認めない子 作:アイらゔU
苺プロの会議室。
突然のアイの登場により、生まれた沈黙はほんの数秒の筈なんだけれど、体感時間が物凄く長く感じている。特に憧れのアイに、元トップアイドルにして今もなお日本の最前線を走っているトップタレントであるアイを前にしたMEMちょ。心情では最早爆発しているようなものである。
そしてもう一人は当然ながらレイ。
ミヤコの意味深な~と言うか、当然の帰結とも言える現象を耳にした後の、まるで図ったかの様に登場したアイに、思考時間はしばらく奪われてしまったのである。
完全なる冤罪なのに。……日本では古来より【口は禍の元】と言うが、まさにその通りだ、と思っていたりした。
「ッッ~~~~~」
停止しているレイと、爆発寸前のMEMちょ。
当然、動きが速いのは後者である。
でも、どうしても声が出ない。
頭の中では既に自宅で設営して、しっかりと整えて、バリバリの配信、生配信をしている光景が鮮烈に浮かぶというのに、まるで声が出ない。
不知火フリルと共演して、あのアイと同じ地平に立っている、と評価されてもおかしくないトップタレントにファンだと、推しだと言ってもらえて、今ガチ♡で自己肯定感が信じられない程に上昇しまくっていた筈なのに……、フリルには物凄く申し訳ないが、昔から憧れていた初代B小町のアイともなれば、威力が全然違うのだ。
生で、同じ空気を吸って、同じ空間に存在するだけで……、想像の何倍も強烈なんだ。
だからこそ、声が出せない。
胸の奥が掴まれたみたいで、ひくひくと鳴るだけ。全て裏返ってしまって上手く言葉にならない。ただ、やはりの予定調和。目だけはあのアイを見て離さない。間違いなく子供の様に目を輝かせている、と言う表現が今の自分に一番近いものだろう、とMEMちょは思っていた。
――はなしたいはなしたいはなしたい~~~! でもでも、できないのがもどかしぃ~~~!!
インフルエンサーとして、YouTuber、TikTokerとして、【見られる側】である筈の自分がここまで萎縮してしまうなんて、なんて情けない……、とどこかの王様が生き返った勇者にかける言葉の様に、頭の中を流れたその時だ。
「じぃ~~~~」
「!!!」
視線が、アイにあった。
電流が走った。
じっと見つめてる時に、音なんてしなくて、漫画やアニメ、フィクションの世界だけの産物、だと思っていたんだけど、アイが実際に口にしたら、なんとまぁ綺麗な形になるのか! とわけわからん事になっている間に、アイは距離を詰めていた。
「メムちゃん、だよね!? 聞いてるよーー。ミヤコママから聞いてるっ! それに元々私、メムちゃんの事私知ってたしねっ」
「ひゃいっっ!!?」
花開く笑顔を向けられて、綺麗な笑顔。太陽の様な笑顔を見せてくれるアイに、全てを奪われた感じがした。
そして、アイも勿論MEMちょの事は知っている。
ルビーを経由して? と思われたのかもしれないが、アイを侮る事なかれ。最早中堅クラス~と言ってしまうとめちゃくちゃ良い笑顔でにらまれてしまうので、誰も口にしないが、その風貌はほとんど変わってない、と言われている程の容姿端麗であり、若者文化にも精通しているが故に、バラエティ番組でも神がかり的なやり取り、神がかり的なアドリブを見せて、全世代を惹きつけて止まないのだ。
まさに、最強で無敵のタレントである。アイが目指し続けているアイ自身のカタチはまだまだ完成していないので、日々進化真っ最中なのである。
それはそれとして、アイはMEMちょを前にして、躊躇なく抱きしめた。
「うちのアクアを選ぶなんて、やっぱり私が思ってたとーりの子だっ! 見る目あるねっ! かわいいっっ!」
「―――――――え」
MEMちょ側からすると理解するより早くに一瞬で距離を詰められて、捕獲?されてしまった。宛ら捕食される前の小動物の様に固まっていたが、場の空気が、何よりあのアイに抱きしめられた衝撃が、脳天を突き抜けて、リアルに頭から湯気がぼんっ!! と出た気さえしていて、とうとう口が開き、声帯が復活を果たす。
