シンフォギア×TIGAー星を結ぶ少年ー(AI絵あり)   作:トライダー

1 / 57
無印編
第零話 光の巨人(AI挿絵追加)


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《ノイズ》

 人類共通の脅威とされ、人類を脅かす認定特異災害。

 13年前の国連総会で特異災害として認定された未知の存在であり、発生そのものは有史以来から確認されていた。

 空間からにじみ出るように突如発生し、人間のみを大群で襲撃し、触れた人間を自分もろとも炭素の塊に転換させる特性を持つ。

 歴史上に記された異形の類は大半がノイズ由来のものと言われ、学校の教科書にもその存在が記されている。

 

 そのノイズが再び、この場へと出現した。

 

 

「きゃああああっ!!!」

 

「うわああああっ!!!」

 

 様々な種類のノイズが、逃げ惑う人々の背後を捉え拘束する。必死の抵抗も虚しく、凄まじいスピードでその体から色を奪い、虚しい炭の色へと変えその体を消失させる。

 無慈悲で残虐なノイズによる炭化能力。それをみた人々は更にその恐怖心を募らせ、コンサートホール内はよりパニックを増す。

 先程までの歓声は絶望の叫喚へと変わる。

 

「やめろ……やめてくれぇ……」

 

「いやぁ……」

 

 ノイズの対象に老若男女は関係ない。ガタイのいい大男だろうが、二桁にも達していない少女であろうが、手当たり次第に近くの人間を取り込み炭へとかえる。

 中には殴り掛かろうとする者や鉄パイプを振り回すものもいたが無意味に終わる。一般の人間にノイズに対する手段は無い。位相差障壁によって、通常物理法則化にある物理的破壊力を減退または無効してしまい、一撃の元に此方を炭化させる。まさに人類の天敵とも呼べる存在なのだ。

 

 彼女達以外は……

 

「はあああっ!」

 

 ()()となったホール内へと蒼い一閃が走る。光が通り過ぎた後には、モーゼの海割れの如くノイズの群がポッカリと開く。

 

「ぜやああっ!」

 

 次に残った左右の群れへと無数の槍のようなものが降り注ぎ、残ったノイズを一掃する。

 前面に展開されていたノイズ達が消し飛んだ後、二人の少女が土煙の中から姿を現す。

 

「くそッ! 誰かッ、誰かいないのかーー!!」

 

 赤い髪の少女が搾り出すように叫ぶが、その声に反応するものはいない。数万人は居た筈の観客達が一時間も経たずに全滅してしまったのだ。その事を理解した少女はギリギリと噛み締め、血が出そうな程に拳を握る力を強める。

 

「奏、まずは目の前のノイズの対処を!」

 

「チィッ! 分かってる、いくぞ翼っ!!」

 

 己の無力さに拳を握り締める奏を、翼と呼ばれた青い髪の少女が奮い立たせる。

 翼の言う通り目の前のノイズが最優先だ。奏はノイズへの憎しみを己の槍へと込める。

 彼女達こそが唯一ノイズへと対応出来る武器、《シンフォギア》を纏いし適合者達である。

 歌の力をエネルギーに変えて特殊なバリアーコーティングを発生させる装束は、ノイズの炭化能力を防ぐ鎧であり、唯一ノイズの体を貫く事の可能な矛でもあるのだ。

 その威勢に劣らない勢いのまま奏はノイズの群れへと突っ込む。そして手にした身の丈もある大槍をぶん回しノイズ達を片っ端から薙ぎ払う。

 

「ぶっ飛べッ!!!」

 

 《STARDUST∞FOTON》

 

 奏の投げた大槍が空中で分裂し、流星群の如き軌跡を描きながらノイズの群を撃ち貫く。

 これが奏の使用するシンフォギア《ガングニール》の力である。その性質は如何なる敵をも貫く無双の槍。

 

「オリャアッ! デリャアッ!?」

 

 その特性と奏の性格が相まってか、先頭のノイズから順に蹴散らしグングンと突き進んでいく。

 しかし先程蹴散らしたノイズは群れのほんの一部でしか無い。例え無双の槍を持っていようとも無闇に突撃していては取り囲まれ裏を突かれてしまう。

  そうしている間に広く展開したノイズ達が奏を逃さないように円状に取り囲む。

 どのような達人であっても数を相手していては必ず隙ができる。特に豪快に暴れる奏ならば尚更。

 攻撃の後に必ず出来る後隙。それを目指し後方に待機したノイズ達が一斉に奏へと突撃する。

 しかし奏はそれでも豪快な大振りをやめない。それどころかノイズ達に対して回避行動すらとる気配が無い。

 油断では無い、驕りでも無い、ただ信じているのだ自分の相棒の事を。

 

