に満天の空なのだが……、少々耳が痛い指摘だ。

まだ残っていた煙草だが、早々に捨てて次の1本を口元に運んで火を付ける。

深く深く肺いっぱいに空気を入れ、そして吐き出された白い煙は再び天へ。夜気に滲むように溶けていった。

 

 

「正直忘れたい所、だけどね。まぁご指摘の通りさ。特に件の記者。あの鮫島と密に関係のあった上層部は生きた心地はしなかっただろうね。今まさに現在進行形で。――後始末が大変だ」

 

 

実情から言えば、諸悪の根源は鮫島1人だと言っても過言じゃないレベル。

 

一介のゴシップ記者とは思えない程の人脈、根回しの手際の良さ。危機管理能力。

どれを取っても敵に回したくない存在だったが故に、藪蛇を突くような真似はしまいとしたのが始まりであり、そこから派生していき、癒着と呼べるモノにまでつながったのだ。

 

何を暴けば競争相手が致命になるのか。

そして逆に何を伏せれば恩になりえるのか。

 

全てを熟知し、己の力として昇華していた。飴と鞭の使い方が極限ともいえる。だからこそ、あの位置にまで上り詰めたのだろう。

 

元来、持ち得る才能を、才ある能力を、そちら側(・・・・)へ全振りした結果が鮫島と言う男なのだろう。

 

ただ、今回に限ってはこれまで積み重ねてきた《実績》と《経験》に驕りがあり、慢心もあっただろうが……とにかく今回は相手が悪すぎたに尽きる。

 

 

「良かったですね、無関係で(・・・・)

「ああ、その通りさ。俺の嗅覚の方も捨てたもんじゃないって事だね」

 

 

そして鏑木はほぼ一切関わりのない相手だったのが何よりも幸運だと言えるだろう。普通の業務的な応対はしたことがあるが、外法の道に関しては通じていなかった。

 

 

「僕も、この歳で刃傷沙汰を二度(・・・・・・・)も経験するとは思いもしませんでした」

 

 

不意につぶやいたアクアのその言葉は、その口調、何処か冗談めかしたものとは裏腹に、鏑木の胸に確かな重さで落ちた。

苺プロとパイプを持っている。当然、星野アイとも。だからこそ―――鏑木も知っている。1度目の事を。

 

 

「不思議ですよね」

 

 

アクアは鏑木の吐かれた煙が天へと上るその先を、まるで見据えている様に告げる。

 

 

「たかだか生まれて10数年程度。短い人生で起きた2つの大きな事件。……その渦中には、いつもあいつ(・・・)がいた」

 

 

偶然―――と言っても良いと思える。

少なくとも、1度目の事件の犯人はもう既に死亡しているし、鮫島とその辺りの認識は無い間柄だったからだ。連動している、関連性があるとは到底思えないものだ。

 

ただ―――アクアが言う様に、如何に10年前と言えども、まだ短い子供の生涯で2度も起きるもの、なのか? と問われれば安易に頷けない自分もいる。

 

 

【そういう()の下に生まれた】

 

 

からなのだろうかとも思えてしまう。

或いは彼自身が火種なのか……。傍から見る分には全く問題ない、寧ろ好印象以外の何物でもない彼だが……とある道筋の輩から、そいつらから目を通して観る彼の姿は――――。

 

 

「まぁ、あれですよ。僕は――――()は、心配なんだって事です。優秀で底抜けにお人よしで、それでいて自分を顧みない兄を持つと不安で仕方がなくて、実際今も心配しています」

 

 

何処か遠くを見るアクア。

 

これはアイにもルビーにも、ミヤコや壱護、ましてやレイ本人にも告げてない心の内だ。不意の言葉だったからこそ、鏑木にも更に重くのしかかったのだろう。少しだけ間をおいて、鏑木は頷いた。

 

 

「その辺りは、俺自身も解っているつもりだ」

 

 