「ひゃあああああああ!!!! は、はわわわわわわわわ!!!」
ただ、言葉にはならないが。
奇声に近い悲鳴を上げて身体を震わせて、その後は只管【アイ】を連呼し始める。
―――アイアイアイアイアイアイアイ。
それを聞いたアイは、ニコリと笑うと、『おさるさんかな?』 とてへっ、と笑った。あとはただただかわいい~を連呼しつつ微笑み、撫でまわし続けている。
MEMちょの言語が完全に崩壊してしまうのも無理はない事だ。
憧れの存在に、あのアイに。
【抱きしめられている】
その事実だけで、その事実を脳が認識した時に心臓がちゃんと動いてくれている事だけでも最早褒めてあげたい気分なのだ。
「やーー、実際に会ってみるとやっぱしかわいいねっ! ねー、アクア?」
「うわ……、なんか流れ弾が飛んできた」
まだフリーズ気味なレイの隣で露骨にいやそうな顔をしているのはアクアである。
しれっと視線をそらせよう、とも思ったが無駄だった。
「で、アクアはどーしてメムちゃんフッちゃったの?」
「は?」
あまりにも自然体なトーンで投げられたその問に対して、アクアは一瞬言葉を詰まらせる。
そう、今ガチ♡ではあかね・レイ・フリルの三角関係を筆頭として、次に正統派ともいえる流れで、ユキの争奪戦も繰り広げられていた。抜群なカメラワークと、元々フリル側が、過剰にスポットを自分に充てない事、周囲をもっと活かす事を条件としていたので、その辺りはしっかりと番組側が守り、公平平等にカメラを向けていたのである。
で、当然無難に過ごそうとしていたアクア。あの事件の方にも気を取られてしまっていて、最早今ガチ自体は休憩タイム。くらいに考えていたのだが……。
まさかのMEMちょの最後のいっちょ噛みは、アクアに対してのムーブだったのである。全体を通して観ると、良いバランスが取れたとも言える出来だった。その辺りは流石の構成。自称バズらせのプロ、である。
それはそうと、直ぐに気を取り直して面倒そうにしながらも理由を説明し始めた。
アイが納得しないともっとうるさくなりそうだから。
「いや、それが仕事だし。あの場面って別に成立させず流れても問題ないって言うか―――MEMちょのキャラ的にも成立するより、フラれてショック、的な展開の方がウケが良いし、実際良かったし」
「ふ~~ん、へぇ~~」
アイはニヤニヤ、と笑いながらアクアを見る。
確かにアクアの言い分にも一理ある。それどころか正解だと言えるだろう。成立していたのは、1組だけだが、いい具合に差別化出来ていたし、何ならMEMちょのキャラはおバカキャラ的な立ち位置。
それが恋愛成立する! と言うのも、確かにギャップがあって良いかと思うが、事前にアクアが一度意図的に向けたのはゆき側であり、MEMちょに急に靡くというのもおかしな話なので。不誠実さが立ってしまって、嫌な意味で、2人からの告白を断ったのに誠実だと大絶賛されたレイと対比でみられてしまって、今後にも影響するかもしれない。
だからこそ、あの選択は誤りではない、とは思う。
でも、何処となく本心は他にあるのでは? と勘繰るのが母親の勘、と言うヤツなのである。
「………それに、今の俺は恋愛する気も無いし、そんな立場でもない」
アクア自身にはやらなければならない事が多く、かまけていられないというのが、アイさえ知る由のない、アクアにしかわからない胸の内である。
何より、目的の為に誰かを利用する、と言う立場に立った時点で、そういうのは……求めてはいけないのだと、自分自身を縛っているのだ。
「まぁ、それでいっか」
アイは意味深なアクアに何か思う所があったのか、取り合えずMEMちょを解放しつつ、くるりとミヤコの方へ向き直った。
何処か……と言うか、こちらも露骨にあきれ顔をしているミヤコは。
「いつも言ってるでしょう? ……ノックくらいしてください」
「えへへへ~、だって私の名前、呼ばれちゃったから?」
そりゃ、苺プロの頂点タレントだ。名前の一つや二つ、出すだろう。
