認めない子   作:アイらゔU

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第7話 ごめんなさい

 

 

「うっるさいわねーーーー!!! 素人で外野な妹は黙ってろよ!! つーか死ね! 今すぐ死ね!! 舌嚙んで死ね!!」

「相変わらずの口の悪さだなオイ。全然改善の兆しがねーじゃねーか」

「………死ね×3は流石にヒドイ。と言うか、何で僕もここに??」

 

 

某場所、カラオケ屋。

 

完全防音個室な場所だから、どれだけ大声を出したとしても、どれだけ物騒な発言でも、多分大丈夫。

 

なのでここは庶民でもある意味秘密の会話をするのに最も適した場所だと言えるだろう。

 

……それはそれとして、突然連行されたも同然なので、抗議の声を上げるのはレイ。

 

 

「いや、昨日事務所で話した今日あまの件だよ。有馬に話したらひかりも連れてこい、だって」

「えぇ……、今日僕用事があったんだけど……」

「有無言わさずって感じだっただろ? 拒否しても意味ない、みたいな。俺も大体同じ気持ちだ。因みにリークは当然俺な。俺の方も昨日、好き勝手話されたんだしいいよな? ……ま、体のいい道連れで宜しく」

「よろしくじゃないよ、全くもう。そもそもアクアの件だって貰い事故みたいなもんなのに」

 

 

はぁ~~、と深くため息を吐くレイ。とりあえず用事先に一報はもう入れてあるので大丈夫と言えば大丈夫。急ぎの用事と言う訳でもないので。

 

アクアはアクアでしてやったり顔だった。散々ルビーやアイに駄目だしされたり弄られたりとそれなりに鬱憤が溜まっているみたいだ。コーラを飲んでるだけなのに、それらの感情が横顔からよく解ると言うもの。それで芸能ない、演技出来ないは無理がある様な気がしてならない。

 

 

「ちょっとそんな嫌そうにしなくても良いじゃない。元々、あんたとはしーーーっかり話を付けとかなきゃ、ってずっと思ってたのよ。それに丁度良くない? そっちの事務所でのイチャモンの件だって、私答えてあげれるし」

「丁度良い……のかな? 何だか体のいい道連れと発散相手に選ばれただけな気がする」

「いいから聞きなさいよ! 私の名誉だってかかってるんだから!」

 

 

今日あまの酷さ……、それは かな自身がよーく解っているとの事だ。

そして、有馬かな と言う女優の実力に関しては此処にいる誰もが疑った訳ではない。

 

ならば、どういう訳なのだろうか? 演技力が落ちてしまったのか? と色々と理由は考察出来るが……確かに、彼女の言う通りその考察が外れていたら著しく名誉を損なう結論となる事だろう。

 

 

「いい? 男ども。耳かっぽじってよーく聞きなさい。……今の高校生で、私ほど演技が出来る人材なんてそうそういるもんじゃないんだから」

「自意識過剰……と、言いたいが、昔のお前を知る身としてはその点は信じてる。解らないのは次。……何で、今日あまであんな風になるんだ?」

「…………」

 

 

自信満々に発言した かな だったが、流石のアクアの指摘には黙るしかない。

確かに何度見ても、何度見返しても、何度現場で演技をしても————本当にひどい出来だったから。

 

 

「仕方ないじゃない。今回のドラマはこれから売り出したいモデルを兎に角いっぱい出して、イケメン好きな女性層にリーチする企画なんだから。だから、演技力は二の次。だけど、流石にそれじゃ作品が破綻する。だからこそ演技が売りの私を起用しているワケ」

「………色々と大変、なんだね」

 

 

原作ファンが望む絵はどうしても取れない。

それには相応の理由があると言う事だ。

誰も好き好んで、原作を蔑ろにする様な演出をしているワケじゃない。様々な思想、思惑がそこには潜んでいて、正しいだけではどうにもならない。……だからこその葛藤なのだろう。

 

 

「大変も何も、有馬の演技の方にも問題あるだろ? 素人目で見ても流石にアレはヌルいぞ」

「だーーかーーらーー! ほんとマジでなんなのよ、苺プロんトコのタレントの温度差!! ほんとのほんとに風邪ひくわよ!!」

 