「ハアッ!」

 

 一閃により奏へと向かおうとしていた四体のノイズが切り裂かれる。そのノイズの影から姿を現すのは、刀剣のシンフォギア《天羽々斬》を携えた翼の姿だった。

 いつの間にか懐へと入り込み連れのノイズを切り裂いた翼の姿に、慌てた様子で他のノイズ達が反撃を試みる。

 しかし日頃から鍛錬をこなしている翼にとってそんな雑な反撃は止まって見えた。攻撃をしゃがんで回避するとその体勢のまま回し蹴りを繰り出す。

 

《逆羅刹》

 

 蹴りと同時に足のブレードが展開され、より広範囲の敵を切り刻む。

 そのままコマのように回転し辺りのノイズを撃破すると、体勢を立て直し奏の背を守るように背後につく。

 

「もう、無闇に突っ込みすぎよ」

 

「悪い悪い。でもこれも信頼の証だよ。うちの姫さまが来てくれるって信じてるから突っ込めるのさ」

 

  こっちの気も知らない奏に文句の一つでも言ってやるが、軽口で躱されてしまう。しかし翼の言葉に怒りはない。共に歌い戦って来た相棒が絶大な信頼をおいてくれているのが自然と分かったからだ。

 

「さあ行こうぜ翼! あたし達ツヴァイウィングならどこまでだって飛べる!」

 

「ええっ!」

 

 二人は同時に頷くと共にノイズとの戦闘を再開する。

 正面の敵を奏が豪快に切り崩し、その後隙を消すように翼が辺りのノイズを切り刻む。

  豪快であるが故に雑な切り口である奏とは対照的に、翼の切った後はまるでそのままくっ付ければ元に戻るのでは無いかと思うほどに美しかった。

 かつて八岐大蛇を斬ったとされる《天羽々斬(あめのはばきり)》と、幼少期から剣を極めている翼の技があって初めて成し得る事だ。

 力の奏と技の翼、二人のコンビネーションは例え如何なる達人が見たところで完璧としか言いようが無いだろう。

 互いの癖に長所や短所、時に伸ばし時に補い合う。ユニゾンでもしているかのように歌い、自由に戦う姿は二人の背に天使の羽を思わせる程に美しかった。

 

「畳みかけましょう奏!」

 

「おう! 一気に決めるぞ翼ッ!」

 

 翼が高く跳躍するのを見た奏が、ニッと笑い大槍を天へ掲げる。翼が剣を振ると空中に無数の剣が出現し、ノイズの群れへと向かっていく。

 

《千ノ落涙》

 

 奏の投擲とは違い、降り注ぐ刃の雨が的確にノイズ達の急所を捉え炭へと変える。

 自分の苦手な範囲のノイズが消失した奏は、掲げた大槍の刃の部分を高速で回転させる。ドリルのように回転する刃が、甲高い音を響かせながら辺りの土煙を巻き上げ、小規模な竜巻を生み出す。

 

「いっけえええええぇッ!!!」

 

《LAST∞METEOR》

 

 竜巻を纏った大槍を肩に担ぎ、大剣を振り下ろすが如く豪快に叩きつける。

 シンフォギアのエネルギーの源であるフォニックゲインを纏った竜巻は、直線上の小型のノイズを鑿岩機に巻き込まれたかのように粉々に砕く。

 それだけでは飽き足らず、奥に鎮座していた大型の強襲型ノイズの体へと袈裟斬りの形で叩きつける。

 ガリガリガリと嫌な音を立てながらも渾身の力で振り抜くと、大型ノイズの体に荒々しい傷跡を残し消滅させた。

 

「へっ! どんなもんだい!」

 

「これで大型は潰した。あとは有象無象だけよ」

 

 翼の言う通り、先程倒した大型ノイズこそが小型のノイズを増やしていた混乱の大元。それを断った今これ以上ノイズが増える事はない、残ったノイズ達も今の二人の調子であれは問題無く対処出来る。

 二人が再び得物を構えた時、一通の通信が入る。

 

『二人とも無事か!』

 