殆ど裏表の無いテンションなアイだから、裏方、スタッフたちとも非常に友好的。故に話題に上がる名前ランキングを付けるなら、間違いなくトップだから。
「あ、それはそうと~~、ミヤコさん?」
「はい?」
「
空気が変わるのを感じられた。
それはアイに抱きしめられて、過呼吸の一歩手前。アクアに介助されているMEMちょでさえ、何となく感じてしまう程に。
「……どの話のこと、かしら?」
腕を組み、似たような空気感を出しながらも、聞き返すのはミヤコである。
無論、ミヤコは大体察している。なのにも拘わらずアイに聞き直す所は……。
「決まってるじゃん。―――レイ君が
きらんっ、とミヤコとアイの間で、目が光った様に感じられる。
その光は、同時に1人の男を――――レイを捉え始めて。
「ひぃっ!! ち、ちがうから!! 誤解だから!! 誤解だからーーーー!!!」
再び、必死の絶叫が会議室に響き渡ったのである。
「(ねーねー、アクたん。苺プロの感じってこれがスタンダードなの?)」
「(ま、大体。……でもまぁ、今はちょい過激気味、過激寄り、かな? 何せあんなデカい事件があったんだし)」
「(な~る。……ちょっぴり過保護になっちゃってるって事ネ。しかたないよね~~)」
中々の光景を魅せられたMEMちょは、取り合えず平常を取り戻せたようで、ある意味良かった、と言える展開だ。
必死に弁明にある程度納得してくれたのか、はたまた最初から遊びだったのかは定かではないが……、取り合えず誤解だろうと、たまたまだろうと、興味があったからだろうと、逃がさない様に包囲網だけはしておきたい。どんな些細な穴も見逃さないスタイルで行こうと思ってるミヤコは、割とマジだったりする。
アイはどうだかわからないが、取り合えず、今のアイを見てみると。
「ふっふふ~~♪」
ただただ、逃がさないよ? と言う意思は垣間見えて獲れる。
気付いた時には、レイは椅子に座らされていた。
その後ろから、アイがレイに抱きつく要領で腕を回し……いや、やはり捕まえておく、と言った感じになっている。
アイの顎が、レイの頭にことり、と乗る。腕は回されている。
力を込めている様には見えないが、四方八方頭上にさえも逃げ場なし。と言う言葉が実に当てはまる光景だ。
「(ひかりん、モテモテだねぇ~~って、)あ」
「うん? どうした?」
「あ、いや。だいじょーぶ。……後で」
MEMちょは、何か思い出したのか気になったのか、小さく声を上げて、アクアの耳にも入ってきたが……、ひとまず飲み込んで、身をゆだねた。
「さて、話を戻すけど―――」
ミヤコは改めて、先ほど整えていたMEMちょの資料に手を伸ばしながらつづける。
「元々、うちはネットタレントも多いし、その辺りの契約は問題ないわ。寧ろ渡りに船、って感じだけど……、まだ、言っておかないといけない事。あるかしら?」
「言っておかないといけない事……?」
「まぁ、今みたいな《体験型コント》を目の前でやられたら、色々とふっとんじゃうのは無理ないけど……」
ミヤコは、MEMちょのデータを見る。
目につくのは、現役JKの部分。何だか強調している様に見えなくもない。
「ほら、この部分。大丈夫なのかしら?」
「あ――――っ」
MEMちょも見せられて漸くミヤコの意図に気付いた。
確かにその通りだ。レイの独立(笑)からのアイ登場からの怒涛展開ムーブで、興奮しすぎて自分の自我が崩壊寸前まで行ってしまったから―――マジで飛んでしまっていた事実に気付く。
「あ、や、その―――い、言うつもりで……」
「わかってるわかってる。だからそれはこちらの落ち度。気にしなくて良いわよ。……単刀直入に聴くけど、
「――――は、はぃ……」
潔く認める。
でもこれは仕方ない事だ。
自由が減る変わりに、守ってもらえるメリットもあり、何より自分がやりたかった事、あこがれのアイドル、B小町に入れるという特大のメリットがある。
だからこそ、契約面ではしっかりとしなければならない。個人情報はしっかりと開示し、その上でしっかりと苺プロ所属のMEMちょ、になれるのだ。