 

風邪ひく? ンなバカな、とアクアは呆れかえっているが、レイは かな の言いたい事、言わんとする事が大体解った為、ある程度の補足をする。

 

 

「アクア。……今日あまで出演している人達、演技二の次~ってレベルじゃないくらいの能力しかない層ばかりなのは解ってるよね?」

「そりゃまぁ。配信動画見てるし。何より俺も好きで原作読んでたし。ライト層の意見としても、中々擁護出来ないレベルな訳で」

 

 

ルビーが散々ストレートに貶し、アイが笑顔で怒り、色々と全面に感情を出してくれたので、アクア自身はある程度発散出来た様なのだが……、それでも正直な感想は口にしないだけでルビーたちと大差ない。

それを解った上で、レイはつづけた。

 

 

「仮に、そんな中で有馬さんがもしも本気で演技したとしたら? より光が強くなればなるほど影が薄れて消えていく。本当に消えるだけならまだ良い。でも有馬かなの存在がより強調されて、その他は目も当てられなくなるのが厄介だよ。それにこれから売りたいモデルたちを起用してるって言うなら猶更そんな事出来ないと思う。今以上に作品に影響を及ぼしそうだしね」

「――――—……」

 

 

アクアはレイの話を聞いて、少しだけ納得しつつ かなの方を見た。

答え合わせをする様に。そして、その結果は勿論。

 

 

「ッ~~~、その通りよ。一言一句間違えてないわ。……私だって全力で演技したい。誰が楽しくてわざわざ下手な演技をするって言うのよ。ひかりの言う通り。私は大分抑えてる。じゃないと目も当てられない所の話じゃなくなっちゃうから。光と影……と言うか暗黒よ。あの大根役者共。もれなく全員が闇闇な大根っぶり! 更に浮き彫りになっちゃってぶり大根待ったなしなのよ!」

「……誰が上手い事言えと?」

 

 

レイの言葉もあり、今回のドラマは割と深刻なモノを内包しているな、、、とアクアは思っていたのだが、かなのぶり大根で毒気抜かれてしまった。

でも、要所要所でふざけてテンションを上げているのは、そうでもして発散しなければやってられない、と言う彼女なりの処世術なのかもしれない、とも思った。

 

 

「個人の実力の高さと良い作品作りは別。―――有馬さんは、そこを主に焦点を当てて、天秤にかけて、自分を押し殺してでも個人より作品に貢献しよう、って道を選んだんだね」

 

 

そんな時、レイの目が優しくなったのをアクアは観た。そして かな も同じく。思わず目を見開き、驚く。

心を見透かされた様で。

 

 

「……また正解。その通り。言う通り【上手い演技=良い作品】になる。そんな単純な話じゃない。この作品は企画段階から売り手の都合が前に出過ぎているのよ。そんなスタート状態から視聴者側からしたら一番重要って言って良い原作愛を放置されて、歪になった状態で作品として面白さが出るワケがないわ。……その判断を主に下すのは作り手じゃなく視聴者であり、…………原作者なんだから」

 

 

かなは、1話の撮影で原作者である吉祥寺頼子に会った事がある。

現場に来た時の、彼女の表情は今でも鮮明に覚えている。

 

目の中に光が一切ない。黒い瞳が更に黒く淀んだ……そんな目をしていた。そしてその目の理由はよく解る。

 

 

「あの失望した顔は……正直キツかったわ」

 

 

周囲は何も気にしてない様だった。

何故、原作者にあんな顔をさせて平気なのか、と憤慨したい気持ちにもなった。

 

でも、それは出来なかった。

 

 

「でもさ。役者や裏方さん、個人個人は精一杯やってて。……だから、見てくれる人や原作ファンの為に少しでも良い作品にしたい」

 

 

何度見ても、評価は【☆★★★★】

レビュー数もどんどん増えて、少しでも☆が増えて欲しいと願ったけど、叶わなかった。ネタで居れる人が少々いたとしても、それを覆い隠す様に酷評が嵐の様に吹き荒ぶ。

 

 