「叔父さまっ!?」

 

「おい! 無事なのかっ?!」

 

『心配しなくてもわたし達は無事よ』

 

 二人の耳に入ったのは彼女達の司令であり、翼の叔父でもある風鳴弦十郎と、今回の実験の責任者である櫻井了子だった。ノイズの出現と共に起きた爆破後連絡が取れなくなっていたが、通信が復旧したようだ。

 

『こちらは無事避難を終えたところだ。通信障害が起きた上に現場が混乱していてな。遅れてすまない』

 

「ご無事で何よりです。《ネフシュタンの鎧》は?」

 

『……不明だ。とにかく人命を優先した。此方が落ち着き次第回収に向かうつもりだ』

 

 ネフシュタンの鎧とは日本政府が保有している《聖遺物》の一つ。奏のガングニールや翼の天羽々斬と同じく、シンフォギアとしての力を秘めたもの。しかし前者二つが僅かなカケラしか見つかっていなにいも関わらず、ネフシュタンの鎧はほぼ完全に残っていると言う代物。

 そんな貴重な研究サンプルである聖遺物に何かあれば厳罰どころでは無い。

 

「正解だぜおっさん。こっちもノイズ共を片付けたら生存者を探す、文句無いよな?」

 

『勿論だ。こちらはオレ達に任せて一人でも多く人命を救ってくれ!』

 

「「了解!」」

 

 しかし弦十郎という男にとってそんな事は関係無い。どれだけ貴重な品であっても口の効かない無機物である以上、目の前の命を優先する男なのだ。

 それは奏も翼も同じ。自分達の気持ちを汲んでくれる弦十郎に嬉しそうに通信を終えると、目の前のノイズに集中する。

 

「奏、稼働時間は?」

 

「まだまだ余裕だ! コイツら程度ならのんびりと蹴散らした後にヘソで茶を沸かせらっ!」

 

 奏の軽口に少し吹き出してしまうが、直ぐに気を引き締めるそれは奏も同じ。明るくしているが、その内心はお互い穏やかでは無い。

 自分達の晴れ舞台であるコンサート当日。皆が笑顔で盛り上がり、ホール全体が一体となっていた時、奴らはその幸せを打ち壊した。

 コンサートを台無しにしただけで無く、自分達を応援してくれていたファン達をその手にかけた事、二人が許せるはずも無いのだ。

 

「でも奏は大技を使った後。残りは私が責めるから、サポートをお願い!」

 

「へいへい、了解!」

 

 互いに得物を構え残党へと矛を突き出そうとした。

 

 

 

 …………その時

 

 

 

『っ!? 気を付けて二人とも!」

 

『はるか上空から超高エネルギー反応っ!?』

 

 突如二人の耳にオペレーターの男女の声が聞こえる。どういう事かと聞き返すよりも早く異変は起きる。

 

「おい翼……なんだアレ?」

 

 声に反応し振り向くと、そこには呆けた顔で空を見上げて指を指している奏の姿。

 

「流れ……星?」

 

 夕焼けと夜の間の黄昏時。そんな薄暗くとも明るい幻想的な空に一筋の青い光が見える。それだけならそこまでおかしな光景では無い。問題はその光がどんどん大きくなっている事だ。

 

「こっちに向かってくるっ!?」

 

「伏せろ翼っ!」

 

 巨大な流れ星の接近。降り掛かる衝撃を察した奏が翼を抱えて地面へと倒れ伏す。

 目の前のノイズ達に隙を晒してしまうが、当のノイズ達も何が起きたのか分かっていないのか、ボーと空を眺めている。

 数秒と経たずに隕石はステージから少し離れた海上へと衝突し、空間を震わす程の衝撃が伝わる。

 

『くっ……無事か二人とも?!』

 

「なんとかな」

 

 衝撃は弦十郎達のいる場所まで届いたのだろうが、予想していたよりも衝撃は少なく二人とも無傷の状態で立ち上がる。

 

『一体何があった!?』

 

『分かりません。突如上空に約50メートル級の物体が出現したんです』

 

『隕石? それにしては衝撃が少な過ぎる。まるで地上に落ちる瞬間にブレーキをかけたみたいに……』

 

 超展開の連続に即席の司令部も混乱しているのか、通信機からそれぞれの声がバラバラに流れ込んでくる。

 その声に少し鬱陶しそうにしながらも今は自分たちに出来る事をするしかない。

 衝撃によって無様に倒れているノイズ達へとトドメを刺す為起き上がった時。

 