「私も沢山見てきてるから、わかってたし。貴女は大分骨格からして幼く見えるけど、相応の経験を積んだ目からは誤魔化せないわよ。―――でも、それは別におびえる必要性は無い、とも付け加えておくわ」
見通す目から、穏やかに笑うミヤコの雰囲気になる。
安心させるような様相が、そこにはあった。
「個人でやってる子が、年齢いくつか若く言うなんてよくある話だし、うちとしても別に気にしないわ」
「ほ、本当ですか……?? 良かったです……」
MEMちょにとって、実は最大の関門が
最初から受け入れてくれている体制に、対して安堵感が波のように押し寄せてくるのだが……。
「で、本当はいくつなの??」
流石にここは……ここだけは……折角の安堵感が飛んでしまう。
もじもじしながら……ミヤコの耳元で呟く。
ふむふむ―――と相槌を打ってたミヤコだったが……、だんだん表情が固まり、目が開かれたまま暫くミヤコの中の時間が停止する。
そして時が再び動き出す! となった瞬間に。
「ガッツリ盛ったわね!!!」
「ひぃぃぃ!! 申し訳ございませーーーん!!」
ミヤコの怒号? が響き渡った。
暫く成り行き見守り&レイの頭の上で顎をバウンドさせて遊んでいたアイだったが。
「どーしたの? それでどのくらいだったの??」
と、ミヤコの反応やそのセリフ内容の空気を読まずにストレートに聴いた。
「……公称が18歳。で、盛ったのは大体このくらいで―――」
「か、数えないでください! せめて、せめて自分の口から伝えさせてください~~!!」
せめて! せめて憧れのアイには!! と声を上げるMEMちょ。きょとん、としているアイだが、ミヤコの指の数を、ひーふーみー、と数え始めて。
「ならもうバレたも同然なんだから、言ってみれば? いくつ盛ったの? 3歳くらい?」
「わぁ、アクアストレート。……雰囲気で読みなヨ。ミヤコ母さんがあれだけ取り乱してるんだからさ……」
「こういうのは本人の口から説明させる方が良いだろ? 今後的にも」
この時ばかりはMEMちょに同情したい気持ちだが、色々と雰囲気をまた変えてくれて嬉しかったりするのはレイである。
でも、拘束? はまだ解いてくれてないが。
「…………」
MEMちょは、左右の手の指先を合わせて、いじいじ……とした後に、白状した。
「
「いや、盛ったなお前!!!」
「だから、わかりなよ……、死人に鞭みたいでひどいよ? (……でもすごいなぁ。あの見た目でえっと、25歳?)」
「本人の口から聞けば驚きも倍だよ! 驚き3倍!!」
「ひぃぃ……」
ミヤコの驚き具合から大体察していたのは事実。レイの言う事も一理ある、と言うかしっかりと解っていたアクアだったが……それでもやはり衝撃度はすごい事になってるというものだ。
「つまり、今は24ってことか?」
「ええと~~。うん、24……だったよ? 春頃までは」
「つまり25じゃねーか。この期に及んで悪あがきしようとすんな」
年齢を気にするのは女性なら誰しもあるのではないか? とも思うがさすがのメンタルなMEMちょである。
「25で現役JK名乗って番組出てたのか? メンタル化け物だな」
「ううううう!!」
MEMちょへ注がれる視線が(本人にとって)痛いものへと変わりつつあるその時に、再び空気を変える猛者がいた。
「えーーー、それってそんな驚くことなの??」
レイの上で遊んでいたアイだったが、レイの拘束? を解いた腕を組むと、指先を右頬に添えて考え込んだ。
と言うより、考えてもよくわからない。そんな大騒ぎすることなのかな? と。
「だって、メムちゃん可愛いし。全然18でも問題なさそうだよ?」
「―――えっ」
また雰囲気が変わり、思考停止が始まった所で、一番先に声を上げたのがMEMちょである。
「え、あ、その、い、いい……と思ってくれるんです……か?」
「え、だめなの?」
「あ、その………」
アイの小首を傾げる姿を見て、何にも言えなくなってしまった。
アイは本気で不思議そうにしているから、尚更。