でも、それでも評価を少しでも上げたかった。どうにかしたかった。

なら自分で出来る事は……1つしかない。

 

 

「せめて【観れる】作品にする。その為ならヘタクソな演技もする」

「……………」

 

 

レイは思わず涙が出そうになるのを懸命に堪えた。

北斗玲を深く憑依させているから、内からどんどんと感情が溢れ出てくる。

 

 

「凄い、ね。本当に凄い。尊敬します」

「…………ふんっ」

 

 

かなは、ずびっ、と鼻を啜る。

ここまで身の内話をするつもりあったかな? と思わず自問自答をしてしまう。

不思議と言いたかった。聞いてほしかった。何より―――――……〇〇〇欲しかったんだと……。

 

 

「不和を齎さず、協調性を出して、一丸となって少しでも……か」

「そうよ。今日あまの現場で、今の私が出来るのはそれくらいしかない。……昔と違うから(・・・・・・)

 

 

昔と違う。そういうと同時に、レイの方を見た。

 

 

「他人を蔑ろにする事も出来る範囲でだと思うけど止めれた。止める様に務めれた……と思う。いなくなって(・・・・・・)しまって初めて言われた事、教えてもらった事を何度も反芻して、戒めにして、旬が過ぎた(その)時が来たも何とか持ちこたえる事が出来た。今回の大きな仕事。ヒロイン役に抜擢して貰った事もきっと……意味があるから」

 

 

積み重ねてきた信頼が、落ちかけていた信用が、今を繋ぐ事が出来たんだと信じている。

 

 

「まあ? さしずめ今の私は我を通さず品質貢献に努める事が出来て、使いやすい役者! Pの鏑木さんとも付き合いが長いし、そういった意味でも助けてくれてるんだと思ってるんだよね」

「なるほどなるほど。……いや、ビックリだ。そんな協調性、あの時持てるなんて微塵も思えなかった」

「こらこらアクア」

「へへん!! あんたも十分口悪いじゃないのよ。ま、その通りなんだからもう怒ったりしないわ。私はもう大人だから。それにしても上手い具合の飴と鞭って感じもするわね。温度差~って言うより?」

 

 

怒ったりしない、と言いつつこれまで結構憤怒の感情をあらわにしていた気がするが……、そこを蒸し返したりはしない。

 

 

「後、あのモデル共と張り合っても負けない顔の良さだってのもあるけどね! 何せあの鏑木さんはメンクイだから」

「……自信家って所は今も健在って訳か」

「役者は自信をもってナンボだよ。誰が自信なく演技するって言うのさ?」

「そりゃそうだ。違いない」

 

 

かなは、手をぽんっ! と叩いて更につづけた。

 

 

「と言う訳で、撮影は明日! 来週オンエアだから! 撮影後即編集即納入! 本読みすっ飛ばして即リハ即撮影だからヨロ!」

「……スケジュールも終わってんなぁ。ウチの五反田(カントク)でももうちょい余裕をもってやるぞ」

「予算と時間の問題だね。もっと時間も金もかけれれば品質向上出来ると思うんだけど………。(うーむ、ちょっとやってみようか? テコ入れ、的なの?)」

 

 

自分のポケットマネーを用いればどうにかなるかもしれない? と少し考えてみたが、アイやミヤコやらが猛抗議して止めるのが目に見えているので辞めよう。

 

 

「私がアクアを強引に誘ってねじ込んだ。そして、鏑木Pはひかり……アンタをこの作品に呼んでいる。これらにはきっと意味がある、って信じてる。だから―――」

 

 

かなは、アクアの手を取る。そしてレイの手も同じく取って3人は手を重ね合わせた。

 

 

「お願い。私と一緒に良い作品を作って欲しい」

 

 

有馬かなの願い。涙ながらの願い。

如何に元天才子役で、9秒で泣けるをキャッチフレーズにしているとはいえ、その滲んだ瞳は嘘じゃないと思える。

 

だからこそ、それを拒める様な男など……もう男だとは言えないだろう。

 

 

アクアもレイもゆっくりと頷く。

その反応を見たかなは、ゆっくりと俯かせて……次に顔を上げた時はケロっとしていて言った。

 