「ギャオオオオオオオオンッ!!!」

 

「「っ!?」」

 

 海の中から空気を震わせる雄叫びが轟く。

 翼と奏が一斉にそちらへと視線を向けると、コンサートホールの直ぐ向こうの海が盛り上がる。

 山のようにせり上がった海が、滝の如く頂点の水を垂れ流し、中から巨大な獣の影が姿を現す。

 トゲトゲしい鱗に身を包んだ漆黒の体。ドッシリと太い両足に、短くとも強靭な腕。一見恐竜とも思われるビジュアルだが、直立しなにより50メートルを超えるその姿は恐竜の範囲をゆうにこえている。

 

『な、なんだコイツは……』

 

「怪……獣……?」

 

 その大昔に流行った映画にも登場した生物にも似通ったその造形は、《怪獣》としか表現のしようがない。

 

『っ!? あの生物から先程の隕石と同じエネルギー反応がッ!?』

 

『何だとっ!? ではあの怪獣が先程の隕石の正体だってのか!?』

 

『隕石では無く、あの怪獣の飛行手段。それならさっきの軌道や衝撃の少なさにも納得が出来るけど……』

 

 先程の不可解な現象の謎は解けたが、生物による物理法則を超えた出来事に人類でも最高の頭脳を持つ了子ですら完全には理解出来ていない。

 

「ギャオオオオオオオオン!!!」

 

 怪獣が大きく吠えた後、その口内に青白い炎を発生させると吐き出すように勢いよく放れた。

 放たれた炎は奏達から少し離れたノイズの群れへと着弾し眩ゆい閃光を放つ。

 

「うおっ!?」

 

「くぅっ……」

 

 その閃光に両手で顔を覆った瞬間、爆発音と共に肌を焼くかのような高熱を浴びる。

 目を開いた二人の視界に写ったのは、全体の半分が消し飛んだコンサートホールの姿。

 

『熱線……だと?』

 

  怪獣の放った熱線が、コンサートホールの半分と射線上に居たノイズ達ものとも影も形もなく蒸発させたのだ。ノイズを消し飛ばしす程の威力の熱線。ただ吹き飛んだだけでなく、付近の鉄柱が飴細工のように溶けてしまっている。もしこの攻撃が此方へと来ていたら、こうなっていたのはノイズでは無く自分達だっただろう。

 

『味方って訳じゃ無いよな……?』

 

 ノイズを消し飛ばしたならと思いもするが、怪獣はその進軍を止める気配はなく、ズンズンと此方へと向かっている。もしあの破壊力のある怪獣が街中へと入ってしまえば被害はノイズの比ではない。

 

「何だって構わねぇ! アイツを残しておくとどんな被害が出るか分からねぇぞ!」

 

「奏の言う通りです。被害の少ない海辺であるうちに叩くべきかと!」

 

 怪獣の正体や生体が不明である以上、本来なら上層部の判断を仰ぐ必要がある。

 しかし二人の言う通りこのまま見過ごせばノイズ以上の脅威となる可能性が高い。

 

『分かった。お前たちに任せる! 二人とも油断するなよ!』

 

 弦十郎が言い終わると同時に二人は跳躍する。ステージの天井も利用して更に高く飛翔し武器を構える。

 

「喰らいやがれっ!」

 

 《STARDUST∞FOTON》

 

「セイッ!」

 

 《蒼ノ一閃》

 

 奏は投擲した大槍を大量に分裂させ、翼は得物を刀から身の丈以上の大太刀へと変換させてエネルギーの斬撃を飛ばす。

 二人の放った攻撃が怪獣の頭部とぶつかり、その大きな顔面を覆うほどの巨大な爆発を起した。

 生物の基本的な急所である頭部への直撃に二人は手応えを感じる。

 

「なっ!? 効いてないのか?」

 

 しかし晴れた煙の中から見えたのは、傷らしい傷を付けていない怪獣の姿。それどころか先程の爆破に怯みすらしていないのか、瞬きもせずギョロっとした目玉を此方へと向ける。

 

「っ! 来るぞ!」

 