解っていてもどうしようもない事はある。

一体だれがアレを未然に防げるというのだろうか? 兎にも角にも、レイは間が悪いのか良いのか……助けてもらう側からの視点であれば、正しく救世主とも言えるタイミングの良さ。ただ、レイ自身を心配する身内からすれば、まさに生きた心地がしない。

 

 

「……一体、どうしたものやら」

 

 

アクアはまた天を眺める。

この胸の内は、鏑木が初めてだ。なぜ彼が初めてなのか、明確な理由、論理的な理由は無くある程度の直観的なものに身を委ねている。

レイは勿論、苺プロも鏑木Pの事は信頼している節があると言うのも、大きな理由の一つだろう。

 

 

「(アイが聞いてたら、どう思ったかな……)」

 

 

……ただ、少なくともアイには……と思わなくも無かった。でもアイは嘘の天才だ。己の本心を奥底へと隠し、のらりくらり。家族であってもその懊悩は見えない。見たことがない。

だけど、間違いなくアイはあの日からずっと考え続けている筈なんだ。レイを見る目をみれば……それくらいはわかる。

妄りに余計なことを考えさせないほうが良いと、アクアは思ったのである。

 

鏑木は煙草を最後にひと吸いし、吐き出してから煙草の吸殻を灰皿へと押し付けた。ジッ、と短い音。それだけで夜の喧噪からまるで切り離されたような静けさが訪れたような気さえする。

 

 

「さて、契約は契約だ。これは苺プロとは関係なく、俺と君の個人間で交わしたと思っている。君が聞きたい事があるって話だけど――――レイ君関係かな?」

「…………」

 

 

アクアは視線を少しだけ鋭くさせ―――目的を鏑木へと伝えるのだった。

 

 

 

 

 

そして、更に数分した後。

 

 

「見なくなったと思ったら外にいたんだ?」

 

 

鏑木が席を外し、背を向けて去っていくその音が掻き消えたその後、代わりにフリルがアクアの元へとやってきていた。

そして、フリルだけじゃなく。

 

 

「アクア君も主役の1人なんだからさ? 皆と一緒に居なきゃだめだよー」

 

 

あかねも同様に、だ。

何をどう考えたら良くて裏方で、目立たず無難に過ごした自分が主役なんだ? と呆れ半分が顔に出ていたのをあかねは察したのか。

 

 

「私たちを救ってくれたんだから。アクア君も」

「そうそう。そういう意味でも、主役(ヒーロー)だと思ってるよ」

「……………」

 

 

 

2人が言わんとする意味。何となく……いや、間違いなくあの事だろうな、とアクアは合点がいく。

 

 

「かなりの綱渡りだったけどな。あの動画を拡散させるのは」

 

 

大々的に報じられた捏造記事。

3人【あかね、フリル、ひかり】と5人【ゆき、MEMちょ、ノブ、ケンゴ】らの対立及び確執。

 

そんなものを感じさせないオフショットの数々。それは収録時に撮られたものであるというのは、時系列でのイベント内容や振られた日付で分かるが故に、週刊誌で報じられていた様な状況になってないという理由には十分なりえる。そもそもな話、オフショットでは全て皆仲良く、殺伐としていない空気だった。映像からそれが滲み出ていた。

どちらかが捏造している――――ともなれば、あの鮫島が逮捕された時点で、誰もが解る事だろう。

そして、最後まで信じてくれたファンたちも含め、あれからも根強い応援もあり、無事に走り切る事が出来たのだ。伝説の回とも言われていて、いつ沈静化するのか分かったものじゃない。

 

 

「業界の(ルール)。収録時の素材を外に出さない。僕はそれを強引に破った。今回は、上が芋づる式に罰せられているから、それどころじゃなくて幸運に助けられたけど、もしもそうじゃなかったら―――」

「それは違うでしょ?」

 

 

最後までアクアに言わさずに、フリルが遮る形で声を上げた。

 

 

「元々動画アップしたのは今ガチ公式SNS。あそこなら上げても良い、って言われてたし、だからアクア君は何の契約違反もしてない」

 

