認めない子 作:アイらゔU
「それにしても、コネで役とって、本読みもトバして……、何処か
「………あはは~」
「苦笑いしてるが、ガキの頃同じ事してたオレに散々詰ってくれてたよな……?」
「あー、やっぱ覚えてる? 懐かしいわねー」
生憎の雨模様な天気はまるで今後の行末を占う……とぼやいても良いレベルだろう。
この作品は低予算、更に時間もなく、延期出来ない。なのに天にも見放されたかの様に降り注ぐ雨。
色々とボロボロなロケ地なので普通に雨漏りもしてる。気にする場所があまりにも多い。
これは演じる側よりも撮る側の方が大変ではなかろうか? と一応裏方志望なアクアは思ってしまっていた。
それはそれとして、アクアは かなに対して少しジト目を向けて苦言をいってみると、かなは何でもない様なすました顔で軽く笑顔を見せて手を振ってこたえて見せる。
「まぁ、アレよ。今度は私がやる側に回ったってだけでーー。つまり汚い大人の仲間入りを果たした、って事かしら? つまり見事大人へレベルアップを果たした訳でー!」
「嫌なレベルの上がり方だな。笑ってんじゃねぇよ」
苦言をいってみたは良いが、アクア自身ももうその気にはなってるので投げ捨てたりする気は毛頭ない。
それは かな自身にも伝わってるようで、軽くため息を吐いてから改めてアクアに対して頭を下げる。
「ほんとありがとね。受けてくれて助かった。嬉しかった」
「……まぁ、ああも有馬に言われたら。それに受けなかった日にゃ、色々と叱られそうだ」
主にお節介な
他の皆に色々とダメ出しをしたり、なんやかんや苦言を言ったりしてる時に、色々とフォローに回ったり、人一倍働いたりして補助に回ったりするのがこれまでのレイの立ち位置なんだけれど、アクアやルビーの力量、出来る事もしっかり把握しているので、頑張ればやれる範囲な代物に対しては妥協をみせたりはしない。
どうにかこうにか説得して、やらせようとしてくる。そして最後にはちゃっかりやって纏まったりしている。なんて事はこれまでに幾らでもあった。
不思議と、それが悪い方へ転がった事は無いので、当然信頼は寄せている……が、なんだかレイは弄られ属性が強すぎてその手の信頼が何となく弱弱しく感じてしまうのはどうしてだろうか。
主に引っ掻き回し、弄り回してる我らが
「へぇ。そのいつも飴役対応なひかりは、アクアに対しては鞭対応に変わったりするのね。それは良い事を聞いたわ」
「一応言っておくが、常識の範囲内な話だからな? それに
「へぇ……。ま、別に釘刺さなくて大丈夫よ。もう変な事したりしないし。寧ろどう発破を仕掛けるか気になるくらいだから静観するかもだし。それはそれとして、そのキーマンなひかりは一体どこにいるのかしら?」
「ん。そういや、一緒に現場には入ったが……。ああ、鏑木Pのトコに行ってから来るんだった」
現場入りは一緒だった。でも、鏑木に挨拶をしに行くから~とレイはアクアと離れたのだ。
元々レイは役者として収集された訳ではなく、現場に来て欲しいと言う鏑木からの要望であり、細かな話はしてくれなかったが、何だか妙な密約があるとの事。
「(レイに何をさせるのか、してもらいたいのか。これだけの
「うんや? 雨はこれ以上強くはならない筈よ」
「……………」
周囲をちらりと見渡すアクア。レイの姿は捕らえる事は出来ないが、そろそろ現場の雰囲気も変わりつつあるその空気感は感じられた。
「鏑木さんのトコに? そっか。そう言えばひかりは個人的に呼ばれただけだったんだったね。……それもものすごーーーく気になるポイントではあるけど、取り合えず時間も限られてるから早めに改めて説明をするわよ」
鏑木Pに呼ばれる意味。そして、かな自身は北斗玲の事なら大体解ってるつもりだが、斎藤ひかりに関しての情報は未知数。気になる事が多いと言わざるを得ない……ケド、それよりも優先すべき点があるので一度アクアに教える体で浚う事にした。
「前にも言った通り、このロケ地は1日しか確保できなかったらしいから、ドライからランスルーは全部一纏めでリハーサル扱い。練習は1回キリよ」