 目標が街から自分達へと向いたのを察した奏達は、熱線の的にならないよう二手に分かれる。

 放たれた熱線を回避しながらも斬撃と投擲で対抗する。幸い熱線の威力は高いが、動きは鈍く機動力の高い二人なら避けられる上、的も小さいからか怪獣の方も当てづらそうだ。

 長期戦は不利だが、相手がノイズではない以上、時間を稼げば自衛隊からの援軍を得られる、それまでの辛抱。

 しかし相手は人類の想像を遥かに超えた生物《怪獣》、そう一筋縄ではいかない。

 

「ギャオオオッ!!!」

 

 攻撃の当たらなさと、効きはしなくとも顔を覆うと攻撃に苛立ったのか短く吠えると、怪獣の攻撃のリズムが変わる。

 再び怪獣の口から青い光が放たれる。しかし熱線ではなく火球、一発の威力では無く手数で攻める事にしたようだ。

 同じモーション、しかしチャージの時間は先程の半分にも満たない速さ。連射が可能な上に着弾と同時に爆発を起こすため回避が困難だ。

 

「キャアアァっ!?」

 

「翼っ!?」

 

 着弾の爆発に吹き飛ばされた翼が、勢いよく壁に叩きつけられうずくまる。

 シンフォギアのバリアーコーティングと鎧に守られているにも関わらず、僅かに掠っただけでこの威力。質量による理不尽さを感じずにはいられない。

 

「このヤローッ!!!」

 

 《LAST∞METEOR》

 

 倒れ伏した翼へと追撃を加えようとする怪獣に対し、渾身の竜巻を叩きつける。

 ダメージは無くともその風圧に怪獣の体が僅かに揺らぐ。

 

「ギャオオッ!!?」

 

 獲物を邪魔された怪獣の怒りが奏へと向かう。

 

 (そうだ、あたしを狙って来いっ!)

 

 怪獣のヘイトを稼ぐ事に成功した奏は、翼が回復するまで回避に徹する。当たりはしないが、翼の方へと向かっていた分の火球が奏一人へと向かい、より辺りを破壊していった。

 

「きゃあっ!?」

 

「何っ!?」

 

 火球の一つがステージの瓦礫に直撃した瞬間、翼とは違う少女の悲鳴が聞こえる。

 声に釣られた奏が振り返るとそこには、欠けた瓦礫の後ろで中学生ぐらいの少女がうずくまっていた。

 

「生存者っ!? でもこんな時に……」

 

 この惨事の中生き残りがいてくれた事は素直に嬉しい。しかし状況が状況だけに歯噛みする。

 逃す暇もなく乱れ撃たれる火球の一つが、少女へと向かっていく。

 

「くっ!……このぉっ!」

 

 奏は大槍を風車のように回転させながら、自ら盾となり火球を受け止める。

 

「ぐあぁっ!?」

 

 着弾式の火球であったおかげか受け止める事は出来た。しかし爆発の衝撃に大槍は砕かれ、奏の体も地面を転がる。

 そして、砕かれた槍の破片が少女へと向かった。

 

「……………………え?」

 

 破片は少女の胸へと突き刺さり。少女は何が起こったのか分からないまま、その小さな体から真っ赤な鮮血を散らしながら崩れ落ちる。

 

「おい! おい!! 死ぬなっ!? 頼む目を開けてくれぇ!」

 

 爆発の衝撃で折れたのか動かなくなった右腕を支え、重い体を引き摺りながら少女へと駆け寄る。

 虚となった瞳が虚空を見つめ呼吸も弱い。奏の脳裏に蘇るかつて救えなかった命、そしてノイズによって無惨に命を散らした両親の姿。

 

「生きるのを諦めるなっ!!!」

 

 目の前の少女をそんな彼らと同じにしたくない奏は精一杯彼女に呼びかける。

 

「…………奏…………さん…………?」

 

 その思いが通じたのか少女の瞳に僅かに光が宿り、か細く自分の名を呼ぶ。

 何故こんなに出血していて息を吹き返す事が出来たのか考える事もあるが、今はその事実だけが嬉しかった。

 

「ギャオオオオオオオオン!」

 

 しかし怪獣は喜ぶ時間すらくれない。

 動きの止まった奏にトドメを刺そうと無慈悲に熱線を放つ。

 

「……こうなったら、やるしかねぇ!」

 

 防御も回避も不可能。このままでは自分達も少女も街も助かる事はない。

  奏の脳裏に覚悟の旋律が思い浮かび、それを呟く。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl……」

 

