認めない子 作:アイらゔU
「子役からやってる子で、苺プロ所属の星野アクア―――――って、そうだ。苺プロと言えば…………いや、忘れてた」
1本の電話から事態が動き始める。
物語と言うのは得てしてそう言うものだと言えるだろう。ただ、これはフィクションに当てはまる事であり、現実では早々あるものじゃない。
「……こう言う時こそ、
早々―――あるものじゃないんだけど、合ってしまった。そんな話。
インターネットテレビ局『ドットTV!』所属
ドラマ『今日は甘口で』
プロデューサー 鏑木 勝也
有馬かなからのたった1本の電話で、正直多忙が極まって忘れていた約束を思い出し、口端を吊り上げて、軽く舌なめずりをして………、新たなイベントが動き始める。
「ええええっ!!!」
『……もう少し、声のボリュームを落としてもらえないかい? 老体の耳には答える声量でなかなかの高周波だよ』
場面は苺プロ。
丁度、事務所にいた時にまさかの電話に思わず絶叫してしまうのはレイである。
「老体って、老けるにはまだまだ早いですよ~、って思ってましたが……、案外そうでもないのかもしれません? ひょっとしてボケてます?」
『いいや? ボケてる訳でもない。本気の本気。大マジだよ。急遽、キャスト不足でね。その穴を埋める為に、そっちのタレントの1人、君のところの星野アクア君を起用した所なんだ』
「!」
アクアの名を聞いて、レイは眉を吊り上げる。
何処に接点があったのか? 何の接点があったのか? と記憶の端から端まで探しに探し―――軈て、1人の人物が頭に浮かぶ。
「ひょっとして有馬かなさん、ですか? 彼女が推薦を?」
『ほほう。やはり君は聡明で頭もキレる。その通りだ。カオも十分整ってるし、演技つよつよのあのかなちゃんからの推薦だ。断る理由もない。喜んで起用するよ』
「…………」
かなとアクアの関係性を鑑みれば、容易に辿り着く答えだ。
彼女がアクアを推薦した。そして、彼女が子役時代からアクアの事に対して執着しているのも解っている。ただ、解らないのはアクアがどうして出る気になったのか? である。
「(もう、そういう系は止めて、裏方に徹するって言ってた筈だけど。……アクア、出るんだ?)」
あのかなにお願いをされたとしても、あのアクアがそう簡単に首を縦に振るとは思えない。
そんなに簡単に縦に振るなら、一緒に芸能科受けよう! と説得出来た筈だ。……それを考えたらもう長年連れ添った家族、兄弟からのお願いを一蹴したのに何だか寂しい気もしなくもない。
『ああ、【今日あま】に来てくれ、とは言ったが、実はそっちの彼と一緒に、キミ自身をキャストの1人として迎えると言う訳ではないんだ。今更ながら紛らわしい言い方をして悪かった』
「!! そ、そうですよ! 開口一番で鏑木Pがやっている【今日あま】に来ないか? なんて言われ方したらビックリするじゃないですか! ……その、色々と大変な現場ですし?」
『なるべくオブラートに包もうとしてる姿勢には感謝の意だよ。確かに楽な現場ではない。世間の評価もそう。……そもそも、そういう結果を望んでいる訳でもないしね。このドラマはあくまで役者の宣材。……それが上の意向だ』
現在の【今日あま】の評価は……ネットで少しググれば直ぐ出てくる。
五段階評価でその星の数は―――――下から数えた方が遥かに早い、とだけ言っておこうか。
「それで、僕を現場に呼んで……何をさせるんです?」
『そう警戒する事は無いじゃないか。何も取って食おうって訳でもなければ
電話を終えた鏑木は一息つく。
彼の事―――北斗玲の存在をどうして今の今まで忘れてしまっていたのか? と今更ながら嘆く想いだ。
彼とは約束があるから、色々と頼りにする事が出来る。そんな有効なカードを持っていると言うのに、何故切らなかったのか。
「かなちゃんには感謝だが、耄碌した自分を自覚させられた事もあって少々複雑だな」
今日あまのドラマの制作は、原作ファンに向けたモノではない。
今回のこのドラマは、これから世に放たれるであろうモデルを兎に角数多くだし、女性層をターゲットにしてモデルたちを魅せる事に注力している。
簡単に言えば、イケメン好きな女性層にリーチする為の企画。演技力は二の次、三の次。
「……ま、ある程度受け入れて納得しているとはいえ、俺の名が載ってる作品で、こうもボロクソ言われて気分よくなる訳もない」
ある程度理解している。
プロデューサーとはいえ、当然上の意向には逆らえない。社畜のようなモノ。そして今更現状を変えてやろうと言う熱意がある訳でもない。
ただ、盤上を変えられる存在が居るのに、……そんな手持ちのカードが合るのに、使わないなんて愚の骨頂。忘れていた自分オオマヌケ。
鏑木はノートパソコンを開く。
今日あま配信ページを覗く。