「改めて聞いても正気を疑うレベルの雑さだな。あれ? この原作ってド名作な【今日は甘口で】略して【今日あま】だよな? 題名マルパクりな
「……あんたもよーく知ってるその今日あまで間違いないわよ。そんな著作権を鼻紙にして笑いながら無視して捨てる様な命知らずは早々いるもんじゃないわ。予算と時間が全くなかったからの必然」
もう終わった作品とはいえ、演出をカジってる人間で知らないヤツはモグリ(アクア談)。間違いなく名作であり、根強いファンが数多いる作品。
此処まで敬意を払ってない演出には原作者が失望する理由も痛いくらい解ると言うものだ。
だからと言って演者側を責める気はない。全ては上の意向。それを無視してやりたい事をやれる~なんて事が出来るのは完全なる上級クラスの人間たちの集団だけだろう。
「お久しぶりです、鏑木さん」
「やぁ、本当に久しぶりだ。少し見なかっただけだと思ってたが……随分と大きくなった」
アクアとかなの2人が色々と確認をしている間、レイは鏑木の所にいた。
勿論、ここへ呼んだ真意を聞きたい為に、だ。
「何だか、親戚のおじさんって感じがするやり取りですね、今の」
「そりゃ言い得て妙……とまでは言わないが、それなりの付き合いがあったからね。光栄だよ」
軽く談笑もそこそこに、焦らす必要も時間もあまりないので、早速レイは本題に入る。
「それで、僕に何を求めます? 鏑木さんにはお世話になると
「心強いよ。君に以前言われた
怪しく、灰汁どく、悪い大人を体現した様な顔をして笑う鏑木。
それに同調して笑うのは、まるで悪役。お代官様との密談。『お主も悪よのぅ』『いやいや、そちらこそ……』となりそうだと思ったので、そこは軽く苦笑いをするだけに留める。
「別になんてことはない。君は皆の演技を見て、何かあれば指摘する。それだけで構わない」
「え……?」
鏑木の言葉に耳を疑うのはレイだ。
それだけで構わない~と言う最後の文だけで考えてみれば大したこと無い願いだと思いそうだが、全文を確認すると物凄い無茶ぶりを言われている様にしか聞こえない。
「い、いや、僕今日初めてこの現場に来た新参者ですし(表向きは)顔が売れてる訳でも無い殆ど一般人レベル。そんな僕がいきなり現場で何か言うなんて。それに僕は演技じゃ口が――――」
「いい。全ての責任はオレが取るし、オレ自身が許可をしている」
鏑木の顔は真剣そのものだった。
レイも演者たち、役者たちのプロフィールは一通り確認している。
これから売り出したい演技が出来ないモデルたち、と悪く思われがちな層だが、ただ演技と言う分類においては素人に毛が生えた程度なだけで、モデルと言う意味では間違いなく金の卵。今も売れてるし、これからも売れてるだろうと言われている層。
ある程度の教育は施されて、礼儀は正しい様には見えるが……。
「――――」
ひょい、とレイはアクアたちの方を見た。
今まさにナイスタイミング。アクアとあれは……主演を務める青野カナタ役の鳴島メルト。
アクアが挨拶しようと頭を下げた――――が、彼は軽くスルーしていた。
遠目だったから、無視してる様に見えるが、きっと軽く挨拶? みたいな事は言ったと思う。いや、そうだろう。きっと、間違いなく。
「………ほんと、大丈夫ですか? 荒れてしまったりしたら……、いや、僕が抑えれば良いだけの話か。はい。何も言いません」
「いいや、良いさ。
「むぅ……」
基本的にレイと言う人間は礼儀正しく、仕事場では誰に対しても敬意を払い、輪を乱そうとせずに協調性を特に意識して1つになろうとする事を意識している。
この場で言えば、有馬かな と同じ属性だと言えるだろう。
ただ、1つの点を除いて―――の話だが。
「…………」
これは本能のようなモノ。
なので中々に抑えるのが難しい、と言わざるを得ない。
やっぱりこの手の仕事に関しては……、中々抑えるのが難しい。
特に、この現場がどういうモノか、これまでの撮影でどういうモノでやってるか事前認識をしっかりできてしまっているのだから。
でも、場が止まり皆に迷惑をかけてしまう結果になるのだけは避けたい……と思ったが、そこは鏑木が全責任を取るとも言っている。更に皆にも通達済み。