 

「はい! じゃ、次ね次」

「「???」」

 

 

にっこりと笑ったかな。

今の今まで涙ながらの懇願だった筈なのに、一瞬で元に戻りやがった。

呆れる~と言うより、やはりレベルの高さ、凄まじさを、そこに見た気がしたのはきっと2人ともが同じだろう。

 

 

「次。聞きたい事があります。その内容はとーーぜん、ひかり! あんたの事!」

「え? ぼく??」

「そう! 何度思い返しても、何度記憶を揺り起こしても、どーしてもあんたを見てると、アイツの顔が浮かんで浮かんで仕方ないの。だから、もうこの際はっきりとさせておきたいし、聞きたい。―――私の目をしっかり見て答えて。『斎藤ひかり』は芸名で本名は『北斗玲』だったりしないの?」

 

 

有馬かなの中にいる北斗玲がどれほど大きく、どれほど厚く存在していたのかがよく解るシーンだ、とアクアは思った。

この台詞が、この場面が、まるで映画やドラマのワンシーンではないか? と思ってしまった程だ。

 

 

 

確かに北斗玲と斎藤ひかりは………正真正銘同一人物。

 

 

 

少し、少しだけ違う部分があるかもしれないが、現在医学からの観点では紛れもなく同じ。DNA検査しても一致するだろう。

でも、幼少期から今の高校生までを鑑みたら、容姿は当然変わっている。

YouTubeだけでなく、成長と共に実際に顔を出して外に露出する機会が増えていったから、苺プロでもあの手この手で容姿を変えようと努力に努力を重ねてメイクを施してきた。

 

殆ど毎日見る家族ならまだしも、10年前のあの頃しか知らなかったとしたら、高い確率で誤魔化せる、欺けると思っていたんだけれど、有馬かなは真に迫ってきている。

 

ただ、あと一歩確信に足りないのは、『しないの?』と本人に聞いてくる所だろうか。

レイがNOと答えればそれまでなのだから。

 

 

「(でも、相手は役者(・・)。演じる事に関しちゃ専門家(スペシャリスト)。生半可な嘘は見抜いてきそうだが……)」

 

 

アクアはそれが心配だった。

レイの気持ちも解っている。ルビーが話してくれたから、解っている。

 

 

今の自分は……斎藤ひかりが、北斗玲を演じているに過ぎない。

 

 

記憶が戻ってきていない以上、嘗ての自分の姿を、その映像を目に焼き付け続けて、プロファイリングをして、足りない部分をどうにか埋めて考察して……今と言う形を作り上げた。

紛い物である、と心の中では思っている。

 

嘗ての自分を知っている有馬かな相手だからこそ……葛藤を持っているのだと。

 

 

 

 

 

 

ピリ――――――――ッ

 

 

 

 

 

 

 

そんな時、だった。

一瞬空気が張り詰めた様なそんな奇妙な感覚に見舞われたのは。

 

 

「……ごめんなさい、有馬かなさん」

 

 

そんな感覚は一瞬だった。

次の瞬間にはもとに戻っていて、レイが口にしていた。謝罪の意を伝えようとしていた。

 

思わずアクアもレイの目を見る。

 

何処か寂しそうで、申し訳なさそうで………心の底から謝罪をしているのがその目の光に宿っていて。

 

 

「僕の名は、斎藤、ひかりです。……ごめんなさい」

 

 

目を暫く見て。

短いようで、物凄く長い体感時間を得て、レイは視線を下げて頭も下げた。

 

それを受け取ったであろうかなは、どこか晴れやかな顔つきで言った。

 

 

「謝るのは私の方よ。勝手に盛り上がって勝手に決めつけて? 最後の最後まで無理矢理認めさそう! くらいには思ってたけど、そこまで本気(・・・・・・)で言われたら……ね? 認めざるを得ない、ってものだわ。……こっちこそ、勝手な願望を押し付けてごめんなさい」

 

 

かなも頭を下げる。

 

 

「そうよね! 世の中には自分に似てる人は3人いるって言うし? 変な因縁つけて悪かったわひかり。この話はここで終わり! 改めてよろしくね、ひかり」

「はい。よろしくお願いします。有馬先輩」

 