平均評価は……相変わらずの【☆★★★★】
最低評価だ。
「……さて、このどん底から。ここからまたどんな化学反応を見せてくれるのかな? ……レイ君。キミの願いは聞くよ。そして自分に出来ることなら何でもと言ってくれたのは君自身。……色々と魅せてくれないと、ね」
鏑木P。
彼は 北斗玲 を知る人物の1人でもある。
そして……ある意味
「……いきなりで困ったなぁ。あ、いやでも……確かに、鏑木さんには色々とお願いしてたけど。……まぁ、いつかはこちらから、って思ってたのも事実かな」
まさかこのタイミングだとは思っても無かった。
でも、良かったのかもしれない。
振り返る事が出来たから。本懐を……生きる目的の1つを思い返す良い機会になったともいえる。
だから鏑木の名を聞き、彼の声を聴いたその瞬間……
―――認められない。認めたくない。止めて、みせる。出来る事、やれる事駆使して。全部使ってでも。
「おーーい、なーにコソコソしてる~?」
「うわっ!!」
そんな時だ。
まるでタイミングを見計らったかの様に後ろから声をかけて、肩を叩いてくる人がいた。
「あっはっはっは! レイってば、ちょっとビックリし過ぎじゃない? やー実に揶揄いがいがあるなぁ、もうっ」
「母さん……。揶揄いがいって、止めてよそれ」
一仕事を終えて、戻ってきた現役最強クラスのタレント アイである。
丁度、バラエティ番組の企画の1つを終えて、色々とフリーになったタイミングだった。
「おかえりなさい。お疲れ様です」
「はいはい、ただいまー。皆下で待ってるよー。ミヤコさんから重大発表があるとかないとか、って」
「?? そうなんだ。聞かされてなかったけど……」
アイの言葉を聞いて、首を傾げる。一体重大発表とは何の事か? と。……正直な所大体察しはついているが、自分にも繋がる事柄なので、此処はあえて知らないふりをしながら下へと向かおうとした……が。
「ちょい待った」
「うぇ!」
ぎゅっ、とアイに襟首掴まれてしまった。結構首が締まって苦しい。
「あっ、ごめんごめん」
そのままチョークを決める~訳ではなく、レイがうめき声を上げたら直ぐに離してくれた。
そしてレイが軽く咳払いをしている隙に前に回り込み、そのキラキラと輝く瞳で真っすぐレイを見据えて……言った。
「レイ、何か隠してない??」
「え?? なにか、って??」
「ふーん、惚けちゃう? これでも私、もう1人のおかーさんとしてレイと接してきて……大分解ってる気がしてるんだけどなぁ~? レイの考えくらいかーんたんに見抜ける」
腕を組み、こめかみに人差し指を当て、ドヤ顔を見せ、何処かの探偵のような仕草でレイの周りをまわる。
数周回った所で、ぴたっ、と止まり……そして、ビシッっ! と指をさした。犯人はおまえだーーー! と言わん勢いで。
他人を指さしちゃダメです、と言いたい所だが、そんな暇もなく、アイはつづける。
「今さっきの電話の相手! 鏑木Pだよね? 因みに、ミヤコママの集合理由は、なんとなんと! アクアが鏑木Pがやってるドラマにでまーーす! って言う発表でーす! 先行でレイにも知らせておきますーーー!」
「……それ、見抜いたんじゃなくて、盗み聞きしてたって事じゃん。趣味悪いよ母さん」
目を見て、何処かのCIAよろしく嘘発見~みたいな特殊な能力ではない。
なんてことない。ただ鏑木との電話内容……アイにも聞かれていたと言うだけだ。結構なボリュームで電話してたので、聞かれてても仕方ないと言えばそうだが……少し自重した方が良かったかもしれない。
「それでそれで! レイも出ちゃうってこと!? アクアと一緒に役者デビューしちゃうの!? 早速家族共演!? ゆくゆくは親子共演、家族共演も夢じゃない!? ルビーもうかうかしてられないね!! あ、でもルビーはまずはアイドル活動からだから役者は後回し、かな!?」
目をキラキラとさせているアイ。本当に子供の様に喜んでいるのが解る。……無邪気で、それでいて誰もが惹きこまれる天性のその輝きは、この暗い事務所であっても十分すぎる効果を発揮していて、ある意味末恐ろしくも思う。
確かに、家族共演と言うのは長年アイが夢見ていた事であり、いつもいつも楽しそうに語っていた。
それが叶うと言うのなら―――嬉しい。レイだってそう思う。
でも、生憎それが叶うなんて120%無い。
「事務所からの許可が絶対下りないでしょ。特に母さんと一緒なんて。絶対秘密なのに、母さんたちと一緒にテレビ出ちゃったら、秒でバレる未来しか想像できないよ」
「なんですとーーー! レイ! キミはこの母を甘く見てやしないかい!? 今日あまに出るからって、見くびってない? この私はあまくないのだよレイ君!」
「………これまでの番組での発言歴史。放送事故級(ただし身内に限る)。胸に手を当てて思い出してみなよ、全く」