なら、遠慮するつもりは無い。
「じゃあ、そろそろオレも現場へ顔を出すよ。……君の所のアクア君も見てみたいしね」
「! あ、僕も一緒に行きます」
鏑木の口ぶり。
いつものレイならひょっとしたらその違和感の機微を感じとれたかもしれないが、今はその余裕がなく、この現場の事を第一に考えてしまったから無視をしてしまていた。
アクアを見てみたい、と言った鏑木の言葉の真意を。
「はじめまして。苺プロ所属 星野アクアと申します。本日は宜しくお願いします」
「ああ、よろしくね」
恙無く済ませる挨拶。
だが、その2人の間に交錯する思惑は誰にも悟られる事は無い。
「(鏑木勝也……、母さんとなんらかの関係があった男)」
「(なるほど。……確かにアイ君にそっくりだ。……そして、
少し認識を説明するとしたら、アクアは明らかなる敵視をしている。いや、敵視―――は言い過ぎか。所謂容疑者扱いをしているから、自然と視線も鋭くなってしまう、と言う訳だ。
そして鏑木に関しては、アクアの事を知っている。色んな繋がりがあるからこそ、裏の事情も良く知っている。
ただ、アクアの思惑だけは流石に解らないが。
「(隙を見てDNA鑑定に回せるものを回収しないとな)」
「有馬先輩、こんにちは」
「はい、こんにちは。礼儀正しい後輩を持って嬉しい限りだわ~~。そっちの妹分の方もしっかり教育しといてくれる?」
「それは……えと、善処します」
ここでレイは かなとも合流。
「……それで、鏑木さんとは何を話したんだ?」
「うん。なんか演技を見て口出ししてって」
「――――――はぁ、やっぱしか」
大っぴらにアクアは肩を下げた。
それを見て かなは首を傾げる。
「へ? なに? ひかりが皆の演技指導でもするっていうの? いまさら?? っていうかひかり演技出来たの? 役者希望だったの??」
思わず素っ頓狂な声が出てしまう かな。
それも仕方がない話だ。そう、いまさら、なのだ。ひかりの実力がどんなモノなのか気になると言えば気になるが、それでも今更か、と思う。
最終回と言う場面で、今更演技指導が出来る人材を入れるなんて、そんな事考えもつかなかったし、想像だにしなかった。
そもそも、そんなのがあるんだったら最初から入れておけコラ! って話になる。
金も時間も無ければ、演技のえの字も知らない顔だけのド二流役者。そんな事が出来るのなら……あの時に、せめて原作者が立ち会う1話目くらいに……、と。
「いや、指導じゃなくて
「……思う所って言ったって……このドラマ、もう既に思う所だらけだと思うんだが」
「それはまぁ……。僕も凄く今更だと思ってるよ。でも、鏑木さんの許可は貰ってるし、有馬さんの頑張りも見てる。今日あまは僕だって好きな作品だ。……だから」
ピリ――――――ッ
場の空気が、レイを纏う周囲の空気が張り詰めた。
そんな気がしたのは、決して気のせいなんかじゃない。
それは、アクアは勿論知っている。そして かなにとっては初めての事。
いや、厳密にいえば初めてではない。
「――――!」
この感じ、知っている。何処か懐かしささえ覚える。
「―――させてもらうよ。荒っぽくて、好まれなくて、強引かもしれないけど、色々と」
纏う空気が、あの時感じたモノと大差ない。
輝いて、際立って、眩しくも思えたあの姿。
立つ舞台こそ、主戦場となる場所こそは違うかもしれないが、大いに感銘を受けた。刺激を受けた。様々な
「―――ひとこと、良いかな? メルト君」
「は? なに?」
そしてリハーサル。
たった1度しかないリハーサルで、早速手を上げて、主演のメルトに向けて発せられた一言。何故だか、カメラを向けられている。光も当てられている。一体何事なのか? と思う間もなく、彼から言葉が強く発される。
「お前、演技を舐めてるだろ?」
鋭く、鈍く、射殺さんばかりの言葉の暴力がメルトの身体に叩きつけられた。
演じる事に一切の妥協は許さない。他人にも自分にも厳しい。
だが、ただ周りに暴言を喚き散らす暴君と言う訳じゃない。それじゃただ現場では煙たがれて終わるだけの厄介者の出来上がりだ。