 

そういってフリルは手を広げた。

 

 

「アクア君は私たちを……ひかり君を助けてくれた。それだけだよ。アレで何か言ってくるなら、ウチの事務所から抗議したって良いし」

「……それはまぁ、随分と心強い後ろ盾をもらったよ」

 

 

アクアはそう言って苦笑いをした。

だが、これは好機ともとれる。

 

 

――不知火フリルへの貸し、恩義。

 

 

これは間違いなく使える。

黒川あかねの力もそうだが、この現場で2人と出会えた事がかなりの僥倖だと言えるだろう。鏑木だけに留まらず。

 

 

「何かあった時、今度は不知火さんの事務所(とこ)に助けてもらえるっていうのも心強い」

「うん。任せて。それくらい朝飯前」

 

 

ぶいっとピースサインをする。

あの不知火フリルが《朝飯前》発言に、少し目を丸くさせる。

ルビーが聞いたらどんな反応を見せるだろうか? とも同時に考えながら。

 

 

「私も何かお礼したいな。フリルさんの所みたいに大手とは言えないけど、私にできる事なら何だってするよ」

 

 

あかねも名乗り上げた。

強い決意を目に宿すそのあかねの雰囲気は、まるで心の奥底まで見られているかの様な不思議な感覚がある。僅かな時間と情報だけでレイに辿り着き、更にはレイが好意を持つ相手であるアイまでも演じて見せた。

 

不知火フリルの方がネームバリュー的には間違いなく上だが、黒川あかねもそれを補って余りある技術の持ち主。

 

これ以上ない程に心強い2人。

 

 

――――本当に、本当に………使える(・・・)

 

 

アクアの僅かに光掛った瞳が、暗く沈んで行く。

 

 

「―――もう2人は分かってると思う。それを前提に話させてもらうけど」

 

 

アクアの雰囲気が変わった事に気付いた2人は、自然と姿勢が伸びる。

聞こえてきた室内の騒がしい声も掻き消えてしまう程に、静寂が3人を包む。

 

 

「――ひかりが誰なのか(・・・・・・・・・)。知ってるモノとして、話を聞いてもらいたい」

 

 

アクアは声色を低く、表情も暗くさせながら続けた。

それは鏑木に話した内容とほぼ同じだ。

 

 

一高校生が、生涯で刃傷沙汰に二度も巻き込まれた事。

その渦中に居るのが、ひかり――――レイであること。

二度退け、上手く行ったかもしれないが……3度目があるかもしれないし、無いなんて言えない。それ程までに……。

 

 

「レイの危うさ。たぶん……2人も体感したと思う」

 

 

アクアの言葉に何も言えなかった。

言えない代わりに、小さく短く、こくりと頷く。

 

当然だろう。鮫島とのやり取り。明らかに変わった攻撃的な姿勢と殺気に近いオーラを向けたあの姿。

それぞれの伝手と情報収集力にて、レイの真実にたどり着いている2人を見てアクアは頭を下げる。

 

 

「あいつを、失いたくない。……もう二度と(・・・・)。だから――協力してほしい」

 

 

アクアの想いに対して否定など出来る訳もなく。絶対に協力する旨を誓った2人。

 

その後は、この雰囲気を少しでも和らげるために、報酬についての話をして場は盛り上がった。

主にあかねの肩を持つアクアに対して、フリルは不満な声を上げた。その理由が、フリルはレイの同級生で同じクラスだから、あかねがフェアじゃないと話せば、あかねは思い出したかの様に、ずるいっ! と言わんばかりに頬を膨らませる。

 

 

「僕としては協力者のどっちかが、レイ(あいつ)とくっついてくれたらやりやすいって思うんだけど―――」

「「任せて!!」」

 

 

2人同時に胸を叩く姿に、アクアは朗らかに笑う。瞳の星を黒くさせながらも、朗らかに笑う。

 

 

「そうか。キープしてるのはレイの方だったか。……まぁ、頑張って。心情的にも応援してる」

 