 

2人は互いに握手を交わした。

微笑ましい光景……なのかもしれないが、星野アクアだけは違う。

 

 

 

 

 

その瞳に黒いナニカが宿る。

 

 

 

 

改めて、奪ったものの大きさを今実感してしまっている。

奪われてしまったものの大切さを、実感してしまっている。

 

あの時の有馬かなと北斗玲のやり取りは今でも鮮明に思い出せる。

表面上は同じかもしれないが……絶対的に違う。

 

もう、彼はここにはいないんだから。

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

北斗玲は、星野アクアにとってもかけがえの無い存在。

この人生で……初めて出来た友達だった。

アイの話で盛り上がった。何時間も何時間も語り明かした。同年代とは思えない程で、同じアイの奴隷(ファン)の転生者じゃないかと疑った程だった。あり得ない程のピアノの腕を持つ所を鑑みても、転生者じゃないか? と思うのはまさに自明の理だった。

 

そしてその後、同じ事務所で一緒にいる時間が長くなるにつれて、北斗玲はアイだけではなく、ルビーも自分も、分け隔てなく皆が好きだと言うようになった。

毎日が楽しくて楽しくて、いつまでも続いたら良いと燥いでいた。

 

 

そして―――運命のあの日に、全て悟ったんだ。

 

 

 

 

―――……ア?

 

 

 

 

アイを命を懸けて守ってくれた。

自分達の命も、守ってくれた。

 

 

 

 

 

 

――――……クア?

 

 

 

 

記憶を失って、それでも尚前を向き、懸命に直向きに歩く姿に感銘を覚えた。

絶対に支えようと兄妹で……家族で誓った。

 

 

そして、運命のあの日に………真実を知ったんだ。

 

 

 

もう、北斗玲はこの世界にはいないのだと。

 

 

 

「アクアっ!!」

「ッッ!!? な、なんだ!?」

「なんだ!? じゃないでしょ。こっちが何なのよ。いきなりぼーーーっとして。逝っちゃったのかと思ったわ」

 

 

レイに強く揺さぶられて、正気に戻るアクア。

あの日を思い出せば思い出す程……レイの願いとは真逆の方向へと走ってしまっている自分に気付いてしまう。

 

 

「いや、ほんと大丈夫……? 普通じゃない、って思っちゃったけど」

「あ、ああ。すまん。大丈夫だ。……何せ、今からあのドラマに出るって考えたら、どうしても……な?」

「うぐっ……、フォロー出来ない自分が嫌になるぅ……」

 

 

アクアの言葉に かなはダメージを受けてしまうのは仕方がない事だろう。

変になってしまった? と思ったが、あの今日あまのドラマにキャストの1人として出る。頑張る。と決めてしまった以上、ある種現実逃避してしまったとしても仕方ない、と かなは思ってしまったからだ。

 

 

「頑張るって決めた以上はしっかりやる。アクアはそういう男だから、信用してください。有馬先輩」

「信用してない訳じゃないわ。そっち方面は大丈夫。あ―――ただ、やっぱひかりが呼ばれた理由の方はやっぱ気になる、かな? 役者経験とかあるの?」

「ほんの少しだけ。苺プロの英才教育、って感じかな? キャストとして呼ばれた訳じゃないから、そこは関係なさそうだけどね」

「ふーん……。まあ苺プロは規模は小さいかもしれないけど、あの天才アイドルのアイが居る所だもんね。そこは色々と油断ならないわ……」

「なんで警戒を? 何度も言うけどそもそも僕はキャストとして呼ばれた訳じゃないので。鏑木さんにもそれは保証して貰ってるよ」

 

 

2人の会話はしっかりと頭の中に入れる。

今の様に、心配をかける訳にも――――企みに気付かれる訳にもいかない。これは自分のエゴだ。

 

ただ、幸せになるだけで終わらせれる訳がない。

 

 

「(―――どれだけ時間がかかっても、必ず、見つけ報いを受けさせる。……待ってろ)」

 

 

アクアが人生を賭して追う相手は血縁上の父親。

苺プロの皆に聞いても……それとなく、アイ本人に聞いてみても一切情報が洩れてこない何もかもが謎の相手。

 