アイは必死に子供たちの存在を世間から守っている……と思うのだが、たまーにポロっと出る発言を聞いて、本当に守る気があるのか? と疑ってしまう事が多々あったりする。
『ウチの子が~………あ、猫。うちの飼い猫のことね!』
『赤ちゃん! や~~懐かしいなぁ。私の時もこんな感じで―――――…赤ちゃんお世話のべんきょーさせられちゃったんだよねぇ。事務所の人に~』
『子供が大きくなるのってあっという間だよね。………事務所の子役の皆。もう、高校生だよ?』
こちらが何度ハラハラした事か……。
取り敢えず、今まで秘密は外部にバレてはいないのが奇跡な気がする。セキュリティ面、防御面は完璧中の完璧だけど、護られなきゃならない護衛対象の暴走で内部から破壊とか笑えない。
「―――♪ ―――♪」
「口笛吹いて誤魔化さないで! いやでもその口笛クオリティ高いな!!」
「へへーん。習っちゃったからだもんね~~! ……って訳で、速くアクアのとこ行こう! あ、レイもちゃんと皆の前で鏑木さんとの事、言いなよ? 事務所通す事! OK??」
「だから誤魔化さないで! それとそっちは了解!」
アイは、ぴゅ~~! とまるで風の様に去っていった。もう大分歳を重ねている筈なのに、時折こうやって見てると子供の様に思えてしまう。その笑顔は、心から大好きだと言える。
アイの魅力は健在。今も、いつでも。―――あの時のお願いを、ずっと守ってくれているんだ。
「ママおそーい! それにレイお兄ちゃんもおそーい! 重大ニュースだよニュース! 過去最強クラスだよ! なんと、アクアがドラマに出るんだよ!」
「うん。私は聞いてたよー。帰りの車の中で聴いた」
「僕はさっき、アイ母さんから聞いた」
「……なんで皆に言うんだよ」
話したくなかったようで、アクアだけが何だかむくれていた。
「はいはい。ぶーたれないの。アクアは自分から言わないの解ってたし。所属タレントの広報活動は事務所の仕事。共有義務があります」
「そうそう♪ わーー、いつかはアクアも役者に~って思ってたんだよねー。一般科受けるって決めてから本当に裏方だけしかしないって思ってたんだけど、颯爽と仕事を取ってくるとは! 流石私自慢の息子っ」
「っ……、もう、子供じゃないし、そんなので撫でなくて良いから」
「何照れてるの? このこの~~」
わしゃわしゃ~と撫でるアイ。
そして、頬を僅かに赤らめるアクア。
決まってこの後は―――。
「あっ! ずるい! 私も私も!!!」
「はいはい。ルビーは何時までも甘えん坊だよねー」
「きゃーーー!」
ルビーも参戦する。決まって撫でられている最中には『極楽浄土~~』と目を細める。
実に微笑ましい家族の光景。
勿論、最終的にはレイも巻き込まれる。満更でもない、と言うのはもう皆解っている様だ。反抗期らしい反抗期もなく、良い子に育ってくれていると事務所は和むのだ。
「全く……。まだ色々忙しいのにあんたたちは……」
呆れるミヤコだったが、その顔はどちらかと言えば笑顔だ。
この光景が好きなのは皆同じ、と言う事。もう何年も見慣れた光景だが、この光景は必ず守らなければならない、と長年戒めているのだ。
「あ、ミヤコ母さん。僕からも連絡があって――――。僕もアクアが行く現場、【今日あま】撮影現場に行く事になりました」
そして、レイのこの言葉でまた一段と混乱し、色々と騒然となったのは言うまでもない事だった。
「それにしても鏑木P直々に、レイを呼び寄せるなんて。一体何をするのかしらね。……ていうか、まずは事務所通せよオイ。業界ルール違反で御法度だろコラ」
「ま、まぁまぁ。知らない間柄って訳じゃないし、色々お世話になってるし懇意にしてるでしょ? 事務所的にも。それに出演してくれって訳でもなさそうだったし……ね? 僕のスケジュールなら何とかなるし大丈夫だから」
「んーーー、なんでレイお兄ちゃんも呼ばれたのかな? ……このヒっドイやつに」
「もうちょい抑えて言えよ。ストレート過ぎ」
その後は皆で今日あまのドラマ、ネットTV局での制作ドラマを皆で簡単に観賞した。
その内容は……お世辞にも良いとは言えなかった。ミヤコ程ではないが、レイも眉間にしわを寄せ、ルビーは茫然唖然とし、アクアは予備知識がある程度あったのか、ただただ無言を貫き……、アイは今もガン見している。
ニコニコ~と笑っているんだけれど、なんだか怖い。頭に幾つも四つ角がある様に見えるのは気のせいじゃない?
「ふ~~~ん。うちの兄弟の初出演がこれ? ん~~~、ねー、ミヤコママ? 鏑木さんに抗議していい? 事務所総出。事務所代表して私が直々に」
「許可するわ」
「わーわーわーわー! まってまってまってーーー! い、壱護父さんが社長でしょ!! ダメダメダメ!」