どれだけレベルが足りなかったとしても、どれだけ経験が浅く、ミスが多かったとしても、本気の本気で、自分の出来る全てをぶつけたとなれば、彼は心から敬意を払い、接し方も180度違う。飴と鞭の使い方が異常なまでに上手く、相手の心の隙間に巧に入り、そして………最善の道を示す。
その道を、やるだけやって進む事が出来なかったのならまだ良い。最初から立ち止まって進まない者に対しては容赦がない。
所謂、妥協と言う名のサボりを赦さない、と言う事なのだ。
「は……?」
いきなりの言葉にメルトも呆気にとられる。
これまで言われた事の無かった事、だから。
「あはっ。やっぱり はじまったね」
「………頼むから、その帽子、もっと深くかぶってバレない様にしてくれよ? ………アイ君」
「もっちろん! やっぱ、この溢れ出るオーラを隠すのって難しい! 一苦労も二苦労もするからね! とーぜん気を付けるよ。邪魔しない。大切な子たちの舞台なんだから。……それに、このせいで嫌われでもしちゃったら、私、泣いちゃうしね」
場に緊張感が流れた。
だからこそ、こんな場所に一番星が、最も輝く星がやってきた事に誰一人として気付かなかった。
元最強で無敵のアイドルにして、現最高にして最強の超一流タレント アイ。
今日あまの舞台に降臨。
そんな一番星がやってきたと言うのに、それを覆い隠す程のものが、場に立ち込めたと言う証明でもある、のかもしれない。ある意味ではアイ以上のナニカを持つ者と言えるかもしれない。
「ほんと懐かしいなぁ~。あのレイ君。子供時代にもああやってキツい言葉で同級の子を泣かせたりしてたんだよ? ほんっと、普段は物凄く物腰柔らかな子だって言うのに、あんな一面があるなんて、嘘に嘘を重ね続けて、大分覆い隠されたこの私もビックリ! って感じだったよ」
「ああ。確かに懐かしい光景だ。あの時も現場は荒れに荒れた。でも、不思議、なんだよな。最悪極まりない空気な筈なのに、なんでか上手く運ぶ。昭和のスパルタ教育が通用する様な時代じゃないって言うのに。簡単にハラスメントだなんだと言われて訴えられる時代だって言うのに、あの子供は少しでもやる気のない子、本気で向かってこない子を見つけては強い言葉で発破をかけて、ムキにさせて向かってこさせて……最後には
メルトだって言われ続けて黙ってられる訳がない。
苛立ちの言葉をぶつけ、そして掴みかからん勢いで至近距離まで迫っている。
そんなメルトの視線を真っ向から受けて―――。
【それが怒りって感情。無気力なままじゃ絶対出せない。基本中の基本だ】
額に指を圧しあてて、当たり前の感情の1つをメルトに示した。
喜怒哀楽の全てを無気力で演じているのをレイは見抜いていた様だった。
そして――これは少しズルではあるが……
だから、その核心に触れる事が出来たんだ。
「うーん、ひょっとしてあの子、何か抱えてる系だったりするのかな?」
「なんでそう思うんだい?」
「いーや、何となく」
大根っぷりな演技を見ているから、アイはメルトに対して少なくともこの現場では良い感情を抱いていない。それはアイ自身がストイックに、誰よりも何よりもストイックに頑張ってきた、追い込み続けてきた結果があるから。
アイ自身と少し似てる点があるとするなら、彼もアイ同様に容姿に恵まれた事だろうか。
そしてアイと違う点は、その持って生まれたモノに胡坐をかき、無気力にテキトーにしていた事。そして不幸にもある程度は結果が出せてしまった事。
でも、ここではそれが許されなかった。
【お前、そんな顔して楽しいのか?】
いつか、聞いたことのある台詞を交えて、指摘をされる。
いや、これは指摘なんかじゃない。……演技の実演。それを悟る事が出来たのは、彼以外の全員。メルトだけは、何かを察する事は出来ても、客観的に自分を見る事が出来てなかったから、無気力で何でもテキトーにやってしまっていたから、解らなかった。
ただ、とてつもない、圧倒的なナニカにおし潰されそうなプレッシャーだけは感じとれた。
要所要所に挟まれる言葉は、台詞の1つ1つは、今日あまの台詞。