 《絶唱》

 シンフォギアシステムの切り札。

 その歌えば通常時とは比べ物にならないほど高出力のフォニックゲインを得られるが、その代償として強力な負荷が己の身体に掛かる事になる。

 

「だめ奏……その歌を、歌ったら駄目ぇっ!!」

 

 刀を支えにして立ち上がっていた翼が、自分の体が悲鳴を上げるのも気にせず奏へと掛けよる。その翼の静止にも止まらず奏は歌を続ける。

 そのバックファイアは聖遺物との適合率によって軽減する事は可能だが、正式な適合者でない奏は時間と共に適合率が下がってしまう。

 そんな彼女にとって絶唱は死の危険の高い技なのだ。だがいまこの少女を守るにはこれしか無い。

 奏はノドが焼けそうになるのを堪えながら絶唱の力を高める。

 

「〜〜♪〜〜♬」

 

 絶唱によって爆発的に増幅したフォニックゲインがバリアー状に展開し、熱線とぶつかり合う。

 絶唱のエネルギーを持ってしても完全に受け止める事が出来ないのか、徐々に奏の体が後ろに押される。

 二つのエネルギーの衝突に爆発が起こる。

 

「奏ぇっ!?」

 

 爆煙が晴れた後に見えるのは地面に倒れ伏す奏の姿。その下には水溜りのように広がった血痕。

 駆け寄った翼が奏を助け起こす。

 

「奏! 奏ぇっ!!」

 

「ゴフッ、ゴフッ! へっ……割に合わないな。命掛けて、一発防ぐのか……やっとかよ……」

 

 爆発で絶唱が中断されたからか、バックファイアによるダメージは比較的低く見える。

 それでも口から血を吐き、先程までの美声は見る影も無い。

 

「ギャオオオオオオオオン!!!」

 

「くそ……翼、その子を連れて、逃げろ……」

 

「何言ってるの!? 貴女も一緒に……」

 

「あたしはもう無理だ……指一本動かねぇ。足手纏いになるのはごめんだ……」

 

「イヤ……イヤだよ。奏を置いて行くなんて……貴女が居なかったら私…………」

 

 『二人揃ってのツヴァイウィング』そう二人で誓い合った。彼女がいたから自分はここまで来れた、なのにその片翼が無くなるなど想像するだけで胸が張り裂けそうになる。

 

「……翼は泣き虫だな」

 

「奏は、意地悪だ……」

 

「ギャオオオオオオオオン!!!」

 

 二人の美しい友情、しかし怪獣には一切の容赦はなく、無慈悲にも再び熱線の予備動作へと入る。

 今度は三人をまとめて焼き払うつもりなのだろう。

 翼は刀を大剣に変形させ盾のように構える。

 

「翼無理だ。早く逃げろ……!」

 

「嫌だ! 私は……貴女を、諦めたく無い!!」

 

 馬鹿なことをしているのは分かっている。通信機から弦十郎が何か言っているが、翼の耳には入らない。

 見る人が見れば感動的な姿。しかし人間の友情など怪獣には無意味、先程以上に力を溜めた熱線が翼達へと向けられる。

 翼は遅いくるであろう衝撃に身を強張らせた瞬間。

 

 ……辺りが眩い光に包まれた。

 

 

 

 

 

「なんだ、アレは……?」

 

 コンサートホールから離れていた弦十郎達にはそれがよく見えていた。

 怪獣が熱線を吐こうとした瞬間、眩い光が辺りを包み、その光は集まり形を変えていく。

 

「光の、巨人……?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 光の粒子が形作ったのは自分たちと同じ人の形。しかしその大きさは怪獣にも負けない推定50メートルの巨人の姿。

 全身が白銀の淡い光に包まれておりその全貌を図り知ることは出来ない。

 

「………………………⬛︎⬛︎⬛︎?」

 

 了子が何かを呟いていたようだが、巨人の出現に呆然としていた弦十郎には聞き取れていなかった。

 

 

 

 

「何、この光は……」

 

 暖かい。先程の熱線による閃光とは違う。心の内側を温めてくれるような優しい光。

 その光を浴びてからか虫の息だった二人の呼吸が僅かに緩まったように思える。

 

「ギャオオオオオオオオン!!!」

 

「…………」

 

 巨人は無言で構える。光が巨人の姿になった事に翼も気がついたが、不思議と警戒心は起きなかった。

 

「ギャオオオオン!!!」

 