 

アクアの応援を受け取り、あかねとフリルは室内へと戻っていく。

決意を新たに、そしてレイと向き合って更に秘めたる力を増幅させた。

 

ただ、アクアと何を話していたのか?というレイの質問に対しては、2人同時に「秘密」と返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アクアは、ゆっくりと意識を現実へ引き戻した。

喧噪も煙草の匂いも、鏑木の低い声も、あかねやフリルのプチ修羅場も――すでに遠い。

視界にあるのは、机に突っ伏して右頬を押し付けているレイの寝顔だけだった。

浅く規則正しい寝息。

長い睫毛が頬に影を落とし、先ほどまでの張り詰めた空気が嘘のように、穏やかな表情をしている。

 

 

――少し、無防備すぎるな。

 

 

そんな感想が、思わず胸に浮かぶ。

ほんの少し前まで、命の危険と隣り合わせだった人間とは思えないほどだ。それに、ここにフリルやあかねがいたらどうなってただろう? と思うアクア。

2人にも思い切り捕まえておいて欲しいものだ、とも思う。……もう、どこにも行かないように、と。

 

アクアは、その寝顔を数秒だけ見つめた。

そんな時だった。

 

 

 

「レイ、寝ちゃった?」

 

 

 

 

背後から、聞き慣れた声がかかる。

 

 

――ゾワッ!

 

 

それは背中を、何かが撫でるような感覚に近い。

理由もなく、身体が先に反応した。声を上げなかったのは奇跡に近い。

アクアは、ゆっくりと振り返る。

そこにいたのはアイだった。

いつもの調子で軽く首を傾げ、楽しそうに微笑んでいる。

 

 

「(……なんだ)」

 

 

すぐに、理屈が追いつく。

つい今しがた呼ばれていたCMの打ち合わせが終わったんだろう。ルビーがいないのは少し気になるが、あの厄介妹は結構ガチ気味に怒っていたので、まだ不貞腐れているからなのかも知れない。

 

 

「(色々、考えすぎてたかな)」

 

アクアはため息を一つ。

レイの顔を見ながら思い吹けるには内容が重すぎた。

その余波で、感覚が過敏になっていただけだろう。

間違いなく普段なら、気づけた。賑やかが具現化したような我が母なのだから。

 

足音も気配も。

 

だが今回は違う。それだけの話だ。

 

 

「……うん。俺が戻ってきた時にはもうこんな感じ」

 

 

短く答えると、アイは満足そうにうんうんと頷いた。

 

 

「そっかぁ。じゃあ、アクア! そろそろ私にも独占させてよー! ほらほら、ちゃーんと連れてくからさ! ここからは、ママにまっかせなさーい!」

 

 

矢継ぎ早にそう言い、胸を張るアイ。

 

 

あまりに、いつも通りで。

あまりに、無邪気で。

 

 

アクアは、力が抜けるのを感じた。

正直、疲れていた。

考え続け、疑い続け、守ることを選び続けた結果だ。

 

 

「分かった、分かったから。……母さんに任せるよ。てか、声でかい。レイが起きる」

「おっととーー! そだねっ!」

 

 

それだけ告げる。

 

丁度そのタイミングで、廊下の方からアクアは自分の名前を呼ばれたのを聞いた。

声はミヤコのものだろう。今日はもう終わりの筈だが、何かあったんだろうとアクアは立ち上がる。

そして、最後に一度だけレイに視線を戻し、部屋を後にした。

 

 

 

 

 

扉が閉まる音が静かに響く。

 

 

室内には眠るレイと、アイだけが残された。

アイはしばらくその場に立ったまま動かなかった。

そして、ゆっくりとレイの傍へ近づく。

毛布をかけられたその顔を、真っすぐに見つめる。

 

 

その瞳は――

暗く、深く、黒く輝いていた。

まるで光を映すことを拒むかのように。

まるで影が差し込んだかのように。

 

 

 

 

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