のらりくらりと交わす母親にやきもきしたが、下手に刺激をすると今でこそ殆ど難攻不落。万全状態で守ってくれている苺プロの蚊帳の外で、何かが起きるかもしれない。アイ自身が何かしてしまって、また危険な目に合う可能性だって捨てきれない。

 

だから、情報収集は必要最低限に留めたんだ。

戦いは情報戦が基本。……誰に悟られる訳もなく自分だけでやるしかない。

 

 

アクアの瞳は今日もまた―――黒い光を宿しているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーーい! アクアにレイー! 2人とも私にちゅうも~~~く!」

 

 

場面は変わり、苺プロ。

アイが台本を丸めてメガホン代わりにし、肩にぽんぽんっ、と当てて腰にも手を当てて……なんだか、それっぽいポーズをとってアクアとレイを呼んだ。

 

 

「何? 母さん」

「アイ母さん、どうしたの?」

 

 

2人が集まった所で、アイはにやり、と笑った。

 

 

「鏑木さんのトコに殴り込み計画は、わからず屋な社長のせいでダメになっちゃったけど、出来る事はあると思うんだ!」

「いきなり何物騒な事言ってるんだ。そもそもそんな計画あったか?」

「……鏑木さんへの抗議がいつの間にか殴り込みに変わってた……」

 

 

そんな事ある? と戦々恐々とするレイ。

もしも、壱護社長がノリで許可しようものなら、本当に大変だったかもしれない。下手したら週刊誌の餌食……の可能性だって否定できないのだ。

 

 

「ふふんっ。だから、2人には今日からみっちりバッチリ特訓を受けてもらいまーーす。アイママ監修、星野アクアと星野レイ、強化合宿って感じかな!」

「「何それ?」」

 

 

アイの真意が解らない。

元々解らないトコだらけな人だから、と言う所もあるがいつもに輪をかけて解らない。

 

 

「酷い扱いしてるドラマに呼ばれるんだもん! ここは星野ファミリー一丸となって、度肝抜かせて、印象掻っ攫って、風穴あけてやりましょう!!」

「……わー、母さんってば。有馬先輩と真逆な事しようとしてるぅ」

「実は母さんも今日あまファンだったりしてるんだって。……こっそり、俺の部屋の漫画読んでたらしい。つーかルビーと言い母さんといい、年頃な息子の部屋に勝手に入るなよ」

「だまらっしゃーーい! と言う訳で、はじまりはじまり~~~!」

 

 

アイだってタレント業で非常に忙しい多忙極まりない身の癖に、本当に気にかけてくれるのは嬉しいし、ありがたい……半面、有難迷惑な部分もあるから実に難儀だ。

 

とは言っても、やっぱり時間は全然足りないから色々と練習は必須。天才アイドルではあるが、天才役者と言う訳ではないアイ……とは言っても、役者経験は間違いなく自分達よりもある事だろう。更に言えば鏑木との付き合いだって長い。

 

無理矢理感があるけど、学べる所は多い筈だ。

そして、今回の件。……実はアクアには勝算があった。

 

 

「?? 何笑ってるの?」

「いや。やりようはありそうだな、って思っただけ。母さんの指導有り無し拘わらず」

 

 

不敵に笑うアクア。

それを見て……頼もしくうなずくレイ。

 

そしてより一層指導に熱が入るアイ。

 

 

 

「………ってか、アレ? 僕別に今日あまに出るって訳じゃないんだけど………?」

 

 

 

そんな今更な事を口にしても、レイが強制合宿から逃れる事は出来る訳がなく、その後は面白おかしくルビーまで加わって本当に家族一丸となって頑張る、と言う事になった。

 

 

 

 

 

「なんだか参観日~って感じがしなくも無いんだよねーー。小学校以来かな? 私もこっそり紛れ込もうかなー」

 

 

 

 

 

ぼそり、と呟いたアイのそんな爆弾発言。

 

 

事務所総出で、速攻拒否されるのは言うまでもない事だった。

 

こっそりとマジで紛れ込む可能性大だと感じたから。

 

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