「…………」

 

 僅かな静寂の後、二体は同時に駆ける。互いに海の中に足を沈ませながらぶつかり合う。

 巨人と怪獣の衝突。それだけでも辺りに衝撃が散り、翼は倒れない様に堪えるので精一杯だった。

 巨人の動きはその体格に見合わず俊敏だ。足場を水に付けているにも関わらず、怪獣の噛みつきや爪での攻撃を回避して打撃を与える。

 

「ギャオオオンッ!」

 

 怪獣は体を回しその太い尻尾を叩きつける。突然の広範囲の攻撃に避け切れず巨人が吹き飛ばされる。

 そうして距離ができると再び熱線のモーションをとる。

 

「…………」

 

 向かって来る熱線を巨人は両腕を十字に組んで受け止める。その威力に巨人の体が少し後ろに押させるが、ステージを吹き飛ばす程の威力を腕だけで受け止めてしまう。

 

(どうして避けないの……?)

 

 巨人の俊敏さなら避けられた筈だ。

 なのに巨人は防御をとり射線からズレることすらしない。

 巨人は熱線を防いだまま、ジリジリと怪獣へと距離を詰めていく。

 バチバチと痛々しい音を鳴らしながらも、巨人は退くことをしない。

 腕が届く距離へと入った瞬間、拳で顎をかち上げ熱線を空へと逸らし、その勢いのまま手刀や蹴りで追撃を加える。

 巨人の反撃に対し、再び尻尾を振り回して来るが、巨人は尻尾を体でガッツリと受け止める。

 そのまま巨人の渾身の力に引っ張られるのを堪えようとするが、少しずつその巨体が浮いていく。

 二回、三回巨人は尻尾を掴んだまま豪快にぶん回していき、十分に勢いをつけた後ジャイアントスイングの容量で怪獣を投げ飛ばす。

 巨人の投げによってコンサート会場と怪獣の距離が開く、まるで自分達から遠ざけようとしているように。

 

(まただ、あの巨人は私たちを守ってるの?)

 

 先程の熱線の時も、後ろにいる自分達に被害が及ばないようにしているように見える。

 光に包まれる表情から考えは読み取れないが、翼にはそう思えて仕方なかった。

 

「ギャオ……オオォ……」

 

「…………」

 

 巨人の幾たびの追撃に怪獣の巨大がふらついている。

 それを見つめる巨人の両手が激しく発光する。全身を包む淡いものではなく、眩しく力強い光。

 巨人が光る両手を十字に組んだ瞬間、空間がスパークし熱線よりも強い光の帯が放たれる。

 

「ギャオオオオオン!!!………………」

 

 《光線》に包まれた怪獣が低い断末魔をあげた後、夜の海を照らす爆発が起きる。

 

「た、倒したの…………?」

 

 実感が湧かない。

 戦ったのは自分では無いのだから当たり前だが、アレだけの頑丈な体と絶唱のエネルギーを持ってしても打ち消せない熱線を持つ怪獣を、目の前の存在は倒してしまったのだ。

 嬉しさ半分、不安が半分。あの怪獣を倒してしまう程の力が此方へと向けられる可能性がないわけでは無い。

 しかし翼の中に恐怖心は自然と生まれなかった。

 

「……………………」

 

「巨人が、消えていく……」

 

 夕焼けが夜に覆われる空を見上げながら巨人の体が揺らいでいく。炭酸の泡のように体の光を消滅させ、数秒と経たずに巨人の姿が海辺から消える。

 

「ゴホッ、ゴホッ!」

 

「っ! 奏っ!?」

 

 幻想的とも見えるその光景を見つめていた翼が、奏の声で意識を取り戻す。

 彼女へと駆け寄る。容体は先程よりはマシそうだが、それでも重症に変わりはない、すぐに手当てをしなければ二人とも危険だ。

 

「いたぞ! 直ぐに怪我人を搬送しろ、絶対に死なせるなっ!!」

 

「叔父……さま…………」

 

 巨人の消滅と同時に救護班を連れた弦十郎達が現れる。

 安心感からか力が抜けた翼もまた気を失う。

 消え失せる視界に映ったのは、心配そうに此方へと駆け寄る叔父の姿だった。

 

 

 

 後にこの一見は《光の巨人事件》として、日本政府によって秘密裏に処理された大きな事件となる。

 

 …………そして二年後。

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。