「何度も言うけど―。メムちゃん可愛いし、見た目も雰囲気もぜんぜん違和感ないし? ちゃんと《今》を楽しんでる! 楽しめてる! だから問題ないって思うんだけどね。これはこの沢山経験してきたアイさんが言ってる事だから、説得力高い! とも思ってくれて良いよー」
にこやかに宣言するアイだった。
横でそれを聞いていたアクアが。
「……普通は驚くもんじゃないの? 25で現役JK名乗ってるって聞いたら」
「えー、そう? なら私は驚かない方のふつーかな」
それは普通とは言わないんじゃ……と口に出かけたがアクアは止めた。
そもそもな話―――この人を……、このアイを前にして何を言い出すんだ? と思い直したからだ。
見た目と年齢が一番合ってないのも紛れもなく、アイだ。
バラエティー番組で、アイが【女子高生のコスプレしてみましたー!】と言うのをやってみると……皆大笑い~ではなく大絶賛だったあのシーンは最早伝説の一つに数えられ、YouTubeでもTikTokでも何度も再生されては動画が広がり続けている。
そんな象徴なのに、自分たちの価値観がいかに小さいのかわからされた瞬間だった……が。
「いや、でもなぁ25で現役JKは……アイが異常なだけで」
「そこはYES! って言ってよアクたん!!!」
「そんな褒めなくても~~」
「……アクア、褒めてないと思うよ」
色々と空気が混雑してきた所で、アイは改めてMEMちょに言った。
「メムちゃんがしたい事、頑張れば良いって思うよー! 年齢なんてただの数字! 気にしない気にしなーい!」
「メンタル怪物、既に❘苺プロ《ここ》❘に居た件」
「うん、尊敬するよね。改めて」
温かい苺プロに受け入れられた事が本当にうれしい。
なので、MEMちょも自分の口で語る事にする。
「私は、昔からアイドルになるのが夢で。でも、うちは母子家庭で弟も2人居て、働きに出た方が良いよなぁ、って。―――でもママが」
【気にせず、自分の夢を追いなさい! ママも一緒に頑張るから!】
その言葉に背を押されて、オーディションも応募するようになって、大手の最終審査まで残ったりした。
でも―――その代わりに自分が高校3年生の時……母は頑張りすぎて入院してしまったんだ。
そこからは、アイドルなんてやってる場合じゃなくなった。弟2人を大学にまでいかせる為に、お金が必要で、高校も中退、オーディションも辞退。
複数のバイトを掛け持ち。
そして苦難の果てに―――。
「弟たちも大学に行かせられて、お母さんも元気になって。……でも、その時私は23歳で。……アイさんみたいに、強かったらもっと違った道があったのかな? って今思ってます」
アイの真剣な面持ちに、MEMちょも、ただのミーハ―ではなく、本当の意味での感謝と尊敬の念を送りながら、伝える。
芸能界と言う世界は、20歳でババア扱いされる。
どのオーディションも満20歳と明記されている。
そして、夢を終える環境が整った時には、その芸能界の、
「ありがとうございます」
「……いいのいいの。お礼言われる様な事じゃないしさ? それに―――」
アイは、MEMちょの肩を叩く。
「全ては繋がってるんだよ? 苦しい時も頑張って前を向いたから、今のメムちゃんがある。……それは胸を張って良いんじゃないかな? 自分を大切にしてくれた人たち。守ってくれた人たちに、胸を張れるように……」
先ほどのテンションとはまた違い、真剣な面持ちになるアイ。
アイ自身も様々なものに支えられて――――今を生きていられるんだ。
だから、その言葉は嘘じゃない。誰よりも重く伝える事が出来る、と信じている。嘘が本当になる事を信じるんじゃない。本当の事を、本当だと信じてもらえる様に……頑張るだけなのだから。
「でも、現役JKって肩書って、高校生まだ辞めてなかったから、だったりする?」
「あ、そーですそーです! 一応、休学中だったので……、現役JK(笑)みたいな感じでやってたら、思いのほかウケて! 登録者数とかめちゃくちゃ増えちゃって! 引っ込みつかなくなっちゃって――――」