メルト演じている青野カナタのもの。
二次元の存在の筈だった青野カナタが……まるで現世へ降臨した様な感じがした。
【もっと本気を出せよ。出来る。絶対に出来る】
熱が入る。
感情と言うものは一体何のか、それが言葉を介して身体の中に熱となって伝わってくるのが解る。
―――青野カナタはこうやって演じるんだ。
【1人にさせねぇよ】
「――――後は、任せたよ」
息を整える。
軽く、汗を拭う。
本気の本気で向き合った時はどうしても疲労感が出てくる。……そして、ぶつかり合いの果てに、満足が得られる結果だったら、心地よい浮遊感の様なモノも、感じられる。
でも、残念ながらここから先は、本当のキャスト達の領域。
お役御免だ、とアクアの肩に手を当てた。
「相変わらず、演技に関してはメチャクチャ厳しいな。……レイの本業はピアニストじゃなかったのか?」
呆れている様で、アクアは笑っていた。
メルトを見る。……正直反則している、と思いたくなるくらい見違えている。あの有馬かなさえも呆気にとられる程に。(かなの場合は別の意味での衝撃があったからだろうが)
それはそれとして、いつも思うのはレイのあれは、学びになると言う事。
どんな教本より、どんな実習より、何よりも勉強になる事をアクアは知っている。
裏方に徹すると考えながらも、心の何処かでは役者への道をあきらめていない、あきらめきれてなかった証拠なのだ、と言う事は本人にも解っていないが。
「別に。ただ、僕は本気でやってない人はやっぱり嫌い、どんな理由があっても。皆本気で頑張って、一丸となって1つの作品を作ろうとしてる。下手なのは仕方ない。経験不足なのも仕方ない。それでも、やる気なく本気を出さないのは間違ってるって思うから。……あ、でも勿論誰彼構わずあんな事言ったりしないよ! 今回のこれはあくまで鏑木さんが――――」
「解ってるよ。初めて見た訳でも無いし。いやそれにしてもキャストがあいつ1人で良かったな。他のメンツもいたら今日中に終わらなかっただろ」
アクアは、慌てるレイの頭に手を載せた。
丁度撫でる様に。……昔からずっとしている様に。
「さて、しっかり託されたんだ。……お前の様に派手なモノは残せたりしないだろうが、せめて及第点くらいはやってみせねぇとな」
レイが指南したのは主人公格である青野カナタ。
……ヒロインを狙うストーカー役じゃない。
まだ、ストーカー役に関しては何にもダメ出しはされてない。
かなりハードルを上げてきた、上げられた印象だが……望むところだった。
「どうせ場は滅茶苦茶になった。……もう一回くらい
アクアは、怪しく、怖く、キモく………自分が出来る事、使える事全てをのせて―――現場へと向かった。
「………ちょっと言い過ぎ、たかな」
レイは演技の時はどうしても熱が入る……が、ある程度落ち着き、従来の性格が表に出始めたらどうしても罪悪感も出てしまう性質なのがダメな所かもしれない。
許可を貰った上でとは言え後でちゃんと謝罪の意もメルトに伝えよう……と思ったその時だ。
「……ん?」
『――――』
少し離れた所にいる人と―――目があった。
その隣には鏑木が居る。彼の事は知ってる。いるのも当然。プロデューサーだし、何よりつい今し方喋ってた所だし。
でも、今目が合ってるのは―――――。
「てへっ☆」
帽子を深くかぶって、マスクもして素顔を頑張って隠しているのは解る。
解るんだけれど………いや、解らない。
マスクをわざわざ取って素顔を露わにして、露骨に舌を出してべーーと。
【いや、なんでっっ!!?】
そこに居るのが一体誰なのか。
それを理解した途端に思わず声が出てしま――――うのを堪えた自分を心の底から褒めてあげたい。
あれだけダメだって言ったのに。
あれだけ皆に止められたのに。
あの場所にいるのは……間違いなく。
「………アイ、母さん」
参観日のノリでやってきた星野アイその人だったのだ。
アイママは、鏑木さんに笑顔(黒)を見せつつ
元アイドルミラクルパーンチ! くらいはするつもり………でしたが、例の場面を見て速攻で辞めて見守る? 事にしました。(笑)