苦労した気苦労した。
嘘を重ねて積み上げた牙城は砂の城よりも脆いのではないか? と気が気じゃなかった。
「だ、だからぁ~~~……、あ、アイさんの言葉にすげぇ救われましたぁぁぁ」
「おー、ヨシヨシ。私で良ければいくらでも貸しますから元気出して元気元気!」
よよよよ~~、と頭を寄せるMEMちょの頭を撫でるアイ。
良いお母さんやってるなぁ、と何処となく羨ましそうな顔をするアクアに対して、横目でレイは笑う。
「で、でも本当に良いんですか? 私、アイさん程自信もない、実績も、そこまでに至れない。……そもそも、7つもサバよんでた嘘つきで、バレた時が大変だと思いますし。自分がやりたくても、迷惑かけちゃうなら―――」
とMEMちょが言ったその時だ。
アイの横をすり抜けて、いつの間にか入ってきていたもう一つの影が、MEMちょをロックオンし、その肩を支えた。
「そんな事ないよ!」
入ってきたのは、ルビーである。
話は聞かされていた。
でも用事があって、直ぐには駆けつけられなかった。
でもでも、話は途中からだけど聞いていた。
入るタイミングを見計らった感満載で、実際その通りだけど、これは嘘じゃない。
「MEMちょだ!! 本物だ!! わ~~~~可愛い~~~!!」
「でしょでしょ? ルビーもそう思うよね??」
「うんっっ!! すっごく!!!」
アイとルビー、2人して再びMEMちょを褒めちぎる。
そんな時、だった。
更に後ろでは。
「私も話は聞かせてもらったわ」
「有馬?」
「有馬先輩」
レイとアクアの間を縫うように、現れたかなは、既に大粒の涙を流していた。
「わ、私も年齢でウダウダ言われた側だから―――気持ち、ちょっとだけ分かる……」
ずび、ずびび
と涙を流すかな。
「わ、な、泣かないで先輩」
「ぅぅぅ~~~~」
「いや、全然ちょっとじゃなさそうだな、オイ」
かなは止まらない。
「ま、まだMEMちょは相手の迷惑まで考えれてて、すごく立派じゃん………、わたしなんか、わたしなんか……」
子役時代の栄光を追い求めて、おんぶにだっこになってたのは自覚している。ちゃっかりとギャラは貰ってて、それでも売れてなくて……。
「子役の時なんかもさ! 事務所も高学年になったころからお払い箱………ぅぅぅぅ~~~~」
どよどよ~~とし始めた空気に、アイはぱんっ! と手を合わせて宣言する。
「よっしゃ! みーーんな、集まりなさい! このアイさんが胸を貸します! 今日は泣いて泣いて泣いて! 明日はとびっきりの笑顔で!! ファンの前じゃ笑顔以外NGだからね!」
かなもMEMちょも2人とも抱きしめるアイ。
本当に器が大きくて、最強で無敵なタレントなんだなぁと、誰もが目を奪われて実感する瞬間だった。
「はいはい。何だか盛り上がってる所悪いけど、話を戻すわね。MEMちょさんの加入、私は全く反対はしてないわ。ルビーはどう?」
「勿論! アイドルやるのに、年齢なんて関係ない! だって、憧れは誰にも止められないから! だから、こう言うよ!」
差し出されたのは右手。
「ようこそ! 【B小町】へ!」
それは、MEMちょに向けられている。
それに呼応するように、アイは抱きしめたMEMちょを解放すると、ゆっくりとゆっくりと、ルビーの方へと視線と身体を向けた。
握られた手、そしてとめどなく流れる涙。
「あったけぇ、ここ、あったけぇ……、天国、かぁ………」
只管只管号泣。
泣いて泣いて泣いて、かくしてB小町のメンバーにMEMちょが加入した。
そして、それと同時進行で起こる。新生B小町の門出と同時に。
更に混沌を呼び、舞い込む何かが……。
「後、レイ。いえ,YouTuber ひかるん。次のコラボの仕事が入ってるから連絡しておくわね。少し遠いから、マネージャーとして私も同行します」
レイの仕事も、動き出す。
そして―――物語も……更に動き始める。それは歪な形……なのかもしれない。
「撮影場所は――宮崎よ」
偶然か、必然か、
かの土地に――――このタイミングで。